ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭
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第662話 培われた力

「学校を休みがちになってもいいか、ですって?」

「はい、先生はどう思うかなって……」

 

 理央はその日の昼休み、担任の先生についに相談を持ちかけた。

事前に八幡には、落第しなければ問題ないと言われ、許可をとってあった。

 

「担任としては複雑な気分だけど、学校よりもソレイユで学ぶ方が双葉さん的にはいいの?」

「いや、そこまでは言わないですけど……」

 

 理央はまさか、寮に早く住みたいから等とは言えず、そう曖昧に言った。

 

「ちょっと校長先生と学年主任と話をしてみるわ、また放課後に来てもらってもいい?」

「わ、分かりました、お手数をおかけしてすみません」

「いいのよ、だって双葉さん、最近毎日本当に充実してるって顔をしてるもの」

「あ、はい、充実してます!」

「ふふっ、それじゃあ放課後にね」

「はい、お願いします!」

 

 そして教室に戻る途中、咲太と佑真が理央に話しかけてきた。

どうやら理央を待ち構えていたらしい。

 

「おい双葉、先生と二人で話すなんて、ソレイユ絡みで何かあったのか?」

「絡みといえば絡みだけど、その、学校に来る日数を少し減らそうかな、なんて」

「えっ、この時期からか?」

「まだ卒業まで半年も残ってるけど」

「う、うん、まあ出席日数ギリギリまで、みたいな?」

「とりあえず理科室にでも行くか?」

「う、うん、そうだね」

 

 そして理央は、久しぶりに理科室を訪れる事になった。

 

「ここも何か久しぶり」

「さて、どういう事だ?」

「えっとね……」

 

 理央は二人に隠し事は出来ず、詳しい理由を二人に説明した。

 

「あはははは、そんな理由かよ!」

「麻衣さんからちょっとは話を聞いたけど、そんなに凄いのか?その寮」

「う、うん、きっと梓川の部屋よりも豪華」

「マジかよ……今度見せてくれよ」

「それは嫌」

「う……まあそうだよな」

「その代わりに今ここで黒板に書いて説明してあげる」

「おお、サンキュー!」

 

 そして理央が黒板に書いた図を見て、二人はぽかんとした。

 

「えっ、これマジで言ってんのか?」

「うん、マジだけど」

「寮なのにバスとトイレが別で、更に寝室と、キッチンカウンターまであるのか」

「寝室とかはともかく、バスとトイレが別なのは、八幡のこだわりらしいよ」

「確かにその方がいいもんな」

「凄え羨ましい……」

 

 二人は理央の話を聞いて興奮状態であった。

 

「でもこんなに大事になるなんて……」

「校長先生と学年主任に話をなぁ」

「まあ規定以上に休むって訳じゃないんだから、多分大丈夫だとは思うが、

駄目なら駄目で、あと半年だけ我慢すればいいだけだから、気楽に構えてろって」

「まあ確かにそうだよね、うん、ちょっと気が楽になったよ、ありがとうね二人とも」

「気にするなって、俺達友達だろ?」

「あっ、友達と言えば、実はあの神崎エルザが、私の友達だったの……」

 

 その理央の言葉は、二人にとっては特大の爆弾となった。

 

「ええっ?」

「か、神崎エルザって、あの神崎エルザだよな?」

「うん、その神崎エルザ……」

「友達『だった』って、どういう事だ?」

「ええと、実は私のゲーム仲間だったの」

「ああ~、ALOか!そういう事か!」

「今度色紙を持ってくるから、サインしてもらってくれ!」

「エルザに迷惑をかけるのは避けたいけど、一応頼んでみるね」

 

 もちろんエルザが嫌がるはずもなく、むしろ大歓迎といった感じで、

二人は後日、神崎エルザのサインを無事に入手する事になる。

 

「まあとりあえずは放課後にどうなるかだな」

「ここで待ってるから、話を聞かせてくれよな」

「うん、分かった」

 

 

 

 そして迎えた放課後、進路指導室で、理央は予想外の条件を提示されていた。

 

「明日行われる校内模試………ですか?」

「ええそうよ、双葉さんは就職が決まったから本来は受ける必要が無いのだけれど、

そこで今の学力がどうなっているのか見たいって話になってね、

凄く急なんだけど、その模試を受けてほしいのよ」

「で、好成績を残したら、どのくらい休んでも特例として許可してもらえると?」

「そうね、成績さえ良かったら何も問題はないわ、

世間でも、そろそろ日本でも飛び級を認めるべきだって議論が高まってるし、

今回はちょっと違うけど、そのテストケースの一つとして、認めてもいいそうよ」

「そういう事ですか、分かりました、是非お願いします!」

 

