ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭
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第673話 私が守る

 ハチマンの釣りを待つ中、キリトとアスナ、そしてリズベットは、

ハチマンが戻ってくるのを見逃さないように、少し前のめりで前方を注視していた。

前から順番にキリト、少し離れてアスナ、その更に後ろにリズベットという布陣である。

一方リオンは高揚した表情でメニュー画面を開き、

ステータスを上げるか何かスキルを取るか、ニヤニヤしながらもうんうんと唸っていた。

そんな中、アサギだけは集中を切らさず、冷静な表情で辺りを見回していた。

 

「どんな時も冷静に、とにかく周りを見る。戦闘中も、そうでない時も」

 

 そんなアサギの目に、何か光る物が映った。

一瞬ではあったが、確かにリオンの背後の方向に、詠唱の輪のような物が見えたのだ。

 

「あれは……」

「ん、アサギ、どうかした?」

 

 その様子が気になったのか、リズベットがアサギにそう声をかけてきた。

 

「うん、今……」

 

 それに答えようとした瞬間に、森の中から色とりどりの光が見え、

アサギは喋るのを途中でやめ、リオン目掛けて走り出した。

 

「リズさん、前の二人に連絡を!」

「わ、分かった」

 

 一瞬で状況を把握したのか、リズベットはその言葉を受け、

少し前にいるキリトとアスナに声を掛けた。

 

「キリト、アスナ、敵襲!」

 

 そしてアサギは、後ろで呆けていたリオンに向けてこう叫んだ。

 

「リオンちゃん、その場にしゃがんで!」

「えっ?」

 

 リオンは咄嗟にその場にしゃがみ、

その頭の上を跳び越したアサギはリオンの前に仁王立ちし、

前方に鉄扇をかざすと、手元のボタンを操作して鉄扇を大きく広げた。

 

「リオンちゃんは絶対に私が守る!」

 

 だがアサギの今のステータスでは、その魔法の奔流を完璧に止めるのは難しい。

どうしても物量の力に押されてしまうのだ。しかも初期ステータスでも装備出来るように、

今のアサギが持つ鉄扇は、性能的には頑丈な事だけが取り柄の普通の武器であった。

その耐久度は魔法を受ける度にどんどん減っていき、

魔法がまだ飛んできている最中にも関わらず、

鉄扇は負荷に耐えかね、耐久度を全損させてあっさりと消滅した。

 

「あっ!ア、アサギさん!」

「まだよ!絶対に守るんだから!」

 

 アサギはそのままリオンの上に覆いかぶさり、背中で必死にその攻撃に耐えた。

 

「ア、アサギさん!」

「大丈夫、大丈夫だから」

 

 そう絶叫したリオンに対し、アサギは安心させるようにそう囁きながら、

必死にその攻撃に耐え続けた。幸いVITをかなり上げた甲斐もあってか、

敵の攻撃が止む頃には、アサギのHPはまだ一割ほど残っていた。

 

「アサギさん!」

「ふふっ、何とかなったね」

「で、でもアサギさんのHPが!」

「大丈夫だよ、ほら」

「エクストラヒール!」

 

 その瞬間にアスナのヒールが発動し、アサギのHPは全快した。

どうやらアサギは冷静にアスナの方を見ていたようだ。

 

「ね?」

「う、うん」

 

 だがまだアスナのいる位置からは距離があり、しかもアサギは鉄扇を失っている。

頼みの綱であった防御手段はもう無いのだ。もし今先ほどと同じ攻撃をくらいでもしたら、

おそらくアスナがヒールをかける間もなくアサギのHPは確実に短時間で全損する。

下手すると一瞬かもしれない。リオンがそう思い、背筋を寒くする中、

そんなリオンをあざ笑うかのように、再び森の中に大量のエフェクトが現れた。

 

「アスナ、無理かもしれないがヒールを連打してくれ!リズはヴァルハラ・コールだ!」

 

 一方キリトは、走りながら二人にそう指示を出していた。

 

