「ハル姉さん、八幡さん、遅いですね」
「新装備のお披露目だから、やっぱりそれなりに時間がかかるんじゃないかしら」
「私、そろそろ眠くなってきました」
「私もよ、八幡君がどんな反応をするのか見たいと思ってたけどもう限界、
ふわぁぁぁ、おやすみ優里奈ちゃん、また朝にね」
「はい、おやすみなさい!」
雑談をしながら八幡の帰りを待っていたらしい二人もそろそろ限界のようだ。
二人はしっかりと八幡の腕を胸に抱きつつ、ついでに八幡の足に自分達の足を絡め、
そのまま急速に眠りに落ちていった。二人は眠かったせいで意識していなかったが、
その時点で二人のパジャマはかなりはだけており、非常に危険な状態となっていた。
この状態で八幡がどんな反応を示すかは、神のみぞ知る。
一方その頃、八幡はアサギの装備について、ナタクとアサギから説明を受けていた。
「防具は思ったより軽装なんだな」
「アサギさんはかなり動き回るタンクですからね」
「基本はこの迦楼羅で敵の攻撃を弾く事になるみたい」
「なるほどな、それじゃあ足を止める事になる装備はNGだな」
「アイゼンも付けてもらったけど、これを使うのは、
ボスクラスのよっぽどの強敵が相手の時だけになると思うわ、あとはさっきみたいな……」
そう言ってアサギはチラリとリオンの方を見た。
「ああいう攻撃な」
「まあ受け流せばいいんだけど、そう出来ない場合もあるだろうしね」
「だな、魔法への対応はどうなってる?」
「鉄扇公主の基本機能で何とかするつもりです、
大魔法を全部防ぐのは無理ですが、ある程度の規模までの魔法は吸収する事が可能です」
「その吸収した魔力はどこで使うんだ?」
「敵の攻撃を反射するのに使うわ、衝撃の全部を無効化なんて出来ないけど、
それによってタンク能力はかなり向上すると思う」
「確かに敵の攻撃を、ずっと片手で跳ね返し続けるのは負担が大きいからな」
ハチマンはそう言って、アサギの両手を見た。
「しかし、まさかそうくるとはな」
「彗王丸や雷丸についている機能ですね、要は分離と合体です」
その言葉通り、アサギの両手には二本の鉄扇公主が握られていた。
「その分扱いが難しいと思いますが、アサギさんは凄く機転がきくので、
使いこなしてくれるだろうと信じて作りました」
「大丈夫、コツは掴みつつあるから」
アサギは短くそう言ったが、その顔には自信が溢れていた。
「まあ武器についてはオーケーだ、
リオンに関しては、パイルバンカー以外の装備は追加されてないんだよな?」
「はい、武器に関してはそうですね」
「あいつ、あれを使いこなせるのかね」
そう言ってハチマンはリオンに視線を向けた。
そのリオンは仮想の敵相手にパイルバンカーをぶっ放しており、
微妙にアイゼンの展開が遅いせいか、その度に後方に下がっていた。
「リオンちゃんなら大丈夫、あの子は努力家だもん」
「だな、試験の結果も相当良かったらしいしな、
それこそ学校に通う事を免除してもらえるくらいにな」
「うん、あれには本当に驚いたわ」
アサギもそれに同意した。本当に驚くべき出来事だったようだ。
「おかげで最近は、よくリオンちゃんの部屋に泊めてもらってるんだけどね」
「アサギ、あいつの事、ちゃんと見ててやってくれな、
もし潰れそうな気配があったら直ぐに教えてくれ、無理してないか、正直心配なんだよ」
これはハチマンが、クリシュナこと牧瀬紅莉栖の異常性を、
よく理解しているが為に出てきた言葉である。
それくらい牧瀬紅莉栖という人物の天才性が、飛び抜けているという事なのであろう。
そんな紅莉栖と共に行動している理央の負担はハチマンには計り知れない。
「うん、おかしな事があったら直ぐに教えるね」
「ありがとう、宜しく頼むわ」
ハチマンがそう言ってアサギに頭を下げたのは、
アサギにとってはかなり好感度の高い行為だったらしい。
アサギは心からの笑顔を見せ、リオンと模擬戦をしてくると言って、そちらに駆けていった。
次はいよいよ姉妹の装備の出番である。