 こうして理央は突然ではあるが、模試を受ける事になり、

その事を化学室で待っていた二人に報告した。

 

「え、明日の模試を受けるのか?」

「いきなり明日って、大丈夫なのか?」

「分からない、でも今からジタバタしてもしょうがないし、ベストを尽くすつもり」

「特に試験勉強とかはしてないよな?」

「うん、でもまあやるしかないからね」

「そうだな、やるしかないな……」

「とりあえず今日は帰ってちょっと勉強する事にするね」

「俺達も勉強しないとだな」

「明日はお互い頑張ろうぜ」

「うん、二人とも、今日は話を聞いてくれてありがとうね」

「おう!」

「落ち着いたらサインの事も頼むな!」

「うん、ちゃんと聞いておくね」

 

 そしてその日の夜、理央は焦る事もなく、教科書をじっくりと見直していた。

 

「教科書に載っていない事は試験に出ない、そしてあとは応用だけ……

あれ、でも教科書って、こんなに簡単な内容だったっけ……」

 

 理央はそんな感想を抱きながら、全ての教科のチェックを終え、

体調を整える為に、早めに寝る事にした。

 

「明日は頑張らないと……」

 

 理央は特に緊張などもしていなかった為、すぐに眠りにつく事が出来た。

そして迎えた次の日、理央が教室に入ると、クラスメート達が少しざわついた。

これは悪い意味ではなく、単に理央が模試を受ける必要が無いと、皆が知っていたからだ。

そしてそれなりに仲の良い女友達が数人、理央に話しかけてきた。

 

「あれ、理央もこの模試を受けるの?」

「今日は休みだと思ってたからびっくりしたよ!」

「う、うん、実はね……」

 

 理央はそこまで詳しくではなかったが、今回の経緯を軽く説明した。

 

「そういう事だったんだ!」

「一夜漬けかぁ、大丈夫?」

「う、うん、やるしかないから頑張ってみる」

「あは、そうだね」

 

 こうして試験が始まり、その日の放課後、理央は再び化学室にいた。

 

「お~い双葉、模試はどうだった?」

「う、うん、二人はどうだった?」

「結構出来た方だと思うけどな」

「俺もそれなりだなぁ、双葉は?」

「いや、それがね……」

 

 その理央の少し不安そうな表情に、二人は出来が悪かったのかと心配そうな表情をした。

だがその直後に理央は二人にこう言った。

 

「な、何かありえないくらい出来たんだけど、一体どうなってるの?」

「え?」

「そんなに出来が良かったのか?」

「う、うん、今回私は理系教科中心の試験だったんだけど、

数学と物理と化学は基本的な事しか出題されなかったし、

英語は小学生の作文みたいに思えたし、現国もいつもよりスラスラ解けたし、

日本史は元々得意だったからいいとして、模試ってこんな感じだったっけ?

もっと苦労した覚えがあるんだけど……」

 

 その理央の言葉に二人は黙りこくった。

 

「二人ともどうしたの?」

「あ、いや……」

「なぁ双葉、数学と物理と化学、基本的な事ばっかりだったか?」

「う、うん、だってあんな事、紅莉栖さんに散々教えてもらったしね」

「なるほど……」

「結論から言うと、今回の模試、その三教科の平均はかなり低いと思うぞ、

試験が終わった後、他の奴らがざわついてなかったか?」

「え?あ、うん、確かにそうだったかもだけど」

「英語に関しては何故そう思ったのかは分からないが、

もしかして双葉は日常的に英語に触れたりしてるのか?」

「それはほら、論文って基本英語だからね、

それにうちの部の三人とも、アメリカで暮らしてた訳だしね、ってか部長はアメリカ人だし」

「そうか……」

「まあ数日後には結果が貼り出されるはずだから、それを待とうぜ」

「うん、まあそうだね」

 

 その次の次の日の朝、理央が学校に来ると、

何故か一時間目は全クラスが自習になっていた。三年だけじゃなく全校である。

 

「え、この自習って全クラスなの?」

「うん、そうみたいだよ」

「何か緊急の職員会議があるんだって」

「一体何があったんだろうね」

 

 その頃会議室では、集まった先生達が、何ともいえない表情で会議に参加していた。

 

