「ところでイヴさん、どうしてG女連の方々は、
ハチマンさん達と接触しようとしてるんですか?」
「あ~、うん、うちってさ、メンバーは女性オンリーな訳じゃない?
で、今回みたいに初見の場所に来た場合、どんな危険が潜んでいるかある程度分かるまでは、
何があろうと絶対安全なヴァルハラの近くにいるのがいいんじゃないかって、
そう、おっかさんが判断したみたいなの」
「ああ、そういう事ですかぁ」
「確かにおかしなギルドもいっぱいあるからね、ここ」
そのイヴの言葉にコヨミもそう同意した。
「このイベントが逆にGGOにAEの人が上陸するって設定なら、
そんな心配をする必要はまったくないんだけど、何もかもが初めての土地だからねぇ、
万が一すら起こらないように気を遣ったんじゃないかなぁ」
「まあ用心するに越した事はないですしね」
「まあそんな感じかなぁ、もっともまだハチマンさんにはその事を話せてないんだけどね」
「きっと大丈夫ですよ、ハチマンさんは優しいですからね」
「その辺りはまったく心配してないんだけどね。
ところでナユちゃん達はここで何をしてたの?トラフィックス見物?」
「えっとですね……」
ナユタはイヴにどう説明しようか悩んだ。
今は隣にコヨミがいて、おかしな事を言えないという事情もある。
イヴはちらちらとコヨミの方を何度も伺うナユタの態度でそれを察し、
コヨミにこんな頼み事をした。
「コヨミちゃん、AEって何か美味しい食べ物とか売ってないの?」
「ああ、甘味処、化け猫茶屋のわらび餅とかがお勧めかなぁ」
「そうなんだ、でも今はここを離れられないしなぁ」
そのイヴのある意味誘導するような言葉にコヨミは見事に引っかかった。
「あ、それじゃあ私が買ってくるよ、すぐ近くだしね」
「え、いいの?ありがとうコヨミさん!」
「気にしないで、ナユさんの友達は私の友達だから!それじゃあ行ってくる!」
コヨミはそう言うと、凄いスピードでどこかに走り去っていった。
「………いい子じゃない」
「………はい」
「あの子とナユちゃんって微妙に他人行儀かなって思ったけど、
とりあえず様子見してる最中とか?」
「はい、実は出会ってからあまり時間が経ってないんですよね、
でもまあ信用出来そうなら色々話そうかなって思ってます」
「いい友達になれるといいね」
「はい!」
そしてコヨミが戻ってこないうちにと思い、ナユタはイヴに事情を話した。
「実は私、ゲームの中でヴァルハラの人達に会うのって、今回が初めてなんですよ」
「ふむふむ」
「なのでサプライズっぽく印象的で格好いい登場の仕方をしたいなって」
「ぷっ」
そのナユタの言葉にイヴは思わず噴き出した。
「わ、笑わないで下さい!」
「ごめんごめん、何かかわいいなって思ってさ」
イヴはそう言うと、ナユタの髪にちらっと視線を走らせた。
「もしかして、その髪の色もその一環?前は確か黒髪だったよね?」
「はい、実は当初の予定だと、こんな格好をするつもりだったんですよ」
ナユタはそう言って、髪を金髪に戻し、例の目隠しをした。
「なるほど、まったく印象が違うね」
「ですよね、いい感じだと思ったんです!で、ついさっき、
忍レジェンドっていうギルドの連中がハチマンさん達に絡んだんですけど、
それをチャンスだと思って正義の味方風に登場しようと思ったら、
コヨミさんに先を越されちゃって、焦って私も突撃したら、
ハチマンさん達よりも先にその忍レジェンドってギルドの人に話しかけられてしまって、
微妙な感じの登場になっちゃったんですよ……
で、まずいと思ってコヨミさんを殴って気絶させて、ここに戻ってきたという訳なんです」
「な、何か物騒な言葉が混じってた気がするけど、まあ大体事情は分かったよ」
内心でナユタって案外武闘派なんだなと思いつつ、イヴはそう言った。
「で、とりあえず応急処置的に髪をピンクにして、
このまま登場しようかって思ったんですけど……」
「う~ん、何か物足りないね」
「やっぱりそうですよね……」
ナユタはそう言って落ち込んだ。そんなナユタを見て力になってあげたいと思ったのか、
イヴはナユタにこんな提案をしてきた。
「大丈夫だって、私に任せて。仲間に余ってる装備を貸してもらうから、
それを使って変装すればいいよ」
「い、いいんですか?いいなら是非それでお願いします!」
「それじゃあちょっと待ってて、みんなに話してくるから」
イヴはそう言って仲間達の方に走っていった。
残ったナユタは期待に目を輝かせながらそちらの方を見ていたのだが、
どうやら無事に承諾を得られたらしく、沢山の女性達がナユタを取り囲んだ。
「この子がハチマンさんのお知り合い?」
「おお~、これはこれはいいものをお持ちで……」
「これはいじりがいがあるわね、髪型は私に任せて!」
「とりあえず片っ端から着てもらおうよ」
こうしてナユタはG女連の女性達の着せ替え人形となった。
様々な服がナユタに着せられていき、その度に周りの女性達は歓声を上げた。
「どれも甲乙付けがたいね」
「というかどれも似合っちゃうんだなぁ、さすが美人は特だねぇ」
「早く決めてよ、そこに髪型を合わせるから」
「ナユちゃんは何か気に入った服はあった?」
「えっと、私は普段滅多に着られないような服がいいかなくらいしか」
「なるほどなるほど、それじゃあ普段の私服姿から考えると……」
