ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭
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第669話 マイの決断

「はい、それじゃあ今日はマイさんに、見た目だけは派手な魔法を覚えてもらいます、

その為に特別ゲストをお呼びしました、絶対零度のユキノさんです」

「何故司会風!?」

「魔法ですか?うわぁ、一度使ってみたかったんですよ!」

 

 エルザはそんなハチマンにいきなり突っ込んだが、

マイは目を輝かせながらわくわくした表情をした。

この辺りはやはり、ゲーム経験の差なのであろう。

 

「それでは本人のご登場です、どうぞ!」

 

 ハチマンは悪ノリし、そのまま司会を続けていた。そして館の中からユキノが姿を現した。

 

「初めまして、ヴァルハラの副長を拝命しています、ユキノです」

「こちらこそ初めまして、マイと言います、しばらくお世話になります」

「それじゃあユキノはマイさんについてくれ」

「ええ、分かったわ」

 

 ちなみにエルザは魔法に関しては、別に使えないという事はない。

歌の歌詞を覚えるノリでいけるので、呪文が長い魔法に関しても問題なく使う事が出来る。

ただ単に趣味嗜好の問題で、普段は使わないだけなのだ。

そして今日、マイの教師役としてユキノが選ばれた理由は、

ヴァルハラの中で一番動きながらの平行詠唱が得意だからである。

これはアスナも得意なのだが、実はアスナは回復魔法に特化している為、

派手な攻撃魔法を教えるという点を重視し、今日はユキノが選ばれる事になったのだった。

 

「それではマイさん、最初に五音節くらいの魔法の詠唱から練習しましょうか、

一言一句間違わないように覚えて頂戴ね」

「任せて下さい、セリフを覚えるのは得意なので」

 

 その言葉通り、マイはユキノに教えられた呪文を一瞬で覚えてしまった。

 

「それじゃあ動きながらその呪文を詠唱してもらいます、ハチマン君、妨害をお願い」

「あいよ」

 

 ハチマンはそのユキノの頼みを受け、大胆にマイに歩み寄ると、

あちこちに短剣を突きつけ始めた。マイはそれを避けつつ詠唱を完遂しようとしたのだが、

やはり中々上手くいかない。

 

「結構難しいですね」

「まだ呪文を頭で考えながら唱えているからだと思うわ、

それこそ無意識に鼻歌を歌うように、呪文を唱えているというのがベストね」

「なるほど……すみません、ちょっと時間を下さい、完璧に頭に叩き込みますので」

「そう?それじゃあ少し時間を置きましょうか」

 

 ユキノはお手並み拝見とばかりにその場に座り込み、ハチマンはその隣に座った。

 

「ユキノ、マイさんの事、どう思う?」

「私とキャラがかぶっているわね」

「お前の口からそんなセリフが出るとはな」

「そうは言うけれど、ハチマン君も、マイさんは私と似たタイプだと思うでしょう?」

「どうかな、ユキノはどちらかというと秀才タイプだしな、

あっちは明らかに天才タイプだろう?」

「演技の面ではそうかもしれないけれど、

それを支えているのは彼女の不断の努力の賜物だと思うわ」

「今みたいにか?」

「ええ、あの真面目さは好ましいわよね」

「だな」

 

 そんな二人の目の前で、マイはずっとぶつぶつと呟いていたが、

やがてマイは、歌うように呪文の詠唱をしつつ、うろうろとそこら中を歩き始めた。

 

「あら、もしかしてもう覚えたのかしら」

「かもしれないな、歩きながら確認しているように見えるな」

「オーケーです!」

 

 マイは足を止め、笑顔で二人にそう言った。

どうやら満足がいくレベルまで呪文を頭に刻み込む事に成功したらしい。

 

「それでは再開しましょうか」

「はい!」

 

 

 

「まさかああも簡単に攻撃を避けながらの呪文発動に成功するなんてな」

「さすがは人気女優と言うべきなのかしらね」

「楽しいからだと思います、好きこそ物の上手なれって言うじゃないですか」

「マイさんは今、そんなに楽しいのか?」

「はい、だってゲームをするのが仕事だなんて、普通はありえないじゃないですか、

自分がどんどん強くなっているのも分かるし、私今、とても楽しいですよ」

「それなら良かった」

「これは教え甲斐があるわね」

 

 今は三人は、休憩しながらエルザの訓練風景を見物していた。

さすがエルザはゲーム歴が長いだけの事はあり、

観客に見せる戦闘のコツもすぐに掴んだようで、

今は大鎌とロケットパンチと魔法の三連コンボに挑戦しているようだ。

 

「エルザちゃんは凄いなぁ」

「手がかからないのはいいわね」

「私生活じゃ手がかかりまくるけどな……」

「それはハチマン君限定じゃない、頑張って彼女の暴走を抑えてね」

「俺は別にあいつの担当になったつもりはないんだが」

「でもお二人って本当に仲良しですよね、やっぱりゲームの中で出会ったんですか?」

「俺とあいつの出会い?GGOってゲームでストーカーしてきたあいつを俺が捕獲したら、

あいつが色々とカミングアウトしてきやがって、そこからの腐れ縁って事になるのかな」

 

 その言葉の意味が脳に染み渡るのに時間がかかったのか、

マイは少し置いた後に、戸惑った様子でこう言った。

 

「……今色々と危険な単語が出てきた気がするんですが」

「まあ事実だからなぁ」

「う~ん、エルザちゃんって誰かをストーカーするような子だったかなぁ」

「変態は変態同士、惹かれあうという事なのじゃないかしら」

「おいユキノ、ちょっと表に出ろ」

「あはははは」

 

