ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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お待たせしました、遂にマザーズ・ロザリオ編の開幕です!


第七章 マザーズ・ロザリオ編
第731話 謎のローバー


 スリーピング・ナイツがALOに上陸してから実に一週間が過ぎた。

だがその事はほとんど話題には上がっていない。

それは単純に、目立つような行動をまったくしていないせいであり、

とにかく今は、ALOで確固たる地盤を築こうと躍起になっていたのだった。

そして物語は、スモーキング・リーフから幕を開ける。

 

「おばば様、何か私好みの情報は無い?」

 

 ソファーでリツに入れてもらったお茶を飲みながら、

ランは前に座っている老婆にそう質問をした。

 

「儂はお前さんの好みなぞにはまったく詳しくないのじゃが、

そうさのう、お前さん達は十分な強さを誇っておるが、

その武器じゃまだまともに戦えんじゃろ?とりあえず金策にいい狩り場の情報でいいかの?」

「それよそれ、私達が求めていたのはまさにそんな情報なの、

さっすがおばば様、頼りになるわ!」

「褒めても何も出んぞい」

「そんなの分かってるわよ、でも褒められて悪い気はしないでしょう?」

「まあのう、それで狩り場の情報じゃが……」

 

 ここはスモーキング・リーフの中にある万屋『ローバー』であり、

この老婆はその店長の『ローバー』である。

要するにプレイヤーネームが店の名前になっているのだが、

老婆だからローバーとは何とも安直な話だ。

ちなみに何故今こうなっているのかというと、

話はルクスとスリーピング・ナイツの出会いの次の日まで遡る。

 

 

 

 AEで猫が原の戦いが行われた次の日、ひよりは学校の廊下で八幡に話しかけられ、

昨日八幡が落ちた後に何があったのかを、嬉しそうに話し始めた。

 

「よぉひより、調子はどうだ?」

「あっ、八幡さん、あの後なんですけど、実は早速お友達が出来たんですよ、

あの直後にALOの初心者だっていうコンバート組の人達に、

初期の資金で買える武器を売ってる店はないか聞かれて、

とりあえず露店の武器屋に案内したんですよね」

「ふむふむ」

「店を紹介した後、他にも色々聞かれて、私ってばえっと……

補給とかを担当してたせいで、店とかそういうのには結構詳しいから、

色々と案内してあげて、それがキッカケでその人達と仲良くなったんですよ」

 

 ひよりはさすがに学校の廊下でラフコフの名前を出すような事はせず、

主語を省いてそう言うに留めた。だがまあ特に問題はない。

八幡は事情を知っている為、きちんと脳内で、ラフコフで、という主語を付け足したからだ。

 

「なるほど、確かにひよりは色々と詳しそうだよな」

「はい、それだけが取り柄ですので!それでですね、私達って先立つものがないから、

どうしても戦闘力って点ではやっぱり最前線にはまだまだ行けないんですよ」

「まあそうだろうな、今手に入るのは、いいとこアニールブレードくらいだろうしな」

「そうなんですよ、なのでまあ、せっかく知り合ったんだし、

私は信頼出来る戦闘の仲間を手に入れられて、

自分で言うのはちょっと恥ずかしいですけど、

あちらは情報通の私に色々案内してもらえるって事で、

しばらくはウィンウィンな付きあいをしていこうって話になったんですよね」

「そうか、良かったじゃないか」

「はい、正直助かりました」

 

 八幡は内心で、ひよりってこんなによく喋る奴だったのかと驚いていたが、

よく見ると頬は紅潮しており、久しぶりに昔のキャラでログイン出来て、

楽しくて気分が高揚しているんだろうなと推測した。ちなみにその推測は正解である。

 

「しかしそいつらは、確かに信用出来る奴なのか?」

「一応ネットで調べたんですけど、他のゲームじゃ有名なチームらしくて、

悪い評判も無いから大丈夫だと思います」

 

 この時点で八幡は、まさかという気持ちでいっぱいであった。

 

「……へぇ、一体何てチームだ?」

「スリーピング・ナイツです」

 

 八幡は、まさかそんな偶然があるのと衝撃を受けたが、

当然そんな感情を表に出すような事はない。

 

「……へぇ、まあひよりが本当にそいつらを信用出来ると思ったのなら、

機会を見てスモーキング・リーフにでも連れてってやってくれ、

お得意様になってくれるかもしれないしな」

「ああ、確かにそうですね、それじゃあ早速今日案内してみますね」

「ルクスって優柔不断っぽい事を言ってた癖に、たまに即断即決するよな」

 

 ここでまもなく授業が始まる時間となり、二人はそれぞれの教室へと戻る事にした。

 

「そろそろ時間だな、それじゃあまたな、ひより」

「はい、またです」

 

 そして教室に入ったひよりは、同じクラスの女子達に囲まれた。

 

