ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第675話 リオン観念す

「え、えっと……」

「普段のリオンと違って随分健康的な肌の色だよなぁ、

それもありだとは思うが、まあ普段の不健康そうな色の方がお前らしいよな」

 

 ニヤニヤしながらそう言われ、リオンは諦めたように肌の色を元に戻し、

装備もいつもの装備に戻した。残りの四人は頭を抱えつつも、

大人しくハチマンがどう出るのか見守っていた。

 

「しかしお前さ、さっきのあの言い訳は無いだろ、

胸のサイズが同じだから声も同じになる?思わず迎合するような事を言っちまったが、

普通に考えてそんな訳無いだろうが!」

「え?何それ、私そんな事言ってないけど」

 

 リオンはどうやら先ほど自分がとった行動について覚えていないようで、

戸惑ったような顔でそう言った。あの時はよほどテンパっていたのだろう。

 

「お前それ、本気で言ってんのか?」

 

 ハチマンにそう言われ、リオンは他の四人の顔を見た。

その四人がリオンに見つめられた瞬間に、

曖昧に笑ったり目線を合わせないように愛想笑いをした為、

リオンはそれで、ハチマンの言う事が真実なのだと理解した。

 

「嘘……ア、アサギさん、私は一体何をしたの?」

「わ、私?えっとね……」

 

 リオンに指名されたアサギは、縋るような視線をアスナとリズベットに向けたが、

二人は露骨に顔を背け、諦めたアサギは女優としての能力をフルに使い、

先ほどリオンがとった行動を、完璧に再現してみせた。

 

「そのリオンさんという方と私は、この辺りの体型がよく似ているのではないかしら、

なので声の質もやはり似てしまうのでしょうね」

 

 そう言いながらアサギは自分の胸を持ち上げた。あの時のリオン、そのまんまである。

違うのは胸の揺れ方くらいであったが、その事に突っ込むような野暮な者はここにはいない。

 

「「「「おお~」」」」

 

 四人はその演技を見て、大きな拍手をした。

アサギは恥ずかしそうにそんな四人に頭を下げた後、続けてリオンにこう言った。

 

「って感じかな、リオンちゃん」

「ええっ!?ほ、本当に?」

「う、うん」

 

 リオンは今アサギがとった行動に愕然とした。

 

(あ、あれを私が?は、恥ずかしい……)

 

 まさか自分がそんな痴女のような行動をとるなど思いもしなかったリオンであったが、

他の者の反応を見るに、それは間違いなく事実らしい。

 

「くっ……」

 

 悔しそうにそう呟いたリオンは、羞恥に塗れた表情でハチマンに詰め寄った。

要するに、恥ずかしさを誤魔化す為の逆ギレである。

 

「で、見たの?見たんでしょ?」

「い、いきなり何だよ、ってか何をだよ」

「私の胸を、そのいやらしい目でじっと」

 

 そのリオンの言いがかりにも近い言葉を、ハチマンは慌てて否定した。

 

「見たという言い方は正確じゃない、視界に入ったというのが正しい」

「やっぱり見たんじゃない!」

「見たんじゃねえ、見せられたんだ!」

 

 その言葉にキリトだけはうんうんと頷いていたが、

即座にリズベットに睨まれ、キリトは頷くのをやめた。

そしてリオンは目をぐるぐるさせながら更にハチマンに詰め寄り、

焦ったハチマンはリオンを止めようと手の平を前に差し出した。

その瞬間にリオンは足をもつれさせ、ハチマンの手がリオンの胸を鷲掴みする格好となった。

 

「「「「あ」」」」

「いっ!?」

「う………」

 

