ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第715話 オンオフ

「お前は確か……トビサトウだったか?それにコヨミさんか、何かあったのか?」

「殿!実は私達は……」

「誰か殿だ」

 

 ハチマンは即座にそう突っ込んだ。殿扱いされたのはさすがに初めてだったらしい。

 

「当然我らが主君、ハチマンの殿の事でござる!」

「普段は言わないのにこういう時だけござるとか言うな」

「うぅ……拙者の話を聞いて下され、とにかく緊急事態なのでござる!」

「ああ、分かった分かった、ロールプレイのままでいいから何があったか聞かせてくれ」

「かたじけない!」

 

 報告しているうちに、どうやら気分が高まってノリノリになってしまったのだろう、

トビサトウはそんな時代がかった言い方でそう言った。

 

「まあまあ佐藤さん、とりあえず落ち着いてって。ハチマンさん、私達さっきね、

トラフィックスの所で被害者の会がこんな会話をしてるのを聞いちゃったの」

 

 コヨミはコヨミで佐藤呼ばわりを続けていた。

トビサトウももう諦めたのか、特にコヨミに抗議をする気配はない。

ハチマンもその呼び方に対して思わず噴き出し、

面白いので自分もそう呼ぼうなどと思いつつコヨミにこう聞き返した。

 

「被害者の会?何だそれ?」

 

 ハチマンは一体何の被害者なのだろうかと訝しげな表情をしていた。

ちなみに横でそれを聞いていたナユタは、

ハチマンさんは思いっきり当事者ですと突っ込みたいのを必死で我慢していた。

 

「えっと……凄く言いにくいんだけどさ、

ハチマンさんって、以前AEで大暴れした事があるよね?」

「お、おう、遠い昔にそんな事もあったかもしれないな………」

 

 そのハチマンの態度に、先ほど踏み台にされたキリトがここぞとばかりに突っ込んだ。

 

「おいハチマン、お前、俺達の知らない所でまた何かやらかしたんだろ!」

「失礼な、またとは何だまたとは。そんなに何度もやらかしたりはしていない」

「で?」

「……い、いや、まあちょっと知り合いにしつこく声をかけてきた奴らをボコっただけだ、

ただその数が結果的にちょこっと多かっただけでな……」

「なるほど、その時の連中が集まって作った会という事ね」

 

 ユキノは冷静な口調でそう言うと、続けてコヨミとトビサトウにこう尋ねた。

 

「で、その被害者の会というのはどのくらいの規模の集まりなのかしら」

「被害者の会の構成員は、最初はギルドの枠を超えて二百人くらいだったんですが、

いつしかその所属ギルドのメンバーが結集して連合し、今は五百人くらいになってますね」

「ごっ………」

「多いね……」

 

 さすがの一同も、その数の多さに絶句した。

 

「そんなにかよ!ハチマン、お前やりすぎなんだよ!」

「ご、誤解だ、今聞いた通り、俺がボコったのは二百人だけだ」

「二百でも十分多いっての!」

「うぅ……す、すまん、今回はさすがの俺もほんのちょこっとだけやりすぎたかもしれん」

「ほんのちょこっとなぁ……はぁ……まあやっちまったもんは仕方ないか、

ユキノ、実際この人数を相手にするってのはどうなんだ?」

「さすがに残りのメンバーにも召集をかけないと少し危ないかもしれないわね、

特にここはアウェイなのだし、本来の力は出せないと考えた方がいいでしょうね」

「何だい?デカい喧嘩かい?それならうちも手伝ってやろうじゃないか」

 

 その話をそれとなく聞いていたのだろう、おっかさんが、ドンと胸を叩いてそう言った。

 

「いいんですか?正直助かります」

「何だい、今回は随分弱気じゃないか」

「さすがにホームじゃないですからね、色々と攻撃の威力が減衰されてるんですよ」

「もしかして銃もかい?」

「はい、鈍器扱いになってるみたいですね、この世界にはまだ銃が実装されてませんしね」

「それならそれでやりようはあるさね、なぁユキノの嬢ちゃん」

「はい、面制圧は十分可能だと思います」

 

 ユキノはそう太鼓判を押し、ここにG女連の参戦が決定した。

 

「私もお手伝いします」

「あっ、私も私も」

「おお、ナユ………さんにコヨミさん、ありがとな」

 

 ハチマンは、ナユタがここで大活躍し、

その実績をもって効果的な正体のバラし方をするつもりなのだろうと思いつつも、

実際戦力が欲しかった為、その申し出に素直に感謝した。

そんな二人とは対照的に、トビサトウは逡巡するような表情を見せていた。

 

「と、殿、拙者は……」

 

 その表情で色々と悟ったのだろう、ハチマンは穏やかな口調でトビサトウにこう言った。

 

「ああ、まあこっちはこっちで何とかするから気にするなって、

お前一人に今ここで決断を迫るような事はしないさ」

「一応他の首領連中と諮りますが、この場でこの戦いにどのような形で参加するか、

某一人で決断する事は出来ませぬ、ふがいないこの身をお許し下さい……」

 

 さすがにAEの最大派閥を安易に敵に回すような大事な事は、

トビサトウの一存では決められないようである。

 

「拙者、他の者達の所に行ってくるでござる!」

「おう、期待しないで待ってるわ」

「最悪拙者一人でもお味方します故、平に、平に!」

 

 そう言ってトビサトウは外へと駆け出していった。

 

「最初の印象とは違って、思ったよりも熱い奴みたいだな」

「ふふっ、そうだね」

 

