ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭
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第668話 訓練の開始

「それじゃあ訓練を始める」

「はい、宜しくお願いします」

 

 訓練場で、ハチマンとマイは向かい合っていた。

エルザは離れたところで一人、ロケットパンチをうちまくっている。

どうやら大鎌を振るった後に、スムーズにそちらの動作に移行出来るよう、

頑張って練習しているようだ。片手ずつロケットパンチを飛ばしているところから、

どうやら叫ぶ言葉を変えればそういう事も出来るのだろうと推測された。

 

「鉄扇はリーチが短いのが難点だ。逆にバル・バラは、

敵をターゲッティングさえ出来れば少なくとも命中は必ずさせる事が出来る。

なのでマイさんに求められるのは、敵の懐に飛び込める度胸、

そして死角を作り出し、その隙にバル・バラを投擲する瞬発力という事になる」

「なるほど、近接戦闘で幻惑しつつ、

敵にバル・バラを投げた瞬間を悟られないようにするって事ですね」

「というのがまあ、正しいスタイルなんだろうな」

「えっ?」

 

 ハチマンがニヤリとしながらそう言った為、マイは驚いた表情でそう言った。

 

「まあ実際ガチで戦うならそうなんだが、これはあくまで映画の為の演出だからな、

動きを大きく、そして派手に見せるのが大事になるんじゃないか?」

「あ、確かに……」

「という訳で、先ずは多少オーバーアクションで動けるように、

基本動作から入って、徐々にその動きをゆっくりと大きくしていこう。

そこから段々と速度を上げていく」

「分かりました、お願いします」

 

 マイはその方針に納得したのか、力強くそう言った。

そしてハチマンの指導が始まった。扇と言えど、開いた状態では刃物と変わらない。

故に力強く切り裂くように振りぬくべし、

最初はゆっくりと動作を行っていたマイは、慣れるに連れ、どんどんその速さを増していく。

基本動作は結局反復練習なのだ。咄嗟の時ほどそれが無意識に現れる。

マイは我慢強くそれを繰り返し、相手に背中を向けた状態から動いたりもしつつ、

どんな体勢からも寸分違わず思った位置に鉄扇を振り抜く事が可能となった。

 

「それじゃあ次は防御だな、俺がゆっくりと武器を振り下ろすから、

それを自分なりの加減で受け流してみてくれ」

 

 防御は扇を開いた状態で行うが、敵の攻撃が激しい時は受け流すように動くべし、

そう言ってハチマンは大鎌を持ち、ゆっくりとマイ目掛けて振り下ろす。

マイはそれを、最初はしっかりと受け止めてみた。

だが攻撃は止まらずに、そのまま徐々にマイを両断しようと迫ってくる。

そこでマイは鉄扇の角度を変え、同時に体をずらし、大鎌の刃を自分の体の横へと流した。

同じ事が何度も繰り返され、徐々に速度が上がっていく。

完全にその角度の攻撃を受け流せるようになったら、今度は剣筋を変える。

それが延々と繰り返され、マイは今や、様々な角度からの攻撃を、

咄嗟の動きで受け流せるようになっていた。

 

「ハチマ~ン、そろそろ休憩にしない?」

「そうだな、マイさん、少し休もうか」

「はいっ!」

 

 マイは明るい表情でそう答え、ハチマンの後に続いてリビングへと向かった。

そこには見知らぬながらもどこか見覚えのある子供がおり、

マイは少し驚きつつも、その子供に挨拶をした。

 

「あ、は、初めまして」

「えっ?あ、やだな、私ですよマイさん、ユイです」

「えっ、そうなの?」

「はい、ちょっと待ってて下さいね!」

 

 そしてユイは、マイの目の前で元の妖精の姿に戻った。

 

「うわ、ユイちゃんって変身出来たんだ!」

「はい!」

「どっちの姿もかわいいなぁ」

 

 マイはニコニコしながらそう言って、小さなユイの頭を撫でた。

 

