ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第699話 八幡と萌郁の脱出行

「さて次はっと……んんん?なぁ萌郁、

『ゾンビ・エスケープ』ってどんなゲームだったっけか?」

「ゾンビが徘徊する街の中で頑張って生き残って最後は脱出するっていうサバイバルゲーム、

基本一人~数人のチームで参加するタイプ」

「本来の意味のサバゲーとは違う意味のサバイバルか、う~ん、これはなぁ……」

 

 ゾンビ・エスケープはALOとGGOに共通ログインシステムが導入された時、

いち早く名乗りを上げて、それに乗っかったゲームの名前である。

だが八幡は、ゲームの名前は知っていても内容までは知らなかったようだ。

 

「萌郁って、基本何でも知ってるよな」

「何でもじゃない、調べた事だけ」

「本当に色々調べてるよなぁ」

「それが私の仕事だから」

「まあそれはそうなんだけどな」

「この報告書に何か問題が?」

 

 萌郁はどこか躊躇うような、その八幡の態度に疑問を覚えた。

横から見たその報告書には、ゾンビ・エスケープの名前と、

AEと同じパターンでイベント提携の申し込み有りというただそれだけが書かれており、

特に何か問題がある提案だとは思えなかったからである。

 

「いやな、明日奈がこういうのを凄く苦手にしているんだよ、

だからここで俺がゴーサインを出したら、後でひっかかれるんじゃないかと思ってな」

「でも断る手はないと思う」

「そうなんだよなぁ、まあ明日奈は不参加だろうしこれは賛成って事にしておこう」

「ちょっと面白そう」

「お、萌郁はこういうホラー系が好きなのか?」

「サバイバル要素に興味がある」

「なるほどなぁ、実は俺も興味はあるんだよな、今度試しに一緒に……」

「やる」

 

 再び萌郁が光の早さでそう即答し、八幡はその迫力に一瞬気圧された。

 

「……そ、そうか」

「うん」

「確かうちには他社のゲームが一通り揃ってるはずだから、

暇を見てちょっとずつ進めてみるか、時間を決めてこまめにセーブすればいいしな」

「ちょっと楽しみ」

「だな」

 

 萌郁のその言葉は嬉しそうな響きを伴っており、

本当に楽しみにしている事がハッキリと感じられた。

 

「さて、次が最後っぽいな、え~とこれは………………………よし、今日はここまで」

「よく見えなかった」

「おう、大した物じゃなかったわ」

「見せて」

「う……」

「見せて」

「いや、その……」

「見せて」

「お、おう……」

 

 八幡は諦めたように、報告書の最後の一枚を萌郁に渡した。

それはいつの間に撮影したのか、先日陽乃と優里奈に拘束された時の写真であった。

どうやら八幡を寝室に運び込んだ直後に撮影された写真らしく、

そこにはアミュスフィアを被った八幡の腕を思いっきり胸に挟み、

ニコニコと満面の笑顔を見せる二人の姿があった。

それを見た萌郁の指トントンが一瞬止まり、

直後に強めに一定のリズムでトントンが再開された。

萌郁の表情は怒ったというより拗ねているようであり、明らかにその機嫌は悪そうに見えた。

 

「い、一応言っておくが、もちろん何も無かったからな」

「私は何も言ってない」

「そ、そうだな……」

「………」

 

 そして二人はしばし沈黙した。

やましい事は何も無いのだが、八幡にとっては胃が痛くなるような時間が続き、

やがて萌郁の表情が拗ねた顔から少し躊躇うような表情に変わったかと思うと、

萌郁は八幡にこう尋ねてきた。

 

「やっぱりこういう明るそうで胸の大きい美人の女の人が好き?」

「せ、世間一般では大抵の奴は好きだろうな、

まあ俺は特にそういった細かい部分にはこだわりは無いけどな」

「二人とも、凄く綺麗な肌をしてる」

「そうだな、健康的でいいんじゃないか?」

 

 八幡は萌郁の地雷がどこにあるのかまだ把握しきれていないようで、

ビクビクしながらそう言った。

萌郁はしばらく無言だったが、やがて何か決意したような表情をすると、

おもむろに立ち上がり、いきなり上着を脱ぎ始めた。

 

