ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第701話 にくにク

「おっ、ハー坊、もしかして飯か?今のオレっちは、ガッツリ肉が食いたい気分だぞ」

 

 何を食べようかと話しながら今まさに外に出かけようとしていた八幡達に、

たまたま通りかかったアルゴがそう声をかけてきた。

 

「そうか、それじゃあ一人で美味い肉を食べに行ってこい」

「おいこらハー坊今のオレっちは本当に飢えてるんだ、終いにゃ性的に襲うぞコノヤロー」

「分かった分かった、それじゃあ一緒に行くか」

「いえ~い、肉、肉ダ!」

 

 アルゴはハイテンションで喜んだ。もしかしたら寝不足なのかもしれない。

 

「おっ、アルゴ、随分機嫌がいいな」

「おうよレヴィ、オレっち最近簡単な飯しか食ってなかったから、

今日はがっつりいきたい気分だったんだよ、

でも面倒臭いから結局今日も簡単に済ませちまおうかとか思ってたんだけどよ、

そしたら丁度目の前を財布が歩いてくるじゃねえか、

テンション爆上げになるのは当然だロ?」

「おう、それはアガるな!」

「俺を財布扱いするんじゃねえ!というかお前はもっと社食を利用しろ!

それにそのテンションは寝不足のせいとかじゃなかったのかよ!」

「ぐぬぬ、確かにそうなんだけどよ、あそこは確かに安くて美味いけど、

今日みたいな気分の時に食いたい、値が張る分ガッツリいける料理が無いんだヨ」

「あ~分かった分かった、今度ちゃんとマスターに伝えておいてやるよ」

 

 マスターとはソレイユの社員食堂『ねこや』の店主である。

特に本名を呼ぶ必要が無い為、八幡はそのフルネームを知らないが、親しいのは間違いない。

ただ苗字が山方という事だけは、ネームプレートを見て知っていた。

 

「そういやねこやといえば、あそこのアルバイトの子、個性的だよなぁ」

「ああ、いつも角を付けてる留学生コスプレイヤーのアレッタさんと、

ボソリと喋るのに何故かよく声が聞こえるクロな」

「何故クロっちだけ呼び捨てなんダ?」

「前にたまたま空腹に耐えかねた事があって、

ねこやの終了時間過ぎに何か作ってもらおうかと思って顔を出した事があるんだよ、

で、その時はアレッタさんはいなくて、クロだけがいたんだが、

マスターの好意で賄いのチキンカレーをクロと一緒に食べさせてもらったんだよ、

どうやらクロの奴はカレーが大好物らしくて、その時に俺の三倍くらい食べてやがってな、

それからたまに時間がある時は、

クロを都内の色々なカレー店に連れてってやってるから、その分親しくなったって感じだな」

「はぁ、ハー坊も手広く女に手を出してやがるナ」

「人聞きが悪い事を言うな、ただの飯友だ」

 

 八幡は憮然とした顔でそう言った。

 

「アレッタちゃんは誘ってやらないのか?」

「いや、ちゃんと誘ってるぞ、この前はアレッタさんしかいなかったから、

メイクイーンに連れてってやったしな」

「ああ、レイヤー繋がりカ」

「おう、まゆさんに紹介してやったから、多分一緒にイベントとかに参加するんじゃないか」

「はぁ、ハー坊も手広く女に手を出してやがるナ」

「それはさっき聞いた」

 

 そんな会話を交わしながら三人は、キットは使わず徒歩で近くにある焼肉店へと向かった。

この店はソレイユの社員が多く利用しており、八幡もすっかり顔なじみになっている。

 

「に~く!に~ク!」

「肉は逃げないから落ち着けよアルゴ」

「さて食うか!」

「萌郁も遠慮しなくていいからな」

「うん」

「レヴィは遠慮するタイプじゃないから言うまでもないな」

「おうよ!」

 

 そしてまたたく間に大量の肉が消費され、若干食べ過ぎたのか、

アルゴとレヴェッカはその場でだらしなく横になった。

ここは座敷な為、それを咎める者はいない。

 

「萌郁も苦しかったら横になっていいからな」

「大丈夫、腹八分目」

「何………だと………?」

 

 八幡の記憶だと、萌郁も他の二人に負けず劣らず肉を食べていたはずだ。

だが隣にいる萌郁は涼しそうな顔で、デザートは何を食べようかとメニューを見ている。

 

「おい萌郁、ちょっと腹を見せてみろ」

 

 ここで八幡がいきなりそう言い、ぐったりしているアルゴとレヴェッカも、

その言葉に驚いて体を起こした。

 

