ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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ついに700話に到達しました!今後とも宜しくお願いします!


第700話 二人のチームワーク

「クリア」

「こっちもクリアだ、屋上には敵はいないらしいな、さてと……」

 

 屋上の安全を確認した二人は、情報収集の為に周囲の確認をする事にした。

 

「あそこが目的地として、周辺はっと……

うわ、もしかして下に見えるあの動いてるのが全部ゾンビなのか?」

「多分」

「これはやっかいだな、完全にパンデミック状態なのか」

「中に動きが素早いのが混じってる、あれがきっと突然変異」

 

 八幡は萌郁にそう言われてじっと下を見た。

確かに下に蠢くゾンビの中に、異常に速いゾンビや、

ぴょんぴょん跳ねているゾンビが混じっている。

 

「ふ~む、とりあえずはまともな武器が欲しいよな」

「銃なら警察にあるはず」

「確かに定番だよなぁ……警察署はあそこか、反対方向になっちまうな」

「このビルの三階から隣のビルに移れそう」

「だな、下から出るよりはあそこの方が……むっ」

「敵がこのビルに集まってきた」

「これは……時間制限付きって奴か、多分一定時間が過ぎると、

スタート地点であるこのビルに敵が殺到してくるようになってるんだろうな」

「どうする?」

「とりあえずエレベーターで五階まで降りて、そこから外を伝って三階まで降りる。

見ろ、あそこの壁に太いパイプが通っている、多分あれを使って下に降りれるはずだ」

「了解」

 

 そして二人はエレベーターに乗り込むと、とりあえず一つ下の階のボタンを押し、

エレベーターを一階分下げてから、天井にある小さな扉から上にのぼった。

案の定そこには潰れたゾンビの死体があり、

二人はそれを見て顔をしかめながらも五階のボタンを押し、

何が出てくるか、そっと様子を伺っていた。

 

「着くぞ」

「うん」

 

 そしてエレベータの扉が開くと、大量のゾンビが中に入ってきた。

 

「うお、もうかなり侵入されてるな」

「どうする?」

「もう少し上の階から何とか降りるしかないか、まあベランダに出られれば何とかなるだろ」

「扉が開いてる部屋があればいいんだけど」

「そういう部屋は中にゾンビがいそうだが、まあそれしかないよな」

 

 直後に当然の事ながら扉が閉じ、エレベーター内には三体のゾンビが残った。

 

「さて、どうするか」

「こっちが姿を見せたらどんな反応をするのか見てみたい」

「なるほど、ここまでは上ってこれないだろうから、ちょっと顔を見せてみるか」

 

 八幡はそう言ってエレベーターの天井の小さな扉を開け、

堂々と顔を覗かせてみた。だがゾンビ達は八幡の方を見る事すらしない。

 

「どうやら視覚は目線より上には向かないみたいだな」

「音は?」

「やってみるか」

 

 八幡はそう言うと、コン、とエレベーターの天井を叩いた。

だがゾンビ達は反応を見せない。八幡は叩く強さを徐々に大きくし、

ちょっとうるさいなと思うくらいの音が出た時、初めてゾンビ達が反応をみせた。

 

「音が聞こえた真下をうろうろしてるな」

「こっちを発見してる訳じゃなさそう」

「なるほど、そういう挙動か」

「多分上にいるプレイヤーに気が付くのは突然変異種だけなのかも」

「だな、萌郁、とりあえずゴルフクラブで八階のボタンを押してくれ」

「うん」

 

 エレベーターはそのまま八階に上がり、扉が開くと外にはまだゾンビは到達しておらず、

中にいた三体のゾンビはそのまま外に出ていった。

 

「よし、降りよう」

 

 二人は音も無くエレベーターの内部に戻り、そっと外の様子を伺った。

 

「右に一体、左に二体」

「よし、俺が左に行く、萌郁は右を頼む」

「了解」

 

 そして二人は左右に分かれ、ゾンビ目掛けて風のように走った。

萌郁は一撃でゾンビの頭をふっ飛ばし、

八幡は包丁を使って立て続けに二体のゾンビの首を刎ねた。

 

「クリア」

「クリア」

「よし、鍵がかかっていない部屋を探そう」

「うん」

 

 二人は手分けして中に入れる部屋を探した。

その結果、一つだけ鍵がかかっていない部屋が発見され、

二人は合流すると、そっとその部屋の扉を開いた。

 

「………中には何もいないようだが」

「とりあえず入ってみる?」

「だな、少なくとも室内がゾンビで溢れてるって事は無いだろ」

 

