「頼もう!」
「おお、ダインにギンロウじゃないか、来てくれたんだな」
「そりゃまあシャナ……じゃない、ハチマンの頼みなら当然よ!」
「やっぱりシャナさんはハチマンさんだったんっすね、今日は派手にぶちかましましょう!」
前日に薔薇に連絡し、援軍依頼をしておいてもらった甲斐があったのか、
この日の早い時間に、安土温泉旅館にダイン達が尋ねてきてくれた。
言うまでもなく今日の大戦に参加する為である。
だがその直後に、ハチマンにとっては更に衝撃的な人物が突然現れた。
「よぉ、来てやったぞ」
「閣下!?いや、あの、うちのロザリアも、
さすがに閣下には声をかけてないと思うんですが……」
次に尋ねてきたのは何とスネークであった。
後ろにはどこかで見たような面々が並んでいる。
「おう、俺はそもそもログインしていなかったから直接は聞いてないぞ。
実は今日な、たまたま見かけたこいつら三人が、
廊下で『合戦だ合戦だ』とか盛り上がった会話をしてやがってな」
そしてスネークは三人と言いつつも、五人のプレイヤーを前に押し出してきた。
それは当然コミケ、トミー、ケモナー、クリン、ブラックキャットの五人であった。
「で、当然俺にも声がかかると思ってたんだけどな、
事もあろうにこいつらは、俺に内緒のまま去っていきやがってな、
なので俺も慌てて後を追ったら、中でこの二人が合流してきてな」
そう話を振られたクリンとブラックキャットは、ハチマンに謝るような仕草をした。
要するにこの二人がロザリアから連絡を受け、コミケ達を誘って戦いに参加しようとしたら、
閣下に見つかってしまったという訳なのであろう。
「まったく水くさいじゃねえか、直接俺に電話してきてくれても良かったんだぜ?」
「あ、いや、その、あはははは」
ハチマンはそう言われ、愛想笑いで返す事しか出来なかった。
確かにハチマンと閣下が連絡先を交換したのは事実だが、一体どこの誰が、
現役の防衛大臣をゲームの中の戦争に気軽に誘えるというのか。
というかプライベートで普通に連絡するだけでもハードルが高すぎる。
「という訳で俺も参戦するぜ、たった六人だが宜しくな」
「はい、宜しくお願いします」
ハチマンにはそう言う以外の選択肢はなかったが、心強い事も確かである。
「あらあら閣下、来てしまいましたのね」
「おう、ミサキさんか、久しぶりだな」
「お久しぶりですわぁ、今日は私も久しぶりにG女連の一員として参加しますのよ」
事前の話し合いで、GGO組は今日はヴァルハラ・ウルヴズとしてではなく、
元の所属のまま戦う事が決められていた。
これは単に、GGO組を効率よく運用する為の措置であった。
という訳でヴァルハラ・ウルヴズのうち、
レン、闇風、ゼクシード、ユッコ、ハルカ、薄塩たらこの六人は、
閣下達と一緒に行動する事が決められた。
「ここにうちの全メンバーを加えれば、百人近くにはなるか」
その内訳は、大雑把にヴァルハラ・リゾートが三十人、
ダイン達が三十人、G女連が二十人、その他勢力が十人程度という計算である。
「問題は敵が何人くらいまで膨れ上がったかだが……」
丁度その時、トビサトウが旅館に駆け込んできた。どうやらトビサトウが、
忍レジェンドとヴァルハラ・ウルヴズとの連絡役という事になったらしい。
「殿!敵が続々とトラフィックス前広場に集結中でござる!」
(こいつ、今後はこういう喋り方でいく事にしたのかな。
まあいいか、それよりも今俺が言うべきなのは……)
ハチマンはそう思いつつ、口に出してはこう言った。
「今敵と言ったな、佐藤」
その言葉にトビサトウは思わずぶるっと震えた。『敵』というその自分の短い一言で、
ハチマンは自分達の決断について察してくれたのだと理解したからだ。
「はい、我ら忍レジェンドは、中立の立場を捨て、殿にお味方させて頂きます!」
「うむ、大義である」
ハチマンはその決断が嬉しかったのか、機嫌良さそうにそう言った。
「で、何人が参加してくれるんだ?」
「申し訳ござらん、なにぶん急だった為、全体の六割、六十人しか」
「いやいや十分だって、ありがとな、トビサトウ。
お前が他のみんなを説得してくれたんだろ?」
ここでハチマンは、改めて『トビサトウ』と呼びかけた。
その事にトビサトウは更に感激したような表情をみせた。
「はい、最初は他の幹部三人は中立を主張しましたが、
拙者がヴァルハラ・ウルヴズがどれだけ強力なナイツかを懇々と説き、
最初にスイゾーとロクダユウが折れ、最後にユタロウが折れ、
四人がかりでメンバー達を説得する事に成功したのでござる!」
「なるほど、それじゃあ俺達の力をしっかりとその目に焼き付けておくといい」
「はっ!」
「ハチマンさん、戻ったよ!」
そこにコヨミが駆け込んできた。
コヨミもハチマンの依頼で、被害者の会の偵察に出ていたのだった。
「コヨミさん、相手の様子はどうだった?」
