ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第710話 ミサキさんそのくらいで

「ああもう、まったく意味が分からない、何でこんな事に……」

 

 ナユタはイライラしながらそう呟き、少し離れた所でコヨミを下におろした。

 

「コヨミさん、いい加減に起きて下さい、こんな所で寝てたら風邪をひきますよ」

 

 そう、以前どこかで見たような光景が再び繰り返された。

それで目を覚ましたコヨミは、目をこすりながらきょろきょろと辺りを見回し、

そしてナユタと目が合った。

 

「う、う~ん、ここはゲームの中だから風邪なんかひかない……ってナユさん?」

「ええ、そのナユさんです」

「え?え?何でここにいるの?」

「偶然ここを通りかかったら、コヨミさんが寝てるのを見つけて声をかけたんです」

「そっかぁ、ごめんごめん!ナユさんと知り合ってから、どうもこういう事が多いんだよね、

直前まで何をしてたか思い出せないっていうかさ」

 

 ナユタはそのコヨミの言葉に黙って微笑むだけだった。

自分からは何も言わない方がいいと判断したのだろう。

 

「そういえば、沢山の男の人にちやほやされる夢を見たような……」

「コヨミさんに限ってそんな事ある訳ないじゃないですか、夢ですよ夢」

「ううっ、何気にナユさんがひどい……」

 

 コヨミは落ち込んだような顔をしたが、すぐに立ち直って笑顔でナユタに言った。

 

「そういえばナユさん、宇宙船トラフィックスがついにやってきたね、

これからちょっと見物にいかない?」

「そうですね……」

 

 ナユタはヴァルハラの一部のメンバーに顔バレしてしまった以上、

先にどこかの店で適当な装備を買って姿を変えようと思っていたのだが、

目隠しを外して髪の色を再び変えればいいのだと思い当たり、

そのコヨミの提案に乗る事にした。

 

(まあ別にどうしても今日接触しなくちゃいけない訳でもないしなぁ)

 

 ナユタはそんな事を考えながら、コヨミの目の前でいきなり髪の色をピンクにした。

 

「うわっ、ナユさん、いきなりどうしたの?」

「イメチェンです、コヨミさんもたまにはどうですか?」

「イメチェンかぁ、そしたら私も男の人にモテるようになるかな?」

「なりません」

「ひどい……」

 

 だがナユタはクスクス笑いながらそう言った為、

コヨミもそれが冗談だとすぐに分かったのか、明るい顔でこう言った。

 

「それじゃあ行こっか!」

「はい、そうですね」

 

 そして二人は仲良くトラフィックス見物に向かったのだった。

 

 

 

「さて、俺を許せないのは分かったが、具体的にはどうするつもりだ?」

「全員でボコる!」

「ほうほう、シンプルで結構だ、それじゃあ早速やりあおうか」

 

 そう言ってハチマンは雷丸を抜き、二本に分離させた。

 

「何だその素敵な武器は、まさかお前も忍なのか?」

「羨ましいか?ふふん、いいだろこれ?」

「ぐぬぬぬぬ、羨ま……ま、ま、益々許せん!」

「俺としては仲良くしたいと思うんだが、まあそういう事なら仕方ないよな」

 

 ハチマンは女性陣に戦わせる事をよしとしなかったのか、

そう言って自らが一歩前に出て戦闘体勢をとった。だがその前にミサキがスッと進み出た。

 

「ハチマン様、この方達は私と先約がありましてよ?」

「先約……ですか、もちろん止めても聞きませんよね?」

「当然ですわぁ、私、本当に欲求不満ですのよ?」

「わ、分かりました、お任せします」

 

 ハチマンはそう言ってミサキに場所を譲り、それを見たロクダユウはいきり立った。

 

「おい、ふざけるなよ、女を盾にしやがって」

 

 その瞬間にミサキは一歩前に出たロクダユウの頭をガシッと掴み、

自身の膝に思いっきり叩きつけた。

 

「ぐはっ……」

「何を勘違いしているのかしらね?

ハチマン様が私達を盾にするのではなく、私達がハチマン様の盾をしているのよ?

その辺りの機微は、女性にモテないらしい貴方達には分からないのかもしれませんけど」

 

 ミサキはそう言って艶然と微笑んだ。

その手には血塗れのロクダユウがぶら下がっている。

 

「さて、次はどなたが相手をして下さるのかしらぁ?」

 

 ミサキは上目遣いでそう言い、何げなくロクダユウをぽいっと放り投げた。

その仕草は特に力が入っているようには見えなかったが、

ロクダユウは凄まじい勢いで吹っ飛び、そのまま何度も地面を跳ねて草むらに突っ込んだ。

そんな光景を見せられた残りの三人は咄嗟に言葉が出ず、

呆然とその草むらの方を見つめていた。だがその隙を見逃すミサキではない。

ミサキは次にスイゾーに狙いを定め、その顎をつま先で蹴り上げた。

 

「うがっ!」

 

 スイゾーはその攻撃をまともにくらい、上を向いたまま大の字で地面に倒れた。

驚愕すべきはまったく年齢を感じさせないミサキの体の柔らかさである。

ちなみにリアルでのミサキはこんな事は絶対に出来ない。

これは例のハチマンのアドバイスに従い、

ゲームの中で自由自在に体を動かす訓練をしたミサキの努力の成果である。

 

