ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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今日で(仮)700話に到達しました!実質700話ももう少しですね!


第694話 ヴァルハラ・ガーデンへの誘い

「は~い、もしかしてハチマンかにゃ?」

「あれ、よく分かったな……」

「この時間は営業時間外って事になってるからにゃ、

ハチマン以外は誰も来るはずがないのにゃ」

 

 そんなハチマンを、リツが迎えに出てきた。

リツはいつもの巫女服ではなく今日は楽な格好をしており、

以前とは違って張り詰めた雰囲気も無く、完全にリラックス出来ている姿が確認出来た。

 

「もしかしてもう寝てたりしたか?」

「ううん、今は六人でお喋りしてたのにゃ、昔話にゃね」

「あ~……せっかくの一家団らんを邪魔しちゃって何か悪いな」

「気にしなくていいのにゃ、みんな大喜びにゃ」

 

 そのままハチマンは店舗の一つ奥にある居間に案内され、

そこで六人に歓迎される事となった。

 

「お、ハチマンじゃない、ちょっと戦う?」

「戦わねえよ、あ、でもリョウ用の装備は新しく完成したらしいぞ、

今日はそれで、みんなをうちの拠点に招待しようと思ってここに来たって訳なんだ」

「お、マジでか、行く行く、当然俺の装備も出来てるんだよな?」

「当然リクの装備も出来てるぞ」

「わ、私のもか?」

「ああ、リツは多分格闘系の装備だと思うが、全員分って聞いてるからあるだろうな」

「拠点って、噂のヴァルハラ・ガーデンの事だよね?

興味津々だったじゃん、さっさと行くじゃん」

「なのな!ハチマン達が暮らしてる所を見てみたいのな!」

「いや、暮らしてはいないからな」

「細かい事は別にいいのな、早く行くのな!」

「ハチマン君は、五人に大人気にゃね」

「そう言いながらリツ姉はちゃっかりハチマンの隣に座ってるじゃん」

 

 それに対してリツはただ微笑んでいるだけだったが、

どうやらその場を他者に譲る気はまったく無いようだ。

 

「まあまあ、出かける準備もあるだろうから、俺はそれまでここで待ってるわ、

準備が出来たらみんなでヴァルハラ・ガーデンに向かうとしよう」

 

 最近家事の腕を上げてきたリナにお茶を出してもらい、

ハチマンは六人の準備が出来るのを待っていた。

 

「ALOの料理システムは基本スキル次第とはいえ、リナも腕を上げてきたよなぁ……」

 

 そのお茶にはリナの努力の成果がハッキリと示されており、

ハチマンはそれが嬉しくなった。

 

「本当にあいつら、生きる喜びに溢れているというか、随分と明るくなったよなぁ」

「お待たせな、リナッチ登場なのな!」

 

 そう言ってリナが真っ先にハチマンの隣に座った。

リナはいつも通りのメイド服調の姿とは違い、

年頃の女の子らしく、白いワイシャツにピンクのスカート姿である。

 

「お、早かったなリナ、というか今日はリナッチなのな」

「リナッチの真似をするなのなと言いたい所だけど、でもハチマンなら別にいいかな」

「今日はいつもとは違う格好なんだな、ちょっと見違えたぞ」

「ハチマン、今日のリナはかわいい?」

「おう、かわいいかわいい」

「やったのな!スクナ、ありがとう!」

「くそ、一番じゃなかったか!」

 

 そこにリクが走って登場した。リクは普段の黒いフード姿ではなく、

柔らかそうなもふもふの白いセーターを着ていた。

おそらくその手触りは、リクが好むような感触になっているのだろう。

下はいつもはショートパンツの上に透明なスカートをはいているのだが、

今日は中が見えない紫色のスカートをはいている為、

おそらく下にはショートパンツははいていないと思われる。

 

「まあいいか、俺が二番目だ、ハチマンの隣をゲットだぜ!」

 

 そう言ってリクは、ハチマンの隣にジャンプしてボスッと座った。

それによってスカートがまくれて下着がもろに見えてしまっているのだが、

リクはその状態をまったく気にせずハチマンの隣で楽しそうに足をブラブラさせていた。

 

「お、おいリク、スカート、スカートが」

「ああん?別にそんなのいつも…………あ」

 

 リクはそう言って、すました顔でスカートを直した後、

まったく普通の口調でハチマンに言った。

 

「いやぁ、新しい武器、楽しみだな!」

「おう、わくわくするよな」

 

 リクは露骨に話題を逸らし、ハチマンもそれに乗り、

今の出来事に関してはスルーする事にしたようだ。

リクの顔が少し赤くなっていた事も、その一因だっただろう。

 

「ふ、二人とも早すぎじゃん!」

 

 そこに息せき切って飛び込んできたリョクが、

ハチマンの隣が空いていないこの状況を見て、そう絶叫した。

 

「ああん?乗り遅れたリョクが悪いんだろ」

「くぅ~……」

 

 リョクの服装は、いつものセーラー服に似た格好とはまったく違い、

三層のレースフリルのついた肩出しブラウスに、

薄い黄色のフレアスカートといういでたちだった。

 

「もういい、私はここに座るじゃん」

「あっ!」

「そ、それはずるいのな!」

 

 リョクはいきなりハチマンの膝の上に飛び乗り、

満足そうにハチマンに背中をもたせかけた。

その時残りの三人が部屋に姿を現し、そのリョクの姿を見てぎょっとした。

 

「あらあら、凄い事になってるわねぇ」

「ハチマン君はやっぱりモテモテにゃ」

「リョ、リョク、それはやりすぎだ、というか羨ま……」

 

