ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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このエピソードは2話構成でお送りします!


第663話 集まる人材達

 この日ソレイユでは、就職の最終面接が行われる事になっていた。

時期的にはやや遅いくらいなのかもしれないが、この日の面接は特別であった。

先日八幡が、多分ソレイユに知り合いが何人か入ると風太達に冗談めかせて言っていたが、

その面接の日が今日なのである。

 

『あれ、卒業組の就職活動とかはいいのか?』

『それはもう終わってるらしい、うちにも多分何人か入ると思うぞ、

誰も教えてくれないから誰が入るのかは知らないんだけどな』

『全員だったりして』

『ははっ、まさか』

 

 あの時の会話はこうであったが、果たしてどうなったのか。

面接官として参加させられている八幡には、まだ誰が来るのか教えられてはいない。

実は昨日までに、知り合い組も別に厳正な面接を受けており、全員が無事合格を決めていた。

今日の面接はある意味おまけであり、ハッキリ言えば陽乃の趣味で開かれるものなのだ。

その事を知っている八幡は、嫌々ながら今日の面接に参加している。

ちなみに面接官は八幡と陽乃、アシスタントが薔薇である。

 

「姉さん、今日は結局誰が来るんだ?」

「名前は言えないけど今日は十人以上来るわよ、まあ気楽にしてなさいな」

「そんなに身内がうちを希望したのか、

しかしこのおまけの面接、本当にやる必要があるのか?」

「今日の面接の結果は、配属先の参考にする予定よ、もう決まってる人もいるけどね」

「そういう事か、まあさっさと始めようぜ」

「そうね、それじゃあ薔薇、案内をお願い」

「はい」

 

 そしてトップバッターが中に入ってきた。

 

「失礼します」

 

 八幡はその瞬間に、満面の笑みでこう言った。

 

「よし、お兄ちゃんの秘書に決定な!さあ姉さん、早く手配を!

おい薔薇、うちの小町に失礼のないように、懇切丁寧に仕事をレクチャーするんだぞ」

「きもっ」

 

 小町はそう言って八幡を完全に無視し、八幡は落ち込んだ表情で下を向いた。

 

「比企谷小町です、宜しくお願いします」

「さて、小町ちゃんは、自分にはどんな仕事が向いてると思う?」

「そうですね、やはりお兄ちゃんとは比べ物にならないこの社交性を生かして、

営業か渉外、もしくはアンテナショップの店員とかでしょうか。

少なくともそこのお兄ちゃんの秘書のような仕事は、

やれば出来るかもしれませんが、私に向いているとは思えません」

「なるほどねぇ、では希望の部署とかはどこかあるかしら」

「私としてもなるべく近くでお兄ちゃんを支えていきたいという気持ちはありますが、

さっき見たように、うちのお兄ちゃんはまだ妹離れが出来ていないので、

適度に距離をおきつつ、得意分野でお兄ちゃんの助けになれればと思います。

なので特にこれといった希望はありません」

「こ、小町……」

 

 八幡は、感動したような面持ちで小町の顔を見た。

小町はそんな八幡を諭すようにこう言った。

 

「お兄ちゃんもいい歳なんだから、そろそろ妹離れしなくちゃだめだよ、

そうじゃなくてもここにいる陽乃お姉ちゃんや薔薇さんの他に、

お兄ちゃんの隣にいたい人がたくさんいるんだから、

その人達の為にももっとしっかりしなさい」

「は、はい……」

「はい、ここまでで結構です、ありがとうございました!」

 

 小町はその言葉を受け、一礼して去っていった。

 

「さて、どんどんいくわよ」

「ああ、小町の期待に応えないといけないからな」

 

 八幡のシスコンが多少改善の兆しを見せたところで、次の面接者が入室してきた。

 

