ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第727話 いつも通りのスリーピング・ナイツ

「これはラン、これはユウキが、後は分担して持てるだけ持っておいて」

「クロービス君、これは?」

「あ、ナユさん、それは僕が持ちます、あとこれがナユさん用の武器です、

今のうちに慣れておいて下さい」

「ありがとう、色々試してみるね」

 

 リアルトーキョーオンラインでのボス戦の準備は、

クロービスの仕切りで着々と進んでいた。

通常は一週間はかかるその準備を、クロービスは三日で終えていた。

その獅子奮迅の働きの理由は自分の命の火が消えようとしている事を自覚している為である。

当然他の者達もその事は分かっていたが、誰もクロービスを止めるような事はせず、

むしろ積極的に協力していた。ナユタも八幡に、決して涙を見せるなと厳命されていた為、

歯を食いしばりながらもその内心を絶対悟られないようにと、

常にニコニコと笑顔で作業をしていた。

 

「で、目的のボスのいる位置は判明したの?」

「うん、東京タワーみたい」

「へぇ、スカイツリーじゃないんだ?」

「まあいずれはそういうボスも出てくるのかもだけど、

まだメインシナリオが最後までいってないからね、それは老後のお楽しみって事で」

「老後………ね、うん、そうしましょう」

 

 それはクロービスが望んでやまない言葉であった。

自分はまもなく退場するが、せめて仲間達は幸せな老後を迎えて欲しい、

それがクロービスの心からの願いなのである。

 

「よし、それじゃあ出発しましょうか」

「待って、途中にいる中ボスの事も説明するから」

「あ、直接は行けないの?」

「うん、何体か中ボスを倒したフラグが必要なんだよね」

「なるほど、敵はどれでもいいの?」

「この前一体倒したのがフラグ持ちだったから、残るはもう一体なんだけど、

敵によって難易度が違うんだよね、まあ簡単なのを選べばさくっと終わるんだけど……」

 

 そこでクロービスは、ニヤリとしながらこう言った。

 

「当然まだ誰も倒した事がない、一番難易度の高い奴を選んでおいたよ」

 

 その言葉にスリーピング・ナイトのメンバー達は大歓声を上げた。

 

「当然だな!」

「そうこなくっちゃ!」

「よ~し、ここでも歴史に名を残してやろうぜ!」

 

 スリーピング・ナイツの名は、一部のゲーマー達の間では既にビッグネームになっていた。

色々なゲームで常に少数でボスの初討伐を繰り返す彼女らの名声は高まる一方である。

後はいつALO、もしくはGGOに乗り込むかというのが最近のもっぱらの話題であった。

 

「で、どこに行くの?」

「雷門」

「もしかして風神雷神!?」

 

 それを聞いたユウキが興奮したようにそう言った。

 

「うんそう、風神雷神」

「龍神は?龍神はいないの!?」

 

 それを聞いていたランが、突然そんな訳の分からない事を言い出した。

 

「ラン、何で龍神?全然関係なくない?」

「あるわよ!この前私が検査で一人だけ落ちた時があったじゃない」

「それとこれにどんな繋がりがあるの……」

 

 ユウキは呆れた顔でランにそう言った。

我が姉ながらさすがに自由すぎでしょ、と内心思っていたのは秘密である。

 

「まあ聞きなさい、検査と検査の間にちょっと時間があくタイミングがあって、

その時に八幡に私の相手をするという栄誉を与えたのだけど」

「えっ、何で八幡がいたの?ボクの時はいなかったのにずるい!」

「ユウはそういう所がまだまだ子供ね、八幡がその日いた理由は一つ、

私があちこちに手を回して、その日に私の検査があるという事を、

さりげなく八幡の耳に入るように仕向けたからよ!」

「耳に入れただけ?来いって言ったんじゃなくて?」

「だからユウはまだまだだというのよ、

そんな事を直接強請ったら、あの捻くれ者が素直に来るはずがないじゃない」

 

 その言葉にナユタは心当たりがあるのか、うんうんと頷いた。

それでも経子あたりがわざわざ連絡してくるような特別な検査であれば、

八幡も自主的に動いたかもしれないが、その場合はそうではなく、

本当にただの定期検査だった為、特に八幡に連絡がいく事はなかったのである。

 

「そ、それはそうかもだけど……」

「だから私は一計を案じたわ、せっかくログアウトするのだから八幡に会いたい、

だが素直じゃないあの男を動かすにはどうするか、答えは……」

「答えは……?」

 

 そのランのもったいぶった言い方にまんまと乗せられたのか、

一同はゴクリと鍔を飲み込んで次のランの言葉を待った。

 

