ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第696話 ハチマンの偉業

「さて、次はリョクの番じゃんね」

「リョクはいつものセーラー服か」

「いつものとは失礼な、ほんのちょっとだけ違う所があるじゃん!」

「ん、それは見た目的にか?」

「うん」

「う~ん……」

 

 ハチマンはそう言われてリョクの服装をじっと見たのだが、

ハチマンにはその違いがよく分からなかった。

 

「悪い、俺には分からないわ」

「スクナと話をして、スカートの丈を一センチ短くしてもらったじゃん」

「えっ?た、確かにそう言われると、いつもとちょっと違う気もするが……」

 

 ハチマンはじっとリョクの太ももを見つめ、

リョクは恥ずかしそうに自分の絶対領域を隠した。

 

「そ、そんなにじっと見るな!」

「お、おう、悪い、なるべく見ないようにするわ」

「それじゃあ短くした意味がないじゃん!ちゃんと見てよ!」

「どっちだよ!」

 

 どうやらリョクの女心は複雑なようだ。

 

「で、お前のその装備、それは一体どうなってるんだ?

鉢金が他の奴とはかなり違うみたいだが……」

 

 その言葉通り、その鉢金からは、四本の触手のような物が伸びており、

その先端には宝石のような物がはまっていた。

武器はライフル型の魔法銃に見えるが、ナタクが作ったのだ、

もしかしたらそうではなくまた別な物なのかもしれない。

 

「これは増幅器じゃん、このテンタクルライフルの威力を高めるじゃん」

「え、そうなのか?これが?」

「実際にやってみるじゃん」

 

 そう言ってリョクは地面に膝をつき、ライフルを訓練場の反対側にある的に向けた。

その瞬間にその四本の触手がそちらの方を向き、

そこにレンズのような物を浮かび上がらせた。

 

「なるほど、そういう事か」

「はい、実弾銃じゃ無理ですが、魔法銃ならいけるかなって思って実験してたんですけど、

これが存外上手くいきまして」

「さすがはナタク、マッドだな!」

「はい、マッドです!」

 

 それは世間一般では褒め言葉ではないはずなのだが、

ハチマンとナタクの間では、立派な褒め言葉のようであった。

そしてリョクは魔法の呪文を唱え、魔法銃を発射した。

その先端から放たれる光線は、レンズの部分でより太くなり、

そのまま遠くの的の少し右に突き刺さった。

 

「ちっ、もう少し左か」

 

 即座にリョクは軌道を修正し、次の射撃で見事に的の中心を貫いた。

 

「おお、やるなリョク」

「ふふん、どう?」

「実に見事だった、外れた後の軌道修正もバッチリだったな」

「あっ、で、でも一つだけ言わせてくれ」

 

 そこでハチマンは何かに気付いたようにハッとし、顔を背けながらリョクにそう言った。

 

「いきなり顔を背けて、一体どうしたの?」

「膝撃ちの体勢をとるのはいいが、おかげでお前のその……ぱ、ぱんつが丸見えだから、

今後はその点には十分注意してくれな」

「びゃっ!?」

 

 その瞬間にリョクは慌てて立ち上がり、顔を真っ赤にさせた。

そしてリョクはハチマンに駆け寄ると、その胸をポカポカと叩いた。

 

「もう、ハチマンの馬鹿!見るな馬鹿!」

「お、おう、本当に悪かった」

「でも教えてもらえて良かったじゃん、今度からはハチマンの前でだけ、

この姿勢で攻撃するじゃん」

「だからお前はどっちなんだよ!」

 

 やはりリョクの女心は複雑なのであった。

 

「さて、最後は真打ちか」

「あ~ら、やる気満々だわねぇ?」

「この辺りで相手しておかないと、お前に闇討ちされそうだしな」

「え~?やだなぁ、やるつもりならとっくにやってるって」

「まあいい、武器はそれでいいのか?」

「うん、見た目は一緒だけど、これ新しい武器なのよねぇ」

「そうなのか、それじゃあかかってこい」

「それじゃあまあ遠慮なく」

 

 そう言ってリョウは、チャイナドレスの裾をはためかせながら、

一気にハチマン目掛けて突っ込んだ。いきなりのバトル開始である。

 

「私、本当は受けてから攻撃するタイプなのよねぇ」

「奇遇だな、俺もだ」

「でもまあ今日は、こっちからいかせてもらうわぁ」

 