「二番、桐ヶ谷直葉、入ります!」

「いつも通り元気がいいわね、直葉ちゃんは、自分にはどんな仕事が向いてると思う?」

「そうですね、不審者がいたら、ボコボコに出来ます」

「た、確かに直葉なら出来そうだ……」

「八幡さんのと同じ警棒とかがあれば、なおいいですね 

「なるほど……希望の部署とかはあるの?」

「受付ですね、ソレイユは私が守ります!」

「戦う受付嬢さんか……ありね」

「ありだな」

「ありですよね!」

「オーケーオーケー、話がスムーズで気持ちいいわね、それじゃあそういう事で、

直葉ちゃん、ありがとうございました」

「はいっ、失礼します!」

 

 直葉は元気よく部屋から出ていき、八幡と陽乃はその姿を見てほっこりした。

 

「やっぱり元気がある子ってのはいいわね」

「ああ、会社に活力が出るからな」

「とりあえず受付って事でいいかしらね」

「そうだな、その上で、これはかおりやウルシエルにも言える事だが、

他に適正があるかどうか、色々なカリキュラムを組んで見極めていけばいいんじゃないか」

「そうねぇ、学生の時に自分の適性を理解している子なんてほとんどいないからね」

「そういう事だな、長い目で人材を育成していこう」

「それじゃあ薔薇、次は………ああ、次は三人一緒でお願い」

「分かりました」

 

 八幡はその言葉の意味がよく分からなかったが、陽乃を信じて静観する事にした。

 

「「「失礼します」」」

 

 次に薔薇に案内されて入ってきたのは、結衣と優美子といろはだった。

 

「由比ヶ浜結衣です、宜しくお願いします」

「三浦優美子です、宜しくお願いします」

「一色いろはです、宜しくお願いします」

 

 普段からは想像もつかない程、しっかりとした挨拶をする三人がそこにいた。

特に結衣のギャップが激しい。

 

「さてと、最初の二人には、自分の適性や希望について質問したんだけど、

今回三人を同時に呼んだのは理由があるの。というか、頼みたい事があるの」

「「「はい」」」

「ほう?」

 

 八幡はその様子を興味深げに眺めていた。

 

「頼みというのは他でもない、私としては三人を、

来年立ち上がる芸能部に配属したいと思っています」

「芸能部、ですか?」

「ええ、実は今年中に、倉エージェンシーがうちの傘下に入る事が決定したわ」

「そうなのか?」

「話があったのはまだ先日だから、八幡君にその事を話すのはこれが始めてね」

「なるほど、ついにか」

 

 陽乃はその言葉に頷きながら、説明を始めた。

 

「倉社長は、大手事務所が好き勝手している今の芸能界の体質が気に入らないらしくてね、

今やどこも手出しが出来ないくらいに成長し、勢いのあるうちをバックにして、

誰にも手が出せない公平で公正な事務所を設立したいと考えてるみたいよ」

「おっ、喧嘩か?」

「まあそういう事になるかもしれないわね、で、三人には倉社長……

まあもうすぐうちの部長になるんだけど、その下で今の芸能界の事を学んでもらって、

そういった色々な問題点を、こちらに報告して欲しいの。

まあ最初から普通の芸能活動をするのは厳しいでしょうから、

うちの広報活動から始めましょうか」

「それはつまり、広告塔になれという事ですか?」

「ええ、あなた達ならきっと出来るわ、どうかしら?」

「やります、やってみせます」

「あーし達が頑張れば、陰で泣く子が減るかもしれないって事っしょ?

これはもうやるしかないね」

「ふふふふふ、任せて下さい、そういうのは得意です」

 

 力強くそう言う三人に、八幡は眩しいものを見つめるかのような視線を送っていた。

そんな八幡を、陽乃が肘で小突いた。何か言え、具体的には褒めろと言いたいらしい。

八幡はその意を汲んで、三人にこう言った。

 

「三人は芸能人みたいな活動をする事になるのか、うん、いいんじゃないか?

