ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭
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第677話 スモーキング・リーフの六姉妹

「さて、いい素材が入荷していればいいんだがな」

 

 ハチマンはアルンの裏通りに入り、複雑な町並みを、迷う事なく進んでいった。

それからどれくらい歩いただろう、

ハチマンは、路地の突き当たりにある一軒の店の前にいた。

ちなみに看板の類は一切出ていない。この店の名は『スモーキング・リーフ』、

一部のベテランプレイヤーしか知らない隠れ家的な素材店である。

 

「さてと、パスワード入力、WAKABAっと」

 

 ハチマンが店の前のコンソールにそう入力すると、店のドアが音もなく開いた。

そのシステムから、この店がプレイヤーズホームだという事が分かる。

 

「リツ、いるか?」

「あっ、ハチマン君、いらっしゃいませなのにゃ」

 

 ハチマンの呼びかけに応え、

カウンターからにこやかに返事をしてきたこの女性の名はリツという。

種族は語尾から分かるようにケットシーである。

 

「相変わらずここはガラガラだよなぁ」

「まあこの店の事は一部の人しか知らないからにゃ」

「それって店って言えるのか?経営は大丈夫なのか?」

「問題ないのにゃ、やっと水の心配がいらなくて敵もいない、

安住の地にたどり着けたんだもの、程ほどに稼いで姉妹仲良く暮らしていくにゃ」

「その設定も相変わらずだな」

 

 そのハチマンの言葉にリツは何も答えず、ニコニコと微笑んでいるだけだった。

そしてハチマンは庭から人の気配を感じ、そちらに目をやった。

そこには真ん中から切断された電車の車両のオブジェが鎮座していた。

というか、オブジェというよりは車両そのものである。

その横には立派な緑色の葉をつけた木が立っており、時々光を発している。

その木の向こうから、気配の主が姿を現した。

 

「ハチマン」

「おうリン、今日もいつも通り無愛想だな」

「なっ……」

「冗談だ冗談、元気だったか?」

「ああ」

「そうか、ちょっと商品を見せてもらうぞ」

「分かった、在庫は把握してるから何でも聞いて」

「おう、サンキュ」

 

 この女性の名はリン、この店の在庫管理担当であり、

基本リツと一緒に店番をしている女性である。

リンは結わえた後ろ髪が真っ直ぐ上を向いている珍しい髪型をしており、

実は戦うと強いという噂の重機系女子である。

何故重機系かというと、在庫を管理している立場上、

重い荷物を持つ必要性がある事から、STRをガン上げしてあるからである。

 

「リツ、客か?って、ハチマンじゃねえか、久しぶりだな」

「おうリク、久しぶり」

「って、ああっ!?それが噂の雷丸って奴か?ちょっと触らせてくれよ」

「ん?ああ、別に構わないぞ、ほれ」

「うわぁ、この手触り、この辺りの曲線もいい仕事してやがる、

こうして持ってるだけで、ビンビンとオーラが伝わってきやがるぜ」

「相変わらずお前が何を言ってるのかよく分からん」

「細けえ事はどうでもいいんだよ」

 

 この女性の名はリク、ご覧の通り、色々な装備を撫で回すのが趣味だという、

一風変わった女性である。そしてその後ろから、更に三人の女性が姿を現した。

 

「あ~、ハチマン、久しぶりじゃない」

「リョウか、お前は相変わらず常に鉄パイプを持ってんのな……」

「厳選しているとはいえ、ここにもたまにおかしな客が訪れるから、

それを圏内戦闘で叩きだすには、こういった鈍器が最適なんだよねぇ、

まあこれが無いと落ち着かないってのが一番の理由なんだけどねぇ」

「口調はのんびりだが、言ってる事は相変わらず過激だなおい」

「あ、リクが持ってるそれ、ハチマン君の新しい武器?

