ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第697話 幸せへの道筋

「思った通り、やっぱりハチマンって強いわねぇ」

「いい勝負だったな、装備を使いこなしたら次は危ないかもしれないな」

「とか言ってまだまだ余裕があったんじゃない?」

「まあ確かに限界ギリギリじゃなかったが、いい勝負だったのは間違いないと思うぞ」

「私もまだまだだわねぇ」

「まあこれからは素材狩りとかに行くのにチームワークが大事になるだろうから、

個人の強さを求める前に、そっちの連携を高めるようにした方がいいだろうな」

「チームワークかぁ、確かに今まで通りじゃ厳しい場面も出てきそうよねぇ」

「とりあえず参謀役が必要だよな、多分リョクになると思うが」

「まあそうだわねぇ、ねぇ八幡、たまにあの子を鍛えてあげてくれない?」

「あ~、そうだな、それじゃあうちの戦闘に混ぜるとするか」

「宜しくねぇ」

 

 そんな会話をかわしながら、ハチマンとリョウは仲間達の所に戻った。

 

「ハチマン、お茶だ」

「おうキズメル、ありがとうな」

 

 キズメルが用意してくれたお茶を飲みながら、一同は雑談しつつ休憩する事にした。

 

「ねぇハチマン、あのパイルバンカーっての、扱いが難しいんだけど」

 

 最初にリオンがいかにも悩んでますという顔でハチマンに話しかけてきた。

 

「ん、あれに難しい要素なんてあったか?」

「というか、どういう時に使えばいいのか分からないの、あれって遠隔攻撃武器だよね?」

 

 その言葉にハチマンは、自分の失敗を悟った。

 

「ああ……すまん、とりあえず自由にやってもらってたが、

確かにあれの事をそう思っちまっても仕方ないよな。

あれはな、遠隔攻撃にもまあ使えるが、基本は近接戦闘用の武器なんだ。

リオンの場合は懐に入ってきた敵の体にロジカルウィッチスピアの先端を当て、

そのままぶっ飛ばしてやればいいんだよ」

「ああ~!あれってそういう武器なんだ!」

「そういう事だ、もっと早く説明しておけば良かったな、悪い」

「ううん、私も思考が硬直してたみたい、そっか、私は懐に入られると弱いと思うから、

その弱点をカバー出来るのは凄くいいかも」

「頑張って慣れてくれな」

「うん」

 

 そしてリオンはアサギに協力を仰ごうとしたのだが、

アサギが時々口をパクパクさせながらじっとハチマンの方を見ていた為、

一体どうしたんだろうと思い、そっとアサギに尋ねた。

 

「アサギさん、もしかしてハチマンに何か言いたい事でもあるの?

ごめんなさい、私ばっかり長々と話しちゃって」

「あ、ううん、確かにあるんだけど、今ここで話していいものかちょっと迷っちゃって……」

「ああ、って事はリアル絡みの話?」

「うん、まあそんな感じ」

「それじゃあハチマンと二人でちょっと離れた所に移動すれば?」

「出来ればリオンちゃんにも聞いて欲しいのよね」

「そうなんだ、それじゃあ二人でハチマンに話してみよっか」

「ありがとうリオンちゃん」

 

 そして二人はハチマンにその事を伝えた。

 

「ん、リアルの話?まあこの六人は大丈夫なんだが、とりあえずリビングにでも移動するか、

え~っと、あいつらは何か話してるな、多分連携に関する相談だな」

 

 ハチマンは六姉妹の方を見てそう判断し、キズメルを呼んだ。

 

「悪いキズメル、アサギさんとリオンとちょっと話があるから、

俺がどうしたのかあいつらに聞かれたら、そう説明しておいてくれ」

「ああ、任せておくがいい」

「悪いな」

 

 こうしてハチマン達三人は、とりあえずリビングに移動する事となった。

 

「で、何か俺に話があるんだよな?」

「あ、そんな深刻な相談とかじゃないからね」

「そうなのか、まあ話してくれ」

「うん、実は……今度映画で主演をやる事になったの」

「「おお!」」

 

 二人はそのアサギの言葉にとても喜んだ。

 

「うわぁ、遂にアサギさんが主演かぁ、絶対見に行かなくちゃね」

「初日の舞台挨拶の席をいくつか押さえるか」

「公開は来年だから、まだまだ先だけどね」

「どんな内容なの?」

「不思議系恋愛映画らしいわ、まだシナリオを読み込んでないんだけどね」

「そうなんだ、どんな話なんだろう」

「内容は後のお楽しみって事で、二人とも、喜んでくれて本当にありがとう」 

 

 アサギは満面の笑顔で二人にお礼を言った。

 

