ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭
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第670話 アサギとリオン

 こうしてマイ改め、アサギの強くなる為のチャレンジが始まった。

準備期間を一日おいて次の次の日、新キャラでログインした麻衣は、

約束の時間に自らハチマンに声をかけた。

 

「ハチマンさん!キャラを作ってきました!」

「お、随分と長身美女に作ったんだな、しかも金髪か」

「顔は全然違うんですけど、髪の色と髪形は妹のをそのまま真似しちゃいました」

「マイさんには妹がいたのか、で、これからはマイさんの事、何て呼べばいいんだ?」

「はい、アサギでお願いします」

「ほうほう、どんな由来が?」

「それはですね……」

 

 麻衣の説明によると、アサギとはどうやら麻衣の名前をあさぎぬと読み、

そこから「ぬ」を取ったものらしい。候補としてはマインというのもあったようだが、

リオンと名前の付け方がかぶる為、個性が出ないと考えてやめたようだ。

 

「確かにシノンもリオンも同じ系統だよな、アサギか、うん、いい響きじゃないか」

「そういえば浅葱色って、新撰組の羽織の色ですよね?」

「お、よく知ってるな、アサギ」

「実は私、前に新撰組のドラマに出たんですよ、中沢琴役で」

「中沢琴か!これは知る人ぞ知る名前が出てきたな、なるほど、今度探して見てみるか」

「出番はそこまで多くないですけどね」

「まあそれは、どちらかというとマイナーな役だしそうだろうな。

そうか、アサギのヴァルハラの制服をそんな感じに改造するのもありだな」

「それもいいですね、今度スクナさんに相談してみようかな」

 

 アサギはそのハチマンの言葉通り、既にヴァルハラ入りする事が決定していた。

育成は主に午後九時から十一時の間にログインし、その時ログインしていた他のメンバーと、

毎日狩りへと出撃する予定になっている。

ちなみに同じくキャラ育成中のリオンとは別口である。

リオンがキャラを育てている事はハチマンには内緒だった為、万が一を考え、

リアルで麻衣と理央が相談した上で、当分は同行しない事になったのだ。

更にハチマンが狩場に出没する確率が増えるのも考慮して、

リオンに同行するチームは、リオンを含めて全員フレンドリストをオフにし、

変装までするという気の遣いようだった。

もっともハチマンは、こういう方向だとは想像していなかったのだが、

リオンがキャラを育てている事だけは薄々勘付いていた為、これは無駄な努力である。

ちなみにハチマンはその事を誰にも言っていない為、

他の者達はハチマンが気付いている事をまだ知らない。

 

「ハチマン君!」

「お、アスナ、付き合ってもらって悪いな、こちらはマイさん改めアサギさんだ」

「アサギさん、今日は宜しくね」

「こちらこそ宜しくお願いします」

「アサギさんもヴァルハラ入りしたからには、

これからはお互いなるべくフランクな話し方にしないとだね」

「あ、う、うん、そうよね」

「ふふっ、それじゃあ飛行訓練にレッツゴー!」

「ゴー!」

「おう、それじゃあ行きますかね」

 

 そして三人は、そのまま街の外に向かって歩いていった。

 

 

 

 リオンは変装する事になった時点で、何かいい装備は無いかスクナに相談したのだが、

スクナが出してきたのは、まさかの正統派魔法少女の装備であった。

これはお試しで作った合成装備の一つらしい。

 

「わ、私にこれを着ろと……?」

「白衣がベースのロジカルウィッチの装備とは全然系統が違うでしょ?」

「で、でも……」

「これならまさか中身がリオンだとは思わないでしょ?今もかなり渋ってるんだし」

「確かにそうだけど……」

 

 リオンは最初、その格好をするのを渋っていたが、

これで髪を全部帽子の中に収納し、顔にマスクを付け、

パーティ-グッズアイテムで肌の色を変えれば、

ハチマンに正体がバレる事は絶対に無いとスクナに説得され、仕方なくそれを着る事にした。

そう、仕方なくのはずだったのだが……。

 

「ロジカル・ウィッチ参上!さあ、今日も狩るわよ!」

「おいおいノリノリだな、さっきあんなに渋ってたのは何だったんだ」

「リオンって、顔が隠れると性格が変わるタイプなのかな?」

「行くわよ、マジカルロジカルビーム!」

「「………」」

 

 この日、リオンに同行していたのはキリトとリズベットである。

シリカはピナがいる時点で誤魔化しようがない為、

しばらくリオンとは同行しない事になっていた。

アスナはハチマンに呼ばれた為、今日はこちらには参加していない。

当然二人も念入りに変装をしており、キリトは普段とは正反対の純白の騎士鎧姿、

リズベットはフリフリのドレスアーマー姿であった。当然仮面も着用している。

 