そしてイヴは、仲間達にこう言った。
「それじゃあ基本はドレス、それも思いっきりかわいい感じの奴メインでお願い」
「オッケーオッケー、さあナユちゃん、着飾るわよぉ?」
「は、はい、お手柔らかにお願いします」
ここからはスムーズに事が運んでいった。
フリフリのドレス、派手な色合い、そして強調された胸、
これに関してはハチマンが不快に思うかもしれないからと、ナユタが頑強に抵抗したのだが、
大きな胸が嫌いな男の子はいないとよってたかって説得され、渋々受け入れた形だ。
「さて、こんな感じかな?」
「いいねいいね、何か魔法少女みたい」
「これならさすがのハチマンさんも文句を言えないでしょ」
「というかナユちゃん、ハチマンさんが何を言っても笑顔を崩さず、
私気に入ってます風な態度をとらないと駄目よ」
「そうそう、そしたらハチマンさんも、何も言えなくなるからね、
まあもっとも私もハチマンさんが何も言えなくなるように別の策を練るつもりだけどね」
「わ、分かりました!」
「それじゃあ登場の仕方だけど、私はハチマンさんにこう話しかけるつもりだから……」
「ああ、それはありかもしれませんね、それじゃあちょっと考えてみます」
しばらくそうして何人かでああだこうだと話し合っていると、
遠くからざわつきのようなものが聞こえてきた。
「もしかしてハチマンさん達が戻ってきた?」
「あ、あれだあれだ」
「まずい、こっちからも来た」
「あれはキリトさんだね」
「どんどん来るなぁ、みんな、とりあえずナユちゃんを真ん中にして周りに立って!」
「ハチマン坊やの相手は私に任せな、
あんた達はとにかくこの子を坊やの視線から守るんだよ!」
「「「「「「はい!」」」」」」
こうしてヴァルハラ・ウルヴズの到着を受け、ナユタはG女連の者達の協力を得て、
ギリギリまで姿を隠す事となった。
「あれ、おっかさんにG女連のみんなも、来てたんですか」
「ああ、ついさっきね。で、下手に動くのはやめて、ここで坊やを待ってた訳さね」
「あっとすみません、こっちは周りの様子を確認しようと偵察に出てました。
俺に何か用事でもありましたか?」
「ああ、実はしばらく一緒に行動させてもらえないかと思ってねぇ」
「うちとG女連がですか?それは別に構いませんけど、何かありましたか?」
「うちの子達がここに慣れるまでは、
面倒なトラブルに巻き込まれないようにしたいと思ってね。
とりあえずヴァルハラと一緒に行動しておけばそんな心配はまず無いだろ?」
「ああ、そういう事ですか。分かりました、お引き受けします。
多分何かあってもうちのメンバーがいれば問題ないと思うんで」
「すまないね、それにしてもシャナの時も頼りになると思ったが、
その姿の時は更に威圧感が増してるじゃないか、さすがだねぇ坊や」
「いやぁ、まあシャナと違ってこっちには二年半の貯金がありますからね」
そしてG女連のメンバーとヴァルハラ・ウルヴズの中のヴァルハラ・リゾート組の、
簡単な自己紹介が行われた。ちなみに一番話題をさらったのは当然ユキノである。
「えっ、あんた、本当にあのニャンゴローなのかい?」
「えっと、は、はい」
「嘘っ、百八十度違う……」
「まあでも私達の中にもそういう人っているしね」
「普段の自分とはまったく別キャラになるのって楽しいよね」
「というかGGOのキャラ生成はランダムなんだし、そういう事ってよくあるよ!」
こうして和気藹々と交流を深めた後、一同はこれからどうしようか相談する事になった。
「とりあえず外でこうやって突っ立ってるのは問題があると思うし、
どこかの店なり何なりに移動したいところだな」
「さすがにこれだけの人数になると、さっき俺達が見つけた店だと狭いかもしれないな」
「現地のプレイヤーにいい施設が無いかどうか聞いてみるのもいいかもね」
「それじゃあ忍レジェンドの奴らに……」
ちなみに忍レジェンドの残党は、先に倒されたユタロウとトビサトウと街で合流し、
今はヴァルハラ・ウルヴズとG女連の交流を羨ましそうに遠くから眺めている状態だった。
「あ、ハチマンさん、ちょっといい?」
「あれ、イヴじゃないかよ、お前も来てたのか」
「うん、今日は半休だったの」
「おっ、そうだったのか、それはいいタイミングだったな」
ハチマンはイヴにも負担をかけている自覚があった為、
イヴがここに来れた事が素直に嬉しいようだ。
「でね、さっき言ってた店の件なんだけど、
丁度私達がついさっき知り合った子がいるんだよね、
もし良かったら、その人に紹介してもらうってのはどうかな?」
「お、そういう事なら是非お願いしたいところだな」
「とってもかわいい女の子だけど、ハチマンさん、変な事言っちゃ駄目だよ?」
「俺がそんな事をした事があるか?しないしない、するはずがない」
ハチマンはさも心外だという風にそう言い、
イヴは内心で言質をとったとほくそ笑んでいた。
「それじゃあ今ここに呼ぶね、ちょっと待ってて」
「おう」
そしてG女連の女性達の中からナユタが堂々と進み出てきた。
「初めまして皆さん、私は美少女魔法少女格闘家のナユタと言います」
ナユタはいかにも魔法少女という格好で、
極限まで胸を強調したデザインの服を着ていたのだが、
ハチマンは変な事を言わないと言った手前、突っ込むに突っ込めず、
とても複雑な表情をする事となったのだった。