 体重がかかっている為にそう簡単に手を離す訳にもいかず、

それでいて下手に手を動かすわけにもいかない為、

ハチマンは必死に手を固定させようと努力していた。

だが得てしてそういう場合、無意識に手が動いてしまうものなのだ。

下手に力を入れた為、ハチマンの手はピクッと動き、

それはどう見ても、ハチマンがリオンの胸を揉んだように見えた。

そのタイミングで体勢を立て直す事に成功したリオンは慌ててハチマンから体を離した。

ハチマンはそれでほっと安心したのだが、次の瞬間背後から殺気を感じ、

ハチマンは慌てて振り返った。

そこには案の定、ゴゴゴゴゴという文字を背負ったアスナの姿があった。

 

「ハチマン君、ちょっと大事なお話があります」

「ま、待ってくれ、今のは違うぞ、俺のせいでもないしリオンのせいでもない、

今のは明らかにラッキースケベの神様のせいだ、ただの事故だ。

俺の手がうっかり動いてしまったのも、

これ以上の被害を防ごうと力を入れすぎてしまったせいであり、決してわざとじゃないんだ」

「うん、それはそうなんだろうけど、でも罪は罪だよね。

信賞必罰、ハチマン君に罰を与えるのは、彼女である私の役目だと思うんだ。

それに今ラッキーって言った?リオンちゃんの胸を揉んだのは、ラッキーなのかな?かな?」

「ち、違う、ただの言葉の綾だ、キリト、リズ、お前達からも何とか言ってくれ!」

 

 アスナにそう言われたハチマンは、必死にキリトとリズベットの方を見たが、

二人は完全にこちらに背中を向け、今日の戦闘について話をしていた。

いわゆる何も見えない何も聞こえない状態である。

 

「お、おい二人とも……」

「いやぁ、今日の戦闘の総評をしないとな」

「反省すべき点もいくつかあるよね」

「だな、とりあえず早めにその辺りの事をちゃんと話しておかないといけないな」

「お、おい……」

 

 だが二人はこちらに反応しようとはしない。

諦めたハチマンは、縋るような視線をリオンに向けた。

当のリオンは顔を真っ赤にしており、搾り出すような声でハチマンにこう言った。

 

「エ、エッチ……」

 

 その言葉で自分の運命を悟ったハチマンは、アスナの正面に立ち、目を瞑った。

 

「し、仕方ない、さあ、思いっきりやってくれ」

「ふふっ、素直なのはいい事だよね」

 

 そしてアスナは思いっきり手を振りかぶり、直後にバチーンという音が周囲に響き渡った。

そして振り向いたハチマンは、ゲーム故に顔に手形が残ったりはしていなかったが、

微妙にHPが減った状態で、再びリオンの前に立った。

 

「よし、今の事故についてはこれでよし、さて、話の続きをするとするか」

「あ、えっと、何かごめん」

 

 さすがのリオンもハチマンに悪いと思ったのか、ばつが悪そうにそう言った。

 

「気にするな、で、どうしてこんな演技をする事になったんだ?」

「うん、キャラを育てる事にしたのはいいとして、

その成長した姿をサプライズでハチマンに見せようと思って、

それでちゃんと育つまでは秘密にしておこうかなって」

「なるほどな、この場にいる他の奴らは全員その事を知ってた訳だ」

 

 ハチマンはそう言って他の四人の顔を見た。

四人は誤魔化すように顔を背け、ハチマンはため息を一つついた。

 

「まあいい、とりあえずさっきもってた武器を見せてくれ、

あれってロジカルウィッチスピアって奴だろ?」

「えっ?あれを見て私だって気付いたんじゃなかったの?」

「実は俺は、ロジカルウィッチスピアの正確な見た目を知ってた訳じゃないんだ、

だからとりあえず魔法少女さんがリオンなのかどうか、試してみたって感じだな」

「そ、そうだったんだ」

 

 リオンは自分の行いのせいでバレてしまったのだという事をそれで理解し、

少し落ち込んだ気持ちでロジカルウィッチスピアをハチマンに差し出した。

 

「おお、何だこれ、随分と凝ったデザインだな」

 

 そしてハチマンは、躊躇いなく合言葉を口にした。

 