「うん、何とかやってみる!」

「キリト、コールの色は?」

「緑と青だ!」

「緑と青ね、分かった!」

 

 リズベットは決まり通りに復唱した後、緑と青の魔法を空に打ち上げた。

 

「頼むぜハチマン、理解してくれよ」

 

 キリトは一番前にいたせいか、アサギの前に出るのはおそらく間に合わないが、

そう呟きつつ全力でアサギとリオンの方に向けて走っていた。

アスナは逆に足を止め、最速で発動する短詠唱のヒールの準備をしていた。

これは間違っても唯一のヒーラーである自分が、

敵に倒されてしまう事がないようにとの判断からであった。

 

(これは……ギリギリだな)

 

 キリトの速度をもってすれば、おそらく敵の攻撃の最中にアサギの前に出る事が可能だ。

もっともその最初の攻撃にアサギが耐えられる保証はない。

だがそんなキリトの心配は杞憂だった。突然前方から、こんな声が聞こえたからだ。

 

「目覚めよ、我が娘よ!」

 

 いつの間にかリオンの手には、ロジカルウィッチスピアが握られていた。

リオンはアサギを制してその前に立ち、高らかにそう宣言した。

その瞬間にロジカルウィッチスピアが展開し、リオンはスッと、その持つ手を前へと向けた。

 

「リオンちゃん!」

「魔法の事なら私に任せて、大丈夫、今度は私がアサギさんを絶対に守ってみせるから!」

 

 振り向いてそう言ったリオンの目には涙が溢れていた。

その涙を拭い、リオンは敵に向かって高らかに叫んだ。

 

「我が名はロジカルウィッチ!あなた達の魔法は、全て私が制してみせるわ!」

 

 

 

 釣りから戻る最中、ハチマンは空にヴァルハラ・コールが上がるのを見た。

 

「緑と青?敵襲か、だが防御、それに待機、どういう事だ?」

 

 状況からしてキリト達が敵の攻撃を受けたのは間違いない。

だがキリトとアスナがいて、ただ防御してるだけというのはありえない。

しかも待機のコールまで上がっているのだ。

 

「敵から攻撃を受けたとして、方向はおそらく背後からか、

そうすると、こちらの誰かがダメージを負ったのかもしれないな、

だがおそらく乱戦にはなっていない。それなら赤と黒のコールが上がるはずだ」

 

 赤は攻勢に出ろ、黒は救援求むのコールであり、

それなら確かに応戦しているという事になる。

 

「だがコールは待機だ、これはおそらく敵が待機しているという事なんだろう、

つまり敵が遠隔攻撃中心の攻撃を仕掛けてきて、

それからその場を動いていないって事になるな」

 

 ハチマンはそう正確に状況を判断し、走る方向を変えた。

 

「そうなると俺の役目は……こっちだな」

 

 そしてハチマンは大量の敵を引っ張ったまま、ぐるりと弧を描くように、

敵の背後になるであろう方角へと向かい始めた。

 

 

 

「よし、いける!」

「後ろの二人は倒せるだろうな」

 

 連合の一同は、おびただしい数の魔法が敵に降り注ぐのを見て、

敵に痛撃を与えられる事を確信していた。

だが次の瞬間にアサギが鉄扇を広げるのを見て、彼らは動揺した。

 

「おいおい、あの新人、タンクだったのかよ!」

「あれは扇か?またおかしな物を装備してやがる」

「だが所詮新人だ、長くはもたないだろ」

 

 その推測通り、アサギの鉄扇は霧散し、アサギは体を張って、

もう一人の派手な格好をした少女を守り始めた。

 

「半分以上は防がれたとしても、何でこの攻撃に耐えられる?」

「おかしいだろ、だってあいつは新人なんだろ?」

 

 この時点で、連合の者達の間には、若干の動揺が走っていた。

 

「ど、どうする?」

「黒の剣士がこっちに向かってるぞ、早く逃げようぜ!」

「でもバーサクヒーラーは足を止めたぜ、

さすがの黒の剣士も、一人で突っ込んできたりはしないんじゃないか?」

「あっ、見ろ、空に!」

 