「い、いきなり何を」

 

 この萌郁の行為に八幡はびびった。

ちなみにレヴェッカが同じ事をしても、八幡は同じようにびびったであろう。

この二人に共通する事は、リアル戦闘力が明らかに八幡より高いという事である。

正直力ずくで迫られた場合、八幡に成すすべは無い。

だが萌郁からは八幡に迫ろうとする意思は感じられず、

八幡は萌郁の意図が分からず逆に混乱したのだが、その答えはそのすぐ後に出た。

萌郁がインナーの裾をまくりあげ、八幡に自分の肌を見せてきたのだ。

 

「羨ましい、私の体は傷だらけだから………こんな風に」

 

 萌郁の肌は透き通るように白く、一見すると何も無いように見えたが、

よく見るとそこには細かい傷の跡がかなり多くあり、八幡は思わず息を呑んだ。

だが八幡がそれを表情に出す事は無かった。どうやら八幡の強化外骨格は健在のようである。

おそらく過去の任務でついた傷なのだろうが、

八幡は少し悲しそうにしている萌郁の顔をじっと見つめた後、諭すようにこう言った。

 

「俺はお前に守ってもらってる身だ、俺が本当に危ない時とかは、

お前の肌に傷がついてしまうような事があるかもしれない。

だが俺はお前の綺麗な肌が無駄に傷つくような命令は絶対に出さない」

「私の肌が………綺麗?」

「おう、傷なんか関係あるか、俺は綺麗だと思うぞ」

「そう」

 

 それで意識してしまったのか、萌郁は自分が今どんな格好をしているのか理解し、

インナーの裾を下ろして恥らうような表情をした。

 

「とりあえず服を着ろって、まだ暖かいとはいえ、風邪をひいちまったら大変だからな」

「うん………あ、でも………」

「ん、どうかしたか?」

「せっかく今こんな格好をしているんだし………する?」

「な、何をだ?」

「そういう事」

「い、いや、しないぞ」

「そう……」

 

 萌郁は八幡にそう言われ、しゅんとした表情を見せた。

八幡はそれを見て再びおろおろしつつ、慌てて萌郁をフォローした。

 

「お、お前が嫌いだとかそういう事は絶対に無いからな、

少なくとも俺は、嫌いな奴は絶対に傍に置いたりしないし、二人きりになったりもしない」

「そう」

 

 それは先ほどの『そう』とはまったく違う響きを伴っていた。

萌郁はそのまま大人しく服を着ると、

自分の席に腰掛け、トントントトンとリズミカルにデスクを叩き始め、

それを見た八幡は、ピンチが去った事と萌郁の機嫌が良くなった事を理解し、安堵した。

 

「さて、それじゃあゾンビ・エスケープをプレイしてみるとするか」

「うん」

 

 二人はそのままアミュスフィアが設置してあるプレイルームへと移動し、

無事にゾンビ・エスケープのソフトを発見する事が出来た。

実際にはありえない設定とはいえ、多少はリアルっぽさを出そうと、

二人は相談の上で現実の姿でプレイする事を決め、外見スキャンの機能をオンにし、

そのままプレイを開始した。

 

「これはまた……天気が快晴ってのが斬新だな」

「明るい」

「ここはマンションの一室っぽいな」

「テレビがついてる」

「本当だ、ちょっと見てみるか」

 

 そこにはニュース番組が映されており、突然ゾンビが発生した事、

自衛隊が相手をしているが、数が多すぎる上に突然変異種のゾンビが多数いて劣勢である事、

生存者は市庁舎に向かってもらえれば、

その屋上のヘリポートから脱出が可能だという情報を得る事が出来た。

 

「ありきたりだが、いかにも王道って感じでいいよな」

「一番簡単なステージを選んだけど、目的地が結構遠い」

「目的地がここから見えるのか?」

「うん、あの建物が、ニュースに映ってた建物みたい」

 

 マンションの窓から見える市庁舎は、目算で十キロ程度離れているように見えた。

 

