ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭
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このエピソードは、しあさってにやっと終わりそうです、ストックが無いのでちょっと今日頑張って書き溜めたいです!


第672話 必死な二人

 リオンとアサギはアスナの言葉に頭にハテナマークを浮かべていたが、

その時キリトが鋭くこう叫んだ。

 

「来るぞ」

 

 その言葉で我に返った二人は、とりあえず指示通りに動こうと、指示内容の復唱を始めた。

 

「あっ、え、えっと、メニュー画面を開いてその場で待機」

「敵にとどめ、敵にとどめ……」

 

 二人はそう呟きながら、こちらに向かってくるハチマンの方を見た。

その後ろには、何か黒いモヤのような物がかかっている。

 

「あのモヤみたいな物は何?」

「敵だ」

「えっ?」

「あれが全部敵だよ」

「全部って……見渡す限りモヤがかかってるんですけど」

「だからさっき言ったじゃない、驚かないでって。さ~て、久しぶりにやりますか」

 

 そう言ってアスナは自らの愛剣『暁姫』を抜いた。

 

「派手にぶちかますか」

 

 キリトもそう言って、自らの愛剣『彗王丸』を抜いた。

こちらは一本の剣を二本に分けられる特殊な剣となっている。

当然一本のまま使用する事も可能である。

『暁姫』と『彗王丸』、そしてハチマンの持つ『雷丸』は、

全てリズベットの手による傑作である。

こちらも彗王丸と同じく、二本に分ける事が可能となっていた。

 

「アスナ、最初の一撃はいつものでいくぞ、空いた穴に突撃だ」

「了解!」

 

 そしてキリトは彗王丸を肩にかつぎ、それを見たハチマンは急角度で横へと走った。

その瞬間にキリトは、彗王丸を全力で前方へと振り下ろした。

 

「ブレイクダウン・タイフォーン!」

 

 その剣先の凄まじい早さに衝撃波が発生し、前方の敵が吹っ飛ばされる。

 

「うわ」

「凄い……」

「あ、あれ、キリトは?」

「敵の真ん中よ、あれはそういう技なの。

剣で衝撃波を放つのと同時に敵の懐に飛び込むの」

 

 そのリズベットの解説通り、既にキリトは敵のど真ん中に移動しており、

周囲の敵を斬りまくっていた。アスナはハチマンが避けた方向とは逆に突撃し、

三人は並んで敵を倒しまくっていた。

ハチマンは雷丸を二本に分け、片方の手で敵の全ての攻撃にカウンターを合わせ、

もう片方の手でとどめを刺していた。

アスナの周りには常に魔法詠唱のサークルが表示されていた。

それはつまり、アスナが常に魔法の詠唱をしているという事に他ならない。

アスナはヒールを常に待機させ、ハチマンとキリトが被弾する度にヒールを飛ばし、

まるで脳が複数あるかのように、同時にその手は正確に敵を屠り続けていた。

だが当然何匹か、その弾幕のような三人の剣の嵐を避ける敵も出てくる。

その敵はリズベットが確実に叩き潰していた。

 

「ちょ、ちょっと待って、こんなの聞いてない、聞いてないよ!?」

「VITをクリック、プラスをクリック、VITをクリック、プラスをクリック」

「アサギさん、あっちの世界に行かないで!戻ってきて!」

「今それどころじゃないの、私の事は気にしないで、魔法少女さんは敵の相手をお願い」

「うぅ、わ、分かった」

「リオン、私達はこっちまで来た敵を攻撃よ、アサギを守るんでしょう?」

「そ、そうだった、うん、今行く!」

 

 アサギとリズベットにそう言われ、

リオンはそれなりに様になった構えで漏れてきた敵を突きまくった。

ほとんどの敵が手負いだった為、まだ決して高いとはいえないリオンの攻撃力でも、

その敵を何とか倒す事が可能となっていた。

 

「ヴァルハラの本気の戦闘っていつもこんな感じなの?」

「ううん、あの三人が異常なだけ。とはいえ『ヴァルハラ・リゾート』の戦闘っていうなら、

あの三人を含めて他のメンバーがもっと多い状態なら、こんなものじゃないわよ」

「そうなんだ……」

 

 その言葉にリオンは愕然とした。明らかに自分の知るALOの戦闘とは、

一線を画している状態だったからだ。事実先ほどからアサギは必死で手を動かし続けている。

確かにリオンの時のキリトも凄かったが、ここまでハイペースではなかったはずだ。

 

