ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第709話 忍レジェンドの姫

 ナユタがハチマン達を追い、忍レジェンドの面々もその後を追った頃、

コヨミもまた、宇宙船トラフィックスを見物する為にその広場にいた。

 

「うわぁ、何あれ、あれが噂のヴァルハラって奴かな?

凄いなぁ、風格があるなぁ、しかも後続のナイツの連中がわざわざ挨拶に行ってるよ……

まあ睨むだけで素通りするナイツも多いみたいだけど」

 

 この言葉から、コヨミがそれなりに他のゲームに関しての情報収集をしている事が分かる。

 

「それにしても女の子が多いなぁ、いいなぁ、いいなぁ……

ま、まあ私にはナユさんがいるから別にいいんだけど!」

 

 その口調からは少し悔しさが滲んでいたが、それは仕方ない事だろう。

ハチマン達が特殊すぎるのであって、コヨミのような女性プレイヤーの絶対数は、

まだまだどのゲームでも少ないのだ。

 

「四組に分かれるんだ、あの人がリーダーっぽいなぁ、

う~ん、随分モテてるけどどんな人なんだろ、ちょっと後をついてってみようかなぁ」

 

 コヨミも特に理由もなくそう考え、ハチマン達の後をついていく事にしたようだ。

ちなみに今の位置関係は、先頭がハチマン達六人、その後ろに忍レジェンド、

その後ろにコヨミ、最後方がナユタという順番になっていた。

 

「あ、あれ?あいつら……」

 

 まだこの周辺には多くのプレイヤーが混在していたが、後方をいくコヨミは、

明らかに自分と同じようにハチマン達のチームを追いかけている、

もうすっかり顔を覚えてしまった忍レジェンドの面々に気が付いた。

 

「あいつら何やってるんだろ……随分と物々しい雰囲気だけど……」

 

 ヤオヨロズの街には所謂宿場町が各所に点在しており、

その宿場町同士を街道が繋ぐ感じで巨大な街が形成されている。

今はまだ宿場町の範囲内なのだが、まもなく街道に出る事になる。

コヨミはそこで何かあるかもしれないと考え、息を潜めながらその後をついていく。

そしてその後ろで今、ナユタは激しく悩んでいた。

 

「何故コヨミさんとその敵対ギルドまでハチマンさん達の後を追いかけてるんだろう、

コヨミさんに理由を聞いてみたいけど、でもこの状況で話しかけるのもなぁ……」

 

 そんな状況の中ハチマン達は、

後方からプレイヤーの集団が後を付いてきている事に気が付きながらも、

特に脅威だとは感じられなかった為、そのまま放置してAEの世界を楽しんでいた。

 

「おお、こういう景色って新鮮だな」

「時々NPCっぽい飛脚が通るのもいいわね」

「スズメとかもいるんだ、何か落ち着くなぁ」

「そろそろ街道って奴か、何かあるとしたらそこだから、

まあそれまでは散歩のつもりでのんびりいくか」

 

 その推測通り、街道に出てしばらくした後、後方の集団がこちらに走ってきた為、

ハチマンは一応自分達とは無関係だった時の事を考え、一歩脇にずれて道を空けてみた。

だがその集団がハチマン達の隣で止まった為、ハチマンはやっぱり俺達が目的かと思いつつ、

その集団の先頭にいる者達に声をかけた。

 

「俺達に何か用か?ここにはついさっき来たばっかりだから、

敵対されるような事は何もしてないはずなんだけどな」

「お前はその存在自体が俺達と敵対してるんだよ!」

「くそっ、これ見よがしに女をはべらせやがって!羨ましい!」

 

 その言葉を聞いたハチマンは、またかよといった表情で仲間達の方を見た。

 

「ハチマン様、私の後ろへ」

「またそのパターンなんだ」

「まあどこにでもそういう人達はいるよね」

「そうねぇ、確かに目の毒だったかもしれないわね」

 