「これ、本当ですか?」

「間違いなく公正な試験の結果です」

「この生徒って、例のソレイユへ就職した子ですよね?」

「はい、そこで毎日放課後に勉強しているとか」

「毎日ですか、体調とかは大丈夫なんですかね?」

「それどころか凄く楽しそうで、とても元気そうに見えます。

ちなみに双葉さんの担当をしているのは、あの牧瀬紅莉栖さんだそうです」

 

 どうやらこの日の議題は理央についてであるようだ。

そして牧瀬紅莉栖の名前が出た瞬間に、

その事を知らなかったらしい、理系教科の担当教師達がざわついた。

さすがは世界的有名人の紅莉栖である。

 

「一体どんな勉強をすればこうなるのか」

「本人に聞いてみますか?」

「そうしますか、結果も伝えないといけませんしね」

「あ、じゃあ私が呼びにいってきますね」

 

 そして担任が、教室まで理央を呼びに来た。

 

「双葉さん、ちょっと会議室まで来てもらってもいい?」

「えっ、あ、は、はい!」

 

 それで双葉は、職員会議が自分のせいで開かれたのだと悟った。

他のクラスメート達も、それを聞いて同じ事を考え、ざわついた。

 

(問題ない成績だったらこんな事にはなってないはず、駄目だったのかな、まあ仕方ないか)

 

 理央はそう覚悟を決め、会議室へと入室した。

 

「失礼します、双葉理央、入ります」

「双葉さん、わざわざ来てもらってすまないね、ちょっと君に聞きたい事があってね」

「あ、はい、何でしょうか」

「先ずは試験の結果を見てくれ」

 

 校長から理央の採点結果が手渡され、理央はそれを見て、目を見張った。

 

「え、こ、これ、本当ですか?」

「ああ、ちなみに下に書いてあるのが平均だよ」

「こ、こんな点数をとったのは初めてです」

 

 そこには凄まじい点数が並んでいた。理系教科は全て百点、

英語が九十六点、現国が九十二点、日本史は八十八点である。

理央は理系な為、今回受けたのはこの六教科のみであった。

 

「ちなみに学年全体でもトップ、今回の試験は校内試験だからあくまで参考だけど、

多分全国でもかなり上位の成績だからね」

「し、信じられません」

「それでだ、普段どんな勉強をしているのか、聞いてみたいと思って来てもらったんだよ、

あくまで興味本位だから、言えない事は言わなくてもいいからね」

「あ、はい!」

 

 そして理央は、企業秘密に類する部分は上手く伏せつつ、正直にそれに答えた。

 

「そ、そんな事を……」

「高校の教育レベルを逸脱してますが、確かにそれならこの成績も頷けますね」

「そうか、論文か、英語はそういう事だったんだな」

「もしかして英会話も?」

「あ、はい、職場で普通に英語が飛び交ってるんで、

自然とある程度は話せるようになっちゃいました」

「現国と日本史についても前よりは上がってるみたいだが」

「日本史は前の日に頑張って暗記しました、現国は多分たくさんの論文を読んでいるうちに、

読解力が上がったんじゃないかなと」

「なるほどね、そういった影響もあるか……」

「はい、多分ですけど」

 

 そして校長は、笑顔で理央に言った。

 

「まあもう分かっていると思うが、試験結果は合格だよ、

これからは学校に来ても来なくても構わないから好きにするといい」

「あ、ありがとうございます!」

「しかしこんなにいい成績をとられると、ちょっと悔しい気もしますね」

「今回の問題は、かなり難しかったと思うんだけどなぁ」

 

 理系教科の担当の教師達が、口々にそう言った。

 

「な、何かすみません」

「いやいや、いつか双葉さんの姿をテレビとかで見るのを楽しみにしているよ」

「就職してもソレイユで頑張ってね、応援してるから」

「はい、ありがとうございます!」

 

 そして少し後に、今回の試験結果が廊下に貼り出され、

その結果は驚きをもって生徒達に迎えられた。

 

「うわ、双葉の奴、やっぱり一位だよ」

「話を聞いていて、そうじゃないかなって思ったんだよな」

「ソレイユやばいな、というか牧瀬紅莉栖って人がやばいのか」

「まあこれで双葉と会う機会もかなり減るだろうな」

「ちょっと寂しいけど、いなくなる訳じゃないし、ここは素直に双葉の事を祝福しようぜ」

「だな」

 

 こうして理央は実力をもって学校から解放され、

両親の許可も得て、理央の寮生活がスタートする事となった。




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