「さて、それじゃあ順番にいくか、そろそろ着替えも終わる頃だと思うしな」
ハチマンがアサギと長々とお喋りが出来た理由はこれであった。
今姉妹達は、新しい装備へのワンタッチでの着替えの設定をする為に、
少し遠くであくせくとコンソールをいじっていたのだった。
「まあ来た順って事でいいよなナタク」
「はい、最初は……リクさんですね」
「あいつは器用だからなぁ、まあ妥当だな」
姉妹達の装備は、デフォルト状態からデザインの大きな変更は無いようだ。
ただ一つ明らかに違うのは、その頭に装備している鉢金であった。
そこには姉妹を象徴する葉っぱのマークが描かれており、
同時に全身に行き渡るような、弱くはあるが、防御フィールドも形成されているようだ。
それとは別に、それぞれに姉妹独自のエンチャントが施されている。
「いえ~い、今度こそ一番乗りだぜ!」
そこにいつものようにフードを被ったリクが到着した。
「リクは魔法をテクニカルに使えるようなスタイルでいくんだったよな?」
「ああ、ある程度の長さの呪文は許容するが、
俺としては小さな魔法でバンバン押していくスタイルが好みだな」
「なので鉢金に、早口のエンチャントを付与しました」
「なるほどな、リク、いけそうか?」
「おう、余裕余裕、むしろ魔法の発動が早くて気持ちいいよなぁ」
「そして武器はこれです、簡単な魔法なら空中に固定出来、
なおかつ直前に使った魔法を三回まで複製出来る杖、コピーキャットです」
「模倣犯ときたか、なるほどなぁ。
そういえば小猫のGGOのダミーキャラもそんな名前だったな」
「そうなんですか、偶然ですね」
その杖は杖というには小さく、何かの枝のようなデザインをしていた。
そしてナタクは何事かをリクに耳打ちし、リクはその直後にいきなり空中に、
雷属性の足場のような物を四つ形成した。
「なるほど、こうだな」
「さすが飲み込みが早いですね、凄いですよリクさん」
「ふふん、そうだろそうだろ?俺はこういうのは得意なんだよ」
そう言いながらリクは、呪文を素早く口走っては放出し、
見る見るうちに、空中に小さな黄色い直方体の物体を並べ、
その上を滑るように走り出した。
「おお?何だそれ?」
「ブーツに魔法を反射する仕組みをエンチャントしてあるんですよ、
強すぎるせいで本来は三賢者に許可されるようなエンチャントじゃないんですが、
反射距離を限りなく短くし、実戦で盾とかにエンチャントするのには向かないどころか、
役に立たないレベルまで性能を落とす事によって、やっと実現出来ました。
「ほう?つまりどういう事だ?」
「魔法をほんの少しだけ弾き返すって事は、
つまり一センチくらいではありますが、ああやって空中に設置した魔法の上に立てるんです。
なので足の角度を上手く調整すれば、
ああいった移動をする事が可能になる……んでしょうね、
すみません、リクさんに言われて作ったものの、
まさかこんな使い方をするなんて思ってもいなかったので、これは僕なりの解釈になります」
「まあ実際にああして動いてる訳だしな、多分そうなんだろう」
二人の目の前でリクは、楽しそうに空中を散歩していた。
普通に飛べるエリアでは役立たずなのかもしれないが、
洞窟などの飛べないエリアでは、その力は大いに発揮されるに違いない。
「あはははは、最高!」
リクは足場が完全には無くならないように気を遣いながら、
楽しそうに空中から魔法を連発していた。その練習は、これからしばらく続くのだろう。
「ハチマン君、次は私にゃ」
そこにリツが、いつもの巫女服姿で現れた。
「おお、次はリツか、リツはヒーラー志望なんだよな?」
「うん、だからこれも簡単な魔法をストック出来るだけの機能しか持ってないの、
名前はストレージ・スタッフにゃ!」
「魔法ストック?」
「はい、これは外部の鉢金と連動させて、
通常の魔法の半分程度の威力の魔法を五つほどストック出来ます」
ナタクはそう言って、リツが額につけている鉢金を指差した。