 そう言ってリョウは、鉄パイプを振りかぶり、

何の工夫もなくハチマン目掛けて振り下ろした。

 

「むっ」

 

 ハチマンはその鉄パイプを受けず、そのまま後方へと飛び退った。

 

「あらぁ?お得意のカウンターはぁ?」

「お前の攻撃がわざとらしすぎる、

カウンターってのはカウンターを受ける前提で放たれた攻撃に対して決めるものじゃない」

「ちょっとあからさますぎたかしらねぇ」

「おう、まあそうだな」

「やっぱり本気で当てにかからないと駄目って事ね、それじゃあ今度はっと」

 

 そう言ってリョウは、今度は全力でハチマンに攻撃し始めた。

その攻撃は鈍器の攻撃にしては鋭く、ハチマンは中々カウンターを決める事が出来ない。

それは単に、鈍器を相手にした経験が少ない事も由来していたのだが、

さりとて徐々にその攻撃に慣れてきたハチマンは、

いよいよカウンターを取ろうとチャンスを伺っていた。

この時ハチマンは、いずれ他の鈍器使いの相手をする時に備え、

今回はいい練習のチャンスだとすら思っていた。

だがそんなハチマンの脳裏に、先ほどの光景が浮かび上がった。

リョウが何故わざとカウンターを取らせようとしていたのか、

まだその謎に関する手がかりを何も掴んでいない。

ハチマンはそう考え、駄目元でリョウに、ヒントを求めて話しかけてみる事にした。

 

「おいリョウ、見た目はいまいちだが随分といい武器だなそれ」

「え~?私の神珍鉄パイプちゃんって見た目も素敵だと思うんだけど?」

 

(神珍鉄だと!?)

 

 その金属の名前をハチマンは知っていた。

孫悟空が持っていた武器として有名な如意棒、それに使われている材料が神珍鉄である。

 

(という事は、もしかして伸び縮みしたりするのか?)

 

 ハチマンは一瞬でそう判断し、瞬時にリョウの攻撃にカウンターを合わせると、

そのままリョウの懐に飛び込んだ。

 

「ここ!」

 

 その瞬間にリョウの持つ神珍鉄パイプの先に光の輪が連続して現れた。

例えていうなら連続性の無いバネのような物である。

その円形構造体部分は鞭のようにしなり、カウンターを受けたにも関わらず、

そのままハチマンの体に巻きつこうと動き出した。

 

(そういう事か、固定観念ってのは本当に厄介だな)

 

 ハチマンはそう反省しつつ、状況を正確に理解した。

 

「そういう事ならこうだ!」

 

 ハチマンはそのままリョウの体に密着し、

その構造体はそのままハチマンの想定通り、ハチマンとリョウを二人纏めて拘束した。

 

「まさかそんな防ぎ方が……もしかして読んでた?」

「いや、伸び縮みするのかなとは思ってたが、こんな感じだとは想像してなかったわ」

「それじゃあ完全にアドリブ対応って事?いやぁ、さすがよねぇ。

こうやって自分ごと拘束されたら、解かないとどうしようもないわねぇ」

「まあその瞬間に俺はお前に攻撃するがな」

「あ~、だよねぇ……これは私の負けだわねぇ」

 

 リョウは諦めたような口調でそう言い、あっさりと自分とハチマンを解放した。

 

「これはつまらない結末になっちゃったわねぇ……」

「まあもう一回相手してやるよ、さすがに今のは消化不良だろ」

「まあハチマンと固く抱き合えたのは良かったかなぁ」

「平然と恥ずかしい事を言うなよ、あれはどう考えてもそういうんじゃないだろ」

「え~?乙女の初めてだったのになぁ」

「お前、その発言は誤解を生むから絶対に誰かに言うなよ」

「ちぇ~っ、それじゃあ次、早速いこっか」

「おう、今度は最初からお互い本気でな」

 

 二人は再びにらみ合い、再び二人の戦いが始まった。

 

「それが神珍鉄パイプの真の姿か」

「うんそう、まあこんな感じ。私の鉢金は、この姿を維持する為の燃料タンクだわねぇ」

 

 リョウが構える神珍鉄パイプの先からは、先ほどの連続する輪の構造体が揺らめいていた。

 

「ふっ」

 