 そんな和やかな会話が続く中、ハチマンはのんびりと立ち上がり、

エルザの方に向けて歩き出した。

 

「ちょっとあいつの相手をしてくるわ、放置しすぎてまた興奮されても困るしな」

「行ってらっしゃい」

「こ、興奮?興奮って?」

「性的な意味だと思うわ、ハチマン君に放置されると興奮するみたい、本当に困った子よね」

「せ、性……」

 

 マイはユキノのその言葉に顔を赤くしたが、

ユキノが優しい目でエルザの方を見ていた為、

悪い意味で言っているのではないのだろうと思い、同じようにエルザの方を見た。

エルザはハチマンの接近を感じ取った瞬間、何故かその場に正座し、

ハチマンに背中を向けたまま荒い息を吐いているように見えた。

そんなエルザの頭にハチマンは容赦なく拳骨を落とし、そのまま立ち上がらせた。

マイはそれを見てギョッとしたが、

立ち上がったエルザがとても嬉しそうにハチマンの周りをぐるぐる回っていた為、

やっぱり仲がいいんだなと改めて感じる事となった。

 

「あら、どうやら手合わせをするみたいね、エルザが得意武器を取り出したわ」

「片手直剣って奴でしたっけ?」

「ええ、エルザはああ見えて、オーソドックスな剣士なのよね」

「そうなんですか」

 

 そして二人の戦いが始まった。

だが打ち合いにはならず、ずっとお互いにけん制しているように見えた。

 

「あれはどういう状態なんですか?」

「ハチマン君のカウンターを極度に警戒しているみたいね、

彼はALO最強のカウンター使いだから」

「あ、どんなに工夫しても毎回あっさりとカウンターをとられちゃうのって、

そういう訳だったんですね」

「ふふっ、イライラするでしょう?」

「は、はい、実はちょっと……」

「エルザはどうするつもりなのかしらね」

 

 そして二人が見守る中、ついにエルザが動いた。

エルザは緩慢な動作でハチマン目掛けて剣を振り下ろし、

ハチマンはその瞬間に大きく一歩踏み込んで、

いつものようにカウンターを…………取れなかった。

 

「あら?」

「剣があっさりと弾かれ……あっ!」

 

 どうやらエルザはカウンターを取られる瞬間に武器から手を離し、

体勢を崩すのを防いだようだ。当然先ほどまで持っていた剣は後方に弾かれたが、

エルザはそのまま別の剣を出現させ、ハチマンめがけて思いっきり叩きつけた。

だが次の瞬間、ガン!という音と共に、エルザは大きく体勢を崩した。

どうやらそれにも対応され、ハチマンにカウンターをくらったようだ。

そしてエルザの首に短剣が突きつけられ、エルザはあっさりと降参した。

 

「むぅ、参った!」

「ふう、中々いい工夫だったな」

「どうして私が武器を変えるって分かったの?」

「左手の動きがな、自然を装ってたが、

まんまメニュー画面を操作しているような動きだったからな」

「くそ~、そっちの練習が足りなかったか!」

「まあもっと工夫してみるんだな」

「うん!」

 

 それはマイが見た初めての本気のエルザであった。

見せる為の演技とは違い、速度もまた凄まじい。

もっともキャラが違う為、厳密には本気とは言えないかもしれないが、

マイはそれを見て、自分の内にもっと強くなりたいという衝動が沸き起こるのを感じていた。

その後も二人は組み手を行ったりしながら派手な演技に徐々に習熟し、

そして次の日、これならどんな演技を要求されても大丈夫だろうというレベルまで、

二人はネタ武器を使いこなす事に成功していた。

 

「かなり見ごたえのある戦闘が出来るようになったな、

このレベルなら今すぐCM撮影が行われてもまったく問題ないだろう」

「頑張ったもん、ね?マイちゃん」

「う、うん」

 

 訓練の目的は無事達成されたというのにマイの表情は今ひとつ優れない。

 

「マイさん、どうかしたか?」

「うん、何か元気が無いように見えるけど」

「ううん、そうじゃないの、私は凄く元気だよ、エルザちゃん。

あ、あの、ハチマンさん、ちょっとご相談があるんですが」

「相談?別に構わないが、場所を変えた方がいいか?」

「あ、いえ、そこまでは大丈夫です、それでですね……」

 

 そしてマイは、躊躇いがちにハチマンにこう切り出した。

 

「その、これは仕事とは関係ない話なのでちょっと気が引けるのですが、

もしご迷惑でなかったら、私を鍛えてもらえませんか?私も本気で戦ってみたいんです!」

「ほうほう、何か理由が?」

「強いってのがどういう事なのか知りたいんです、

確かに最初よりも絶対に強くなれてるという実感はあるんですが、

それはあくまで素人が初心者レベルになっただけって気がしてならないんです。

だから心構えを変えて、本気で強くなる為に戦闘に取り組めば、

私の演技にもっともっとプラスになるんじゃないかなって気がして……」

「なるほど、演技の幅を広げる為か」

「もちろんそれだけじゃなく、単にエルザちゃんが羨ましかったっていうか、

私は部活もやった事がないし、今まで全力で誰かにぶつかった事が無かった気がして……」

 

 ハチマンは、やはりマイさんは真面目なんだなと思いつつ、その頼みを快諾した。

 

「分かった、出来るだけの事はさせてもらう、先ず手始めにそのキャラは成長しないから、

一から新しいキャラを作る事になるけど、それでいいか?」

「はい!最後に予定してた飛ぶ練習も、新しいキャラでお願いします!」

「分かった、それじゃあしばらく一緒に頑張ろう」

「宜しくお願いします」

 

 こうしてマイは、ALOに新たな一歩を踏み出す事となった。


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