ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第724話 猫が原、終戦

「リーダー、サッコさんがやられました!こちらの戦線はズタズタです!」

「ぐっ……こ、こうなったら敵中を突破して連合と合流するしか……

一応確認するが、連合は裏切ってないんだよな?」

「はい、ただ遠目に見ると、徐々にその数を減らしているようです」

「急ぐ必要があるな……だが問題は、そちらの方角が完全に塞がれているという事か……」

 

 彼らから見て正面左にはハチマンが、正面右にはユイユイら、ヴァルハラ本隊がいる。

そして右翼からはキリトが凄い勢いで迫ってきており、

左翼からはアスナが敵を次々と敵を葬っている。

 

「よし、味方を全員ここに戻すんだ、生き残りはまだ二百人くらいはいるはずだから、

その全軍をもって正面に向かい、敵中を突破する」

 

 ヨツナリはそう決断し、矢継ぎ早に指示を出した。

この判断は確かに正しい。正面の今ハチマンがいる位置の人数は少なく、

数の力で押せば何人かやられるにしても、かなりの数の味方が抜けられるからである。

 

「ハチマン様、敵が引いていきます」

「お?遂に負けを認めたか?それにしちゃまだ随分と数が残ってるように見えるが」

 

 ユイユイ達と合流した後、そのセラフィムの報告を受け、

ハチマンはじっと敵を観察し続けた。

 

「ハチマンさん、戻りました」

「お兄ちゃん、敵の両翼も引き始めてる、というか中央に戦力を集中させてきてる」

 

 そこにコマチとレコンが到着し、そう報告してきた。

 

「ああ、なるほど、戦力再編……にしちゃ強引だな、

敵としては連合と連携したいはずだし、となると、残る戦力が全てここに殺到してくるのか」

「かもしれないね」

「まあそのまま敵が後方に逃げる可能性も無きにしもあらずだが……それならそれでいいか」

「そしたら味方の一部に追撃させればいいしね」

「だな、よし、とりあえずコマチ、姉さんに伝令を頼む。

もうすぐそっちに敵が行くはずだから、上手い事中央を空けておいてくれと伝えてくれ」

「分かった、行ってくる」

「レコンはキリトの所に行ってくれ、そして一言、追撃しろ、と伝えて欲しい」

「はい、行ってきます!」

「アスナとユキノは……まあ自分で判断するだろう、後は忍レジェンドだな」

 

 その言葉が聞こえたのかどうかは分からないが、

どこからともなくロクダユウがスッと現れた。

 

「殿、お呼びですか?」

「お、おう、近くにいたのか、さすがは忍だな、全然気付かなかったわ」

「お褒め頂き光栄です!」

「ロクダユウは忍レジェンドを全員連合の背後に伏せさせてくれ、

ただし敵の逃げ道を塞ぐんじゃなく、少し横にずれる感じでな。

敵を側面から叩ける位置で頼む。

で、ロクダユウ達四人は、もし敵のリーダーが逃げた場合、それを捕らえて欲しい」

「はっ、必ずやヨツナリを捕らえてごらんにいれます!」

「まああくまで逃げたらだけどな、それとな……」

 

 そしてハチマンは、ロクダユウに何か耳打ちした。

 

「な、なるほど、そんな者達が……」

「なのでお前にはこれを渡しておく。うちの旗だ。

これを見れば向こうもお前が味方だと認識してくれるはずだ」

「お預かりします!」

「シノン、リオン、二人もこっちへ」

「ん、どうしたの?」

「いや、実はな……」

 

 ハチマンは二人にも何か耳打ちし、二人は納得したように頷いた。

 

「なるほど、オーケーオーケー、そういう事なら任せて」

「うん、行ってくるね」

 

 そしてロクダユウは忍レジェンドのメンバー達を引き連れ、

シノンとリオンと共に連合の後方へと忍んでいった。

 

「さてと、それじゃあ俺達も徐々に下がるとするか」

「了解、みんな、下がるよ!」

 

 ユイユイの指示でセラフィムとアサギは徐々に戦線を後退させていき、

被害者の会の正面に、ぽっかりとスペースが出来上がる事となった。

 

「い、今だ、今しかない、あそこに向けて全軍突撃だ!」

 