「ミサキさん、普段の動きを見てて思ってましたけど、随分体が柔軟になりましたね」

「ハチマン様の言葉に従って、

これくらいの動きは出来ると自分に思い込ませた成果ですわ」

 

 ハチマンのその褒め言葉にミサキは花のように微笑んだ。

自分が努力していた事をハチマンがちゃんと見ていてくれた事がよほど嬉しかったのだろう。

そして直後にミサキから放たれた次のセリフは、ミサキの機嫌の良さを示すものであった。

 

「今が最大のチャンスでしたのに、

残るお二人は私のスカートの中を見る機会を逃してしまいましたわね、

仕方ないから少しサービスして差し上げましょうか」

 

 その言葉に敏感に反応し、残るユタロウとトビサトウが、

思わずミサキの腰の辺りに視線を注いでしまったのは仕方がない事なのだろう。

 

「そんなに見られると、興奮してしまいますわぁ」

 

 そう言いながらミサキは自らのスカートの裾を持ち、僅かに上へと持ち上げた。

おそらく二人の視線をそこに引き付け、何かを仕掛けるつもりだったと思われる。

実際その狙い通りに二人は視線を下げたのだが、

その瞬間にいつの間に飛び出したのか、アスナが暁姫でユタロウの胸を貫き、

トビサトウはシノンの弓に射抜かれた。

 

「あら、二人とも素早いですわね」

「まあ隙だらけだったしね」

「まったくこれだから男って生き物は……」

 

 二人はそう言って肩を竦め、ユタロウとトビサトウはそのまま消滅した。

 

「ミサキさん、まあそのくらいで」

「まあそうですわね、欲求不満も多少は解消出来ましたわ」

「ハチマン様、残ったこれはどうしますか?」

 

 その時今回見せ場が無かったセラフィムが、

いつの間にか草むらの中からロクダユウを拾ってきてそう尋ねてきた。

こちらも中々素早い動きである。

ロクダユウを物扱いしているのはまあ活躍出来なかった事への八つ当たりであろう。

 

「ハチマン様、こちらの殿方もどうしましょうか」

 

 そう言って倒れていたスイゾーをあっさりと持ち上げ、ミサキもハチマンに見せてきた。

 

「どうすっかな……おいユキノ、ユキノはこいつらをどうすればいいと思う?

ってユキノ?どこだ?」

 

 ハチマンはユキノに相談しようとその名前を呼んだが返事がない。

見るとユキノは少し離れた所で何か黒い物をいじっているようだ。

 

「にゃぁ………にゃぁ?」

 

 ユキノの方からそんな声が聞こえ、それでハチマンは事情を悟った。

おそらくユキノはNPCか何かの猫を見つけ、

こちらが争う様子などどこ吹く風で、それに夢中になってしまったのだろう。

 

「……まあユキノはあのままでいいか、

で、こいつらをどうするかだが、別にこいつらに恨みとかがある訳じゃないんだよな」

「そうね、ただの降りかかった火の粉だもんね」

「火の粉ほど熱くはなかったけどね」

「まあ懐柔しておけばいいか、何かの時に役に立つかもしれないしな」

 

 ハチマンはそう身も蓋もない事を言うと、

とりあえず二人を受け取って地面に座らせ、その頬をぺちぺちと叩いた。

 

「おい、起きろ」

「う……うわああああ!」

「ひ、ひいっ!」

 

 二人は完全に怯えており、そんな二人にハチマンは申し訳なさそうにこう言った。

 

「悪いな、うちの女性陣は血の気が多くてな」

「な、何なんだよお前ら!俺達はこれでもAEの中では上の下くらいの実力はあるんだぞ!」

「あ~……まああれだ、俺たちは言うなれば、ALOとGGOの最高戦力だからな、

別にお前達が弱い訳じゃないからその辺りは安心してくれ」

「何だよそれ……」

「上の上ですらなく、更にその上って事かよ……」

「まあそんな感じだな、俺達はヴァルハラ・ウルヴズだ、

ネットで調べればその名前が簡単に出てくると思うから、

今後は喧嘩を売る相手を間違えないように暇な時にでも俺達の事を調べておくんだな」

 

 そう言った後、ハチマンは何か合図をするようにアスナとシノンの腰をぽんぽんと叩いた。

それを受けてアスナとシノンは態度を軟化させ、ロクダユウとスイゾーにこう言った。

 

「まあドンマイだよ」

「自衛とはいえ少しやりすぎたわ、ごめんなさいね」

 

 ロクダユウとスイゾーは、自分達が悪いにも関わらず美人の女性に優しい言葉をかけられ、

それで一発で参ってしまったようだ。

 

「あ、ありがとうございます!」

「AE内で何か困った事があったら、いつでも俺達を頼って下さい!」

「そう?それじゃあその時は宜しくお願いね」

「「はい!」」

 

 こうして飴と鞭を上手に使い分け、ハチマンは難無くヴァルハラのシンパを手に入れた。

まあ概ねハチマンの思惑通りの結果になったと言えよう。

以後忍レジェンドの幹部達は、時々遊びにくるハチマンに鍛えられ、

後にとある大事な戦いに参加する事となる。

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