「しかしリオンも大分ステータスが上がったよなぁ」

「ボス戦に参加出来る最低ラインには届いたかな?」

「リオンはボス戦に参加したいの?」

「うん、アサギさんと一緒に名前を載せたいしね」

「アサギって誰だ?」

「マイさんの新しいキャラの名前だよ、昨日電話で聞いたの」

「あっ、そうなんだ」

「なるほど、それじゃあ初心者のアサギさんのフォローが出来るように、

もっともっと強くならないとな」

「うん、そうなれるように頑張る」

「そういえばアサギさんはどんなプレイスタイルにするとか聞いてるか?」

「そこまでは聞いてないかな」

 

 リオンはどうやら昨日はそういう話はしなかったらしい。

だがその問いに、リズベットがこう答えた。

 

「私知ってるよ、タンクだって」

「え、マジか!」

「うん、タンクをやる前提で装備を作ってくれって昨日頼まれたの」

 

 どうやらアサギが選択したのはタンクらしい。

リズベットの説明によると、武器はどうやら気に入ったのか、巨大な鉄扇らしい。

防御中も攻撃出来るように、バル・バラも引き続き標準装備としているそうだ。

当然ネタ武器要素は廃され、リズベットとナタクの手によって、

その二つの武器は実戦で使えるようにきっちり強化されていた。

 

「いやぁ、私も鉄扇をそのまま使うなんて思ってなかったからびっくりしたわよ」

「ALOの合成システムって、その辺り応用がきくんですね」

「その槍もそうだけど、ALOの合成品って実はかなりいじりがいがあるのよね」

「確かにこの槍も特殊ですよね、私、凄く気に入ってます!」

 

 リオンはロジカルウィッチスピアを大切そうに胸に抱きながらそう答えた。

いわゆるパイスラ状態である。リズベットはそれを見て、ぐぬぬと唸っていたが、

どうやら早く戦いたくてしびれをきらしたのか、キリトが二人に声をかけてきた。

 

「さて二人とも、そろそろ狩りを始めようぜ」

「はい!」

「あんたも大概戦闘狂よね、それじゃあキリト、敵を釣ってきて」

「おう、それじゃあ行ってくる」

 

 こうしてこの日もリオン達の狩りが開始された。

 

 

 

「アサギ、どう?上手く飛べそう?」

「一応事前に色々調べてきたから、飛ぶだけならコントローラーを使えば大丈夫かも」

「慣れたら徐々に随意飛行が出来るようにしていこうな、

俺とアスナがちゃんとフォローするから大丈夫、怖くない怖くない」

 

 その頃アサギは、ハチマンとアスナに待ちに待った飛行の手ほどきを受けていた。

さすがはプロの女優というべきか、既に二人とは普通の口調で喋れている。

そのアサギは恐る恐るではあるが、しかしとても楽しそうに飛ぶ練習をしていた。

やはり誰にとっても飛ぶという事は心が躍るものなのだろう。

 

「凄い凄い!私、今確かに飛んでるよね?」

「ふふっ、気持ちは分かるよ」

「浮かれるのはいいが、最初はコントローラーを手放さないようにな」

「うん!」

 

 だがアサギの成長速度は予想以上だった。

遂には曲芸飛行までこなすようになり、ハチマンとアスナはそれを見て舌を巻いた。

 

「相変わらず覚えが早いよな」

「才能なのかなぁ」

「クリシュナとは違う方向の天才だよな。

どう思う?もう随意飛行の訓練に移ってもいいと思うか?」

「そうだね、この成長速度なら、補助をしながらそっちを始めてもいい気がするよ」

「それじゃあ最後に自由落下から、地上スレスレで体勢を立て直す練習をして終わるか」

「うん、まあコントローラーを使った練習としては、それが出来れば合格だね」

「オーケーだ、アサギ、ちょっといいか?」

「待って、今そっちに行くわ」

 

 そして二人にその事を指示されたアサギは、笑顔でこう言った。

 

「自由落下か、遊園地のアトラクションみたいね」

「リオンも少し前にやった訓練だな」

「あ、そうなんだ」

「最初は別に地面スレスレまで落ちなくてもいいからね」

「うん、無理せずちょっとずつやってみる」

 

 そう言って下を見たアサギの視界に、何人かのプレイヤーの姿が移った。

 

「あっ、この下に人がいるかも」

「えっ?あ、あれはどうやら狩りをしてるみたいだね」

「それは見てなかったな、それじゃあ驚かせないようにちょっと離れるか」

「今釣った敵の集団が片付いたらでいいね」

 

 そして三人はその場から少し移動し、そのまま下の戦闘風景を見物した。

 

「あれ?なあアスナ、後ろにいるのは知らない奴だが、

前衛の二人はもしかしてキリトとリズじゃないか?