 キリトに相当プレッシャーをかけられていたヨツナリは必死にそう指示を出し、

被害者の会の者達は慌ててそこに突入した。

 

「よし釣れた、敵はそのままキリトが追撃していくはずだ、

アスナ達がG女連と合流して側面攻撃を行うはずだから、

こっちは逆の側面から敵が合流する瞬間を見計らって攻撃をかけるぞ」

「了解!」

「ついに大詰めだね」

「行こう!」

 

 こうしてハチマン達も、被害者の会を遠目に見ながら移動を開始した。

 

 

 

「よし、囲みを抜けたぞ!」

「上手くいきましたね、ヨツナリさん!」

「敵が追ってきてる、一刻も早く連合と合流し、反撃だ!」

 

 そんな彼らの目に、連合の者達がこちらに手を振っている姿が映り、

被害者の会の者達は心から安堵した。だがここで彼らは疑問に思うべきだったのだ。

連合の者達が何故戦闘中ではないのかと。

 

「お~いあんたら、大丈夫だったか?」

「そっちこそ、大丈夫か?」

「いや、じわじわと戦力を削られてたところだったから、正直あのままだとやばかった。

だがついさっき、敵が徐々に後退していったんだよな、もしかしたら弾切れなのかもしれん」

 

 人は理解出来ない事を自分の都合のいいように解釈しがちな生き物である。

この時のトリマキーズの面々も例に漏れず、そう自己流の解釈をしていた。

 

「なるほど、こちらは味方の裏切りが相次いでこっちと合流しようと移動してきたんだ、

サラマンダー軍と領主軍の奴ら、あの旗を見た瞬間に寝返りやがってな」

「ああ、あそこはな……」

 

 一応中立の立場でその二つの軍に接している連合ではあるが、

こういう局面だとおそらく敵に回るだろうと覚悟はしていたらしい。

 

「元々あいつらはよくつるんでやがったからな、こうなったら一緒に叩きのめしてやろうぜ」

「だな!しかしこの場所に留まるのは、飛び道具がこっちの方が少ない分不利か?」

「確かにそうかもしれない、もう少し後退してあそこの山の上で白兵戦を行った方が、

こちらにとっては場所的にいいかもしれない」

「なるほど、あそこに敵を引き込むんだな」

「そうと決まったら急ごう」

「ああ」

 

 こうして彼らはその山へと向かい始めた。

 

 

 

「よし、ここから一気に山頂に……」

 

 そう言いかけたそのプレイヤーの頭が、一瞬で弾けとんだ。

 

「うおっ」

 

 直後にその山からこちらに向かってかなりの数の銃撃が飛んできた。

その中には威力の高い攻撃もかなり混じっている。

 

「くそっ、伏兵か!」

「ここにもいやがったか……」

「敵が何人くらいいるのか分からない、盾持ちを先頭に慎重に前進だ!」

 

 

 

「来たわね、それじゃあ私が撃ったらみんなも撃って頂戴」

「シャナさんの顔でそう言われると違和感が半端ないな……」

「何よ、それじゃあこんなのはどう?おいシャーリー、お前、俺の女にならないか?」

「は、はい、喜んで!」

「あんたちょろすぎでしょ……」

「ハッ、つ、つい反射で……」

 

 そんな会話をしているのは当然シャナザリアと、

今まで姿が見えなかったシャーリーである。

 

「二人とも、見てて面白いけどそろそろおっぱじめようぜ」

「ご、ごめんなさい、それじゃあ撃つわ」

「トーマ、それに合わせてあんたもデグチャレフを撃ちな」

「オッケー!」

 

 そんな二人と共に、SHINCのメンバー達がここに伏せていた。

 

「いやぁ、出番があって良かった」

「うん、久しぶりに暴れられるね」

 

 実はシャーリーとSHINCのメンバーは、最初からこの山に伏せていたのである。

連合のメンバーが逃げ出した場合の備えであったが、

それがここにきて絶好の足止めとして機能した。

 

「お前達、死ぬ気で撃ちまくりな!」

 

 SHINCは今までの鬱憤を晴らすように敵に向かって銃を撃ちまくり、

被害者の会と連合の歩みは否応無くペースダウンする事になり、

そこに遂にキリト達が追いついた。

 

