ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第713話 被害者の会

「……………」

 

 ナユタを前にまったく動こうとせず、何も言おうとしないハチマンを訝しげに思いつつも、

場を動かす為にキリトが最初に動いた。

 

「肩書き長いなおい!」

 

 その言葉が呼び水になり、他の者も次々とナユタに話しかけ始めた。

 

「魔法少女なのに格闘家なの?どんな魔法が使えるの?」

「ごめんなさい、実は使えません」

「えっ、そうなの?あはははは、新機軸だね!」

「うわぁ、うわぁ、何か色々凄いなぁ、私もこうだったらなぁ」

「無いものねだりはやめろレン、私達はこれでいいんだ」

「でも、やっぱりちょっとは……ねぇ?」

「くっ、最近成長著しいとはいえ、

さすがにこんな魔王サイズまで成長するのは私には無理ね」

「むぅ、あたしだってサイズなら負けてないもん!」

「こういう正統派な服もありね、今度デザインしてみようかしら」

「あれ、これって前に僕がG女連の方に頼まれて作った奴に似てるような」

「んん~?なぁ闇風君、この子どこかで……」

「奇遇だなゼクシード、俺も気になってたんだよそれ。

どこだったかなぁ、シャナ絡みだと思ったんだけどな」

「ねぇ、格闘家って言ってたけど、攻撃は基本素手なの?専用武器とかは無いの?」

 

 こんな感じでいきなりの大賑わいである。

そんな仲間達の様子を見て我に返ったのか、ハチマンがやっと再起動した。

 

「お前ら、ナユタが困ってるだろ。あまり長く立ち話を続けるのもアレだし、

とりあえず先にどこかに案内してもらって一旦落ち着こうぜ」

「ハチマンさん、その前に、この子の格好ってどう思う?」

 

(ぐっ、こいつ、分かってて言ってやがるな……)

 

 ハチマンはイヴにそう言われ、イヴがナユタの正体を知っている事を確信した。

だがここで自分がイヴに何か言ってネタバレをしてしまう訳にもいかない。

今のナユタの格好についても色々言いたい事はあったが、

自分がいる事を分かった上でのこの格好なのだろうし、これくらいは大目にみるべきだろう。

ハチマンは無言のままそう考え、無難な褒め言葉を選択する事にした。

 

「いいと思うぞ。凄く似合ってるしな」

 

 そう言われたナユタはあからさまにほっとした顔をした。

 

(案外優里奈も俺に叱られないかと緊張していたのかもしれないな)

 

 ハチマンはそう感じつつ、ナユタが落ち着いた頃を見計らって仲間達に号令をかけた。

 

「それじゃあ出発だ、ナユタ、案内を頼む」

「はい!こっちです!」

 

 こうしてヴァルハラ・ウルヴズとG女連の合同チームは、

ナユタの案内で繁華街の方に向かって歩き始め、

その後を忍レジェンドの面々も、何となくついていく事になった。

そんな大軍勢と化したハチマン達の様子をこそこそと伺う集団があった。

 

「おい見ろよ、遂にあいつが帰ってきやがった」

「忍レジェンドは敵側に付くのか?」

「忘れもしないあの姿……よし、緊急連絡網を使って出来るだけ人数を集めろ」

「悪魔め……」

 

 そんな会話を交わしつつ、その男達はどこかへの連絡を続け、

そしてその場には、次々とAE所属のプレイヤーが集結を始めた。

 

 

 

 一方のんびりと観光気分で歩いているハチマン達である。

 

「ナユタ、これからどこに行くんだ?」

「はい、温泉旅館『安土』に行こうと思います」

 

 そのナユタの言葉に、ハチマンとキリトは顔を見合わせた。

 

「安土って、まさかとは思うが、安土城の事じゃないよな?」

「いいえ、そうですよ?ゲーム内で想像図を完全再現されていますね」

「マジかよ!」

 

 その言葉に一番食いついたのは、横にいたキリトであった。

 

「そうか、確かにゲーム内だとそういうのが可能なのか、これは盲点だったな」

「キリトさんはお城とかお好きなんですか?」

「もちろんだよ、男で戦国時代が嫌いな奴はいないよな、ハチマン」

「ああ、嫌いだという奴は男じゃねえ、何か別の生き物だな」

「そういうものですか……」

 

 その後も二人は大はしゃぎであった。闇風やゼクシード、ナタクにレコンもそれに乗り、

男性陣は大盛り上がりとなった。それと入れ替わるように後方に下がったアスナは、

苦笑しながらリズベットにこう話しかけた。

 

「私にはよく分からない話で随分盛り上がってるみたいだよ」

「まあ男ってどうでもいい事で盛り上がる事があるわよね」

「仕方ないですよ、多分そういう生き物なんですよ」

「ハチマン様、かわいい……」

「しかしここは江戸をメインで再現した街なのだと思っていたけれど、

そういう施設もあるのね」

 

 そこに同じく下がってきたナユタが、何気なくこう言った。

 

「近くに番町猫屋敷ってのもありますけど」

「ナユタさん、その話、詳しく」

 

 今度はユキノがそのナユタの言葉に盛大に食いついた。

 

「えっと、番町猫屋敷っていうのは、近くにあるオバケ屋敷の名前です」

 

 ナユタがそう言った瞬間に、アスナがビクッとした。

 

「確かALOのキャラでも普通に遊べる仕様だと、公式に書いてあった気がします」

「そう、名前からしてもしかしたらそうかもとは思ったのだけれど、

猫屋敷でオバケ屋敷……これはもう行ってみるしかないわね、アスナ」

 

