その数日後、ナユタは再びアスカ・エンパイアの地にいた。
いよいよ今日からALOとのコラボイベントが始まるからである。
「わっ、わっ、来た来た、凄いなぁ、あの演出」
見ると空に巨大な宇宙船の映像が映し出され、
それが徐々にアスカ・エンパイアの地に降下してきているのが見えた。
周りでは沢山のプレイヤーがその様子を撮影しており、
夜には動画サイトでこの動画が話題になるだろうと思われた。
「さて、準備はこれで良しっと、この見た目なら多分絶対に私だってバレないよね」
その言葉通り、今のナユタは金髪であり、目には例の目隠しを付けていた。
服装は結局巫女服のままであった為、和洋折衷の不思議な雰囲気となっている。
ハチマンにきつく言われている為、ナユタは普段から胸を隠す用に別の胸当てをしているが、
ヴァルハラ・ウルヴズのメンバーの前に出る時は、それを外すつもりでいた。
「さて、ここからどうなるんだろ?このまま着地するのかな?」
ナユタはそう呟きながら、宇宙船『トラフィックス』の方を注視していた。
やがてトラフィックスは空中で停止し、そこから光の帯のような物が地上へと延びてきた。
「あ、そういう……」
そしてトラフィックスから人の一団が次々と地上へと降りてきているのが見えた。
よく見るとその先頭はヴァルハラ・ウルヴズの面々であり、ハチマンやアスナの姿も見える。
「先頭かぁ、やっぱり凄いなぁ……まあ探すのが楽だからいいんだけど」
そう思いながらナユタは、人ゴミをかき分けてその着地点へと向かった。
「ここがアスカ・エンパイアなんだ、凄く日本っぽいね」
「だな、古き良き日本って感じだな」
「江戸チックよねぇ」
「こういうの、嫌いじゃないぜ!」
一番最初に地上に降り立ったヴァルハラ・ウルヴズの面々は、そう言いながら歩き始めた。
周りはすっかりアスカ・エンパイアの野次馬プレイヤー達に取り囲まれているが、
そんな事を気にする彼らではない。
「さて、これからどうする?自由行動か?」
「自由行動にするにしても、集合場所を先に確保しておきたいところだよなぁ」
「それじゃあとりあえず全員で行動して、それっぽい場所を探す?」
「本来ならそうしたいところだけれど、
でもこの街、ヤオヨロズっていうらしいけど、相当広いらしいわよね?」
「だな、仕方ない、いくつかの集団に分かれてそれっぽい場所を探すか」
今日参加しているのはヴァルハラ・ウルヴズの全員ではなく、その一部のメンバーである。
それでもその人数はかなり多い。
ハチマン、アスナ、キリト、リズベット、シリカの帰還者用学校組を始めとして、
ユキノ、ユイユイ、イロハ、ユミー、コマチ、リーファの初期組と、
シノン、セラフィム、フカ次郎、レコン、ナタク、スクナがALOから参加しており、
GGO組からはレン、シャーリー、ゼクシード、闇風、ミサキの五人が参戦していた。
クライン、エギル、フェイリス、クリスハイトは仕事であり、
クリシュナ、メビウス、アルゴ、リオンも先日の一件があり、リアルで精力的に活動中だ。
ソレイユもその関連で色々動いており、レヴィがその護衛をしている。
クックロビンとアサギは映画関連で欠席しており、
ユッコとハルカはどうしても断れない合コンに参加中、薄塩たらこは車の教習所通いらしい。
「それじゃあハチマン、どう分ける?」
「今日は全部で………二十二人か、五人六人で四組に別れるか。
ジャンケンで決めてたら時間がかかってしょうがないし、
ずっとそのチームで動く訳でもない、ここは暫定的にくじ引きか何かでいこう」
その意見には特に反対もなく、一同は即席で作られたクジを引いた。
そしてその結果をキリトが発表していった。
「それじゃあ発表するぜ、
一組目はハチマン、アスナ、ユキノ、セラフィム、シノン、ミサキの六人だ」
「え、俺がそのメンバーを引率するのか?」
「ハチマン君、私達に何か文句でもあるのかしら」
「そうよそうよ、私達と一緒は嫌なの?」
「ハチマン様、心外ですわぁ」
「い、いや、まったく文句はありませんです、はい」
ハチマンはユキノとシノンとミサキに威圧され、思わず敬語になってそう答えた。
「二組目、俺、リズ、ユイユイ、ユミー、ゼクシード。
三組目、イロハ、シリカ、コマチ、リーファ、フカ次郎、シャーリー。
四組目、レン、闇風、レコン、ナタク、スクナ、以上!」
「一応戦闘になる可能性もあるが、GGO組は銃の威力が減衰してるから注意してくれな」
「まあそれは仕方ないな、バランス調整は無理だろうし」
「貫通力が減らされて、鈍器扱いになってるだけらしいから、
その事だけ覚えておけばいいのではないかしらね」
「なるほど、そういう調整なんだね」
そのユキノの説明に、ゼクシードは納得したように頷いた。