「ところで当然うちはその映画のスポンサーになってるんだよな?」

「ええ、有り難い事にね」

「そうかそうか、もしアサギさんの主演に文句を言ってくる奴がいたり、

撮影を妨害してくるような奴らがいたら直ぐに教えてくれ、俺が潰しておくから」

「あ、あは……それだけ聞くと、凄く悪い人みたいね」

「敵にとっては悪い人で間違いない」

「それもそうね」

 

 そう言ってアサギはクスリと笑った。

 

「芸能界のしがらみを考えずに純粋に演技に集中出来るのって、幸せよね」

「それが本来あるべき姿なんだろうけどなぁ」

「その点では本当に感謝してる、私、頑張るね」

「おう、少なくともここにいる二人はずっとアサギさんのファンだから、

ファンがいなくなるという事だけはないと保証しておく」

「アサギさん、頑張ってね!」

「うん、本気で頑張る!」

 

 二人の心からの応援に、アサギは嬉しそうにそう答えた。

 

「さて、俺はあいつらと話をしてくるわ、家にも送ってやらないとだしな」

「私はさすがにそろそろ落ちるわ、勉強の途中で寝たら先生に怒られちゃうもの」

「私も夜更かしはお肌に悪いから寝ようかな」

「アサギさんは大事な時期だもんね」

「風邪とかをひかないようにな」

「うん、今回は本当にありがとう、

ソレイユにもらったと言える大仕事だもの、立派にやりとげてみせるわ」

「困った事が起こったら本当に言ってくれよな、大抵の事は権力で何とかするから」

「あはははは、その時はお願いね」

 

 そして二人は落ちていき、ハチマンは姉妹達と合流した。

 

「そういえばリナ、ちょっといいか?」

「何なのな?」

「さっきリナが使ってたあの六つ同時の強化魔法な、あれは普通の奴には出来ないんだ、

だからおかしな事にならないように、今この場にいる奴以外には、

強化魔法は一つずつかける感じで頼むわ」

「そうなのな?まあハチマンがそう言うならそうするのな!」

「ありがとな、リナ」

「どういたしましてなのな!」

 

 とはいえ今は総MPが少ないからそこまで強くはないが、

いずれリナの力が必要になる事があるかもしれないと思いつつ、

ハチマンは姉妹達の新装備を個別に脳内で検証していた。

 

(リクの詠唱短縮は、呪文の一部を固定で省く感じになるから大魔法には使えないが、

リクのスタイルだと小魔法を連打出来る分ピタリとはまってるな、

リクの発想力が普通じゃない分いずれ化けるかもしれん。

リョウとリンはそこまで特殊な装備じゃないが、

どっちも初見殺しだよなぁ……魔法銃を鈍器に使うとか、

ナックルに斬属性をつけるとか、ナタクの奴最近は本当に自重しなくなってきたな、

まあしかし、リツとリナが回復と補助を担当すれば、

こいつらはきっと強いチームになるだろうな、あとはリョクがうちで経験を積めば……)

 

 ハチマンは姉妹達の強さが増した事を素直に喜んだ。

これで自活への道筋もきちんと立てられたはずだ。

 

「六人とも強くなったな、これなら俺も安心だ」

「お、お墨付きだわねぇ」

「やったのな、ハチマンに褒めてもらったのな!」

「まあ俺は元々強かったけどな」

「みんなは私が守る!」

「これで私もしっかりとリョウ姉とリン姉のフォローが出来るじゃん」

「回復は任せてにゃ!」

「まあくれぐれも無理だけはしないでくれよ、あとこの世界を楽しんでくれると嬉しい」

 

 ハチマンはそう締めくくり、姉妹達を家まで送った。

街から街への移動の為、危険がある可能性は皆無であったが、

ハチマンは、自分が見ていない所で姉妹の身に何か起こった場合、

悔やんでも悔やみきれないと思い、特にこれから何か用事がある訳でもなかった為、

自分に出来る範囲で出来る事はきちんとやろうと考えたのだった。

 

「ハチマン、今日は素敵な装備をありがとねぇ」

「ハチマンには本当にお世話になりっぱなしにゃ」

「私達に出来る事があったらいつでも言ってくれ」

「なのな!」

「今度会うまでに俺も戦いの手札を増やしておくから見てくれよな」

「今度そっちの狩りに参加する時は、指揮の勉強をさせてもらうじゃん」

 

 姉妹達は口々にそう言い、ハチマンは六人に笑顔で別れを告げた。

 

「今日は楽しかったな、それじゃあまたな、みんな」

 

 去っていくハチマンの姿が見えなくなるまで、姉妹達はずっと手を振り続けていた。

 

 

 

「ふう、とりあえずあいつらの事はこれで安心か、

中級プレイヤー位じゃもう相手にもならないだろうな」

 

 八幡はそう呟きつつアミュスフィアを外そうとしたが、両手がまったく動かせない。

 

(どうなってるんだこれ……何かに拘束されているような……

というか俺は確か、リビングのソファーでログインしたはずじゃなかったか?)