「ソレイアルさんの前で、今度検査があるんだよねとだけ言って、

直後に不安そうなそぶりを全力でアピールしたのよ!もちろん直接言葉にしないでね!」

「あ、ああ~!」

「そ、それは絶対に八幡さんの耳に入りますね……」

「ソレイアルさんは、そりゃ心配になって、その事を八幡の兄貴に言うよなぁ」

「汚い、さすがラン汚い!」

「お~っほほほほほ、頭脳の勝利よ!」

 

 ランはドヤ顔でそう言い、ユウキは悔しそうにその場に蹲った。

 

「くっ、攻めの姿勢が足りなかった……って、あれ?今の話のどこに龍神の要素が?」

 

 それでランも話の本題を思い出したのだろう、ハッとした顔で再び話し始めた。

 

「そういえばそうだったわね、で、相手をしてもらったのはいいけど、

その日八幡は疲れてたらしく、私の前でまんまとうとうとし始めてくれたの」

「まんまとって……」

「なのでこれ幸いにと、私はその場で全裸になり、そしてさりげなく八幡を起こしたわ」

「「「「「「「ええ~!?」」」」」」」

 

 スリーピング・ナイツの全員が、その言葉に驚いたような声を上げた。

だがナユタは一人、なるほどという風に頷き、ぶつぶつと何か呟いていた。

 

「そして私の裸を見た八幡は、我慢出来なくなって私に襲い……」

「「「「「「「「それは嘘」」」」」」」」

 

 その言葉に対しては、その場にいた全員が見事にそうハモった。

 

「くっ……ど、どうしてそう思うのよ、世の中にはもしもって事があるのよ!」

「もしもって自分で言ってる時点で嘘じゃん……」

「う、嘘だと証明してみなさいよ!」

「よ~しみんな、一斉に八幡にメールを送ろう、内容は……」

「ストップ!スト~~~ップ!分かった、分かりました、

今までのは全て嘘ですごめんなさい」

 

 さすがのランも、そうなった場合の八幡の怒りを想像し、

これ以上のごり押しは出来なかったようだ。

 

「ところでまた話がズレたみたいだけど、結局龍神って何?」

「ああ、それはね、私の裸を見た八幡が、私に布団を被せた後に、

お前、いい加減にしろよな!風邪でもひいたらどうするんだよ!

って少しズレた事を言ってきて……」

 

 そこまで聞いた時点で、周りの者達はざわっとした。

 

「おぉ……」

「やべえ、俺、兄貴に惚れそうだ」

「八幡さんの好感度が爆上がりすぎるわ……」

「えっ?」

「「「「「「「えっ?」」」」」」」

 

 ランはその言葉にきょとんとし、そんなランの様子を見た皆もきょとんとした。

 

「わ、私の裸に欲情しないどころか褒めもしなかった八幡に、何で好感?」

「いや、だって何よりも先ず、ランの体を心配してくれたって事でしょ?」

「女の裸を前にして、最初にそう言えるって俺達は凄えって思うんだけど……」

 

 その言葉が徐々に脳に染み入るに連れ、ランの表情が驚愕に包まれた。

 

「ど、どどどどうしよう、いつもなら、この耳年増めいい加減にしろって言われる所だから、

自分が凄く大切に扱われていた事にまったく気付かなかったわ……」

「まあ後で謝ればいいんじゃない?」

「そうそう、そういう時は素直に謝るのが一番だって」

「う、うん……」

 

 珍しくランはそんな殊勝さを見せ、そして先ほどの続きを話し始めた。

 

「まあその後、何で脱いだんだよって聞かれて、だって暇だったんだもんって答えたら、

じゃあこれでも読んでろって言ってスマホの中に入ったマンガを見せられて、

そのヤンキーマンガの中に、風神雷神龍神っていう三人組が出てきたと、まあそんなオチよ」

「それだけであんなに興奮してたの!?」

「長々と引っ張っておいてそれだけかよ!」

「ほい解散解散、それじゃあ出発しようぜ」

「あ、ちょっと、本当に面白かったんだってば!もう、待ちなさいって!」

 

 メンバー達はランには構わずそのまま出撃していった。

ランも慌てて後を追い、こうしてこの日の戦いの火蓋は、

いつも通りの緩い雰囲気で切って落とされた。

そこには悲壮感はまったく無く、若干気が張り詰めていたクロービスは、

その事で肩の力が抜け、いつも通りに振舞ってくれる仲間達に感謝した。

 

 

 

