ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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今日から新しいエピソードです!


第687話 特別な絆

「どうしてまたそんな事になったんだ?」

「それがなぁ、業界一位と三位のALOとGGOが提携する事に、

AEの開発が危機感を覚えたらしくてヨ」

「ああ、まあ確かにそれはそうだよな」

「で、向こうが自発的に、

うちとGGOが今度採用した新しいログインシステムを導入したみたいで、

トラフィックスからの接続が簡単に可能になった状態で交渉してきたんだよナ」

「それはまた準備がいい事ね」

「だよなぁ、まあそんな訳で、

どうやら先方のいくつかのイベントを体験出来るだけみたいなんだが、

こっちの手間はほぼ無いに等しいし、こっちの正式イベント開始までのいい繋ぎになるから、

あっさりとボスからのオーケーが出て、先方からの申し出を受ける事になったわけだナ」

「アスカ・エンパイアも頑張ってるよなぁ……」

 

 ハチマンは感心したようにそう言った。

先方の開発陣の苦労を考え、頭が下がる思いだったからだ。

 

「という訳で報告はしたからな、さあ、さっさとオレっちをねぎらエ」

「何でそうなる、今回お前はほぼ何もしてないんだろ?」

「今までの積み重ねだぞ、あんまりごねるようだと性的なねぎらいを要求するゾ」

「ああもう、分かった分かった、で、俺は何をすればいいんだ?」

「マッサージだな、リアルで頼むぞ、最近特に肩がこっちまって色々やばいんだヨ」

「まあそのくらいなら……」

 

 ハチマンはアルゴに押し切られ、普段かなりの負担をかけているという負い目もあり、

渋々ながらもその申し出をオーケーする事にした。

 

「アーちゃんによく聞かされていたからな、凄くよく効くってナ」

「まあやるからにはリラックス出来るように真面目にやってやるよ、

というか、いつも負担ばっかかけてごめんな」

 

 ハチマンは素直にアルゴにそう謝罪をし、

アルゴはニコニコしながらハチマンにこう言った。

 

「それじゃあオレっち今日はオフだから、マンションの自宅で待ってるからナ」

「自宅だと!?お、おい!」

 

 そしてアルゴはそのままログアウトしていき、

ハチマンはやられたと思いつつ、ユキノに縋るような視線を向けた。

 

「なぁユキノ……」

「はいはい、分かったわよ、一緒に行けばいいのね」

「悪いな、お礼にユキノにもマッサージをしてやるから、

最近こっている所とかがあったら教えてくれな」

「そうねぇ、私も肩かしらね、

何度か言ったかもだけど、最近本当に、徐々に胸が大きくなってきているみたいなの」

「確かに言ってたな、それは驚きだな」

 

 ユキノはハチマンには気を許しているせいか、あけっぴろげにそんな事を言い出した。

 

「ええ、やっとうちの家系の遺伝子が仕事を始めたみたいね、

さすがに今からだと姉さんや母さんみたいにはなれないでしょうけど、

せめて人並みになってくれればいいと思うわ」

「お前が言うんだから本当なんだろうが、あまりそこに拘りすぎるなよ」

 

 ハチマンは、今までユキノが胸絡みの話題で、

何度も激発していた光景を思い出してそう釘を刺した。

だがユキノは最近見られる傾向なのだが、以前よりもその事には拘っていないように見えた。

 

「ふふっ、私の価値はそんな所には無い、でしょう?」

「ああ、その通りだ」

「でも私がその、もう少し抱き心地のいい体型をしていたら、

やはりあなたも少しは嬉しいと思うわよね?」

「え、いや、その……」

 

 ハチマンはユキノにそう言われて面食らった。

ここでキッパリと否定してしまうのは問題があるように思えるし、

かといって肯定するのも、それはそれで問題がある気がしたからだ。

そしてハチマンは考えに考え抜いた上で、少し角度をずらした返事をする事にした。

 

「俺も男だから、確かにそれは否定しづらいけどな、でも俺は初めてお前と会った時から、

ずっとお前の事は綺麗だと思ってたし、その凛とした態度にも内心憧れていたさ、

それは絶対に間違いない」

「ありがとう」

 

 ユキノは柔らかく微笑んでそう言うに留めた。

アスナの事がある以上、理性的に振舞わなくてはいけないと、

普段から自分を戒めているのだろう。

確かにハチマンと二人きりの時は時々甘えてくる事がある。

それはユイユイも同じなのだったが、その頻度はユキノの方が少ない。

おそらく性格なのだろうが、ハチマンはそういう時、

言葉を飾らずに、正直に自分の思った事を口に出すようにしていた。

それがユキノとユイユイに対するハチマンなりの特別扱いであり、

それ故に三人の絆は強固なものとなっているのだ。

 

「さて、今は自宅だから、少し時間がかかるわよ」

「俺も自宅だから問題ない、どこか場所を決めてキットで迎えに行くわ」

「それじゃあ千葉で待ち合わせしましょうか」

「分かった、千葉だな」

「それじゃあまた後でね、ハチマン君」

「おう、後でな」

 

 そして二人は職人組に挨拶をして、ログアウトしていった。

 

 

 

「ごめんなさい、待たせてしまったわね」

「いや、それは別に構わないんだが、何故結衣がここにいるんだ?」

 

 千葉で待ち合わせといえば、八幡達にとっては当然千葉駅で待ち合わせという事だ。

そして駅前に着いた八幡を待っていたのは、雪乃と結衣であった。

 