 二人はそのまま部屋に入り、扉の鍵をかけた。

そして室内をくまなく探索したが、ゾンビの姿は見当たらなかった。

 

「とりあえず使えそうな物を持ってくか」

「この双眼鏡は使えるかも」

「釣竿……?う~ん、アウトドア派な人の家みたいだが、この釣り糸だけ持ってくか」

「この釣り用のベスト、二着あるけど便利そう?」

「おお、これはいいな、ポケットが多いから色々収納出来るな」

「後はこのロープと、ドライバー、ガムテープ……うん、場合によっては使えるかも」

「ちょっと楽しくなってきたな」

「うん、楽しい」

 

 こうして準備を整えた二人は、そのままベランダに出た。

 

「このロープで一気に五階まで行けるな」

「かも」

「ここに結べばいいな」

 

 そして二人はロープを下り始めた。幸いベランダにはゾンビは侵入していないようで、

そのまま簡単に五階まで到達する事が出来た。

 

「よし、後は横の移動だが……」

「さすがにここまで来ると、ゾンビに侵入されてる部屋があるかも」

「ちょっときついが、ベランダの手すりにつかまって、ベランダの外を移動するか」

「三部屋分横に移動するだけだから大丈夫」

 

 二人はそのままベランダにぶら下がり、横に移動を始めた。

 

「いけそうだな」

「うん」

「よし、パイプに着いた、先に下に下りるぞ」

 

 先にパイプに到達した八幡は、パイプ伝いに素早く三階まで下り、

そのままビルの壁を蹴って隣のビルへと着地した。

 

「さて、次は萌郁の番……まずい、萌郁、一度上に!」

 

 その時四階のベランダ、萌郁の足元にゾンビが姿を現した。

そのゾンビはぴょんぴょんと跳ねており、今まさに萌郁の足を掴もうとしていた。

だが萌郁は八幡の叫びを聞いた瞬間に五階に上がり、そこに再びゾンビが姿を現した。

 

「萌郁、こっちに飛べ!」

 

 萌郁はその声に従って宙へと身を躍らせた。

八幡はそんな萌郁の脇の下に手を入れ、くるりと回転して衝撃を逃し、

そのままその場でくるりと回った。

そんな二人を目掛けて四階の変異ゾンビが跳躍してきた。

 

「くっ」

「そのまま回って!」

 

 焦ったような声を出した八幡に萌郁がそう叫び、八幡はそのまま回転を続けた。

そして萌郁は回転の力を手に持ったゴルフクラブに乗せ、

飛んできたゾンビを横殴りにし、下へと叩き落とした。

 

「おお、やるな萌郁」

 

 八幡はそのまま踵を上手く使って回転を止め、トン、と萌郁を着地させた。

 

「上手くいった」

「だな、よし、このままビルを伝って警察方面へと向かうか」

 

 二人は協力し、次々とビルを伝って警察署へ近付いていった。

時には八幡が萌郁を肩に乗せ、やや高い所にあるビルのフロアへと移動し、

時にはビルの中に入り、ゾンビの群れをなぎ倒しながら窓ごしに隣のビルに移動した。

 

「ビル沿いに行けるのはここまでだな」

「そろそろ地上を移動?」

「そうだな……むっ」

 

 その時突然警察署の方から銃声が聞こえた。

 

「何だ?あれはNPCか?」

 

 どうやら二人が近付いた事で、何かのフラグが立ったのだろう、

突然NPCの警察官が多数警察署の入り口前に現れ、ゾンビ相手に銃撃を行い始めた。

 

「ほほう?こんな事も起こるのか」

「どうする?」

「丁度いい、この機会に裏口から侵入だ、

どうせここで警察側が勝つ事は絶対に無いはずだからな」

 

 ここで警察が勝ち、ゾンビを殲滅してしまったらそこでゲームが終わってしまう為、

その八幡の推測は至極妥当であった。

 

「ちょっと急ぐ必要があるかもしれないな、大きい音を立てているせいか、

ゾンビがどんどん集まってきちまってる」

「裏口方面から表にどんどんゾンビが来てるね」

「大チャンスだな、よし、行こう」

 

 二人はそのまま裏口方面に回り、音を立てないように窓ガラスにガムテープを貼って、

ドライバーでその窓を破壊して中に侵入した。

 

「銃の保管庫は………NPCが来る方に進めばいいか」

 