 そんな連合の者達の目の前で、ヴァルハラ・コールが打ち上げられた。

 

「青と緑?それって確か……」

「あれって待機と守備の合図じゃなかったか?」

「確かそうだ、あいつら、防御してそのままザ・ルーラーを待つつもりだ!」

 

 連合の者達には個別のヴァルハラ・コールの意味は理解出来ても、

その組み合わせの意図を深く考える事は無理だったらしい。

これにより連合の者達は思考停止し、

相手がただその場で待機するつもりなのだと思いこみ、続けて攻撃する事を選択した。

 

「よし、これなら予定通りいけるな、敵にもう一度魔法を集中させて、それで離脱だ」

「ヒャッホー、ついにあいつらに一泡ふかせてやれるな!」

「魔法の詠唱を開始しろ!カウントを開始する!」

 

 そして再び大量の魔法使い達による魔法の詠唱が開始された。

 

「よし、このままこのまま」

「しんがりは斥候の俺達に任せてくれ、すぐに仕掛けられる罠を準備しておく」

「すまん、頼んだ!俺達タンクは一応黒の剣士の突撃に備えておく!」

 

 この辺り、彼らのチームワークは中々のものだといえよう。

彼らも彼らなりに、敗北を続けて成長しているようだ。だがまだ足りない。

そんな彼らの耳に、こんな声が飛び込んできた。

 

「我が名はロジカルウィッチ!あなた達の魔法は、全て私が制してみせるわ!」

 

 その声に魔法使い以外の者達は顔を見合わせた。

 

「ロジカルウィッチ?誰だ?」

「あの新人の派手な方か?ロジカルウィッチって、自分で付けた二つ名かよ?」

「気にするな、あんなちゃちな傘みたいな物で、これだけの魔法を防げる訳がねえ」

「だな、よし、撃て!」

 

 その言葉と共に、再び大量の魔法がリオン目掛けて降り注いだ。

その瞬間にその傘のような武器についた宝石が光り、

着弾コースだった全ての魔法はその武器の前で、文字通り消滅した。

それ以外の魔法は全て誰もいない後方の地面に着弾し、

その後には何事もなかったかのようにその場に立つ、リオンとアサギの姿があった。

 

「はぁ?」

「な、何だよあれ……」

「何で魔法が消えたんだ?」

「お、おい見ろ、あの武器に付いてる宝石が光ってるぞ」

「まさか魔法を吸収したんじゃないだろうな?」

 

 その瞬間に、後方で斥候達の悲鳴が聞こえ、一同は慌てて振り返った。

その瞬間に彼らの横を、何かが凄い速度ですり抜けた。

 

「な、何だ?」

「おい見ろ、モブが、モブがあんなに……」

 

 その視線の先には大量のモブが溢れ返っており、

後方で罠を仕掛ける準備をしていた斥候がその波に飲み込まれ、死亡したのが見えた。

 

「どこからこんなに沢山のモブが……」

「ま、まさか今通ったのは……」

 

 愕然とし、再び前に向き直った一同に向け、ハチマンがヒラヒラと手を振っていた。

 

「何でザ・ルーラーがあそこにいやがる!」

「今俺達の横を通ったのはあいつだったのか!」

「あ、あの野郎、こっちにモブをなすりつけやがった!」

「畜生、各自でモブに応戦しろ!さっき見ていた通り、こいつらは攻撃力は弱いはずだ!」

 

 だがそれは間違っていた。そのモブ達は相当強力であり、

連合の者達は、抵抗しきれずバタバタと倒されていった。

 

「なっ、何で……」

「こいつらは雑魚のはずだろ?」

「もしかしてこいつらが雑魚なんじゃなくて、あいつらが強すぎるんじゃ……」

 

 その気付きは少しばかり遅すぎた。連合の者達も彼らなりに上手くやったと思うが、

ハチマン達はあっさりとその上をいった。

こうしてその場はプレイヤー達の阿鼻叫喚に包まれる事になったのだった。


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