その後にAEとALOのコラボの話が挟まり、その後に今日明日の話の続きが入って、
それで次の章に入る予定でいます、宜しくお願いします。
「なるほど、今の連続使用の限界は二十四時間か、加速レートは?」
この日八幡は、紅莉栖から現在のバーストリンクシステムの進捗状況の報告を受けていた。
「百倍が限界ね、データに混じって蓄積されるノイズをどうにか出来れば、
もっと安全に脳に書き戻せるようになると思うんだけど」
「あと、ソーシャルカメラの映像を利用している分、回線品質が大事になってくるんダヨネ」
紅莉栖のその推測をレスキネンがそう補足した。
「もうすぐ第6世代移動通信システム、いわゆる6Gが導入されるじゃないですか、
それによる影響はどうですか?」
「あれが導入されればこの技術にとってはかなりのアドバンテージになると思うわ。
伝え聞く限り、通信品質が相当良化し、時間当たりの通信可能データ量が激増するわよ」
「なるほど、5Gで爆発的に増えた同時接続可能数が今度は質をも備えると」
「そういう事だね、なのでボク達は、当分それに備えて準備をするツモリだよ」
「なるほど、そうなれば研究が更に前に進みそうですね」
笑顔でそう言う八幡に、紅莉栖がこれまた笑顔でこう答えた。
「それはこちらの要望に会社がきちんとした対応をしてくれているおかげね、
本当に遣り甲斐のある職場だと思うわ」
「基礎研究に金がかかるのは当然だ、まあその分はきっちり他で稼いでるから問題ないさ。
メデュキュボイドとソーシャルカメラが今の軸だが、
先日完成したVRオフィスシステムも、調査の結果かなりの需要が見込めるらしい」
「最後の報告はまさにそれ絡みね、
加速世界からのVRオフィスへの接続実験が無事に成功したわ」
「おお、遂にそこまで完成したのか。今まではソーシャルカメラを利用する事で作られた、
擬似空間内を移動するくらいしか出来なかったから、それは大きな進歩だよな」
「そうね、まずは第一歩というところかしら。もっともそれを踏まえて製品化するなら、
労働時間をどうするかの法整備が必須になると思うわ。
まあとりあえずは単体で販売する事になるでしょうけど」
その時部屋に備え付けられた電話が鳴り、一番近くにいた真帆がその電話に出た。
「はい、こちら次世代技術研究部、ああ萌郁さん、うん、うん、分かったわ、
八幡に聞いてみて、こちらから折り返し連絡するわね」
真帆がそう言って電話を切った為に八幡は、どうやら連絡してきたのは萌郁であり、
自分に何か用事があるらしいと判断し、大人しく真帆の言葉を待った。
「めぐりさんが八幡に相談があるらしくて、今こっちに来てるみたいよ」
「めぐりんが?」
八幡は今やすっかり慣らされてしまったその呼び方でめぐりの名を呼んだ。
その呼び方に慣れていない真帆は、一瞬きょとんとした後に、生暖かい目で八幡を見つめた。
「な、何だよ」
「い~え、特には何も」
「し、仕方ないだろ、俺がそう呼ばないとめぐりんが怒るんだよ、まほりん」
「まほりん言うな」
真帆は即座にそう返した。さすが頭の回転が速い。
「いいじゃないかマホリン、本人が望んだ事みたいだしネ」
「その事については別に反対はしていません、
というかどさくさ紛れに私をマホリンと呼ばないで下さい部長」
「まあまあまほりん先輩、かわいい呼び方だし別にいいじゃないですか」
「あんたも調子に乗るんじゃないわよクリリン」
「ク、クリリンって言うな!」
「お前らさ、漫才やってるんじゃないんだからさ……」
呆れたような声で八幡にそう言われた三人の反応は三者三様だった。
レスキネンは楽しそうに笑い、紅莉栖は拗ねた顔でそっぽを向き、
真帆は咳払いを一つすると、真面目な顔で八幡に言った。
「で、どうする?別にここに呼んでもいいわよ?」
「それじゃあそうさせてもらうか、萌郁にそう伝えてくれ」
「分かったわ、ちょっと待ってて」