「あれか、確かに屋上にヘリポートみたいなのが見えるな」

「とりあえず何か武器が欲しい」

「一般家庭には銃とかはある訳ないよな、あるとすれば包丁とか、ゴルフクラブくらいか」

「うん」

 

 二人はそのまま部屋の探索を始め、台所から包丁を、

そして押入れの中からゴルフクラブを手に入れた。

 

「そのまんまこの二つか」

「噛まれると感染して即ゲームオーバーだとマニュアルには書いてあったから、

射程が短い包丁は危険な気がする」

「俺がそんなヘマをするかよ、とりあえず萌郁はゴルフクラブな、包丁は俺が持つ」

「分かった」

 

 そして二人は十分警戒しながら部屋の外に出た。

 

「俺ならここでいきなり奇襲させるんだがな」

「確かにゲームだからとなめてかかっているプレイヤーに、

気を抜いてると即やられると教えるのには効果的」

「だろ?とりあえず怪しいのは他の部屋の扉か」

「扉か開いたら確かに他の生存者かと思うかも」

「よし、慎重に進むか」

 

 二人はそう結論付け、油断しないように慎重に進み始めた。

そして案の定、三つ先の部屋の扉がギギギと音を立てて開いた。

 

「多分いるな」

「うん」

「どうする?」

「任せて」

 

 萌郁はそう言ってその扉に駆け寄ると、扉を思い切り蹴って閉めた。

そしてグシャッと何かが潰れるような音がして、

二人の目の前にコロンとゾンビの首が転がってきた。

 

「やるな」

「まあこれくらいは」

「よし、このまま進もう」

「背後の警戒は任せて」

「頼んだ」

 

 二人はそのままゆっくりと進み、エレベーターホールへとたどり着いた。

すぐ近くには非常階段へと続く扉もある。

 

「ここでエレベーターを使う手は、まあ無いよな」

「でもここはかなりの高層階だから、階段で下に下りたら敵とのエンカウントが凄そう」

「確かにそうだよなぁ」

「点検口から上に上がってエレベーターの屋根にいれば、敵が襲ってきても安心?」

「そうだな、定番だよな、でもちょっと気になる事があるんだよな」

「何?」

「さっき初めてこのエレベーターに近付いた時、上の方からおかしな音がした。

だからもしかしてその手段をとると、上から敵が襲いかかってくるかもしれん、

おそらくいるとしたら、特殊な動きをするゾンビだろうな。

安易な手段をとるなという開発からの警告なんだろうと思うが、どう思う?」

「確かにそれはあるかも」

 

 萌郁もその八幡の意見に同意した。

先ほどの部屋の中から現れたゾンビの事もあり、いかにもありそうな話だと思ったからだ。

 

「それじゃあ階段を下りる?」

「いや、ここはやはりエレベーターでいこう」

「大丈夫?点検口から敵が侵入してくる可能性もあるんじゃない?」

「まあ見てろって」

 

 八幡はそう言って、萌郁と共にエレベーターに乗り込むと、最上階のボタンを押した。

 

「なるほど」

「いいだろ?」

「うん」

 

 そして最上階に到達した瞬間、上から何かが潰れるような音がした。

エレベーターと最上階の壁に挟まれて、敵が死亡したらしい。八幡の思惑通りの結果である。

 

「ほい、一丁あがりっと」

「問題はこのドアの向こうに敵がいるかどうか」

「どうだろうな、まあいたらいたで倒せばいいさ」

「分かった、任せて」

 

 そして萌郁はゴルフクラブを振りかぶり、敵の出現に備えた。

次の瞬間にドアが開き、萌郁はゴルフクラブを振るったが、

幸いにしてそこに敵の姿は無かった。

 

「いないね」

「だな、ちょっと屋上から周囲の様子を見てみるか?」

「それはいいかも」

「一応給水塔の上とかに敵がいる可能性も考慮するか」

「うん」

 

 そして二人は屋上へと一歩足を踏み入れ、敵がいない事を確認すると、

屋上の手すり近くへと向かい、周囲の様子を観察し始めた。

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