 ここでNPCに発見されたらどうなるか分からなかった為、

二人は最初は慎重に移動し、銃撃音が消えた頃にやっと銃器の保管庫へと入る事が出来た。

 

「おお、色々あるな。俺はこの狙撃銃と、自動小銃……はさすがに無いか、

仕方ない、不慣れだが拳銃で我慢するか、あとはこの警棒をもらうわ」

「思ったより詳しいんだ」

「まあGGOで日々鍛えてるからな」

「私はこれを」

 

 萌郁が選んだのも普通の拳銃であった。

そもそも警察に軍用の銃があるはずもない。

二人は弾薬をバッグに詰め、ついでに他に使えそうな物をぱぱっと手に取り、

即座に元来た道を引き返し始めた。

 

「まだゾンビどもはこっちには来てないな、このまま逃げるぞ」

「待って、もしかしたらこっちに……」

 

 その時萌郁が何かに気付いたように八幡を手招きした。

見るとそこは車庫になっており、パトカーと白バイが何台か停まっているのが見えた。

 

「お、まあ警察署には当然あるよな」

「どうする?」

「車だと道が塞がれていた場合に詰む、ここは白バイだな」

「分かった、後ろに乗って」

「おう、頼むわ」

 

 幸いキーは付けっぱなしであり、萌郁は慣れた手付きでバイクのエンジンを始動させた。

 

「いつでも」

「おう、今開ける」

 

 そして八幡は自動シャッターのスイッチを入れ、萌郁の後ろに座った。

 

「しっかり捕まってて」

「あ、う~……わ、分かった」

 

 八幡は躊躇いながらも萌郁の腰を抱いた。

 

(うわ、こいつ細くねえ?)

 

 八幡は萌郁のプロポーションの良さを改めて実感しつつ、

シャッターの下から数体のゾンビの足が見えた為、

いつ発進してもいいようにしっかり備えた。

果たしてまだシャッターの開き具合が全然足りないうちに、

萌郁は白バイをスタートさせ、車体を斜めにして無理やり公道へと飛び出した。

 

「ふんっ!」

 

 八幡は右手に警棒を持ち、通り抜けざまに周囲のゾンビをなぎ倒した。

 

「これで目的地まで一気に移動出来れば楽なんだが、そうはいかないだろうなぁ」

「そろそろ二時間になるけどどうする?」

「お、もうそんな時間か、安全そうな場所でセーブして、今日はここまでにするか」

「それじゃあ適当な場所に入る」

「白バイの置き場所にスムーズに行ける場所がいいよなぁ」

「そうすると、専用駐車場が併設されている建物、

でもホームセンターとかデパートは多分危ない」

「お、分かってるな、そういう場所にはボスクラスのやばいのがいる可能性が高いからな」

 

 八幡は萌郁の判断をそう肯定した。

 

「塀がしっかりした駐車場付きの戸建てを探すね」

「だな、少し横道に逸れてもいいからとりあえず頑丈そうな建物を探そう」

 

 萌郁はそう言われ、何かを確信したような態度で運転を続け、

あっさりと条件に適合する建物にたどり着いた。

 

「おお、嫌にスムーズだな、もしかして上からある程度の当たりを付けておいたのか?」

「うん」

「やるなぁ、それじゃあ中に入るか」

 

 その家の扉はしっかりと施錠されていたが、

二人はそんなものには目もくれずに壁伝いに二階に上り、二回の窓を割って中に入った。

一応家の内部を調査して安全を確認した二人はそのまま寝室でログアウトし、

ソレイユのプレイルームで目を覚ました。

 

(今日は色々収穫があったな、やはり萌郁は観察力、判断力、戦闘力に優れている、

得がたい人材だという事がよく分かった。問題があるのはコミュニケーション能力だが、

まあ俺がその辺りを考慮しつつ仕事を割り振れば問題ないだろうな)

 

 八幡は、萌郁にもっと色々な仕事をさせてみようと考えつつ、口に出してはこう言った。

 

「ふう、お疲れさん」

「お疲れ様」

「お、二人ともやっと戻ってきたか、飯に行こうぜ飯!」

 

 そんな二人のログアウトを横で待っていたのか、レヴェッカがそう声をかけてきた。

 

「お、姉さんのお供は終わったみたいだな、それじゃあ三人で飯に行くか、

萌郁、この続きはまた今度な」

「うん」

「今日は二人は何をやってたんだ?」

「おう、今度レヴィも一緒にやろうぜ、今日やってたのはな……」

 

 三人はこの日から、急速に戦闘のチームワークを深めていく事になった。


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