 一歩前に出て盾を構えたセラフィムの後ろで、アスナ、ユキノ、シノンの三人は、

やれやれといった表情でそう言った。

そしてミサキがハチマンにしなだれかかりながらこう言った。

 

「あらごめんなさぁい、こんな風に見せつけてしまった私達がいけないのよねぇ」

 

 ミサキは煽る気満々のようで、ハチマンは苦笑しながらミサキから少し距離をとった。

 

「あらハチマン様ったらいけずですわぁ、私、最近欲求不満ぎみですのよ」

 

 ハチマンはそんなミサキに何か言おうとしたが、その目が獰猛な光を湛えていた為、

何も言わないで様子を伺う事にした。

こういう時に割り込んできそうな他の四人も、その気配を感じたのか何も言おうとはしない。

むしろハラハラしているのは、その様子を後方で伺っていたナユタであった。

 

「もう、ハチマンさんったら、あんなにデレデレして」

 

 一応断っておくが、ハチマンは決してデレデレなどしていない。

だが遠くにいるナユタからはそう見えたようで、

ナユタは拳を握り締めながらどうしようか悩んでいた。

 

「う~ん、ここで出ていくのもありなんだよなぁ、どうしようかなぁ……」

 

 ナユタは格好良く登場して忍レジェンドの面々を蹴散らす自分の姿を想像し、

一歩前に踏み出そうとした。だが次の瞬間に、前にいたコヨミが先に動いた。

 

「待て待て~い!あんたらAEの恥をさらしてんじゃないわよ、格好悪い!」

「あ、あれ、お前は確か……」

 

 ハチマンはコヨミの顔に見覚えがあり、思わず声をかけそうになったのだが、

あの時自分はシャナの姿だったはずだと思いなおし、口をつぐんだ。

 

「邪魔すんなよ姫!」

「はぁ?おい佐藤、姫って何の事?」

 

 トビサトウにそう言われ、コヨミは思わずそう聞き返した。

 

「佐藤言うな!俺はトビサトウだ!」

「でもリアルだと佐藤さんなんでしょ?」

「ぐっ……」

 

 トビサトウはそれが事実だった為に言葉に詰まった。

そんなトビサトウに追い討ちをかけるようにコヨミは早口でこうまくしたてた。

 

「で、姫って何?今私の事姫って言ったよね?どういう事?

それとももしかして、私の事をかつて仕えていた殿様のところの姫設定にでもしてんの?」

「い、いや、それは……」

「ほら早く答えなさいよ佐藤!」

「そ、それは……くそっ、さっきあんな会話をしたばっかりに……」

 

 そしてトビサトウは、苦渋の表情でコヨミにこう言った。

 

「それは以前、始めてお前に会った時に、

あわよくばお前をうちのギルドの姫にスカウトしようと思ってたからだ……」

「はぁ?」

 

 その言葉にコヨミは訝しげな顔をし、何かに思い当たったようにハッとした顔をした。

 

「そ、それってまさか、オタサーの姫みたいな奴?」

「オタサー言うな!うちのギルドはこれでもかなりメジャーなんだぞ!」

「でもメジャーな割に、女性プレイヤーって見た事ないんだけど?

他の大手には数人は所属してるよね?」

「ぐっ……た、確かにうちにはクノイチは一人もいないが……」

「ほら、やっぱりそうなんじゃない!」

 

 コヨミはトビサトウを指差しながらそう言った。

だがそこでコヨミははたと動きを止め、ぶつぶつと何か呟き始めた。

 

「あ、あれ?でもそれっていわゆる逆ハーレム状態なんじゃない?