「か、柏坂さん、最近八幡様とたまに話してるよね?」

「う、うん、実は先日アスカ・エンパイアで偶然八幡さん達と知り合って、

その時に覚えてもらえたの」

「そうなんだ、やっぱりゲーム絡みかぁ……また私も何か始めようかな……

でもまだちょっと怖いんだよね……」

「それ、あるよね」

「分かる分かる、私もそうだもん」

 

 その意見に他の女子達も賛同した。

 

「まあ悪いのは人であって、ゲームが悪いんじゃないよきっと」

「確かに……」

「まあでも八幡様に覚えてもらえたなんて、本当に羨ましい……」

「いいなぁ、柏坂さん」

 

 授業開始時刻が差し迫っていたせいか、

丁度その時、教師が前の扉から入ってきたため、

そこでひよりは解放される事となった。

 

(ふう、この学校に入ってからこんなに人と話したのは始めてかも。

これも八幡さん効果なのかな、やっぱり凄いなぁ)

 

 そんな事を考えながら、ひよりはその日、クラスメート達の相手をし続ける事となった。

これをキッカケに、ひよりの学校での半孤立状態は終了し、

その後は普通に他の者とも話せるようになった。

そう考えると先日の戦いは、ひよりにとっては人生の転機となる戦いであったのだろう。

 

 

 

(さて、今日はスリーピング・ナイツの人達と、どこに行こうかなぁ、

とりあえずスモーキング・リーフには案内するとして、

そこでどんな素材がどの辺りで取れるのかとか、

どんな資材が高値で取引されているのかとか、リツさんやリナさんに聞いてみよっと)

 

 ひよりはそんな事を考えながら教室を出た。

そして八幡の教室の前に差し掛かった時、中からこんな声が聞こえた。

 

「おいおい、八幡の奴はどうしたんだ?凄い勢いで走り去っていったな」

「あ、何か急用でソレイユに行くって」

「ソレイユ?ああ、仕事絡みか」

「そうなのかな?今日は一日どこからも連絡を受けてなかったんだけどなぁ」

 

(八幡さん、帰っちゃったんだ、

運が良ければ放課後もちょっと話せるかと思ってたけど、残念だな)

 

 ひよりはそう思いながらも寮の自室へと急いで戻り、そのままALOへとログインした。

 

「さて、ランさん達は……ステータス、アインクラッド一層?

ここにいるならとりあえず、みんなを探して合流かなぁ」

 

 ルクスがそう思った瞬間に、ランからメッセージが届いた。

 

『私ランちゃん、今あなたの後ろにいるの』

 

「ひっ」

 

 ルクスはそう軽く悲鳴を上げて、慌てて振り向いた。

 

「どうしたの?どこかに美人でグラマーなランちゃんでもいた?」

 

 その厚顔無恥な言葉には、さすがに仲間内から突っ込みが飛んだ。

 

「自分で言うのかよ!」

「さすがランさすがあざとい」

「うるさいわね、別にいいじゃない、事実なんだし」

「うわ、開き直りやがった!」

「もう一回言うぞ、自分で言うな!」

 

 そのスリーピング・ナイツのメンバー達の会話に、ルクスは思わず噴き出した。

 

「ほら、ルクスも喜んでくれてるじゃない」

「お~いラン、違うからな、笑われてるだけだからな」

 

 そんなランにすかさずテッチがそう突っ込んだ。

 

「そうなの?」

 

 ランが真顔でそう言った為、ルクスはそれが冗談なのか本気なのか判別出来なかった。

その為ルクスは必死に笑いを堪えながらランに無難な返事をした。

 

「い、いえ、皆さんと一緒にいると楽しいなって思って……」

「ほら、やっぱり喜んでるんじゃない」

 

 そのランのドヤ顔に、テッチは呆れた顔で言った。

 

「まあルクスがいいってならそれでいいや、で、これからどうする?」

「あ、その前に一箇所、案内したい所があるんです」

「そうなんだ、どこ?」

「えっと、アルンの裏通りにある素材屋さんで、スモーキング・リーフってお店です」

「ちょっとスリーピング・ナイツに似てるわね」

「ひぃふぅみぃ、四文字しか被ってねえよ!」

「半分も被ってるじゃない」

「え?あ、そう言われると確かにそうか」

「ええそうよ、私は常に正しいのよ!」

 

 そのランの言葉に、仲間達はやれやれという表情をした。

 

「えっと……」

 

 ルクスはどう反応すればいいのか分からず、曖昧にそう口に出した。

 

「あっとごめんごめん、ランは時々こんな風におかしくなるんだよね、

さあ、そのお店にボク達を案内してよ」

「あっ、はい、それじゃあ行きましょう!」

「ユウキ、後で覚えてなさい」

「はいはい、ランもさっさと行くよ」

 

 そして一行は、ルクスの案内でスモーキング・リーフへと足を踏み入れる事になった。


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