真帆はその言葉に頷いて萌郁に連絡をした。
そしてしばらく後、めぐりが次世代技術研究部に現れた。
「忙しいのに時間をとってもらってごめんね」
「いやいやめぐりん、仕事の話ですよね?それなら何の問題もないです」
「でも正直丁度良かったかな、次世代技術研究部にも関係のある話だから」
「ほほう?ウチの部に?」
「それじゃあめぐりん、説明をお願いします」
「うん」
そう言ってめぐりは用件を話し始めた。
「八幡君、クロービス君の容態がそろそろまずいの。でね、彼に頼まれたんだけど……」
それからしばらく五人は色々と話し合っていた。
「本人の希望は分かりましたが、その理由は何ですか?」
「技術的には可能ね、むしろデータ集めの方が大変だと思うわ」
「その為にもそうした方がいいと思うわ、ただし加速については……」
「大丈夫だよ八幡さん、一人じゃなく二人だもん!」
「うちはしばらくこのプロジェクトに集中する事にナルネ」
「それじゃあ八幡君、私は準備が済み次第アメリカに飛ぶね」
そこに理央がやってきた。
「おはようございます……って、空気がおかしい気がするけど何かあった?」
「あったといえばあったな、とりあえず理央、出かけるからお前も俺と一緒に来い」
「えっ?」
八幡は有無を言わさず理央を引っ張っていき、理央は困った顔で紅莉栖の方を見た。
だが紅莉栖が理央に頷いた為、緊急事態なのだろうと考えた理央は、
そのまま大人しく八幡に付き従った。
「説明はしてくれるんでしょ?」
「当然だ」
「とりあえずこれからどこに行くの?」
「お前をホテルに連れ込んで、エロい事をする」
その八幡の言葉に理央は一瞬固まったが、チラリと八幡の顔を見た理央は、
何を思ったのか、八幡の手をぎゅっと握った。
「そんな表情で無理に冗談を言おうとしなくてもいいよ、
私、何を言われてもちゃんと真面目に聞くから」
「悪い」
「別にいいよ、で、本当の目的は?」
「死にゆく友に残酷な提案をして、別れを告げに行く。
理央にはそこで別の仕事をやってもらう」
「………そう、眠りの森に行くのね」
「ああ」
以前八幡に連れられて眠りの森を訪れた経験のある理央は、それで事情を悟った。
「で、誰?」
「クロービスだ」
理央はその八幡が告げた名前が、
自分が面識のあるランとユウキではなかった為、思わず安堵した。
だが直後に不謹慎だと思ってぶんぶんと首を横に振り、八幡にこう尋ねた。
「私の役目は?」
「ああ、着いた後にお前にやってもらいたいのはな……」
そして八幡は、五人で話し合った内容を理央に伝え、とある頼み事をした。
「彼の望みに合致するとはいえ、それは確かにある意味残酷な提案だね」
「お前まで巻き込んじまって悪いな」
「気にしないで、友達じゃない」
理央はあえて八幡に、仕事だからとは言わずそう言った。
理央にそう言われた八幡は、ぼそっとこう呟いた。
「友達だからか」
「うん、友達だから」
「友達ってやっぱりいいよな」
「うん、だからきっと彼も、八幡の提案を喜んでくれると思うよ」
「そうだといいな」
そして眠りの森に着いた後、理央は凛子と二人で忙しそうに何かの準備を始め、
八幡は一人、電脳世界の中のクロービスの下を訪れた。
「あれ?八幡さんじゃん!」
「よっ、お前ら元気してたか?」
「もっちろん!あれ、八幡さんがこっちに来るのってもしかして初めて?」
「だな、今日はラン達の家に行くつもりは無いから、特にランには絶対に言うなよ」
「うわ、ランにバレたら俺達絶対に殺されるな」
そんな八幡を出迎えたのはジュンとテッチとタルケンであった。
この世界では元々、ランとユウキ、ノリとシウネーとメリダ、
ジュンとテッチとタルケンとクロービスが、三つの家に分かれて暮らしていた。
「で、八幡さん、今日はクロービスに会いに?」
「ああ」
「そっか、あいつ、きっと喜ぶよ」
「これは決して悪い意味で言うんじゃないけどさ、