「そういえばマイちゃんは、ユイちゃんを見てもあんまり驚いてなかったよね?」

「ううん、内心では驚いてたけど、ハチマンさんの事をパパって呼んでたから、

多分ゲーム内にのみ存在する、AIか何かなんだろうなって思ったの」

「ほええ、マイちゃんって鋭いんだねぇ」

 

 エルザは本当に感心したようにそう言った。

 

「親戚の子供じゃないかとかは考えなかったの?」

 

 リズベットのその質問に、マイは少し考えた後、こう答えた。

 

「う~ん、でもこのゲームは一応年齢制限がありますし、何よりハチマンさんの年齢だと、

どんなに早くてもユイちゃんみたいな大きさの子供がいる事はありえないですしね」

「もしかしたら、違う意味でパパって呼んでたのかもよ?」

「ハチマンさんはそういう人じゃないと思うよ、エルザちゃん」

 

 そのエルザの軽口に、マイは真面目な表情でそう答えた。

 

「さすが、マイちゃんは私と違って常識人だなぁ」

 

 エルザは自虐的にそう言ったが、マイはそんなエルザすらたしなめてみせた。

 

「エルザちゃんは破天荒だけど、他人に迷惑をかけないって常識はちゃんとあるじゃない、

だからそんな事言っちゃ駄目だよ?」

「マ、マイちゃん……」

 

 エルザは感動したようにそう言ったが、そんなエルザをハチマンがバッサリと切り捨てた。

 

「いや、マイさん、こいつはこの前、思いっきり他人に迷惑をかけたからな」

「えっ、そうなんですか?」

「ああ、実は先日な……」

 

 ハチマンはそう言って、先日のスクワッド・ジャムの時の話をし、

マイはその話を聞くに連れ、どんどん無表情になっていった。

 

「マ、マイちゃん……?」

「エルザちゃん」

「は、はいっ!」

 

 そのマイの呼びかけが氷のように冷たい声だった為、

エルザは思わず背筋を伸ばしながらそう言った。

だが次の瞬間マイは少し涙目になりながら、エルザにこう言った。

 

「今度からそういう事があったら真っ先に私に連絡してね。一緒に悩んで苦しんだ後に、

どうやったら希望が持てるか、解決へと向かう手立てが本当に無いのかどうか、

エルザちゃんと一緒に考えてあげるから」

 

 その言葉は確かにエルザの心を揺さぶったらしい。

エルザは人目もはばからずに目をうるうるさせながら、マイに抱きついた。

 

「うわ~~~~ん、マイちゃ~~~~ん!」

「よしよし、困ったらいつでも相談してね」

「う、うん!」

 

 その光景を見ていた他の者達は、その姿に素直に感動しつつ、マイの事をこう評した。

 

「いい人だ……」

「いい人だね……」

「いい人ですね……」

「ちょっと感動しちゃった」

「マイさんってママの次くらいに素敵ですね!」

 

 そして元の姿に戻ったユイがお茶を入れ、五人はのんびりと休憩を始めた。

 

「スクナ、ここまでで、何か衣装の案とかは浮かんだか?」

「うん、エルザはやっぱり定番のゴスロリ風、ただし普通の服装じゃ駄目、

ここは細かいパーツで構成された、ゴスロリ風アーマーがいいと思うわ、しかも紙装甲のね。

マイさんについては普通に和風かチャイナでいいと思うんだけど、もう少し考えさせて」

「ふむ、エルザの方の装備、その心は?」

「ネタ武器だから、普通の鎧だとまったく攻撃が通らなくて地味な戦闘になってしまうわ、

でも紙装甲の装備にしておけば、おそらく弱い攻撃でも、

パーツが細かければ部位単位での装備破壊が起こせると思う」

「なるほど、つまり徐々に装備が壊れていく訳か」

「えっ、もしかして私を公開の場で全裸にしちゃって、それをハチマンに見られちゃうの?