「えへへ、実は今日、ゆきのんと一緒に出かける約束をしてたんだよね」

「え、マジか、それは悪かったな、もしアレなら優里奈あたりに一緒に来てもらうから、

二人の約束を優先させてくれてもいいんだぞ、もちろんその場合は送らせてもらう」

「大丈夫よ、実はまだ約束の時間までには結構あるのよ、ね、結衣」

「うん、実はあたしも肩がこっててさぁ、丁度良かったなって」

 

 八幡はその結衣の言葉に、雪乃がおかしな反応をするのではないかと一瞬ドキリとしたが、

雪乃はその言葉に何の反応もせず、結衣の胸をじっと見ながら平然とこう言った。

 

「そうね、結衣の胸は相変わらずですものね、それじゃあ肩もこるわよね」

「そういうゆきのんだって、最近明らかに胸が大きくなってきてるじゃん、

その年から成長するなんて、正直凄く驚いた」

「私も驚いたわ、でもあなたと比べるとまだまだよ」

「まあそうかもだけど、ゆきのんくらい細くてあたしみたいな胸だと、

多分不気味だと思うんだよね……」

「八幡君、そこはどうなの?」

「た、確かにバランスは悪いかもな」

 

 急に言葉を振られた為に、慌ててそう答えつつも、

八幡はこのやり取りを受けて、雪乃は本当に成長したんだなと感慨深く思った。

そのキッカケは、実は先ほど雪乃がゲーム内で言った、

『お前の価値はそこじゃない』という言葉のせいだったのだが、

八幡は自分の言葉を軽く考えているので、それが直接の原因だとは理解していない。

 

「そう、つまりクルスの体はバランスが悪いという事でいいのね」

 

 そこで雪乃が冗談めかしてそう言った。

 

「え?あ、いや、マックスも確かに細いけど、別にバランスが悪いと思った事はないぞ」

 

 その返事に二人は何故か軽く目を見開いた。

 

「あの子が細い、か、まあ確かにそうなのだけれど」

「ね」

「な、何だよ、別におかしな事は言ってないだろ?」

「なるほど、やっぱりあの子って徹底してるのね、そういう所は見習うべきなのかしら」

「かもね、正直びっくりだよね」

「お前らは一体何の話をしてるんだ?」

 

 そう問われた二人は顔を見合わせ、よく事情が分かっていない八幡にこんな説明をした。

 

「えっと、最近のクルスは普段はかなり地味で、

体型もどちらかというと太く見えるくらいなの」

「まあ一部の人にはそんな事は無いってバレちゃってるみたいだけどね、

前ヒッキーがクルスの学校に行った時さ、クルスは凄くおめかししてたんでしょう?」

「普段のあいつを知らないからよく分からないが、普通に美人だと思ったのは確かだな、

もしかして普段は違うのか?」

「あの日からは違う、と言うべきでしょうね、

あれからクルスに告白してくる男子が異常に増えて、

それを全て断った上で、あの子は自分をとにかく地味に見せるように、

普段から色々と工夫するようになったわ。

おかげで男子からの告白は、今はもうほぼ皆無に等しいらしいわね」

「そうなのか?俺からしたら、まったく変わったようには見えないんだが……」

 

 そう困った顔をする八幡に、二人はこう断言した。

 

「それはあなたの前でだけよ」

「化粧まで工夫して、その上体型も隠して、とにかく自分を地味に見せようとしてるよね」

「そうだったのか……」

 

 いつもこれでもかという風にアピールしてくるクルスの姿を思い浮かべ、

八幡は心底驚いたようにそう言った。

 

「どう?男冥利に尽きるでしょう?」

「というか、そこまでさせちまって申し訳ないなとしか……」

「それはいいんじゃないかな?クルスが自発的にやってる事だし」

「それはそうかもしれないけどよ……あ、まさかお前らも……」

 

 八幡は思わずそう言ったが、その言葉は要するに、

雪乃と結衣が、自分の事を好きだと信じきっていないと出てこない発言である。

八幡はその事を分かっていないが、二人はしっかりとその事を理解しており、

二人は満面の笑みで八幡にこう答えた。

 

「そんなの当然じゃん」

「私達も、それなりに工夫はしてるわよ」

「何か悪いな、色々と迷惑をかけているみたいで……」

「ううん、気にしないで頂戴」

「そうそう、逆におしゃれにまったく気を遣わなくていいのって、凄く楽なんだよ!」

「ならいいんだが……」

 

 そんな八幡の反応に、二人は内心喜んでいた。

八幡がちゃんと自分達の気持ちを理解してくれていると思ったからだ。

二人は一瞬顔を見合わせて微笑んだ後、両方から八幡の手を引いて言った。

 

「それじゃあ行きましょうか、アルゴさんがお待ちかねでしょうしね」

「うん、ヒッキーのマッサージの腕にも期待してるからね、

ちゃんとしたお店に行けばいいのかもだけど、

マッサージしてくれるのが女の人ならいいんだけど、

万が一変な男の人に体を触られるのは嫌だしさぁ」

 

 普通女性のマッサージは女性が行う為にその心配は無いのだが、

結衣は敢えてそう言う事で、八幡の義務感を煽ったのである。

結衣は結衣で、そういった駆け引きをしっかりと駆使出来る大人の女になっているようだ。

案の定八幡は、その結衣の狙い通りに自分がやらねばと思ったらしい。

 

「そうだな、それじゃあ行くか、しっかりと体のこりを解してやるからな」

「ええ、お願いね」

「凄く楽しみだなぁ」

 

 こうして三人は、アルゴの部屋へと向かう事となったのだった。




アルゴが「ねぎらエ」と言った瞬間から、キャラが勝手に暴走しだしました。
最初の予定とは全然違うんですよね、何故こうなったのか………orz

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