 リョウがそう掛け声をかけ、ハチマンに襲いかかった。

直線で迫ってくるその軌道は、ハチマンにとっては一番カウンターを取りにくい攻撃である。

しかもリョウが、攻撃中に力を入れる方向を変えると、

先端部分がそのままハチマンに迫るように、ぐにゃりと曲がってくるのだ。

 

(これはやりにくいな)

 

 平然とその攻撃をかわしているようなそぶりを見せながら、

ハチマンは内心でそう思っていた。元々直線軌道を通ってくる武器は苦手なのだ。

ハチマンがアスナを苦手とする理由はそれである。

その力の入れ具合からして、刺突系の武器にはカウンターの効果は薄いのだ。

 

(さてどうすっかなぁ、この場合はやはり、攻撃を流しつつ懐に入るのが定石なんだが、

中々そのチャンスが来ないんだよなぁ)

 

 その考え通り、今のリョウは遠距離での戦闘に徹しており、

ハチマンはチャンスを掴むのに四苦八苦していた。

 

(やっぱり肉を斬らせるしかないか)

 

 そう考えたハチマンが動こうとした瞬間に、リョウの動きが変わった。

神珍鉄パイプを横に大きく振り回し始めたのだ。

 

「おっと」

 

 ハチマンはその不意打ちを受け、大きく飛び退いた。

その瞬間にリョウは、ピタリとその先端をハチマンに向けた。

 

(やばい、今度ははなから伸び縮みしないって決めつけてたが、

そんな保証はどこにも無いじゃないかよ)

 

 そう判断したハチマンは、神珍鉄パイプの先端をじっと観察し続けた。

 

「ここだ!」

 

 神珍鉄パイプの先端は一見すると何も変わらないように見えたが、

ハチマンはそこから何かを感じ取り、その先端目掛けて突っ込んだ。

そしてリョウの目の前でハチマンが身を沈めた瞬間に、

神珍鉄パイプの先端の輪の中から魔法の弾丸が飛び出した。

 

「魔法銃だったのかよ!」

 

 ハチマンの頭の上ギリギリを魔法の弾丸が通り過ぎ、

ハチマンはそのままリョウの懐に飛び込んだ。

だがその目の前に、まさかのリョウの足の裏が立ちはだかった。

どうやらリョウはハチマンの行動を予想しており、そこに蹴りを放ったようだ。

 

「いらっしゃ~い」

 

 リョウは命中を確信してそう言ったが、その攻撃は空振りした。

 

「あれ?」

 

 その瞬間にリョウの頭に衝撃が走った。

ハチマンはリョウが蹴りを放ってくる事を、その筋肉の動きから察知しており、

リョウに察知されない本当に蹴りの直前のタイミングで前方宙返りをし、

そのままリョウの脳天にかかと落としをくらわせたのだった。

そしてそのままリョウは地面に背中から倒れ、回転の勢いのままハチマンは、

リョウに対してマウントを取る形となった。

当然リョウの首には、雷丸が突きつけられている。

 

「はぁ、負けちゃったかぁ」

「中々いい戦いだったな、相手の動きを予測するような戦いは久々だったが、

まあ上手くこっちに天秤が転んでくれたわ」

「はぁ、まあ楽しかったからいいか、はいギブアップギブアップ」

「これで多少は満足したか?」

「まあねぇ、でも一つだけ言わせてもらっていい?」

「ん、別に構わないが、何をだ?」

「ハチマンさぁ、私の足をじっと見てたんだよね?

それじゃあ当然見たんだよね?私のぱんつ」

「びゃっ!?」

 

 ハチマンは思わずそう口に出した。まるで先ほどのリョクのように。

 

「やっぱりかぁ、うんうんなるほどねぇ」

「いや、それは不可抗力だ、俺が見ていたのはあくまでお前の足であってだな……」

「まあ減るもんじゃないから別にいいけどねぇ、

何だったら勝者の権利としてもう一回見とく?」

「お前、緊迫した戦いが色々台無しだろ!」

「ちなみにこれ、普通に伸び縮みもするんだわ」

「マジかよ、シンプルな分、厄介だな」

 

 こうしてハチマンはリョウを退けた。そのついでに今日一日で姉妹のうち、

先ほどのリクも合わせて、三人のぱんつを見るという偉業を成し遂げる事となったのだった。


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