「ただこの方法だと、ちゃんとした戦い方が身に付かないから、

正直あまり推奨は出来ないのよね」

「そう言われると、それは確かにそうかも」

「まあいずれペースダウンするとは思うけど、今はとにかく経験値の為と割り切って、

ここで十分に能力のベースアップをしておくといいわよ」

「う、うん、分かった」

 

 そしてしばらくして戦闘は終了し、リオンが経験値を能力に振り分けていたその横で、

ハチマンはアサギにこう尋ねた。

 

「アサギ、ちょっとウィンドウを可視化して、今の能力を見せてくれないか?」

「うん、今はこのくらいかな」

 

 そしてじっとアサギのステータスを眺めていたハチマンは、

あっさりとした口調でこう言った。

 

「この狩場だと、もう少しってところか。

キリト、アスナ、もう一セットだ、すぐにいけるか?」

「大丈夫、そんな柔な鍛え方はしてないぜ!」

「こっちも大丈夫、MPも回復済みだよ」

「オーケーだ、アサギは今度はSTRとVITに半々で数値を振るようにな。

それじゃあまた五分後に」

 

 そう言ってハチマンは風のように去っていき、

リオンとアサギはそのハチマンの後ろ姿をポカンと眺めた。

 

「行っちゃった……」

「そうだね……」

「二人とも、驚いたでしょ」

「う、うん」

「本当に凄かった……」

 

 だがそんな二人に、キリトがとんでもない事を言い出した。

 

「まあまだ本気とは言えないんだけどな」

「えっ、そ、そうなの?」

「ああ、本気の場合、ここにクリシュナの支援魔法が加わるからな」

「あ、ああ!」

「あれはやばいぞ、二人ともそのうち体験させてもらうといい」

「そうなんだ」

「ちょっとわくわくするかも」

 

 そして数分後、再び大量の敵がこちらに押し寄せ、

先ほどと同じ光景が再現される事となった。

 

「槍もそれなりに使えるようになってきたみたいじゃない」

「う~ん、自分ではただ振り回してるだけって感じなんだけど」

「そのうち最適化されていくわよ、とはいえ槍をそうやって振るうのは、

今日だけかもしれないけどね」

 

 リズベットとリオンはあちこちを走り回りながら、どんどん敵にとどめをさしていった。

そんな事を繰り返しているうちに、リオンは段々気が大きくなってきた。

仮面で顔が隠れている影響もかなりあると思われるが、

この日の最初、ノリノリで魔法少女プレイをしていた時のように、

リオンは段々とテンションが上がり、そのおかげで周囲の警戒が若干疎かになってきていた。

そんな中、二セット目の敵の殲滅が終わり、

再びアサギのステータスをチェックしたハチマンは、

アサギに次から戦闘に参加するように伝えた後に、三セット目の釣りへと向かった。

 

「これでやっとリオンと一緒に戦えるね」

「アサギさん、私にもちょっとステータスを見せて!」

「うん、構わないわよ、今はこんな感じ」

 

 そのリオンのお願いを、アサギは快諾した。

釣られて他の者達も、アサギのステータスを覗き込む。

 

「うわ、凄い上がってる……VITだけならもう私より高いし」

「これだけあれば、ここの雑魚数匹を同時に相手にしても大丈夫だな」

「でも無理はしないようにね、囲まれないように戦うのが一番いいんだから」

「うん!でも仲間が危ない時は、無理しちゃうかも」

「まあいつかはそういう時が来るかもしれないが、

その時もとにかく落ち着いて動けるように、よく周りを見て心は常に冷静にな」

「どんな時でも落ち着いて冷静に、って事ね」

 

 アサギはそのアドバイスを心に刻み付け、役に入り込む時のように自分に言い聞かせた。

 

 

 

「おい、敵が全然いないぞ、どうなってる?」

「情報と違うな」

「この辺りには、高レベルの敵がかなり多くいるって話だったが……」

 

 その頃同じ狩場に、連合に加盟しているいくつかのチームが別方向から到着していた。

ここはきついという評判の狩場な為、かなり人数が多い。

戦列が横に広がり過ぎないように、タンクを数名と斥候が二人、物理アタッカーは最小限で、

残りは魔法使いメインで構成されており、連合の主力という訳ではないが、

今後を担う中堅チームを中心に構成された、比較的ゲーム歴が短い者達の集まりであった。

彼らの長所は何者をも恐れぬ勇気と決断の早さ、

悪く言えば蛮勇と短気さといった所であろうか、

そんな彼らは狩場の状況を見て進軍を一時やめ、情報収集の為に斥候を二人放っていた。

 