「よし、全軍突撃!俺に続け!」

「「「「「「おう!」」」」」」

 

 そして時を同じくして、先に移動していたソレイユとG女連が攻撃を開始した。

その横からはアスナ達が、そして反対からはハチマン達が攻撃を開始する。

その背後にはダイン達の姿もあり、同時にシャーリー達のいた山に、

ヴァルハラと忍レジェンドの旗が上がった。ロクダユウはハチマンに囁かれた通り、

ヴァルハラの旗を見せてシャーリー達と合流していたのだった。

さすがは忍、その移動速度はかなりのもののようだ。

 

「か、完全に囲まれた……」

「やばい、やばいって!」

「くそ、とにかく全員死ぬ気で戦え!」

 

 もうそう言うしかない状況であったが、彼らはそれなりに頑張った。

だが今回は相手が悪すぎた。確かにサラマンダー軍や領主軍、

それに忍レジェンドのメンバーをそれなりに倒す事に成功していたが、

回復がしっかりしているヴァルハラ・ウルヴズのメンバーはここまで誰も倒せておらず、

大将首と言えるものも一つも取れていない。

そのまま徐々に数を撃ち減らされた彼らは、ついに最後の決断をする事にした。

 

「こうなったらもうとにかくハチマンの首を狙うしかない」

 

 そう決断した彼らは形振り構わずハチマンの方に突撃を開始した。

生き残りはもう五十人程しかおらず、無謀な突撃ではあったが、

もしかしたら一矢報いる事くらいは出来るかもしれない。

そう考えた彼らの前に、ヴァルハラの誇る三人のタンクが立ちはだかった。

 

「ここは通さないよ!」

「ハチマン様のところには行かせない」

「させません!」

 

 三人の守りは強固であり、最後の賭けに出た彼らの足が一瞬止まった。

その瞬間に、トリマキーズの二人の頭が吹っ飛んだ。

当然やったのはロザリアとトーマである。

 

「はぁ……元リーダーとして、あいつらを片付けるのは私の仕事よね、

まあもうあいつらと接触する気はないけど」

「私も手伝うわ」

「私も私も」

「いいなぁ、私も対人ライフルが欲しいなぁ」

 

 そこにシノンとリオンも加わり、シャーリーが羨ましそうにそれを見る中、

トリマキーズはあっさりと全滅した。そしてタンク陣の隙間から誰かが飛び出した。

それはここにきてやっと追いついたナユタである。

ナユタの顔を見た生き残りはさすがに気まずかったのであろう、

抵抗という抵抗もせず、そのままナユタに打ち倒されていった。

そんなナユタに最後に生き残ったヨツナリがこう叫んだ。

 

「く、くそっ、お前が、お前のせいで俺達被害者の会は……」

「あなた達は被害者じゃない、私にとっては加害者です」

 

 ナユタはそう言ってヨツナリの腹を思いっきり殴り、

こうしてヨツナリも捕虜にされたのだった。

 

「よくやったナユタ、俺達の勝利だ、えいえいおー!」

「「「「「「「「「「おおおおおお!」」」」」」」」」」

 

 こうしてこの戦いは、圧倒的有利な数を揃えていた被害者の会の敗北に終わり、

そのまま捕虜にされた二十人程のプレイヤーは、縛られたまま街へと連行される事となった。

 

「ハチマンさん、出来ました」

「へぇ、AEはこういうのが簡単に出来るんだな」

「はい、旗は結構よく使われますからね」

 

 ナユタが作成したのは、『加害者の会』と書かれた旗であった。

その旗をヨツナリに持たせ、ヴァルハラ軍はそのまま街へと帰還し、

その場面を目撃したAEのプレイヤー達は、

訳が分からずただその光景をぽかんと見つめる事しか出来なかった。

後日その記事がMMOトゥデイに載せられ、顔と名前を伏せた上で、

この戦いの元になった事件の経緯が詳しく説明され、

あいまいな事しか知らなかったAE内の世論が一気に沸騰し、

加害者の会はそのまま解散する運びとなり、AE内の治安がやや改善するという結果で、

この件は完全に幕を閉じる事となったのだった。


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