ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭
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第676話 ALOの新生産システム

 少し前、ALOで画期的なバージョンアップが行われた。生産システムの大改革である。

導入されたのは、設計図、エンチャント、パーツの概念であり、

素材を元にパーツを作り、そのパーツを組み合わせる設計図を書き、

出来上がった武器にエンチャントを施すという三段構えのシステムである。

他にも簡易製作システムという物もある。

かつてリズベットがアスナやハチマン、そしてキリトの武器を作るときに、

高品質な製品ほどハンマーを叩く回数が増えた事を覚えているだろうか。

簡易生産システムとは、ハンマーを使うという手順を省略し、

失敗なしに確実に、しかも一瞬で製品が出来上がる代わりに、

品質が常に一定の物しか出来ないというシステムである。

この合成に関する複数の概念の導入により、クラフターは完全に二つの層に分けられた。

全て簡易製作で済ませ、まるで工場で生産しているかのように、

一定規格のそれなりに性能のいい武器を作る層と、

基本オーダーメイドで、素材の質からしてこだわりを見せ、

パーツ作りの段階から高品質の品を目指し、それを自由自在に組み合わせて、

ハイエンドな装備を作る層とに分かれたのだ。

そちらは当然今まで通り、ハンマーを使用する事になるのだが、

こちらには失敗というものが存在する。ちなみに使う材料の品質が高ければ高いほど、

更にハンマーで叩く要求回数が増えれば増える程、高品質な製品が完成する確率が増える。

この辺りはSAOの時から変わっていない。

このシステムの導入以降、そういった素材採集を専門に行うプレイヤーも現れた。

いわゆる掘り師や採集師である。ハウジングの中で植物を栽培するのもブームの一つだ。

プレイヤーの多くが、今や生産系スキルの一つや二つ身に付けている。

その理由は単純にいい金策になるからである。オーダーメイドの武器は当然値が張る為、

プレイヤーの金策能力が、今やそのまま強さに直結する時代なのである。

だがヴァルハラにおいては、個人個人の金策能力はそれほど重要視されていない。

何故ならば、専属の職人が三人もいるからだ。

その三人は今日、ハチマンの召集を受け、ヴァルハラ・ガーデンで四人で会議を行っていた。

 

「さて、今日集まってもらったのは他でもない、

アサギが一日にして上級武器を装備出来るようになった為、

その新しい装備に関して話をしたいと思ったんだ」

 

 その言葉にリズベット以外の二人が驚いた顔をした。

 

「えっ、一日でですか?それはまたやらかしましたね」

「おいナタク、俺が何かやらかしたような表現を使うのはやめてくれ」

「僕は別に、ハチマンさんが、とは言ってませんけど……」

「そ、そうか、それならいい」

 

 ハチマンは確かにそうだと思い、気まずそうな顔をした。

 

「でもやらかしたのは事実だけどね」

 

 リズベットが横からそう言い、ハチマンは反論出来ずに黙り込んだ。

心当たりがありすぎるからである。

 

「まあそうよね、で、ハチマンは何をしたの?」

 

 スクナがそんなハチマンを呆れた顔で見つつ、リズベットにそう尋ねた。

 

「周辺にいる敵を一気に全部釣って、キリトとアスナと三人で何度も無双してたわ、

ついでに連合の若手っぽいパーティユニオンを壊滅させたのよね」

「いつも通りじゃない」

「うん、いつも通り」

「ま、まあそうかもな」

「ああ、だからハチマンさんの悪口が、酒場とかで広がってたんですね」

「それもいつもの事だ」

 

 ハチマンは、その立場上、色々言われるのは日常茶飯事だった為、

そういった事への関心はかなり低いのであった。

 

「それとは別に、ロジカルウィッチの名が急速に広まってましたね、

おかげで魔力吸収系のエンチャントの素材がかなり品薄になってます」

「そうなのか?」

「はい、リオンさん、『我が名はロジカルウィッチ!』

って盛大に名乗りを上げたみたいじゃないですか。

そのせいかかなり噂になってますよ。もっとも名前までは伝わってないみたいですけどね」

「それはあいつの自業自得だからまあいいだろ、精々魔法少女として名を上げればいい」

「ぶふっ……」

 

 事情を知るリズベットはその言葉に噴き出した。

ナタクとスクナは事情が分からない為ぽかんとしていた。

そんな二人にリズベットが事情を説明し、

二人は苦笑しつつもリオンの魔法少女的装備を色々開発せねばと、

密かにアイコンタクトを交わしていた。

 

「まあその話はとりあえず置いておいて、今日頼みたいのは、

さっきも言ったがアサギの新しい装備の製作だな」

「基本鉄扇でいいんですよね?」

「ああ、バル・バラも前回は使わなかったみたいだが、この機会に強化すべきだろうな。

なのでその二つについて、どうすればいいか相談したいと思ってな」

「本人の希望も聞きたいところですね」

「そう思ってちゃんとアサギも呼んである、まもなくログインしてくるはずだ」

「それじゃあもう少し待ちますか」

「あ、じゃあその間に私は昨日使った装備のメンテをしておくね」

「悪いなリズ、頼むわ」

 

 今日ここに持ち込まれているのは、ハチマンの雷丸とキリトの彗王丸、

アスナの暁姫と、リオンのロジカルウィッチスピアであった。

 