 最後にリンが、小さな声で悔しそうにそう言った。

リョウは黒いロングスカートをはき、上は白のタンクトップに、

黒のレザージャケットを羽織っている。

リツは何故かスーツ姿であり、おしゃれなのか、眼鏡をかけていた。

その髪は後ろで簡単にまとめられており、一見するとまるで女教師のようだ。

リンはジーンズ姿に白いTシャツを着ているだけという、シンプルな格好であった。

だがその髪には大きなピンクのリボンが結わえられていた。

 

「みんないつもとは格好が違うんだな、うん、凄くいいな」

 

 ハチマンはそんな六人の服装を見て、素直な気持ちでそう言った。

人を褒める事に関しては不器用なハチマンであったが、

正直な気持ちというのは、きちんと相手に伝わるものだ。

六人はその言葉に笑顔を見せ、こうして六人は、

ハチマンの案内でアインクラッドの二十二層へと向かった。

 

「おお、何だここ、凄え明るいな!」

「緑と青、凄く落ち着くにゃ」

「あっ、水があんなにたくさん流れてるのな!」

「あれは川って奴だ、あそこで釣りとかも出来るぞ、今度試しにやってみるか?」

「釣り?釣りって何?」

「竿に針と糸をつけて、川にいる魚を取る遊びだな」

「それは興味深いじゃんね」

「その魚っての、戦える?」

「お前はその芸風をいい加減何とかしろ、

あ~、中にはそういう魚もいるぞ、俺も前に戦った事がある」

「そうなんだ、それならやってみたいわねぇ」

 

 そんな雑談をしながら、六人はヴァルハラ・ガーデンへと向かって歩いていった。

もう深夜近いとはいえ、その道沿いにはそれなりにまだプレイヤーがおり、

ハチマン達を興味深く見つめていた。

 

「な、何か人が多くないかにゃ」

「ここはいつもこんなもんだ、観光地みたいになってるからな」

「何か落ち着かない」

「気にするなリン、一定範囲以内には近づけないようになってるからな」

 

 そのハチマンの言葉通り、ヴァルハラ・ガーデンの入り口前には誰もいなかった。

 

「ここがハチマンの家なのな?」

「おう、ここが俺達の本拠地、ヴァルハラ・ガーデンだ」

「思ったより小さいんだな」

「まあ外見はな、中は見た目よりも広いぞ」

 

 そしてハチマンは慣れた手付きでコンソールを操作し、

その瞬間に周囲にアナウンスが響き渡った。

 

『プレイヤー、リョウ、リク、リツ、リン、リナ、リョクにゲストパスを発行します、

実行開始………実行完了、パスが発行されました』

「これで良しっと、さあ、中に入るぞ」

 

 その直後に塔の入り口が開き、七人はそのまま中に入った。

 

「これって螺旋階段って奴だっけ?」

「何かわくわくするな!」

「もうすぐ見えてくるぞ、ほら、あれだ」

 

 そこにはこじんまりとした家が建っており、

姉妹達はそれを見てきょとんとした。

 

「もしかしてうちより狭いのか?」

「まだここは中じゃない、ほれ、行くぞ」

 

 そしてハチマンは、ヴァルハラ・ガーデンの扉を開けた。

 

「お、ハチマン、お帰り」

「キズメルか、悪いがお茶を人数分頼むわ」

「任せろ、私も大分お茶を入れるのが上手になったんだぞ」

「それは楽しみだ、ナタク達はどこにいる?」

「訓練場だな」

「それじゃあ悪いがお茶もそっちに頼むわ」

「ああ、分かった」

 

 そしてハチマンは妙に静かな姉妹達の方に振り向いた。

 

「それじゃあみんな、あっちの訓練場の方に……って、どうした?」

「な、何これ凄い」

「とんでもない広さにゃ……」

「おお、強者の気配がぷんぷんするねぇ」

「うおおおお、これは滾るな!」

「大きいのな、びっくりなのな!」

「ハチマン、ここが?」

「おう、ここが俺達の本拠地ヴァルハラ・ガーデン、その中枢部だ」

 

 六人はどうやら圧倒されているらしく、咄嗟には言葉が出てこないようだ。

それを見たハチマンは、気分良さそうに訓練場の方へ向かって歩き出した。

 

「それじゃあみんな、こっちだ」

 

 六人はその後を大人しく付いていき、そのまま訓練場の中に入った。

 

「うわぁ、もっと広い……」

「ここって戦う場所だよね?ねぇ、そうなんでしょ?」

「興奮しすぎだリョウ、後でちゃんと相手をしてやるからそれまで我慢しろ」

「本当に?約束したからね」

 

 珍しくリョウが、前のめりでそう言った。

リョウはまだハチマンと一度もまともに戦ってもらう事が出来ておらず、

ここにきてその望みがやっと実現した形であった。

 

「他の五人も、ここで新しい装備を試してみるといい、

見れば分かる通り、それくらいの広さはあるからな」

 

 ギィィィィィィィン!

 

 その時遠くから、すさまじい金属音が聞こえた。

 

「ん、何だ?」

「あそこで誰かが戦ってるにゃ!」

「ああ、アサギさんとリオンか、お、あれは……」

 

 七人はそのまま二人が戦っている方へと近付いていった。

見るとリオンが両手でしっかりとロジカルウィッチスピアを持ち、

そこからアサギに向けて、何かが伸びているのが見えた。

 

「何これ何これ、あっ、ハチマン!

私のロジカルウィッチスピアに何を付けてくれちゃってるのよ!」

「パイルバンカーの事か?具合はどうだ?いいだろ?」

「衝撃が強すぎてこっちが飛ばされちゃうわよ!」

「ちゃんとアイゼンを使え、頑張って使いこなすんだぞ」

「うぅ、ハチマンの馬鹿あああああああああ!」

 

 そのリオンの絶叫は、訓練場中に響き渡ったのだった。


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