安易に向いてるとか言うつもりはないが、三人ともそれぞれ違うタイプの美人だしな」

「「「美人……」」」

 

 三人はその言葉にピクリと反応した。面接という形をとっている以上、

過剰な反応は出来ないようだが、三人は明らかに嬉しそうであった。

 

「もし活動が上手くいかなくても問題はない、

ちゃんと個人の適正については長い目で調べていくから、

それに従って適正な部署に移ってもらうつもりだ。だからといってそれを逃げ道にせず、

その上で失敗を恐れずに、思い切って活動してくれると嬉しい」

「あ……ありがとうヒッキー、やれるだけやってみるね!」

「あーしなりに精一杯やってみるよ」

「見てて下さい、先輩の手が届かないくらいの人気者になってやりますからね!」

「ああ、期待してるからな」

 

 こうして三人同時の面接は終わり、八幡と陽乃は相談の上、

後日倉エージェンシーに赴く事を決めた。

 

「それじゃあ明日は倉エージェンシーだな」

「ところでさ、いずれはかおりちゃんも芸能部に所属させたいんだけど、

その事について八幡君はどう思う?」

「いいんじゃないか?あいつのあの明るさは、きっと武器になると思うぞ。

まあ本人の希望はちゃんと聞いてやってくれな」

「うん、分かってるって」

「よし、それじゃあ小猫、次にいこう」

「分かりました」

 

 次に中に入ってきたのは相模南であった。

 

「相模南、入ります」

「南ちゃん、秘書の仕事は大分覚えた?」

「はい、まだ室長ほどではありませんが、ほとんど覚えました」

「早めに秘書室に出入りしてもらった甲斐があったってものね。

一応確認しておくけど、他に希望する部署とかはあるかしら」

「ありません、私は八幡をしっかりと支えたいと思います」

「そう、それじゃあ予定通り、卒業後はそのまま八幡君の秘書として頑張ってもらうわ」

「はい!」

 

 南に関しては、八幡は特に口を挟まなかった。他の者とは違い、規定路線だったからだ。

 

「頼むな、南」

「うん、何か困ったらどんどん私を頼ってね」

「ああ、もちろんだ、頼りにしてるぞ」

「任せて!」

 

 そして次に入ってきたのはクルスであった。

クルスへの対応も南と同様だろうなと八幡は考えていたが、

どうやら陽乃の考えは違ったようだ。

陽乃は開口一番に、クルスにこう言ったのである。

 

「クルスちゃん、あなた、どれくらい戦える?」

「戦いですか?そうですね、八幡様のボディガードくらいはこなせると思いますが、

あくまでそれは、向かってくる脅威を排除出来るかどうかという話なので、

身辺警護という意味ではまだまだ学ぶ事が多いと思います」

「姉さん、一体何を……」

「これはさっきの話とも繋がる事なんだけど、さっき言ってた芸能部、

あの三人にも護衛が必要だと思わない?」

「ああ、まあそれは確かにな」

「今うちにいるそういった戦力は、レヴィちゃんと萌郁ちゃんしかいないわよね、

なので何かの時に彼女達の代わりが出来る人材が欲しいのよ」

「つまりそれには、秘書として八幡様に同行する事が多いだろう私が向いていると」

「そういう事ね、さすがはクルスちゃん、理解が早くて助かるわ。

実はクルスちゃんって、それなりに戦える子でしょう?」

「はい、八幡様のお傍にいられるように、鍛えてきましたので」

「そ、そうなのか?」

「はい、それも秘書の努めですから」

 

 さすがは才女と名高いクルスである、実にそつがない。

 

「就職前に、それなりの知識を身に付けてもらおうと思ってるけど、その余裕はあるかしら」

「お任せ下さい、やりとげてみせます」

「うん、信頼してるわ」

 

 この言葉で、八幡は陽乃がクルスの事を高く買っている事に気が付いた。

ここで八幡に出来る事といえば、激励くらいだろうか。

八幡はそう考え、クルスにこう言った。

 

「いつも俺の事を一番に考えてくれるクルスには、いつも感謝してるぞ。

その気持ちには必ず報いるつもりだから、大変だとは思うが、これからも頼むぞクルス」

「はい、いつまでも八幡様のお傍から離れません!」

 

 こうして未来に向けて多くの新人を迎えつつ、

八幡が社長に就任した時に、思い通りの活動が出来るように、

陽乃はソレイユの体制を徐々に固めていく。

 

 尚も面接は続く。


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