 そしてハチマンはナユタにこう尋ねた。

 

「ナユ……さん、この付近に大規模な戦闘が行えるような場所ってあるか?」

「そうですね、猫が原という名前のそれなりに広い場所がありますが……」

「猫が原?なんて素敵な響きなのかしら」

 

 そう恍惚とした顔をしたユキノを横にどけ、ハチマンは続けてナユタにこう尋ねた。

 

「猫が原?もしかして関が原のもじりか?」

「かもしれませんね」

「なるほど……まあ後で見に行ってみるか、ここから近いのか?」

「はい、まあ歩いて十分くらいですかね」

「そうか、悪いが後で案内してくれないか?」

「はい、任せて下さい」

 

 そしてハチマンは、まだ恍惚としているユキノを覚醒させようと、

その頬をむにゅっとつまんだ。

 

「とりあえずユキノ、作戦の立案はこちらの戦力が確定してからでいいのか?」

「い、いひなりにゃにをするのよ!」

「お、意識が戻ったみたいだな」

 

 ハチマンはそういいながらユキノの頬から手を離した。

 

「ご、ごめんなさい、ちょっと我を忘れてしまっていたみたいね。

そうね、今すぐ開戦という訳でもないでしょうし、

今晩くらいはゆっくりしてもいいんじゃないかしら」

「という訳だ、明日か明後日あたりが決戦になると思うから、

今日はみんなでここでのんびりさせてもらって英気を養おう」

 

 ここでハチマンによりスイッチが切り替えられた。

元々ヴァルハラのメンバーは、こういったスイッチのオンオフがしっかりしているので、

戦うべき時は戦い、遊びべき時は遊ぶ。

 

「という訳でアスナ、番町猫屋敷に行ってみない?」

「ええええええ?ユキノ、一体何が、という訳でなの!?」

「あらやだ、喜びのあまり叫びたくなる程行きたかったなんて気付かなかったわ、

本当にごめんなさいね、それじゃあ一緒に番町猫屋敷に行きましょうか」

 

 恐るべき事に、この時のユキノは本心からそう思っていた。

猫がからむとどうしてもポンコツになるのは避けられないユキノである。

 

「ちょ、ちょっと待って、私はまだ行くとは一言も……

って、力じゃユキノに敵わない、ハチマン君、助けて!」

「こうなったユキノを俺に止められる訳がないだろ……」

「うぅ……この中で絶対にユキノよりも力が強いのは……そうだ、キリト君!」

「猫がからんだユキノの行動を邪魔しろって?

そんな自分の死刑執行許可書にサインするような真似は絶対に無理だって」

「そ、そんなぁ……」

 

 そしてアスナはずるずるとユキノに引きずられていった。

 

「尊い犠牲だった……だがオバケとはいえ所詮相手は猫、そこまで怖くないだろうし、

これでアスナのオバケに対する苦手意識も多少は軽減されるだろう」

 

 ハチマンはうんうんと頷きながらそう言った。

だがそんなハチマンの肩を、がしっと掴む者がいた。

慌てて振り返ったハチマンの前にいたのは、何故かきょとんとした顔をしたユキノであった。

 

「ハチマン君、どうしてあなたは私達の後をついてこないのかしら?」

「ユ、ユキノ!?な、何で……」

「黙っていてもあなたがついてくると思っていたから放っておいたのに、

どうやらまだまだ教育が足りないようね、ほら、さっさと来なさい」

「えっ、あっ、キ、キリト!」

「おう、楽しんでこいよ」

 

 キリトは満面の笑顔でそう答え、焦ったハチマンはメンバーの顔を見回し、

確実に自分の味方をしてくれる者の名を呼んだ。

 

「ぐっ……マ、マックス!」

「はい、もちろんお供します」

 

 さすがはセラフィムである、セラフィムはその呼びかけに応え、

待ってましたという風にハチマン達の後に続き、更にその後をナユタが追った。

 

「案内役として私も行ってきますね」

「おう、頼むぜナユ……リナ」

「えっ?」

 

 そのおかしな呼び方に、ナユタはきょとんとした。

聞き間違いだろうか、今確かにナユタではなくナユリナという変な呼び方をされた気がした。

 

「あ、あの、もしかしてバレてました?」

「まあな、ハチマンがナユタの方を心配したような顔でチラチラ見ていたからな、

ハチマンがそこまで気にする奴なんてそうそういないし、

まあその、なんだ、該当する人物の中で、似たようなプロポーションの女性といえばまあ、

他にはいないというか何というか……」

 

 キリトはリズベットの手前、無難な言葉を選びながらそう言った。

 

「そうでしたか、残念です……」

「何が残念なんだ?」

「いえ、皆さんには、もっと格好良く正体をバラしたかったなと」

 

 その言葉に一同は思わず噴き出した。

 

「大丈夫だよナユタちゃん、お義姉ちゃんにはバレてないと思うから、

猫屋敷で思いっきりサプライズすればいいよ」

「大丈夫ですかね……?」

「大丈夫大丈夫、アスナってば猫屋敷の事ばっか考えてたみたいだから、

絶対に気付いてないはずだし!」

 

 他の者達も口々にナユタの事を励まし、ナユタはやる気を取り戻したのか、一同に言った。

 

「分かりました、頑張ってきますね!行ってきます!」

「「「「「「頑張って!」」」」」」

 

 こうして五人は番町猫屋敷へと向かい、他の者達は、ある者は部屋でのんびりし、

ある者は近場の観光スポットについて店員NPCに尋ね、

思い思いに楽しむ事にしたのだった。

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