ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第719話 膠着する戦線

「お、花火とは敵さんも粋な事をするねぇ」

「おいアリシャ、敵が動き出したぞ」

「ほいほ~い、ここじゃ竜騎士軍団は使えないからみんな徒歩だけど、

AEでの戦闘を楽しむつもりでみんな、頑張ろう!」

「シルフ軍も戦闘準備だ!」

 

 そんなまったりとした雰囲気のシルフ・ケットシー連合領主軍と比べ、

本隊を挟んでその反対にいるビービー軍は、ピリピリとした雰囲気であった。

それはリーダーであるビービーが、イライラするようにうろうろしていたからである。

 

「何か気になる……何かおかしい……」

「女神様、何か気になるんですか?」

 

 そう問いかけてきたのはZEMALのリーダーであるシノハラであった。

今やM&Gは、ビービーのカリスマ性により、かなりの規模のナイツとなっている。

ZEMALの連中は、今やその最側近という扱いになっているのだった。

 

「何といえばいいか、どうしても嫌な予感が頭から離れないのよ。

この雰囲気を何かに例えるなら、この前メカっぽいサンタに潰された時みたいな……」

 

 ビービーは、先日メカニコラスにペチッとされた事がよほどトラウマになっているらしい。

 

「………おいシノハラ」

「何でしょう女神様!」

「私がやばいと思ったら、どんなに有利でも即撤退指示を出す。

その時は何の疑問も持たずに即味方を下げるのよ」

「わ、分かりました!」

 

 

 

「『わ、分かりました!』だそうよ」

 

 同じ頃、ハチマンの隣で同じく単眼鏡を使い、

各陣営の主だった者の口の動きを読んでいたソレイユが、

ビービー達の会話を全て伝えてきた。

 

「ふ~ん、勘のいい奴だな、まああいつだけは逃がさないけどな」

「ハチマン君も結構執念深い所があるよねぇ」

「まあトドメはフカに譲ってやるさ」

「任せて!悪・即・斬!」

 

 フカ次郎はいきり立ち、ブンブンと日本刀を振り回した。

これは万が一ビービーに正体がバレないようにと用意したフェイク武器である。

メイン武器のツヴァイヘンダーは、ボタン一つで装備出来るように準備済みだ。

 

「さて、そろそろ開戦するか、キリト、一番槍は任せた」

「任された、それじゃあキリト隊、出撃!」

 

 今回キリト隊に配置されたのは次の者達である。

キリト、リズベット、シリカ、クライン、エギルの五人に加え、

クリスハイトとメビウス、そしてその後に、忍レジェンドの半数である三十人が続く。

三十七人での百人相手の突貫である。

 

「突撃!突撃!」

「ふっ、俺もなめられたものだな、たったそれだけの人数で突っ込んでくるとは」

 

 だがキリトはさすがであった。ゲリラ戦が得意な忍レジェンド隊に、

敵側面からのタイミングを合わせたかく乱を行わせる事により、

数的有利なはずの敵に囲まれたのかと誤認させ、

それにひるんだ奴らをキリトとクライン、そしてエギルが食いまくっていた。

普段はハチマン達の影に隠れてしまっている二人だが、

さすがはSAOの攻略組にいただけの事はある。

 

「くっ、うちの構成員よりはさすがにちょっとはやるようだな、

だがその快進撃もそこまでだ、俺が直々に相手をしてやろう、日本刀の男」

 

 キリトも当然正体がバレないように、今は日本刀を使っている。

そうすると普段から日本刀を使っているクラインはどうするのかという事になるが、

逆に普段通りの方が目立たないという事で、

メンバーの中では唯一通常のメイン武器を使用していた。

そのせいか、今ユージーンが自分の相手にと指名したのは、実はクラインだったりする。

だが普段だとそんな事はありえない為、この時もクラインが一歩後ろに下がり、

キリトが前に出る格好となった。それに怒ったのはユージーンである。

 

「貴様、俺なぞ相手にするまでもないとでも言いたいのか?」

「へ?もしかして俺をご指名だったのか?」

「当たり前だ、どう見てもこの中では貴様が一番強いではないか!」

 

 当然二人はその言葉にハテナ?となった。

 

「どういう事だ?」

「多分クラインだけが、普段と同じ武器を使ってるから勘違いしたんじゃないか?」

「あ~、なるほどな、まあいいか、面白いからこのままユージーンの相手を頼むぜキリト、

その代わり俺が煽っといてやるからよぉ」

「了解、もっとかっかとさせてやってくれ」

 

 キリトはニヤニヤしながらそう言い、

クラインは上から見下ろすような態度でユージーンに言った。

 