そこには無色の宝石が五つ散りばめられており、
今はそのうちの三つが白く光っている状態だった。
「今はヒール3にゃ、あとは私に使えるのは足止めの魔法くらいだから、
試しにそれを二つ込めてっと……」
リツが呪文を唱えると、リツの額の宝石の残り二つが緑色に光った。
「これでバインド2にゃ、それじゃあ放出!」
リツの持つストレージ・スタッフには五つのボタンが付けられており、
リツがそれを押すと、ハチマンとナタクの足元に、一瞬緑色の手のような物が現れ、
二人の足を一瞬だけ拘束して消えた。
「なるほど、敵の進軍の妨害だけならこのくらいが適当だよな」
「走ってる最中にこれをやられると、絶対に転んじゃいますからね」
「ヒールの威力は小さくとも、事前に準備しておける分、
本当におまけみたいな感じになるから、プラスアルファとしてはいい感じだよな」
「そうなのにゃ、後は使える魔法の種類を増やせば戦いにも応用がきくにゃ!」
「頑張れよ、リツ」
「うん、ありがとうハチマン君、ナタク君!」
次にこちらに近付いてきたのはリンであった。
その姿はいつも通り、ライダースーツを着ているような姿である。
「リンはパワーファイターだろうし、まあ普通の装備なんだな」
「うん、一応魔法吸収はあるけどね、名前はスラッシュナックルって言うみたい」
「名前からすると斬撃の機能がついてそうだな」
「うん、さっきリョクに魔法を撃ってもらったから、ちょっとそこで見てて」
そう言ってリンは、シャドーボクシングの要領で拳を振るった後、
何かをなぎ払うように手を横に振った。
その手の先から刃のような物が飛び出すのを、ハチマンは確かに見た。
「効果時間は一瞬なんだな、とはいえこういうシンプルなのが一番手ごわいんだよな」
「これも制約が厳しかったんですよね、なので一秒しか使えないんですよ」
「確かにずっと使えたら、それはそれでまずいだろうな。
具体的には魔法使いの出番が無くなっちまう」
「ですね、なのでまあこれくらいが妥当かなと」
「十分だよ、気に入った」
リンは本当に気に入ったらしく、嬉しそうにそう言った。
次にこちらに近付いてきたのはリナである。
「ハチマン、リナはみんなに力を与える事にしたのな!」
「付与術師か、クリシュナみたいな感じか」
「リナさんの鉢金と杖には、両方に魔法効果延長を付けておきました、
名付けてエンハンス・スタッフですね」
「とりあえずハチマンに、補助魔法をかけてみるのな!」
そう言ってリナは呪文の詠唱を始めたのだが、
何故かその呪文は、いくつもの違う言葉が重なって聞こえ、ハチマンは首を傾げた。
「何だこれは、ナタク、どうなってるんだ?」
「何ですかね、僕にもサッパリですよ……」
ナタクにもそう聞こえたのか、同じように首を傾げていた。
そしてリナは呪文を完成させ、その瞬間にハチマンの体に六つの強化魔法が同時にかかった。
「うおっ、何だこれ」
「ハチマンさん、どうしました?」
「強化魔法が六つ同時にかかってやがる……」
ハチマンは自分のステータスを確認しながらそう言った。
「ええっ!?」
そんな二人にリナは、得意げな顔で言った。
「全員で別々の呪文を詠唱したから当然なのな!」
「マジかよ……」
「ハチマンさん、全員って何の事ですか?」
「いや、それがな……」
この事実を前に、ハチマンはナタクにだけ、リナの特殊性を話しておく事にした。
その説明を聞いたナタクはなるほどと頷いたが、正直信じられるような事ではない。
なので二人は現実だけを見る事にした。理屈は分からないが、
とにかくリナはそういう事が可能なのだと思っておこうという事だ。
「参ったな、こいつ天才かよ……いや、天才というより特殊なスキルか……?」
「よく分からないけどそれは褒めてるのな?」
「おう、大絶賛だ」
「やったのな!ハチマンに褒めてもらったのな!」
「まったくお前には一番驚かさせられるわ……」
同時にハチマンとナタクは、
リナを一般プレイヤーとは絶対に組ませてはいけないという認識で一致した。