「おいおいハー坊、さすがにここでおっぱじめるのはどうかと思うゾ」

「三人同時に相手をするつもりなのはさすがだと思うが、今は勘弁してくれ、腹が苦しい」

「お前らふざけんな!萌郁がまだ腹八分目らしいから、

萌郁のお腹が一体どうなってるのか、好奇心を抑えられなかっただけだ」

「普通にセクハラだろうけどマジかよ、俺にも見せろ」

「凄えなモエモエ、オレっちにも見せてくれよ」

 

 いきなりそう注目を浴びた萌郁は、顔を赤くして下を向いた。

 

「す、すまん、嫌ならいいんだ、悪かった」

「別に嫌じゃない」

 

 萌郁は顔を赤くしたままではあったが、その八幡の言葉には敏感に反応し、

そう言ってインナーの裾をまくりあげた。

 

「うわ、モエモエってばオレっちと腰の細さが変わらねエ」

「ちょ、ちょっと触っていいか?」

「う、うん」

 

 レヴェッカはそう言って萌郁の腹部をつんつんつついた。

 

「おお、内部は綺麗に割れてやがるが、こうして見ると全然分からねえ!」

「そうなのか、やっぱり萌郁は鍛えてるんだな」

「それなりに」

 

 萌郁の腹部はあれだけ食べたのにまったく膨らんだりはしていなかった。

それを確認出来た八幡は、まさか胃が胸の位置にあるとかはないよな、

などと訳の分からない事を考えてしまったが、

目的は達成出来た為、とりあえず萌郁にお礼を言った。

 

「理屈は分からないが、どんな状態かは分かった、ありがとうな、萌郁」

「どういたしまして」

「まだ入るなら、好きなデザートを頼むといい」

「うん」

 

 そのデザートが届く頃には多少消化が進んだのか、アルゴとレヴェッカも復活してきた。

そして四人はそのまま雑談を始めた。

 

「アルゴ、仕事の進み具合はどうなんだ?」

「順調だぞ、AEの件も、先方がほとんど全部やってくれてるから特に負担はないしナ」

「そうか、そういえばカムラが何か動いているようだが……」

「ああ、あれな、どうやらオーグマーの目玉の一つとして、

リアルトーキョーオンラインのAR版の開発を進めるらしいナ」

 

 その言葉を聞いたレヴェッカが、キョトンとしながら横から尋ねてきた。

 

「リアルトーキョーオンライン?何だそれ?」

「今の東京の風景をVRで再現して、そこで敵と戦うゲームらしいぞ」

「へぇ、ファンタジー設定もいいけど、そういうのもいいな」

「そうだな、試しに今度やってみるか?」

 

 だがその八幡の提案は、アルゴによって遮られた。

 

「あ、ハー坊、リアルトーキョーオンラインはしばらくサービス休止になるらしいゾ」

「え、マジかよ」

「別にAR対応版の製作を開始する為に、VR版もしばらくお休みするそうダ」

「そういう事か」

「まあ仕方ねえ、それじゃあゾンビ・エスケープで我慢するとするか」

 

 そのレヴェッカの言葉に今度はアルゴが反応した。

 

「ゾンビ・エスケープ?ハー坊はもしかして、あれをやってみたのカ?」

「おう、ついさっきまで萌郁と二人でやってたわ」

「へぇ、どうだっタ?」

「いやぁ、思ったよりもリアルで面白かったわ、

今日は一番最初のステージを途中までクリアした状態でセーブしてきたけど、

大規模なマップを大人数でやってみたい気もしたなぁ」

 

 八幡はそう言いながら、今日ゲームの中で何があったのか語ってきかせた。

 

「随分慎重に動いたんだナ」

「まあ最初だったしな、特にピンチらしいピンチも無かったし、順調だったよな、萌郁」

「うん、武器も手に入れたから後は簡単だと思う」

「ゾンビ・エスケープの一面は、難易度が高いって事で有名なんだがナ」

「難易度が高い?そうなのか?」

「とにかく敵の数が多いから、基本は数の暴力にやられて死ぬって話だゾ」

「何も考えずに敵にまともに突っ込むからだろ、

ただ家の外に出て目的地を目指したって、そりゃ死ぬに決まってる、

あれは無双ゲーじゃないんだからな」

「まあそれもそうか、プレイヤーのレベルが低いって事だナ」

 

 それから四人はたわいない話をしばらく続け、その日は大人しく帰宅した。

レヴェッカと萌郁は寮であり、アルゴも目と鼻の先のマンション住まいの為、

八幡は一人で自宅まで戻る事にした。

 

 

 