メリダの時と違って今回は八幡さんが間に合ってくれて本当に良かったよ」
八幡はその言葉でいたたまれない気持ちになり、目を伏せながらこう言った。
「………あの時は間に合わなくて悪かった」
「だから悪い意味じゃないんだってば。
あの時は本当に突然だったし、八幡さんが謝るような事は何もないって。
さあ八幡さん、とりあえずこっちこっち」
「お~いクロービス、八幡さんが来てくれたぞ」
「邪魔しないでおいてやるから、八幡さんとゆっくりな!」
三人はそう言ってクロービスの部屋に八幡を案内し、それぞれの部屋に戻っていった。
そして部屋の中からドタバタと音がしたかと思うと、クロービスがひょこっと顔を出した。
「八幡さん、来てくれたんだ!」
「おう、お前の希望をめぐりんから聞いたんでな、ちょっと話をしに来たわ」
「めぐりさん、こんなすぐに話をしてくれたんだ。それじゃあめぐりさんと一緒にここに?」」
「いや、めぐりんはお前の望みを叶える為にアメリカに行く必要があってな、
今会社でその根回しをしてる」
「アメリカに?うわ、ごめんなさい八幡さん、何か大事になっちゃったみたいで」
「そんな事気にするなって、でな、外で他にやってもらいたい仕事があったんで、
今回は理央を連れてきたわ」
「あ、もしかしてエロ師匠?うわぁ、久しぶりだなぁ」
「おう、ツンデレで妄想逞しい眼鏡っ子のおっぱいさんだ」
「そう並べられると、理央さんって属性が完璧だね!」
「だな」
二人はまるで本当の兄弟のように笑い合った。
ジュン、テッチ、タルケン、クロービスの四人は、
男の兄弟のいない八幡にとっては、かわいい弟のような存在なのである。
そして八幡は何か操作し、外にいる理央の姿をモニターに映した。
「ほれ、お待ちかねの相対性妄想眼鏡っ子だぞ」
「あっ、エロ師匠だ!やっぱりかわいい!」
「だな」
八幡は理央には聞こえていないだろうと思い、珍しく素直にそう同意した。
だが直後に理央がバッと顔を上げてキョロキョロし出し、
その隣にいた凛子がニヤニヤしながら画面に向かってこう言った。
「八幡君、聞こえてるわよ」
「えっ?」
「今の会話、全部」
「やべっ」
八幡は凛子にそう言われ、慌ててモニターを切った。
「あはははは、あはははははははは」
それを見たクロービスは腹を抱えて笑い、八幡は頭を抱えた。
「やばい、後で理央に殴られる……」
「八幡さん、ドンマイ!」
「お、おう、俺ドンマイ……」
ちなみにこの後、ログアウトした八幡に対し、理央は責めるような事は何も言わなかった。
むしろ逆に機嫌良さそうに見え、八幡は内心で首を捻ったものだ。
それは当然二人の最後の会話に起因している。
『あっ、エロ師匠だ!やっぱりかわいい!』
『だな』
理央の女心は、複雑なようで案外単純なのであった。
「さてクロービス、ここからが本題だ。
さっきめぐりんがお前の望みを叶える為にアメリカに行くと言ったが、
実はあれはちょっと違う。正確には、お前が俺の提案を受け入れたら、という条件がつく」
「そうなんだ、その条件って?」
「お前にとっては残酷な提案かもしれないから心して聞けよ」
「う、うん」
そして八幡はクロービスに何か提案し、クロービスはそれに即答した。
「マジすか、それじゃあそれで!」
「いいのか?」
「むしろ願ってもないというか、さすがは兄貴って感じ?」
「そうか」
八幡は短くそう答えると、いきなりクロービスを抱きしめた。
その体は震えており、明るく気丈に振舞っていても、やはり怖いのだろうと思われた。
「大丈夫か?」
「ありがとう八幡さん、会いに来てもらったしもう大丈夫だよ。
俺、最後の最後まで頑張るから、俺の葬式の時は笑って見送ってくれよな!」
「分かった、頑張るんだぞクロービス、いや、清文、男と男の約束だ」
「うん、約束!」
この時の男と男の約束を、八幡とクロービスは最後まで守り通した。
6Gについての話は適当です!