 

 八幡はアミュスフィアを外すことが出来ず、

顔を上げて視線を限りなく下に向ける事で、状況を把握しようとした。

 

(あれは……姉さんと優里奈?まさか二人で俺を運んでベッドに寝かせたのか?

で、そのまま寝ちまったって事か?)

 

 八幡はそう推測し、途方にくれた。

 

(二人とも気持ち良さそうに寝てやがる……さすがにこの状態で起こすのは二人に悪い、

だがとりあえず手が自由にならないと脱出する事も出来んか……)

 

 だが八幡の両手はガッチリとホールドされ、ピクリとも動かせない。

 

(マジで勘弁してくれ……まあしかし、視界が塞がれていたのは不幸中の幸いだな、

もし二人の見えてはいけないところが見えていたらまずいからな)

 

 その瞬間にガツンという音と共に、八幡のアミュスフィアが弾き飛ばされた。

見ると陽乃の右手が顔の横にあり、どうやら陽乃が寝返りをうつか何かして、

アミュスフィアが弾かれたのだと推測された。

 

(よし、視界が開けた、これで何とか腕を……)

 

 そう呟いた八幡の目に飛び込んできたのは、

胸の谷間に八幡の右腕を抱え込む優里奈の姿と、

だらしない顔で色々とあけっぴろげにした状態で、

八幡に重なるように仰向けで寝ている陽乃であり、八幡は慌ててそこから目を背けた。

 

(おいおいおい……だがこれは……

優里奈の方はともかく姉さんの方は何とかなるかもしれん)

 

 八幡はそう考え、まるで蟻の歩みのようにじりじりと左手を抜いていった。

幸い陽乃が気付く気配はない。

 

(よし、もうすぐだ……)

 

 そして遂に八幡の左手は自由になった。

だがそこで八幡は気付いた、左手が自由になっても、

優里奈に完全に拘束されている以上、動く事が出来ないという事に。

 

(これは参ったな……せめて優里奈が腕を離してくれれば……)

 

 だがいくら待っても優里奈が動く事は無かった。

まるで本能で八幡の傍を離れる事を拒んでいるかのように。

そうこうしている間に、陽乃が八幡とは反対側にごろんと転がり、

チャンスだと思った八幡はそこで目を開け、手を腰のあたりにつき、半身を起こそうとした。

だがよりによって陽乃は再び転がり、元の位置に戻った八幡の手を抱え込んだ。

 

(だ、駄目だ、これはどうにもならん……)

 

 そのまま八幡は疲れていた為か、いつしか眠りについた。

 

 

 

 その次の日の朝、八幡が目覚めると、二人は昨日のままの体勢ですやすやと眠っていた。

 

(今は……七時か、この時間なら起こしても問題ないだろう)

 

 八幡はそう考え、二人に声をかけた。

 

「おい優里奈、姉さん、そろそろ朝だぞ、いい加減に俺を解放してくれ」

「う、うう~ん」

「すぅ、すぅ……」

 

 その声に二人が反応する気配はない。だが八幡は二人が薄目を開けたのを確認していた。

 

「おい、寝たふりをするな、起きてるのは分かってるんだぞ!」

 

 八幡の悲鳴にも似たその叫びを二人は無視し、

むしろ八幡の腕を強く抱くという暴挙に出た。

 

「おいこらいい加減にしろ、お前ら絶対にわざとやってるだろ!」

 

 だが二人はそんな八幡を完全に無視し、まったく動こうとはしない。

 

「マジでもう勘弁してくれ……」

 

 その状態はそれから三十分程も続き、やっと解放された後に八幡は、

二人をベッドに正座させて説教をしようとした。だが二人はその瞬間に再び八幡の腕を抱え、

八幡をベッドに押し倒した。

 

「お前らな!」

「え~、何?聞こえませ~ん!」

「八幡さん、今何か言いましたか?」

 

 二人はそう言い、八幡はさっき完全に解放された時に逃げ出しておけば良かったと、

自分の行動を激しく後悔した。その攻防はそれから十分ほど続き、

そろそろ学校や会社に行く準備をしないとまずい時間になって、

やっと八幡は解放されたのだが、当然説教をする時間などまったく無かったのであった。

そして陽乃はそのままソレイユに向かい、八幡は優里奈を学校に送る事にした。

その道中の事である。

 

「おい優里奈、今朝は……」

「今朝は本当にごちそうさまでした!」

「ごちそうさまって何の事だ!?」

「ふふっ、何でしょうね」

 

 八幡はその笑顔を見て、結局何も言えなかったのであった。




このエピソードはここまで!この辺りから本編がじわじわと進んでいくはずです!

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