「八幡君、おかえり!」

「お、明日奈、こっちに来てたんだな、それじゃあ戻ってきて良かったな」

「今日は何か面白い事はあった?」

「そうだな……」

 

 八幡は明日奈にゾンビ・エスケープの事を話すかどうかとても迷った。

明日奈が怖がるかもしれないと思ったからだ。

だが特に隠し事をするような話でもないと思い、

八幡は明日奈にゾンビ・エスケープの事を話す事にした。

 

「何それ面白そう、今度みんなで少し大きめなマップをやってみようよ」

「え、あれ、明日奈はオバケとか苦手なんじゃなかったか?」

「うん、オバケは苦手だよ?」

「じゃあどうして……」

「だってゾンビはオバケじゃないじゃない、普通に実体があるんだし、

そりゃ確かに多少気持ち悪いかもしれないけど、剣で倒せるなら別に怖くもなんともないよ」

「そういう基準か……そういえば前に聞いた事があったかもしれん」

 

 八幡はその明日奈の言葉にとても納得した。

だが明日奈がまったく怖がらないのもちょっと悔しいなと思った八幡は、

楽しそうにゾンビ・エスケープの情報を検索している明日奈の隣に何気なく座り、

横から画面を覗き込むと、直後に何かにハッとしたような演技をし、こう言った。

 

「あれ、何だこの音は、ほら、カタカタっていう」

「え?私には何も聞こえないよ?」

「あっ、また鳴った、これって何の音なんだろうな」

 

 八幡はそう言って、部屋の中を調べるフリをした。

明日奈はそれを見て不安になったのか、心細そうな声でこう言った。

 

「な、何かあった?」

「いや、何もないな……ってまたか、一体何なんだこの音は」

「えっ?えっ?」

 

 明日奈は耳に手を当てて、その音とやらを必死に聞こうとしたが、

当然何かおかしな音が聞こえるはずもなかった。

 

「な、何だろうね……」

「何だろうな……」

 

 その時部屋の外で本当にカタンという音がし、それを聞いた二人は思わずビクっとなった。

 

「な、何今の音」

 

 明日奈にもその音が聞こえたのか、明日奈は慌てて正面から八幡に抱きついた。

 

「ちょっと見にいってみるか……」

「う、うん……」

 

 だがそう言いつつも、明日奈は八幡から離れようとはしなかった。

八幡は仕方なくそのまま明日奈を抱えて立ち上がり、入り口の方へと向かっていった。

 

「明日奈、しっかり捕まってろよ」

「うん……」

 

 明日奈は言われた通りにしっかりと八幡の首に手を回し、

同時に両足を八幡の腰に回した。どう見ても誤解されてしまうような格好であったが、

この状況でそんな事を考える余裕は二人にはなかった。

 

「よし、開けるぞ」

 

 八幡はそう言って、少しずつ部屋のドアを開けた。

その瞬間に、何か丸い物が部屋に飛び込んできた。

 

「うおっ」

「きゃっ!」

 

 八幡は思わず尻もちをつき、明日奈はその上に座る格好となった。

そんな二人の方を、「何してるの?」という顔で見つめている二つの目があった。

 

「何だ、カマクラだったのか」

「カマクラちゃんかぁ、びっくりした」

 

 それは比企谷家の愛猫、カマクラであった。

カマクラはあくびを一つし、そのまま八幡の横で丸くなった。

丁度その時、音を聞き付けたのか、小町が慌てた顔で部屋に飛び込んできた。

 

「お兄ちゃんお義姉ちゃん、今のは何の音?」

「おう悪い、ちょっと驚いちまってな」

「ごめんね小町ちゃん、何も無かったから大丈夫だよ」

「………」

 

 だが小町は顔を赤くしているだけで何も言わず、二人は首を傾げつつ、

今自分がどんな状態なのかを改めて眺めた。

 

「あっ!」

「ち、違うの小町ちゃん、これは事故、あくまで事故なの!」

「こ、これからゆっくり時間をかけてお風呂に入るから、

小町には何も聞こえないから安心してごゆっくり!」

 

 そして小町はそのまま風呂場へと走っていった。そんな小町を明日奈は慌てて追いかけた。

 

「八幡君、私も小町ちゃんと一緒にお風呂に入ってくる!」

「お、おう、頼むわ」

「任せて!」

 

 そして明日奈もそのまま風呂場に向かい、

残された八幡は、カマクラを撫でながらため息をついた。

 

「驚かせるなよカマクラ」

 

 カマクラは八幡に撫でられて目を細めながら、

自分は何もしていないとアピールするように、ニャ~ンと鳴いたのだった。

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