「弾丸で殴る!いいねぇいいねぇ」
「師匠、フルボッコにしてやりましょう!」
「レン、お前は最初から好戦的すぎだ、もう少し自重しろ、闇風もな」
「は~い」
「おうよ!」
ハチマンはそんな二人に苦言を呈し、レンはぺろっと舌を出し、
闇風はニヤニヤしながらそう答えた。この男、内心ではやる気満々のようだ。
「はぁ、まあいいけどな。とりあえずそんな感じで東西南北に分かれよう、
一組目から順番に東西南北って割り振る感じで」
「全員が集まれるような広場や大きいお店、
その他諸々の施設が見つかったらとりあえず情報共有ね」
「だな、それじゃあみんな、気負わず楽しんでくれよな」
そして四組はそれぞれの方向に散っていった。
「う~ん、私が姿を見せるのは全員が集まった時でいいのかなぁ、
とりあえずハチマンさん達の後をついていけばいっかぁ」
その一部始終を見ていたナユタはそう判断し、
少し距離をおいてハチマン達の後をついていく事にした。
「くそっ、イライラするぜ、最近例のはぐれの女忍者にやられっぱなしだな」
「力関係が完全に逆転してるよな」
「あの戦巫女がなぁ……四、五人でもやられちまうし、厄介すぎる」
「このままじゃ忍者とか関係なく、他のギルドの連中になめられちまうぜ、
しばらく大人数で動く事にしようぜ、数もまた力なり、だ」
トラフィックスが降下してきたその少し前、
少し離れた茶屋に忍装束を着た男達が集まっていた。
ナユタとコヨミを相手に最近負け続けのこの忍軍は、
AEの中ではそれなりの規模を誇る大手のギルドであり、その名を『忍レジェンド』という。
その構成メンバーは一度に全員が集まる事はないが百人を超え、
今ここにはその四天王と言われる幹部連中が集まっていた。
その名も『トビサトウ』『ロクダユウ』『スイゾー』『ユタロウ』と、
それぞれ鳶加藤、百地三太夫、服部半蔵、風魔小太郎ら、
有名な忍者の名前をもじったものになっていた。
ちなみにリーダーはおらず、この四人がそれぞれ二十五人くらいずつの配下を従えている。
今日この場には、それぞれが四人ずつ、本人達を合わせて合計二十人が集まっていた。
「しかしうちのギルドには本当に女性メンバーがいないよな」
「まあそれはどのゲームも一緒だろ」
「最初はあのコヨミってのを、うちのギルドの姫にしようって思ってたんだよなぁ」
「今じゃ不倶戴天の敵だけどな」
「どうしてこうなった」
「ああもう、ストレスがたまるぜ」
「今日はせっかく数がいるんだ、勢力拡大の為にどこかのギルドとやりあうか?」
「そうだなぁ……」
四人は腕組みしながらどうしようかと考えていたが、
その四人の目に、空中から徐々に降下してくる巨大な宇宙船の姿が映った。
「うおっ、おい、あれ!」
「あ、例のイベントって今日だったか?」
「そうだそうだ、宇宙船トラフィックスって奴だな」
「業界ナンバーワンのALOと、ナンバースリーのGGOがつるんだっていうあれか」
「ちょっと見にいくか?」
「だな、行ってみよう」
こうして忍レジェンドのメンバー達は、トラフィックスの所へ向かった。
「ぬっ、おい、あれを見ろよ」
「あ、あんなに女性メンバーが沢山居るなんて、ALOとGGOはどうなってんだよ!」
「しかもレベルが高え……」
「待て待て、後続は男ばかりだぞ、きっとあいつらが特殊なんだ」
「許せん……」
忍レジェンドのメンバー達は、
先頭をきって船から降りてきたヴァルハラのメンバー達を見て、驚愕のあまり目を見開いた。
それは彼らが置かれた状況からすると、当然許しがたいものであったようだ。
「どうやらあいつら同じギルドみたいだな、これ見よがしに女連れアピールをしやがって」
「後続の連中の何組かがわざわざ挨拶しにいってるな、有名なギルドなのか?」
「確かALOとGGOのコラボイベントの即席ギルドは、ナイツっていうらしいぜ」
「ほうほう、って事はあいつらは、かなり有名なナイツなんだろうな」
「そりゃまああれだけ女がいれば有名にもなるだろ」
「どうするよ」
「う~ん」
相手の方が数が多い為、どうするか悩んでいた忍レジェンドのメンバー達の目の前で、
ヴァルハラのメンバー達は四組に分かれ、それぞれの方向へと散っていった。
「お、四組に分かれたな」
「男が二人に女が三人のチームと、男が三人に女が二人のチーム、
それに女だけのチームはいいとして……」
「問題はあそこだな、男が一人に女が五人だと……!?」
「これは許せんな」
「しかもその五人があの男を取り合ってるように見えるんだが?」
「あの男をボコらないと気がすまん、卑怯と言われても構わん、行くぞお前ら」
「「「おう!」」」
こうして忍レジェンドの幹部連とその一行は、ハチマンを狙って動き出した。