「ちょ、ちょっと、私は別にいいってば……」
「あ~うるさいうるさい、最近優里奈と仲良くしてるんだろ?気にせずさっさと来いっての」
いつもとは違い、何となく消極的な陽乃を、八幡は強引に引っ張っていった。
「あっ、ハル姉さん!」
「こ、こんばんは~?」
「今ハル姉さんの分も料理を用意しますね!」
「ほ、ほら、やっぱり優里奈ちゃんも困っちゃうと思うし……」
「何でいつもとそんなにキャラが違うんだよ、いいからほら、こっちに座れって」
八幡は呆れた顔で陽乃にそう言った。
だが陽乃はその場を動こうとはせず、少し目をうるうるさせながらこう言った。
「わ、私、ここにいてもいいのかな?」
「意味が分からん、いいに決まってるだろ」
「うわあああああああん!」
陽乃は突然泣き出し、そのまま八幡に抱きついた。
「お、おい」
「だって、だって、凄く嬉しかったんだもん!」
「何でそんなに情緒不安定なんだよ、何かあったのか?」
「何も無いけど、何も無いけど!」
「まったく子供かっての」
そう言いながらも八幡は、そのまま優しく陽乃を自身の胸の中に受け入れた。
優里奈もそんな陽乃の様子に驚きつつも、微笑みながらそんな二人を見つめていた。
だがその優里奈の目の前で、いきなり陽乃の表情が変わった。
八幡と抱き合っている格好な為、その表情は八幡からは見えていないが、
優里奈からはバッチリ見えていた。
むしろ優里奈に見せるようにしているというのが正解かもしれない。
陽乃はやや興奮したような表情でニヤニヤしており、
声を出さずに優里奈に向け、こう口を動かした。
(こ・う・や・る・の・よ)
(さ・す・が・で・す)
優里奈も声を出さずに陽乃にそう答え、二人はニヤリと笑みを交わしあった。
ただ八幡だけが、何も知らずに陽乃の頭を撫で続けていた。
「ごちそうさま!今日も美味しかったぁ!」
「優里奈の作る料理は美味いからな」
「私ももう少し料理の修業をしようかしらね?」
「時間に余裕が出たらいくらでもやってくれ、試食はしてやるから」
「本当に?それじゃあ二人っきりで、媚薬入りの……」
「却下だ却下、やっぱり味見はやめだ」
「ええ~?冗談、冗談だってば!」
「ハル姉さん、その媚薬っての、私、興味があります!」
「おい優里奈……」
「冗談、冗談ですよ?」
「ったくお前らな……」
そして仲良く食後の片付けを終えた後も、三人はそのままのんびりと団らんを続けていた。
「そういえばこの前あの六姉妹の下二人と一緒に素材を取りにいったみたいじゃない、
結局あの子達って何者なの?信用は出来そう?」
ちょこちょこと報告は受けていたのだろう、陽乃が興味深げにそう尋ねてきた。
「謎だらけな姉妹だが、信用して大丈夫だ。
自活出来るようにしてやりたいから、色々な事を教えてやってるが、今は主に戦闘訓練だな。
ちなみにもうすぐあいつらの武器も完成する予定だ」
「へえ、随分と肩入れしてるのね」
「最初会った時のあいつらは、高校に入りたてくらいの時の俺の目と同じ目をしてたからな、
ほっとけないだろ」
「ああ、腐った目をしてたのね」
「そこはもっとオブラートに包めよ!」
「でも事実でしょう?」
そう言われた八幡は、少し考えるようなそぶりを見せた。
「あ~、いや、正確にはちょっと違うかもしれん、
生きる事を諦めた目とでもいうのかな、
ほおっておくと消えてしまいそうな、そんな目をしていたな」
「へぇ、今の日本の、しかもゲームの中でね、本当に不思議よね」
「どこからログインしているかも不明、どのゲーム出身かも不明、
まあ本気で調べれば分かるのかもしれないが、
そこまでしなくてもいいかなと思って、特に調査はさせていない」
実際アルゴ、ダル、イヴの三人が本気を出せば、
おそらく何かしらの事実が分かるであろうが、
八幡はそこまでの必要性を感じていない。
彼女達が誰かから送り込まれたような存在だとは決して思えなかったからだ。
むしろ、アニメの中の住人だと言われた方がしっくりくるくらいである。
当然そんな事、あるはずがないのだが。
その少し後に、八幡の携帯にどこかからメッセージが届いた。
八幡はそれを確認した後に二人に言った。
「お、言ったそばからナタクから連絡だ、どうやら何かしらの装備が完成したらしい。
ちょっとALOに顔を出してくるわ」
「あら、こんな時間に?」
「アサギ……いや、麻衣さんはこの時間の方が都合がいいらしくて、
理央もそれに合わせて来るらしい。
という訳でそこのソファーを使うから、二人は寝るなら先に寝室で寝ちまってくれ」
「ええ、分かったわ」
「八幡さん、行ってらっしゃい!」
その時陽乃の目が一瞬妖しく光った。
「そうだ優里奈ちゃん、今日は一緒にお風呂に入ろうか」
そう言いながら陽乃は立ち上がり、八幡の目の前でその胸が、
まるでぽよんと言う音が聞こえるかのようにたわわに揺れた。
「分かりました!ハル姉さん、一緒にお風呂に入りましょう!」
同時に立ち上がった優里奈の胸も同じように揺れた。
「それじゃあ二人で体を洗いっこしましょうか」
「はい!」
その会話で八幡は、一瞬二人の入浴シーンを思い浮かべ、
この二人が一緒に入浴すると、さぞ壮観なんだろうななどと思ってしまい、
それを打ち消すようにぶんぶんと首を振ると、
そのままソファーへと横たわり、アミュスフィアをかぶった。
「それじゃあ行ってくる」
「「は~い」」
そしてアミュスフィアがチカチカと光りだし、八幡はALOへと旅立っていった。
それを確認した陽乃は、優里奈にこう言った。
「優里奈ちゃん、さっき八幡君がぶんぶん首を振ってるのを見た?
