ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第714話 ハチマン君を拉致します

「おお、中々いいじゃないか」

「うわ、あの天守閣、格好良すぎだろ……」

「中は完全にぶち抜きか、さすがよく分かってるな」

「あっはっはっはっは」

「ははははは、ははははははは」

 

 仲間達がチェックインを済ませ、大部屋でくつろいでいたその頃、

ハチマンとキリトは早速二人で天守閣に突撃し、

その奇抜さに度肝を抜かれ、楽しくて仕方ないという風に高笑いしていた。

 

「あの二人、本当に楽しそうだよな」

「休憩もそこそこに走っていきましたね」

「本当にタフだよねぁ……」

「いくら肉体的な疲れがほとんど無いとはいえ、

初めての場所に来るとやっぱり精神が疲弊しますしね」

 

 それを見た男性陣の反応はそんな感じだった。

一方女性陣は、ハチマンやキリトはそっちのけで温泉の話題で盛り上がっていた。

 

「せっかく温泉旅館に来たんだし、入らないって手はないよね」

「そうだ、温泉に行こう!」

「今日の男女比だと、男風呂は快適そうだけど、女風呂は交代制になるかな?」

「ちなみにここには混浴もありますよ。

今日は運良く貸し切りに出来たので、他の人がこの旅館に入ってくる事もないです」

 

 その瞬間に女性陣はピタリを話すのを止め、お互いに様子を伺うような状態となった。

こういう時に場を仕切るのはアスナの役割である。

 

「それじゃあ女湯派と混浴派に分かれようか、男性陣は基本男湯でいいよね?」

「お、おう、当然だろ!」

「当然僕にはまったく依存はないよ」

「ぼ、僕もです」

「僕も男湯で。あ、ハチマンさんに関しては皆さんのお好きに……」

 

 闇風は若干未練がありそうではあったが、さすがに女性陣からのプレッシャーには勝てず、

そう言わざると得なかったようだ。良識派のゼクシードとレコンは最初から男湯一択であり、

ナタクは黙ってハチマンの身柄を女性陣に差し出した。

 

「は~い、それじゃあ好きにしていいらしいので、ハチマン君は拉致して混浴に放り込むね。

混浴は水着着用、その上で先ず女湯希望の人、挙手!」

 

 ここで手を上げたのは、リズベット、シリカ、コマチ、リーファのみである。

残るアスナ、ユキノ、ユイユイ、イロハ、ユミー、シノン、セラフィム、

フカ次郎、スクナ、レン、シャーリー、ミサキは当然のように混浴を選択した。

 

「それじゃあG女連の皆さんには女湯を使ってもらうとして、

おっかさん、イヴさんだけ混浴って事でこっちでもらってもいいですか?」

「問題ないよ、この子、さっきから何か言いたそうにうずうずしてたしね」

 

 そう図星を突かれたイヴは、恥ずかしそうに下を向いた。

 

「それじゃあ拉致計画を立てるので、ユキノ、リズ、ちょっとこっちへ」

「あ、私もなのね」

「うん、ちょっとリズにはやってもらう事があってね」

 

 三人は端の方に集まって何か相談を始めた。

ユキノが何かを提案し、リズベットがそれに頷く。

どうやら作戦が決まったようで、アスナはこちらに戻ってくると、各人に指示を出した。

 

「先ずリズからキリト君に連絡を入れてもらって、

ハチマン君を逃がさないように足止めだけしてもらうね。

その後、希望者は全員水着に着替えてハチマン君を襲撃、

こちらをまともに見れない状態にして取り囲み、そのまま女湯へと連行するよ!

女湯を希望しない組はバックアップに入って!」

 

 その指示を受け、各人は忙しく動き始めた。

 

「リズ、タイミングはこちらから指示するから、キリト君に事前に連絡だけ入れておいて」

「了解」

「ミサキさん、この鞭って使えますか?いざという時に巻き付かせて拘束する用なんですが」

「任せて下さいな、私、鞭の扱いも得意ですのよ」

「スクナ、予備の水着ってある?一応持ってるけど、ちょっと地味なんだよね」

「あるわよ、これとかこれ、これなんかどう?」

「うわぁ、これ全部スクナさんのデザインですか?凄くかわいいですね!」

「レンに似合いそうなのもちゃんとあるわよ」

「やった!ありがとう!」

 

 そして女性陣の準備が整い、リズベットからキリトに連絡がいった。

 

「げ……さっきのってマジだったのか……」

「ん、どうしたキリト?」

「いや、リズに呼ばれた」

「何か緊急事態とかじゃないよな?」

「おう、悪いがちょっと行ってくるわ」

「分かった、俺はもう少しここにいるわ」

 

 そしてキリトはあくまでも自然な動きを装ってハチマンの後ろに立つと、

ハチマンの体にガシッと手を回し、そのまま持ち上げた。

 

「ふんっ!」

「うおおおおお、おいキリト、いきなり何するんだよ!」

「すまんハチマン、さすがの俺も、女性陣全員を敵に回す訳にはいかないんだ、

大人しくこのまま俺に連行されてくれ!」

「な、何だと!?まさか裏で何かの計画が……」

「すまん、すまん!」

「く、くそっ、こうなったら……」

 

 ハチマンは唯一自由になっていた足を使い、キリトを転ばそうとした。

だがその瞬間に、どこからか鞭が飛来し、キリトごとハチマンの体をぐるぐる巻きにした。

 