 ユキノはそう言って、さりげなく遠くに離れようとしていたアスナの肩をガシっと掴んだ。

 

「い、嫌だよ、絶対怖そうだもんそれ!」

「大丈夫よ、怖いのは最初だけだから、ちょっとしたらきっと肉球が気持ち良くなるから」

「ユキノ、意味が分からないから!」

 

 そんな別ベクトルの盛り上がりをみせながら、一行は尚も歩き続けた。

 

 

 

 再び一方、こちらは甘味処、化け猫茶屋に買い出しに出ていたコヨミである。

ユキノがその事を事前に知っていたら、もう少しその場に残る事を主張したに違いない。

だが結果的にその選択がとられなかった事が、ヴァルハラにとっては幸いした。

 

「誰もいない………」

 

 コヨミはナユタにすっかり忘れ去られていた………訳ではなく、

その場にはトビサトウがメッセンジャーとして残されていた。

 

「コヨミさん、こっちこっち」

「あれ、佐藤さん、ナユさんとイヴさんは?」

「佐藤言うな!俺はトビサトウだ!」

「でも佐藤さんなんでしょ?」

「そのパターンはさっきやっただろ!まあいい、姫候補からの伝言だ、

ヴァルハラ・ウルヴズとG女連を安土に案内する事になったから、

申し訳ないけれどそっちで合流しましょう、だそうだ」

「ちょっと、どういう事!?」

「まあ置いていかれた事には確かに同情……」

 

 トビサトウはその事でコヨミが憤っているのだと思い、そう言いかけた。

だが次の瞬間コヨミは顔を真っ赤にしてトビサトウに詰め寄った。

 

「あんた達の姫候補筆頭は私でしょうが!」

「怒るとこそっちかよ!」

「何よ、他に何があるって言うのよ!」

「いや、まあそれならそれでいいんだが……」

 

 ナユタに置いていかれた事がコヨミ的に問題ないならそれでいい、

トビサトウはそう考え、言葉を濁すに留めた。

その時二人の耳に、こんな言葉が聞こえてきた。

 

「おい、あいつらはどこに行った?」

「情報によると、『安土』に向かったらしい」

「くそっ、逃げられたか!」

「いや、逆にこれは幸いかもしれん、安土といえば温泉だろ?

という事は、あいつらはそこにしばらく逗留するはずだ。

なので今のうちにここで傭兵を集めて戦力を充実させよう」

「確かにそれは名案だな!よし、ハチマンめ、目にものをみせてやるぞ!」

 

 その物騒な会話にトビサトウとコヨミは顔を見合わせ、ヒソヒソと会話を始めた。

 

「佐藤さん、これって……」

「あれは確か、『被害者の会』だな」

「被害者の会?何それ?」

「知らないのか?あんたの友人絡みの有名な話だぞ?」

 

 友人と言われ、コヨミの脳裏をよぎったのはナユタの顔であった。

まあ単純に、コヨミには他に友達がいないだけであったが。

 

「友人ってナユさんの事だよね?ああ、もしかして例の悪魔使いの噂の元ネタの?」

「ああ、姫候補にストーカーっぽく付きまとっていた奴を、

突然現れた恐ろしく強いプレイヤーがフルボッコにした例のあれだ。

あの事件の時巻き込まれた奴が相当いるらしくて、そいつらの集まりだな」

「だから姫候補筆頭は私だってば!」

「その話は一旦横に置いとけよ!」

 

 そこに拘るコヨミに対し、トビサトウは大きな声を出し、

二人は慌ててお互いの口を押さえた。

 

「佐藤さん、声が大きい」

「あんたもな」

 

 二人はそう言い合い、気まずそうな顔をした後、お互いの口から手を離した。

 

「とりあえず話を続けましょ、で、それが今、不穏な動きをみせている?」

「ああ、どうやらターゲットはうちの殿候補らしいな、

正直被害者の会はうちよりも全然大きな組織だから事を構えたくはないんだが、

報告くらいはしておくべきだろうな」

「殿候補ってハチマンさんの事?」

「当たり前だろ、他に誰がいるというんだ」

 

 その変節っぷりにコヨミは呆れたが、まあ本人達がいいならいいかと考え、

情報を頭の中で整理しつつ、トビサトウにこう尋ねた。

 

「まあいいや、というか忍レジェンドよりも全然大きな組織って、

ハチマンさんはどれだけやらかしたの?」

「情報によると数百人単位らしいぞ」

「うわ、やばいねそれ……まあでもナユさんがピンチなんだし、私は急いで安土に向かうね」

「うちとしてはその後はどう動く事になるかは分からないが、そこまでは付き合うさ」

「ありがと、佐藤さん」

「佐藤言うな!」

 

 こうして偶然情報を得た二人は、ハチマン達の後を追いかける為に同行する事になった。

急ぎ出発した二人の背に、こんな声が届いたが、

かつての敵味方である二人は、そのまま振り返る事なく並んで安土へと向かって走り出した。

 

「おっ、お兄さん、見るからに強そうだね、

実は俺達、凄く強いプレイヤー相手に戦わないといけないんだけど、

もし良かったらうちに傭兵として雇われてみない?」

「何?凄く強いプレイヤーだと?それは興味があるな、是非参加させてくれ。

今宵の魔剣グラムは血に飢えているのでな」

 

 こうして事態は急変する。


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