あれは心の中で、私達の入浴シーンを想像した時の仕草だから覚えておくといいわ」
「そ、そうなんですか!もしかしてハル姉さん、
八幡さんに聞かせる為に、わざとお風呂の話題を出しました?」
「当たり前じゃない、いい?こういう時にまめにああいう会話を聞かせておいて、
そういうのが当たり前になるように、徐々に刷り込んでいく事が大事なのよ」
「なるほど、勉強になります!」
「その点さっきの優里奈ちゃんの対応は良かったわよ、
立ち上がった時に揺れる胸をしっかりと八幡君に見せつけていたわね」
「あ、あれは別にわざとじゃないんですが」
優里奈は自分の胸と陽乃の胸を見比べながらそう言った。
「それがいいのよ、あくまで意識せずに胸を揺らせるようにする、
そうすればいつか、八幡君の中ではその光景が日常的のものになっていくのよ」
「分かりました、今度から八幡さんの前では、まめに立ったり座ったりするようにって、
その事を心がけるようにします!」
「そうそう、あくまで無意識に、自然にね。
さて、それじゃあぱぱっとお風呂に入った後、八幡君の体をベッドまで運ぶとしましょうか」
突然陽乃がニヤニヤしながらそんな事を言い出した。
「八幡さんをベッドに移動させるんですか?」
「ええ、そしてその後私達は、その横で八幡君の腕をしっかり胸に抱えながら、
幸せそうにぐっすり眠ってしまうのよ。
そうすれば優しい八幡君は、幸せそうに熟睡する私達を起こす訳にもいかず、
焦りに焦りまくった末に、現状維持を選択するはずよ!」
「もしその時までに熟睡出来てなかったらどうします?」
「当然そのまま寝たフリよ、軽く寝言を言うのもありね!」
「さすがは姉さん、勉強になります!」
こうして盛り上がった二人は、そのまま浴室へと消えていった。
その少し後に、一瞬優里奈の悲鳴が聞こえた。
おそらく陽乃が優里奈の胸を揉むか何かしたのだと思うが、
その声が八幡の耳に届く事はなかった。
「おうナタク、待たせたな」
「いえ、アサギさんとリオンさんももう少ししないと到着しないんで、
逆に早かったくらいですよ」
「そうか、それなら良かったわ。しかし二人の装備がどうなったのか、興味深いな」
「あ、それとハチマンさん、ここにあの子達を招待しちゃ駄目ですかね?
あの姉妹の装備も完成したんですが、スモーキング・リーフには訓練場が無いから、
出来ればこっちに呼んだ方がいいと思うんですよ」
「あの六人をこっちにか?う~ん、まあそろそろ頃合いか、分かった、迎えに行ってくるわ」
「ありがとうございます、お願いします!」
どうやら先日得た素材はかなり質と量が豊富だったらしく、
調子に乗った三人は、そのまま六姉妹の分の装備まで作ってしまったらしい。
そしてハチマンは六姉妹を迎えに行く為にスモーキング・リーフへと向かった。
「さて優里奈ちゃん、それじゃあ八幡君を運んじゃいましょうか」
「はい!こういうのはちょっとドキドキしますね!」
「いたずらっていうのはいつも楽しいものだからね」
その頃入浴を終えた二人は、八幡の体を寝室へと運んでいる最中だった。
幸いALOにログイン中な為、多少の刺激があっても八幡が目覚める事はない。
「よいしょっと」
「そ~っと、そ~っと」
そして無事に八幡の体を運び終えた後、優里奈が陽乃にこう尋ねてきた。
「この格好のまま寝てもらうのは、さすがにちょっと八幡さんに悪いですかね?」
「あら優里奈ちゃん、どさくさまぎれのいい欲望……じゃない、気遣いね。
そうね、確かにそうかもしれないわ」
「ですよね、これは仕方がない事なんですよね、それじゃあ脱がしますか!」
「ええ、本当に仕方ないけど脱がせましょうか!」
二人はそう言って、ノリノリで八幡の服を脱がせ、
途中いくつかトラブルもあったが、無事に八幡をパジャマに着替えさせる事が出来た。
「危なかったですね……」
「ええ、うっかりパンツまで脱がせてしまうところだったわね……」
「とか言いながらハル姉さん、途中でどうしようか凄く葛藤してませんでした?」
「あ、分かった?全裸でパジャマを着せるのもありかなって迷っちゃってね」
「た、確かにそれもありだったかもしれませんね……」
陽乃が一緒で気が大きくなっているのだろう、優里奈がそう、
普段なら絶対に言わないような事を言った。
「まあこれでいいでしょう、それじゃあ八幡君の腕を抱えて寝る事にしましょうか」
「はい!家族は川の字になって寝るのが普通ですからね!」
そう微妙に理論武装をしつつ、二人はそのまま八幡の腕を胸に挟むようにして、
幸せそうに八幡の隣に横たわったのだった。
「むっ、何か両腕が幸せになった気がしたな……正直自分で言ってても意味が分からないが」
丁度その頃八幡は、そんな事を呟きながら、アルンの街を歩いていた。
「よし着いた、さてと『ワ・カ・バ』っと」
八幡はそうパスワードを入力し、姉妹の家に入っていった。
このまま奥に進んでも、特に何か怒られたりした事は無いのだが、
八幡は一応礼儀として、入り口を入ってすぐの所にある呼び鈴を押した。
この話が投稿される頃には新元号が発表されているのでしょうか、感慨深いですね