只者じゃないオーラを感じるけど、試しにちょっと私とやりあってみない?」

「相変わらずお前は戦闘狂だな、悪いが遠慮しておく」

「あら、残念、だわねぇ」

 

 この間延びする話し方をする女性は姉妹の長女のリョウ、

その会話の通り、戦う事が三度の飯よりも大好きという、戦闘狂である。

 

「あっ、ハチマン!待ちくたびれたのな、今日はまたリナを外に連れ出してくれるのな?」

「場合によってはな」

「それじゃあ準備してくるのな」

「あっ、おい」

 

 そう言ってその女性、リナは店の奥の居住スペースへと消えていった。

好奇心旺盛な性格をしており特殊な鑑定スキルを持つリナは、ハチマンにかなり懐いている。

そのせいで、事あるごとにハチマンと同行して外に出たがるのだ。

最初他の者達は、リナがハチマンと一緒に外に出る事に難色を示していたが、

一度六人全員がハチマンに同行して素材収集に出た後は、すっかりハチマンの事を信頼し、

今は一緒に出かける事に文句を言う事もなくなっていた。

 

「ああリン、今日のリナはどのリナだ?」

「今日はリナゾーだよ、ハチマン」

「リナゾーか、サンキュー、リン」

 

 その他に特筆すべき点として、よく分からないが、リナはどうやら六人いるらしい。

会話した感じから、中身が別人という事は無いようなのだが、

さりとて多重人格という訳でもないらしい。

とにかくリナは日によって、リナッチ、リナジ、リナゾー、リナヨ、リナコ、リナムという、

六人のうちの誰かとして振舞うのである。

もっとも一人称は常に『リナちゃん』なので、その事実を知る者はハチマン以外にはいない。

その事についてハチマンは特に詮索する事もなく、リナの好きにさせる事にしていた。

ハチマンにとってのリナは、妹のような存在なのである。

そして最後にもう一人の妹的存在が姿を現した。その名をリョクという。

 

「どうしてリナが浮かれてるのかと思ったらハチマンじゃん、

これからどっか行く?それなら私も準備してくるじゃん?」

「一応出かけはするが、お前を連れていくかどうかはまだ……」

「あ~あ~聞こえない聞こえない、直ぐに準備してくるじゃん」

「待て……って、もういねえ……」

 

 当のリョクは、リナ同様に素早く店の奥に戻っていた。

何とも強引な事である。ちなみにリョクは素材に関しての知識はかなりのもので、

リナと同じく好奇心旺盛な性格をしている。

 

「はぁ……」

「ごめんとしか言えないわねぇ」

「ハチマン君、今日もし余裕があるんだったら、

悪いんだけどあの二人を外に連れ出して欲しいにゃ。

あの二人、最近随分退屈そうにしてたから、そろそろ連れ出さないと爆発しそうなのにゃ」

「そういえば最近ここには顔を出せてなかったからな、

まあ今日はちょうどグロッティ鉱山の奥に行くつもりだから、

二人を連れてストレスを発散させてくるわ」

「グロッティ鉱山の奥って、本当の奥?」

 

 その言葉が聞こえたのか、外からリンがひょっこり顔を出し、そう言った。

 

「おう、その為にユキノを呼んであるからな」

「あっ、それじゃあ余った素材を売って欲しいのにゃ、

あそこの素材はハチマン君達以外からの仕入れルートが無いからにゃ」

「もちろんそのつもりだ、それじゃあユキノ達にはここに直接来るように言っておくから、

ここでちょっと待たせてもらう事にするか」

「あいにゃ、今お茶を入れるにゃ」

 

 リツはそう言って、居住スペースへと消えていった。

代わりに話しかけてきたのはリンである。

 

「ところでハチマン、今日は何の素材が必要なの?」

「おっと、そうだったそうだった、魔法吸収系のエンチャント素材って、まだあるか?

最近品薄だと聞いたから、駄目元で来てみたんだが」

「無い……と言いたいところだけどちゃんとあるよ。

ハチマンがいるだろうなと思う素材は、ちゃんと別にキープしてあるから」

「マジか、お前は神か」

「おだてても素材以外は何も出ないぞ」

「いや、十分だ、本当にありがとうな」

 

 ハチマンに真っ直ぐな感謝の視線を向けられたリンは、

やや顔を赤くし、心臓の辺りを押さえながら言った。

 

「い、今私に毒を盛らなかったか!?」

「またそれかよ、意味が分かんねえよ」

 

 ハチマンは何度か同じ事を言われているらしく、呆れた顔でそう言った。

 

「ち、違うなら別にいい」

 

 リンはそう言うと、素材を持ってくると言って外に出ていった。

 