武器も防具もいつもと全然違うから自信は無いが、何となくそんな気がする」

「えっ?」

 

 このハチマンの認識の差は、付き合いの長さの違いが大きいと思われる。

アスナとアサギはそう言われ、慌ててその三人組を観察した。

二人にはそれがキリトとリズベットだとは分からなかったが、

後ろにいるのはリオンだとすぐに分かった。

ロジカルウィッチスピアを使っていたからだ。

 

(しまった、フレンドリストがオフになってるから気付かなかったよ……どうしようアサギ)

(確かに困ったわね、どうしましょっか……)

(接触しなければ大丈夫かな?ハチマン君も自信がないみたいだし)

(その線で押し切ろっか)

 

「キリト君もリズも、あんな格好はしないんじゃない?というかする意味がないし」

「フレンドリストにも名前がありませんしね」

「確かにそうだな、まあ他人の空似って奴か」

「うん、多分そうだね」

 

(よし!)

(何とか誤魔化せたみたいね)

(うん!)

 

「それじゃあアサギ、やってみてくれ」

「うん、やってみる!」

 

 そしてアサギは重力に任せ、下へと落下していった。

 

 

 

「ふう、全部片付いたか」

「結構狩ったね」

「んんっ」

 

 敵の集団を片付けた後、リオンは上を向いて大きく伸びをした。

その視界に三人のプレイヤーの姿が映り、リオンはまさか上からの奇襲かと身を固くした。

 

「二人とも、上空に誰かいる」

「ん、上?」

「本当だ、気付かなかったなぁ」

「って事は敵じゃないんだろ、敵なら殺気で気付くと思うしな」

「キリト、普通の人は気付かないからね?」

「どれどれ」

 

 そう言ってリオンは単眼鏡を取り出し、上空にいる人物を見て、心臓が止まる思いをした。

 

「あ………」

「ん、どうした?」

「ハ、ハチマンだ……」

「え?」

「上にいるの、ハチマンとアスナさんだ」

「マジか!」

「って事は、もう一人はアサギさんだね」

 

 そのリズベットのセリフを聞き、リオンは再び単眼鏡に目をやった。

 

「まずいわね、とりあえず不自然にならないように狩場を移動しましょっか、

多分声をかけてこないって事は、まだバレてないと思うしね」

「だな、多分あいつらは、飛行訓練……」

 

 その時単眼鏡を覗き、アサギを見ようとしていたリオンは、

アサギがまるで墜落してくるかのように自由落下している事に気が付いた。

 

「ア、アサギさんが!」

「えっ?」

「お、おい!」

 

 リオンもかつて、今アサギが受けている飛行訓練をこなしており、

その時に自由落下から体勢を立て直す訓練は経験したはずなのだが、

自分の親しい知り合いが、どう見ても落下しているのを見て、

どうやらリオンは平静さを失ってしまったようだ。

リオンはアサギを助けようと、体が勝手に動いてしまい、

一直線に落ちてくるアサギ目掛けて飛び出した。

 

「駄目だリオン、あれはただの訓練だ!」

「聞こえてないみたい、まずいわね、どうする?このままだと接触する事に……」

「こうなったら無言で押し通すしかないな、肌の色も変えてあるんだし、

喋らなければ何とでもなるだろ」

「バレたらその時はその時よね」

「ああ、とりあえずリオンを回収だ」

 

 そう言ってキリトとリズベットもリオンの後を追った。

丁度その時リオンは、弾丸のようにアサギに飛びつき、

アサギをしっかりとキャッチしたところだった。

 

「アサギさん、大丈夫?怪我は無い?」

「きゃっ、だ、誰?ってその声はリオンちゃん?」

「う、うん、今は変装してるけど、リオンだよ」

「ど、どうして出てきちゃったの?」

「えっ?だってアサギさんが落ちてきたから……」

「あれ、この訓練、リオンちゃんもやったってさっきハチマンさんに聞いたけど」

 

 その言葉にリオンはきょとんとした後、意味を理解したのか、真っ青になった。

 

「そ、そっか、これって自由落下の……」

 

 リオンが状況を理解してそう呟いた瞬間に、背後から声をかけてくる者がいた。

 

「すみません、飛行訓練をしてたんですが、驚かせちゃいましたね、

ちゃんと距離をとったつもりだったんですが、本当にすみません」

 

 それはもちろんハチマンであった。

その声を聞いた瞬間に鼓動が跳ね上がり、リオンは焦りで身を固くした。

ハチマンは落下中のアサギにリオンが急接近してきた事に当然気付いており、

リオンが武器を抜いたら即座に攻撃しようと、全力でアサギ目掛けて飛んでいたのだったが、

リオンがアサギを助けようとしているように見えた為、

訓練を事故だと勘違いさせてしまったのだろうと判断し、

攻撃するのをやめ、こうして謝罪したと、そんな訳であった。

ハチマンの後ろにはアスナの姿もあるが、こちらはかなり慌てているようだった。

幸いその姿はハチマンからは見えない為、

ハチマンはそのアスナの態度の不自然さに気付いてはいない。

こうしてリオンは、自身のミスから絶体絶命のピンチを迎える事になった。


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