そんな嬉しい状況があってもいいの?」

 

 エルザはそのアイデアに凄い勢いで食いついた。

もちろんハチマンが見ている事が前提条件なのだろうが。

 

「ううん、あくまで戦闘を派手に見せる為のテクニックよ、

当然見えてはいけない部分の防御力は普通に高くしておくわ」

「あ、そうなんだ、残念……」

「エルザちゃん、ちょっと性癖が変わった?露出狂の気なんか無かったよね?」

 

 エルザの事をそれなりに知るマイの質問に、エルザは頭をかきながらこう答えた。

 

「うん、何かハチマンにいじめられる時だけは、性癖が逆転しちゃうみたいなんだよね」

「そ、そう……」

 

 マイはそれを聞き、申し訳なさそうな顔でハチマンの方を見た。

おそらくハチマンが何かした訳ではなく、

エルザが一方的にハチマンを困らせているのだという事が分かったのだろう。

ハチマンはそれに答え、諦めたような表情をして肩を竦めた。

同時にハチマンは首を振り、気にするなというゼスチャーをし、

マイはそれを見て小さく頷いた。どうやらマイは、思った以上に成熟した女性のようだ。

 

(はぁ、変に混ぜっ返してこない人は本当に貴重だな、

咲太は本当にいい人と巡り合えたよなぁ)

 

 ハチマンは、自身にとっては親しい後輩と呼べるかもしれない咲太の顔を思い出し、

心がほっこりするのを感じた。

そして他にも色々と雑談をした後、ハチマンとマイは再び訓練へと戻った。

エルザは一通り、イメージした動きが出来るようになったのだろう、

次はリズベット相手に模擬戦を行う事にしたらしい。

 

「さて、お次はカウンターだな」

「カウンター……ですか?」

「ああ、実際にやってみよう、マイさん、気にせず自分のタイミングで、

俺に不意打ちぎみに攻撃を仕掛けてきてくれ」

「あ、はい」

 

 そしてマイは心の中でタイミングを計りつつ、いきなりハチマンに攻撃し……ようとした。

だがその瞬間に目の前のハチマンの姿がぶれ、マイは攻撃する事が出来ずにたたらを踏んだ。

 

「えっ?」

「これがカウンターだ、ちょっと難しいかもしれないが、

相手の攻撃の気配を読み、それに合わせる形で敵の攻撃の出を潰す技術だな」

「出を潰す……出来るか分かりませんが、やってみます」

「これは速度を遅くしても意味が無いから、それなりの速さで寸止め攻撃を行う。

マイさんは好きに迎え撃ってくれていい」

「はい、お願いします!」

 

 ここまでは地味な作業が続いており、これからも多少応用が必要だが、

再び地味な作業となる。だが見た感じ、マイはそれを嫌がってはいなかった。

それどころか段々と動けるようになってきている自分を見て、喜んでいるふしがある。

 

(何というか、努力家だよなぁ)

 

 ハチマンはマイの評価を更に上げつつ、根気よくマイの訓練に付き合った。

 

「さて、今日はここまでだな、それじゃあ最後にエルザとマイさんで、

簡単な模擬戦をやってもらうか」

「おっ、いよいよだね!」

「エルザは大鎌には習熟出来たか?」

「う~ん、片手直剣よりも刃筋を通すのが難しいから、もう少しかかるかな」

「そうか、まあ二人とも、動作を大きく見せる事を忘れないように頼む」

 

 そして二人の戦いが始まった。二人ともあくまで見せる演技という事で、

とにかく大振りをしてくる為、逆に防御なども上手くいき、中々見れる戦いとなった。

 

「リズ、どう思う?」

「初日にしては中々動けてるんじゃないかな、特にマイさん」

「覚えが異常に早いんだよな、マイさん……」

 

 そんな中異変が起こった。エルザが放った一撃に、マイが見事なカウンターを決めたのだ。

それはたった一度だけであったが、エルザは確かにそのカウンターでよろける事になった。

 

「わっ、わっ」

「あっ、う、上手くいった!」

「くぅ~、マイちゃんやるなぁ」

「うん、今のは自分でも上手くいったと思う!」

 

 そこで模擬戦は終了となり、こうしてエルザとマイは、一日目の訓練を終えた。


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