「なぁリョウ、リク、毒って何の事だ?」

「多分心臓がドキドキしたんだわねぇ」

「褒められて恥ずかしかったんだろ、あいつは人に慣れてねえからな」

「照れ隠しみたいなものか?」

「そんな感じにゃ、きっと本心ではリナちゃんやリョクちゃんみたいに、

ハチマン君に甘えたいと思ってるのに違いないにゃ」

「なるほど、それじゃあ高い高いでもしてくるか」

「高い高い?なんだそれ?」

「まあ実際にやってくるわ」

 

 ハチマンはそう言って外に出ると、丁度倉庫から出てきたリンの前に立った。

 

「どうしたハチマン、まあいいか手間が省けたな、これがその素材だ」

「おう、サンキュー」

 

 ハチマンはとりあえずその素材を先に受け取り、アイテムとして収納した。

そしておもむろにリンの両脇に手を入れ、思いっきり上に投げ上げた。

 

「ほ~らリン、高い高~い」

「え?ひゃっ!」

 

 リンは珍しく慌てたような悲鳴を上げて宙を舞い、そのまま下へと落ちてきた。

そんなリンをあっさりとキャッチしたハチマンは、再びリンを上へと投げ上げた。

 

「ほ~ら高い高~い」

「な、何のつもりだ!?」

「高い高~い」

「だから……」

「高い高~い」

「わ、分かったからそろそろ下ろせ!」

 

 ハチマンはそのリンの言葉に素直に従い、リンを下へと下ろした。

 

「もう、いきなり何なんだ?」

「いや、何となくリンを甘やかそうかと思ってな、どうだ?面白かったか?」

 

 そう言われたリンは、きょとんとした顔をした後、

顔を赤くし、下を向きながら言った。

 

「ま、まあ確かにちょっと面白かったが……」

「そうか、それなら良かった」

「何なんだまったく……」

「こんな感じでどうだ?」

 

 そう言って振り返ったハチマンの目の前に、リツとリクとリョウが一列に並んでいた。

 

「な、何だよおまえら」

「ずるいのにゃ、次は私の番にゃ」

「その次は俺な」

「私はその次、だわねぇ」

「マジかよ……」

 

 そしてハチマンは三人を順番に高い高いした。

リツは無邪気に喜んでくれ、リクはずっと笑っていたが、

リョウは落ちる時にハチマンを狙って鉄パイプを振り下ろしてきた。

 

「危なっ、おいリョウ、お前いい加減にしろ!」

「とか言いながらも、ちゃんと防いでるよねぇ」

「当たり前だ、そんなもんまともにくらったら死ぬわ」

「ダメージは通らないはずだわねぇ」

「例えだ例え、とにかくお前はそういう事をするんじゃねえよ、この戦闘狂め」

「あ~っ、ずるい、ねぇね達が楽しそうな事をしてるのな!」

「ハチマン、どういう事?私達にもするじゃん!」

「まためんどくさいのが……はぁ、分かった分かった、お前らもこっちに来いって」

 

 ハチマンはリナとリョクを呼び、同じように高い高いした。

 

「おおっ!リナちゃんは今、空を飛んでるのな!」

「これが落ちるという感覚……覚えておくじゃん」

 

 そんな事を何度か繰り返すうちに、皆満足してくれたようだ。

丁度その時入り口のドアが開き、外からユキノがひょっこりと顔を出した。

 

「リツさん、いる?ハチマン君が先に来ていると思うんだけど」

「あっ、ユキノちゃん、こっちこっち」

 

 ユキノはリツに連れられ、そのハチマンの姿を見て呆れた顔をした。

 

「あらあら、随分と楽しそうね」

「おう、楽しいぞ、なぁリナ」

「あっ、ユキノ、久しぶりなのな!」

「ユキノ、久しぶり、今日はリナと二人でご一緒させてもらうじゃん」

「あらそうなのね、それは心強いわ」

「後ろの三人は見た事ねえな、新人かあ?」

「ごめんなさいリクさん、紹介が遅れたわね、この三人はうちの新人……

そのうち二人はまあそれほど新しいメンバーじゃないのだけれど、

とりあえず紹介するわ、セラフィム、クリシュナ、それにリオンよ」

「初めまして、セラフィムです、皆さんのお噂はかねがね」

「クリシュナです、宜しくお願いします」

「リオンです、は、初めまして」

 

 三人は、初めて見る姉妹達に自己紹介をし、

こうして七人は、グロッティ鉱山へと向け出発した。




彼女達の安住の地がALOにあってもいいんじゃないかと思いました。

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