「なぁ、ここってどんな狩場なんだ?」

「かなりきついとしか聞いてないな」

「でもその分経験値はいいんだろ?」

「そうらしいな、まあ今日のタンク連中は装備も充実してるし確実に敵を止めてくれるだろ、

その間に魔法攻撃を集中させて敵をドカンだ、かなりきついといってもそれなら余裕余裕」

 

 まだ敵と出会えていないせいか、連合の者達の間には、

若干そういった弛緩した空気が流れていた。

そんな中、斥候が一人、また一人と戻ってきた。

 

「お、どうだった?」

「ヴァルハラがいた、『ザ・ルーラー』と『黒の剣士』『バーサクヒーラー』『神槌』

あとは知らない女が二人、多分新人だろう」

 

 その言葉にメンバー達は、色々な意味でざわついた。

 

「よりによってその三人かよ」

「『絶対零度』がいないのはラッキーだったと言うべきか?」

「女の新人が二人?くそっ、どうしてヴァルハラにばっかり女が集まりやがる」

「あいつら絶対に許さねえ……」

「この人数で勝てるかどうかは分からないが、とりあえず近くまで全員で行ってみるか」

「そうだな、とにかく状況が知りたい」

「よし、行こう」

 

 こうして連合のメンバー達は、ヴァルハラがキャンプにしている広場に向け、

体勢を低くしながら徐々に接近していった。

 

 

 

「あそこだ」

「おい、何だよあれ……」

「あいつら、あんなに大量の敵を一度に相手にしてやがるのか……」

 

 そこは一言で言うと、無双ゲームの舞台のようであった。

一行がその光景を見て放心する中、一人のプレイヤーがこんな事を言い出した。

 

「なぁ、ちょっと今、公開されてるヴァルハラのサイトにアクセスしてみたんだけどよ、

新人が二人いて、その片方のアサギって奴、加入日が今日になってるぜ」

「って事はズブの素人か、そのアサギってのがどっちかは分からないが、

どっちも普通に戦えてるみたいだが……」

 

 一人がそんな事を言い出し、その場はやや紛糾した。

 

「って事はもしかして、ここの敵ってそんなに強くないんじゃないか?」

「いや、しかし情報によるとだな……」

「でも実際新人が普通に戦えてるじゃないかよ」

「だよな……って事はボーナスステージみたいなものか?

敵は弱いが経験値は稼げるみたいな」

「というか、今目の前に宿敵がいるんだぜ?どうする?攻撃するか?」

「いや、前は百人単位で蹴散らされてるからな、この人数だとどうかな」

「でも魔法使いの人数は、その時と変わりないんじゃないか?」

「しかも相手は人数が少ない、あの時とは明らかに状況が違う」

「確かにそう言われるとそうだな」

「でもあの三人が揃ってるんだぜ、それってやばくないか?」

「う~ん……」

 

 そんな状況の中、ハチマンがおそらく釣りに出たのだろう、その場から離れていった。

 

「お、ザ・ルーラーがいなくなったぞ」

「残りは五人……しかもこの位置は黒の剣士とバーサクヒーラーの背後になるのか」

「それじゃあこういうのはどうだ?俺達としては、絶対に相手に一泡ふかせてやりたい、

でもまともに戦闘したらもしかしたらあの人数が相手でもこっちがやられちまうかもしれん、

なので魔法使い全員で、この位置から全力であの五人に魔法攻撃を放ち、

何人かにダメージを負わせたところでどうなるか様子見をして、

さすがに傷ついた仲間を放置してこっちに突撃してくるって事はないと思うが、

敵がその場を動かないようなら全力で次弾を放って、それで全力で離脱しよう。

それならザ・ルーラーが戻ってくる前に逃げられるはずだ。

もし敵が最初の一撃の直後に動いたら、次の攻撃はやめて即離脱。

どちらにしろ一泡はふかせられるはずだ」

「おお」

「それでいくか」

「だな!このままただ帰るのはちょっと悔しいしな」

 

 こうして五人への攻撃が決定され、魔法使い達は魔法の詠唱を開始した。

 

「十秒後に全員で攻撃だ、俺がカウントするから各自でタイミングを合わせてくれ」

 

 そしてカウントが開始され、カウントがゼロになった瞬間、

凄まじい数の魔法攻撃が、丁度最後尾にいたリオンの背後に迫る事となった。


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