「俺に相手をしろだなんて一億年早いわ、まだ未熟者だが、

そこにいる俺の側近を倒せたら俺が直々に相手をしてやろう」

「貴様、俺を愚弄するか!」

 

 そうまんまと挑発に乗って頭に血を上らせたユージーンを見て、二人は内心ほくそ笑んだ。

 

「愚弄しているのはどっちだ、確かに俺は未熟者だが、お前なんかには負けん」

「ちっ、まあいい、かかってこい下郎!」

「おう!」

 

 こうして予定通りにキリトとユージーンの戦いが開始される事となった。

 

 

 

 一方こちらはシルフとケットシーの連合領主軍である。

こちらを担当するのはアスナとユキノに加え、リーファとクリシュナ、

そして忍レジェンドから十人が参加していた。

十四対五十という人数差になるのだが、その十四人がまったく崩れる気配がない。

 

「サクヤちゃん、何か手ごわくない?」

「そうだな、あの般若の面をかぶった二人は相当戦い慣れしているようだ。

後方にいる能面をかぶった二人は支援役なのだろうが、時々指示も出しているようだな、

それが実に的確だ、正直私の副官として欲しいくらいだよ」

「だよねぇ……あの般若さん、片方は正統派の剣士でもう片方は突き主体だけど、

あれってば私達よりも確実に強くない?」

「うむ……軽い気持ちで参加したが、さてどうしたものか……」

 

 二人は徐々に減らされていく仲間達の様子を見て、

それからしばらく悩み続ける事となった。

 

 

 

 正面に陣取る敵本隊とビービー軍は、ビービーが妙に消極的だった為、

一緒に行動するような形となっていた。

 

「くっ、敵に近付けねえ……」

「撃ち返そうにもこの状況じゃ……」

 

 ZEMALのメンバー達は、ぶつぶつとそう言った。

ここを担当しているのは閣下達とダイン軍である。

その戦力差は実に十倍近く、三百二十対四十となっていた。

だがいくら殺傷能力を抑えられているとはいえ、その四十人全員が銃を持っているのだ、

その面制圧力は凄まじいものがある。しかもこの四十人は、

そのほとんどがかつて源氏軍でもっと多くの敵を相手に、

最後まで戦い抜いたつわもの揃いである。

これくらいの人数差を恐れる事もないし、何より多数を相手に戦い慣れている。

要所要所をコミケ達が締めている為に、戦線が破綻する気配はまったくなく、

敵が何かしようと別働隊を動かそうとしても、ハチマン本隊から出撃した者に蹂躙される、

そんな状況がずっと続いているのだった。

 

「おうおう、また敵の一部がじれて横に移動し始めたぜ、

まあそうやって現状を何とかしようと努力する姿、嫌いじゃないけどな!」

「大丈夫だ、本隊がまた潰しにいった」

「さっすがハチマン、よく見てやがるぜ!」

「各方面をしっかりとサポートしてくれるから有り難いな」

「だな!」

「師匠、左に数人また動き出した!」

「そっちは俺とお前で潰すか、行くぞレン!」

「はい!」

 

 

 

 本隊の後方には、連合の百五十人が布陣していた。

こちらを担当するのはG女連と、忍レジェンドの残り二十人である。

人数比は百五十対四十だが、正直こちらの戦線は何の問題もない。

連合はまだ相手がヴァルハラだと知らない為、本気で戦っていないし、

なおかつ相手がG女連だという事だけは分かっている為、そもそも手が出せない。

これ以上G女連といざこざを起こしたくないというのが彼らの切実な願いであった。

 

「何だい、張り合いがないね」

「まあ楽といえば楽だからいいんじゃありません?」

「ちっ、こっちから仕掛けて無理にでも相手してもらおうかね」

「おっかさん、まだ早いですわよ、ここぞという時の為に、今は力を貯めておきましょう」

「やれやれ、いつ本格的な戦闘が始まるのかねぇ」

 

 そう言いながらおっかさんは、本陣のハチマンの方を見た。

ハチマンは何とあくびをしており、若干退屈そうに見えた。

 

「おやおやこれは……そろそろだね」

「おっかさん、どうかして?」

「ミサキ、ハチマン坊やがそろそろこの状態に飽きてきたみたいだから、

多分そろそろ動きがあるよ、こっちもいつでも動けるように準備させな」

「分かりましたわぁ」

 

 

 

「敵の実力は大体把握出来たし、そろそろかねぇ」

「そろそろあっちの準備もオーケーみたいよ」

「それじゃあやるか、姉さん、信号弾を」

「は~い」

 

 そして空に赤い信号弾が打ち上げられ、同時に各陣に、ヴァルハラの旗が掲げられた。


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