「オッケーオッケー、任せといて」

「まあ基本、アサギについては三人に任せるつもりだ、

俺はこの後、リオンとクリシュナ、それにユキノとセラフィムを連れて、

グロッティ鉱山の奥に素材採集に出てくる」

「あそこですか……それはユキノさんがいないと駄目ですね」

「それも理由の一つだが、今回は学力が高い奴を選んで連れていく事にしたんだよ、

素材に関する知識も覚えてほしくてな」

「ああ、確かに素材の種類も用途も爆発的に増えたわよね」

 

 スクナは、その四人なら確かに適役だろうなと思いつつ、そう相槌をうった。

 

「なのでその四人の手が空いた時にでも、

うちのメンバー専用ページに素材のデータベースを作ってもらうつもりだ」

「ああ、それは助かるわ」

「リズは特にそうだろうな」

「悪かったわね、どうせ私の成績は平凡よ!」

「冗談だって、大丈夫、俺も全然覚えきれてないからな」

「私も無理ね」

 

 スクナも苦笑いしながらそう言い、リズベットもうんうんと頷いた。

 

「まあそうよね、ナタク君がおかしいだけ!」

「ええっ!?」

「すみません、お待たせしました」

 

 丁度そこにアサギがログインしてきた為、その話はそこでとりあえず終わりとなった。

 

「いや、時間通りだろ、それじゃあちょっと話すか」

 

 そしてアサギを交えての話し合いが始まった。

 

「さて、昨日は通常時は鉄扇で攻撃、

防御時は鉄扇を大きくして受け止める、みたいな運用だったよな」

「うん、でもそれだとやっぱり不便かなって……」

「まあ確かにそこまで鉄扇を巨大化させるケースなんて、滅多に無いからな」

「鉄扇を盾の代わりに使えればいいのかなって思ったんだけど」

「ああ、それならアサギさん、腕輪を使ってみますか?」

「腕輪?それってどんな……」

「具体的にはこんなやつです」

 

 ナタクは奥からサンプルとして、既製品の腕輪を持ってきた。

この場合の既製品とは、簡易生産品という事である。

 

「これを左腕にはめて、鉄扇を持つじゃないですか」

「うん」

「で、左手を曲げて、手の甲を正面に向けるように左手を構えて、

右手の鉄扇をこうはめると……」

「ああ、腕にはめ込み式の盾にするのか」

「はい、大きさも二種類くらいなら、キーワードで対応出来ますしね」

「それ、いいかも!」

 

 アサギはそれでイメージが沸いたのか、わくわくした顔でそう言った。

 

「それじゃあサンプルを作ってみますね、僕に五分下さい」

「えっ、そんなにすぐに出来るのか?」

「はい、任せて下さい」

 

 そしてナタクはその場でエンチャントを始めた。

 

「エンチャント、セット、伸縮自在、大きさ指定、大、小、セット」

 

 ナタクがそう唱えた瞬間に、鉄扇が僅かに光を発した。

 

「エンチャント、セット、アタッチメント、対象指定、鉄扇、シリアル63ー259」

 

 シリアルというのはどうやら、その装備固有に割り振られた番号のようだ。

そして腕輪が僅かに光を発し、手の甲の側が少し盛り上がった。

更にナタクは続けてこう言った。

 

「エンチャント、セット、伸縮自在キーワード、大、ラージ、小、スモール。

エンチャント、セット、アタッチメントキーワード、ディフェンス」

 

 そして鉄扇と腕輪は再び光を発し、ナタクはにこやかな顔でアサギに言った。

 

「それじゃあこの二つを装備してみて下さい」

「うん」

 

 アサギはその二つをナタクから受け取り、腕輪をはめ、鉄扇を手に持った。

 

「次に、ディフェンス、と唱えて鉄扇を腕輪に近づけて下さい」

「ディフェンス!」

 

 その瞬間に鉄扇は、腕輪にピタリと装着された。

 

「あっ、盾みたいな感じになったわ!」

「最後にラージ、スモールと、適当なタイミングで言ってみて下さい」

「ラージ」

 

 その瞬間に腕輪にはまった鉄扇が大きくなった。

 

「スモール」

 

 次にアサギがそう唱えると、鉄扇は元の大きさに戻った。

 

「まあこんな感じですね」

「凄い凄い!」

「ちなみにもう一回ディフェンスと唱えると腕輪から外れますよ」

「ディフェンス」

 

 鉄扇はあっさりと腕輪から外れ、アサギの手に吸い寄せられるように移動した。

 

「それじゃあ最後に……」

「ラージ」

「おっ」

 

 アサギが自発的にそう唱えると、その状態のまま鉄扇は長くなり、剣のようになった。

 

「教えなくても応用出来ましたね、アサギさんは凄いなぁ」

「多分こうかなって思って」

 

 アサギは少し照れながらナタクにそう言った。

 

「まあこんな感じになるんですけど、どうですか?」

「これでお願いします!」

「はい、分かりました」

 

 こうして基本方針は決まった。

あとはデザインや、他にギミックをエンチャントするかどうかの相談である。

 

「それもそうだけど、別口でタンクだからアイゼンは必須として、

バル・バラはどうしましょっか」

「弱スタンとかいいかもしれませんね、あれは本当に一瞬の足止めにしかなりませんが、

相手に耐性があっても発動しますしね」

「一瞬敵の足が止まるだけでも、確かにタンクは楽になるかもな」

「でもどっちもエンチャントの素材が足りないわよ」

「そうか、それじゃあ俺が『スモーキング・リーフ』に顔を出して、

使えそうな素材があるか見てくるわ、話し合いの方は四人で続けてくれ」

「分かりました、お願いします」

 

 スモーキング・リーフとは、六人の女性プレイヤーが経営している素材店である。

そしてハチマンは買い物の為に、『スモーキング・リーフ』へと向かった。


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