百人近くメンバーがいれば中には格好いい人もいるはずだし、

そうなれば彼氏いない歴イコール年齢の私にも、もしかして春が……」

「コヨミさん、何をぶつぶつ言ってるんですか?」

「あっ、ナユさん!」

 

 そこに追いついてきたのはナユタであった。

ナユタはコヨミに先を越されたと思って焦り、

特に考えもなく飛び出してきてしまったのである。

ハチマンはそんなナユタに話しかけようかどうしようかと迷ったが、

格好よく登場したいみたいな事をナユタが言っていたのを思い出し、

とりあえず様子を見る事にした。

 

「ん?もしかしてお前はあの戦巫女か?」

「イメチェンしたのか!」

 

 そのナユタの姿を見て、忍レジェンドの面々は何故か色めき立った。

 

「何ですか?」

「い、いや、その……」

 

 言いよどむその連中に、ナユタはきつい視線を向けた。

そんなナユタに横からコヨミが突然こんな事を言ってきた。

 

「ねぇナユさん、この人達、実は私を忍レジェンドの姫にしたかったんだってさ」

「はぁ?何ですかそれ?」

「ほら、オタサーの姫的な?」

「ああ……」

 

 ナユタはそれで意味を理解したが、コメントのし様が無い為に何も言えなかった。

その状況で先に口を開いたのは忍レジェンドの幹部達の方だった。

 

「いや、やっぱりそれは無しで」

「えっ、な、何で?」

 

 きょとんとするコヨミにはもう目もくれず、幹部達は口々にナユタに言った。

 

「おい戦巫女、頼む、俺達のギルドの姫になってくれ!」

「はい?」

「ルックス、実力、そしてそのプロポーション!俺達にはお前しかいないんだ!」

「ええええええええええ?私は?」

「チェンジで」

「きょ、胸囲の格差社会がこんな所にまで……」

 

 コヨミはそう言われ、がっくりと膝をついた。

 

「この姿になる前は何も言ってこなかったのに、どういう風の吹き回しですか?」

「いや、だってその姿ってどう見ても姫っぽいじゃん!」

「それに前は、一方的にやられるばっかりで、

あんたの事をちゃんと見た事がなかったからな」

「……私の名前を知った上で言ってるんですよね?」

 

 ナユタはハチマンをチラリと横目で見ながらそう言った。

 

「当然だ!あんたのバックに怖い人がいるのは知ってるが、

姫になれば逆に俺達があんたの事を全力で守る!」

「当然身内であんたを口説こうとするような不届き者はいないし、

口説いてきた奴らも絶対に排除する。だから真面目に検討してみてくれ!」

「お断りします」

 

 ナユタは面倒臭そうにそう答え、四人はコヨミと同様がっくりとその場に膝をついた。

 

「や、やっぱり駄目か……」

「俺達の夢が……」

「そ、それなら私でいいじゃない、ね?ね?」

 

 そのやり取りを受け、がっくりしていたコヨミが突然立ち上がってそう言った。

 

「むう、消去法でそういう選択肢もあるのか……?」

「コヨミさん、血迷わないで下さい」

 

 横からナユタがそう言い、いきなりコヨミの首筋に手刀を入れた。

 

「ぐふっ……」

 

 それでコヨミは目を回し、その場に崩れ落ちた。

完全に気絶させないように調整された、見事な力加減である。

そしてナユタはそんなコヨミの体を片手で持ち上げながら一同に言った。

 

「すみません、お騒がせしました、私達はこれで失礼します」

 

 ナユタはそう言ってスタスタと立ち去った。

どうやらこれ時以上この場にいても仕方が無いと思ったのだろう。

 

(優里奈の奴、絶対後で姿を変えて登場してくるんだろうな)

 

 ハチマンは内心で笑いを堪えながらそんな事を考えつつも、

この空気を何とかしなくてはと思い、忍レジェンドの面々にこう言った。

 

「で、お前らは俺達に何か文句があるんだよな?」

 

 そのハチマンの言葉に幹部達はハッとした。

 

「そ、そうだった!」

「こうなった以上、お前だけは許せん!」

「八つ当たりかよ……」

 

 こうしてハチマン達と忍レジェンドのメンバー達は、再び対峙する事となったのだった。

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