「目覚めよ、我が娘よ」

 

 その瞬間にロジカルウィッチスピアが展開し、

そこに散りばめられた四種の宝石が光を放った。

 

「うおお、これって魔力がチャージされてるって事だよな?」

「うん、さっきアサギさんを守る為に沢山吸収したからね」

 

 ハチマンは嬉しそうにロジカルウィッチスピアの試し撃ちをし、

リオンはそれを見ながら、敵の魔法の発動が潰せた事を報告した。

 

「ほうほう、そんな事が出来たのか、ALOもまだまだ奥が深いんだな」

「うん、そうみたいだね」

「スタイルも独特だし、お前って実は凄い奴だったんだな」

「この武器の特徴が、凄くロジカルで楽しいからじゃないかな」

 

 リオンのその言葉に、ハチマンはうんうんと頷いた。

 

「それにしてもロジカルウィッチなぁ、自分で名付けておいてアレだが、

お前にはピッタリの名前だったな、魔法少女リオン」

「もう、そんな名前で呼ばないでよ」

 

 リオンは恥ずかしそうにそう言い、他の者達もそんなリオンを囃し立てた。

 

「よっ、魔法少女リオン!」

「ロジカルウィッチ!」

「マジカルロジカルビーム!」

「ちょ、ちょっと本当にやめてよ、もう二度とあんな事はしないんだからね」

「お前、もしかして戦闘中にそんな事を叫んでたのか?」

「い、一時の気の迷いよ、いいから忘れて」

「嫌だね、絶対に流行らせてやる」

「だから本気でやめてよね!」

 

 そしていざ帰る事になり、六人はそのままその場から飛び立った。

道中ではリズベットがアサギから、新しい武器に対する要望などを聞いたりしていた。

 

「そうだ、そういえばその時の状況の説明をまだ聞いてなかったな、

一体どういう流れで戦闘に突入したんだ?」

「あ、えっと、それはね」

 

 リオンは思い出せる限りのその時の状況をハチマンに話してきかせ、

ハチマンはううむと唸った後に、横を飛ぶリオンとアサギの肩に手を沿えながら言った。

 

「そうか、二人とも助け合って頑張ったんだな、えらいぞ」

「う、うん」

「あ、ありがと」

「アサギの新しい鉄扇も早く用意しないとな、リズ、頼むぞ」

「うん、任せて!ナタクと話し合って最高の武器を作ってみせるわ」

「素材も必要だよな、必要な分は俺が取りにいってくるわ」

「わ、私も行く!私の為に武器が全損しちゃったんだし!」

「まあ修理をすればまた使えるようになるんだがな」

「えっ、そうなの?」

「うん、ただそれにもアイテムが必要だけど、所詮初期装備に毛が生えた程度の武器だから、

それなら今の実力に合わせて新調した方がいいしね」

「なるほど……」

 

 その説明にリオンは納得し、ハチマンは少し考えた後にこう言った。

 

「確かにリオンやクリシュナ、それにユキノやクルスにも、

ある程度のレシピを覚えてもらって素材採集も手伝ってほしい所だな」

 

 ハチマンが上げた四人は、ヴァルハラの中でも頭脳派と呼ばれる面々であった。

 

「俺も別に自分が馬鹿だとは思わないが、

さすがに覚えないといけない物の種類と量が多すぎてなぁ……」

「任せて、そういうのは得意だから」

「頼むぜマジで、俺とキリトじゃ頭の出来の問題で、限界があるんだよ」

「そこで俺を巻き込むなよ!俺だって百や二百の素材とその用途くらい覚えてるよ!」

「マジかよ、このゲーム脳め」

「お前が言うな!」

 

 アサギのALO生活は、こうして波乱の幕開けとなり、

この日から、アサギとリオンは仲良く経験値稼ぎに出撃する事となる。




このエピソードはここまで!次から関連の職人話が始まります!

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