「大雑把に数えたんだけど、多分敵の本隊は三百人、全体の六割程度だと思う」
「ほうほう、まあそれでも脅威ではあるが、やはり俺が直接ボコった奴らが中心か?」
「もしかしたらそうかもね、本隊からは、
ハチマンさんに対する怨嗟の声がかなり聞こえたから」
「ふむふむ、本隊って事は、別に部隊が?」
「うん、傭兵隊の方が規模が大きかった。多分三百人くらい」
「おおう、そんなにか、結局六百人規模かよ」
結局敵味方の戦力比はおよそ六倍である。
だがハチマンは、これなら何とかなるだろうと考えた。
アウェイな地での戦闘になるが、様々な要因を慎重に戦力評価をした結果である。
「で、その傭兵隊のナイツもしくはスコードロン、ギルド名とかは何か言ってたか?」
「う~ん、そういうのは誰も言ってなかったんだよね、
ただ何の単語か分からないのも混じってるんだけど、ちょこちょこ出てきたのが、
『ビービー』『将軍』『連合』『領主さま』って単語だったかな」
「ビービーだと?おいフカ、敵にビービーがいるみたいだぞ」
「何ですと!?あの野郎、今度こそボコボコにしてやる!」
ビービーに個人的に恨みがあるフカ次郎は、意気盛んにそう言った。
「で、連合ってのは多分あの連合だとして、何人くらいだった?」
「そこは百二十人くらいかな、ビービーってのの軍が三十人くらい」
「ふうむ、あそこも結構増えてるなぁ、しかし将軍に領主さまねぇ……」
ハチマンは、まさかなと思いつつ、
コヨミにユージーンとサクヤとアリシャの特徴を伝えた。
「あっ、いたいた、その三人なら確かにいたよ!
将軍様の勢力が百人くらい、領主様の勢力が五十人くらいだった」
「おおう、なるほどなるほど、これは面白くなってきやがった」
そしてハチマンは、キリトとユキノ、そしてアスナを呼んだ。
「どうやら敵に、ユージーンとサクヤさんとアリシャさんがいるらしいぞ」
「お、マジか、多分今回の敵が俺達だって知らないんだな」
「恐ろしく強い無法者を退治するとかだけ言われたんじゃないかな」
「まあそんなところでしょうね、で、私達を呼んだ理由は?
まさかこちらに引き込めなどとは言わないわよね?」
「そういうのは戦闘中に発生するかもしれないイベントだから別にいい。
まあ遊びのつもりで今回はあいつらともガチでやりあおうと思う」
ハチマンはそう前置きした上で、三人に言った。
「という訳で、キリトはユージーンを、
そしてアスナとユキノにはサクヤさんとアリシャさんを担当してもらおうと思ってな」
「なるほど、そういう事、私は構わないわよ」
「私も私も」
「俺も別に構わないぜ、で、ハチマンはどうするんだ?」
「大人しく指揮をとるさ、それに一つやってみたい事があるんでな」
「やってみたい事?何だ?」
「秘密だが、サラマンダー軍に仕掛けるつもりだ」
「ほうほう、まあ楽しみにしておくわ」
「ハチマンさん、一先ず僕が伝令として戻りました」
そこにレコンが伝令として現れた。
ハチマンはコマチとレコンをも偵察としてトラフィックス前に送り込んでおり、
街の様子を交互にチェックさせている状態であった。
「敵が集結を終え、編成を始めました。あとソレイユさん達が到着しましたよ」
「おお、いいタイミングだな、それじゃあちょっと行ってくる」
「行ってくる?どこにだ?」
「ちょっと敵陣に挨拶にな」
「敵陣に?」
「挨拶ぅ?」
その言葉が意外だったのか、キリトとアスナがそんな声を上げた。
「また何でそんな事を……」
「敵を確実に猫が原に連れてこようかと思ってな」
「ああ、そういう……」
「という訳で、先に有利な地点に布陣しておいてくれ、
出来るだけこちらが陣を敷いているのが相手に分かりやすいようにな」
「奇襲はしないんだな、了解」
「ハチマン君、気をつけてね」
「おう、まあ姉さんとナユタを連れていくから滅多な事にはならないと思うけどな」
そしてハチマン達三人は、ナユタ以外の二人が変装した状態で、
トラフィックスの方へと戻っていった。
「もう、着いたばっかりなのに人使い荒いなぁ」
「まあまあ、こういう時はやっぱり俺と姉さんじゃないと」
そのハチマンのあからさまな追従に、しかしソレイユは上機嫌な様子を見せた。
「そうでしょうそうでしょう、やっぱりここぞという時は私の出番よね」
「ええ、まあそういう事です」
ちなみにそんなソレイユは、ナユタから譲り受けた例の衣装を、
完全体バージョンで着用していた。要するに露出度がとても危険な状態である。
代わりにナユタはいつもの巫女服に戻している。ハチマンは何故か袈裟を着用していた。
要するにここには、巫女、神官、僧侶が揃った事になる。
「さて、それじゃあ挨拶といきますか」
「ハチマンさん、多分あの辺りにいるのがリーダー格の人達です」
「ほうほう、お、ユージーンがいやがる、おちょくりたいところだが今は我慢するか」
そしてハチマンは、でたらめなお経を唱えながらその者達に近付いていった。