「この辺りの敵って強いですよね?」

「う~ん、まあ普通?」

「このくらいなら楽勝だから心配しないでいいよ」

「は、はぁ……」

 

 表示される敵の強さを見て、ナユタは内心で若干驚いていた。

この辺りの敵はAEで言えば現時点での最強のフィールドエネミークラスの敵ばかりであり、

それをスリーピング・ナイツの面々がいとも簡単に殲滅していくのが信じられなかったのだ。

AE時代もランやユウキは確かに強かったが、ここまでではなかったように思う。

AEから他のゲームに移動した後、みんながどれだけ戦闘経験を積んできたのか想像し、

ナユタは眩暈にも似た感覚を覚えた。

 

「みなさん、あれから随分強くなったんですね」

「ん、そうかな?」

「まあ確かにずっと戦い続けてたからねぇ」

「でもまあほら、私達はスリーピング・ナイツだしね」

 

 そのランの言葉の続きを補完するとしたら、『強くて当たり前』という事になるのだろう。

そんなナユタの脳裏に、不意に過去の八幡とのやり取りが浮かんだ。

 

『八幡さん達ってやっぱり強いですよね』

『ん、まあ俺達はヴァルハラだからな』

 

 今のランのセリフは、いかにも八幡が言いそうな言葉に感じられ、

それを踏まえてナユタは、クスリと笑いながらランにこう尋ねた。

 

「ランさん、それってもしかして八幡さんの真似だったりします?」

「あ、分かる?さっすが私の娘ね」

 

 その相変わらず意味不明なランの言葉に、

ナユタは頭にハテナを浮かべながらこう聞き返した。

 

「何で娘なんですか?」

「だって私が八幡と既成事実婚をしたら、ナユちゃんは私の娘って事になるじゃない」

「ランさんの中では、既成事実婚が確定なんですね……」

 

 ナユタは、ランさんはブレないなぁと思いながらそう呟き、ランは得意げにこう言った。

 

「ちなみに出来ちゃった婚と言わないのは、出来なくても結婚する予定だからよ!」

 

 ランはまるで狩人のような目をしながらそう言い、

ナユタはそんなランの目を正面から見返しながらこう言った。

 

「でもそれ、残念ながら間違ってますよ、私は娘じゃなく、

ランさんにとっては姉妹って事になるんだと思います」

「姉妹?へぇ、言うじゃない」

「私だって、現時点で比企谷家の子になるのをキッパリ断ってますからね」

 

 二人は火花を散らしながらそう応酬し、

ユウキもその横で、それに混ざりたそうな表情をしていた。

丁度その時、突然犬タイプのモンスターが二人目掛けて猛然と近付いてきた。

だが二人はその犬を見もせず、最初にランがその犬を真っ二つにし、

直後にナユタが裏拳でその体を遠くにぶっ飛ばした。

 

「邪魔ね」

「うるさいですよ」

 

 そのままその犬は消滅し、二人は尚もにらみ合いを続けていた。

 

「はぁ、仲がいいんだか悪いんだか」

「いいに決まってるだろ、あんなに息がピッタリなんだし」

「まあそうだね、くぅ、ボクだって……」

 

 そしてユウキもその争いに参戦した。

 

「二人とも、ボクの事も忘れないでよね!」

「あら、ユウも参戦するのね」

「望むところです!」

 

 その状態でも三人は敵を倒しまくっており、

残りの五人はやれやれと言った顔で、三人を浅草方面へと誘導していった。

そこからしばらくして、敵の出現頻度が明らかに少なくなり、

前方に通行可能な光の壁が現れた。敵が絶対に出ないエリア、セーフティゾーンである。

 

「よし、休憩休憩っと」

「位置からして、ここが最後のセーフティゾーンかな」

「それじゃあここで、休憩ついでに準備の最終確認もしてしまいましょう」

 

 ランのその一声で、一同はそれぞれ荷物の確認を始めた。

そんな中、シウネーがこっそりクロービスにこう声をかけてきた。

 

「クロービス、大丈夫?」

 

 極力クロービスの状態については触れないようにし、

いつも通りに振舞おうと決めてはいても、やはり心配なものは心配なのであろう、

心優しいシウネーは、どうしてもクロービスに声をかけずにはいられなかったようだ。

 

「うん、大丈夫、今日の戦いが終わるまでは持つ、いや、絶対に持たせてみせる」

 

 その力強い宣言を受け、シウネーはただこう答える事しか出来なかった。

 

「絶対に勝ちましょう、クロービス」

 

 そして最初の関門である、風神雷神戦がついに開始された。

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