「うお、だ、誰だ!」

「私ですわハチマン様、絶対に逃がしません事よ」

「ミ、ミサキさん、一体これは……」

「さあ皆さん、出番ですわよ!」

 

 そのミサキの言葉を受け、あちこちから水着姿のメンバー達が現れ、

そのまま二人を取り囲んだ。

 

「な、何だこれは!」

「さあハチマン君、温泉に行くよ」

「ア、アスナ……」

「ミサキさん、もう拘束を緩めても大丈夫、でもまだ完全には外さないで」

「心得ましたわぁ」

「リズ、リーファちゃん、キリト君を今のうちに引っ張り出して。

他のみんなは絶対にハチマン君の囲みを解かないようにね。

もしハチマン君が暴れたら、思いっきり押し付けちゃえばいいから」

「押し付ける!?押し付けるって何をだよ!」

「ハチマン様、私の胸はこの時の為に存在するんですよ」

「マックス……ユイユイまで……くそっ、分かった、分かったから!

大人しく温泉に入ればいいんだろ?まったくどうせ男湯と女湯に分かれるのに、

何でこんな回りくどい事を……」

 

 ハチマンはそう言いつつも、実は混浴の存在を確信しており、逃げる機会を伺っていた。

この状況で混浴が存在しないという事はまったく考えられなかった。

 

(何とか雷丸を取り出せれば、位置的にこの鞭は切れるはず、

周りはこいつらに囲まれているから強引に突破するのは無理、

となると、キリトがまだ踏み台として使える今のうちに、

それを踏み台として上から脱出して、そのまま天守閣に逃げ込めば……)

 

 ハチマンはそう思い、キリトが簡単に拘束から引っ張り出されないように、

適度にその邪魔をしつつ、密かに手元にコンソールを出して雷丸を装備しようとした。

 

(もう少し……よし!)

 

 そしてハチマンの手に雷丸が現れた。

 

「あっ、アスナ!」

「まずい、みんな、囲みを詰めて!」

 

 だがその指示が達成される直前に、

ハチマンはそのままキリトの肩を踏み台にして飛び上がり、

上から囲みを抜け、上への階段方面に着地しようとした。

その瞬間に横から何かが凄いスピードでハチマンに迫り、

まだ空中にいたハチマンの顔をその胸に押し付け、そのまま拘束した。

 

「だ、誰だ!?いや、この胸は……」

「ふふっ、油断しましたね、ハチマンさん」

 

(優里奈か!)

 

 そして後方から、女性陣が口々にナユタを賞賛した。

 

「魔法少女ちゃん、ナイス!」

「ナユちゃん、助かったよ、ありがとう!」

「くっ、その役目、私がやりたかった……」

「ハチマンの奴、何て羨ま……い、いや、それはいつもか、さすがにもう慣れたな」

「やれやれ、まったく往生際が悪いね」

 

 ハチマンは抗議しようとしたが、

顔が完全にナユタの胸に埋まっていた為に言葉を発する事が出来ない。

そしてハチマンはそのまま両手両足を完全に女性陣に捕まれ、

よってたかって混浴へと連行される事となった。

 

「おいアスナ、お前……」

「うん、言いたい事は分かるけど、男湯はともかく女湯は、

このメンバーだと絶対的にスペースが足りないの。

だから混浴も活用しないといけないんだよね」

「だったら俺も男湯に……」

「他の人の希望もこういう時に聞いておかないと、ガス抜きにならないんだよね、

これって誰のせいなのかな?かな?」

「な、何かすまん……」

 

 そのアスナの威圧感に、ハチマンが逆らえるはずもなかった。

 

「まあ水着着用なら別にいいか……」

「そうそう、人間諦めが肝心だよ」

 

 ハチマンはそこで抵抗をやめ、大人しく連行されていった。

そしてアスナは功労者であるナユタにこう言った。

 

「という訳でナユちゃん、今回の功績により、混浴での入浴を許可します」

「ありがとうございます!」

 

 こうして混浴で、ハチマンは大人しく女性陣の相手をさせられる事になり、

ご想像にお任せするが、中では色々と人に見せられないようなハプニングが続出した。

当然事前にアスナの許可を得、そこまでならいいだろうという線引きが成された結果である。

 

 

 

「ふう、いいお湯だったねぇハチマン君」

「おいアスナ、もしもこの後ユキノが番町猫屋敷に行くと言い出しても、

俺はお前の味方はしないからな」

「えっ?」

 

 アスナはそのハチマンの言葉に顔を青くした。

 

「そ、そんな!ハチマン君、私の事愛してるよね?だったら……」

「おう、だから俺が隣でちゃんと守ってやるから心配するなって」

「う、うぅ……」

 

 その時旅館の入り口から、こんな声が聞こえてきた。

 

「殿、ハチマンの殿!緊急事態です!」

「ナユさんいる?大変なの、ハチマンさんに繋いで!」

「ん、何だ?」

「何だろうね……」

 

 こうしてコヨミとトビサトウは中に通され、

先ほど見聞きした事について説明する事となった。




ちょっと残業が続いて執筆時間がまったくとれなかったので三日ほど投稿をお休みさせてい頂きます、再開は金曜のお昼からになりますので申し訳ありませんがご了承下さい……

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