ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第734話 いけすかない奴ら

「という訳でみんな、第二層の東の岩山を目指すわよ!」

「それはいいんだけどさ、ローバーさんって、何者?実は凄腕の情報屋?」

「えっ、何それ、ローバーさんはただのおばあさん……かどうかは分からないけど、

情報屋とかじゃないんじゃないかしら、そもそもタルはどうしてそう思ったの?」

「だってさ……」

 

 タルケンはそう言って、ジョブに関する調査結果をまとめた画面を可視化して呼び出した。

クロービス亡き後、スリーピング・ナイツの情報担当に就任したのはタルケンなのである。

ちなみに補助に、シウネーがついている。

 

「ほら、スキルの欄を見てみてよ、体術スキルのとこ、詳細不明ってなってるでしょ?」

「あれ、本当だ、でも存在は知られてるって事?」

「SAO時代の証言があって、攻略組のトップ数人が、

体術スキルらしき物を使っていたから、存在するのは間違いないってなってたみたい。

で、先日のバージョンアップで、全プレイヤーのスキルの所持状況が、

ソレイユから国勢調査的に発表されてさ、そこの情報によると、

現在体術スキルを取得している人はたった十七人だけってなってる。

所持してる人が少ないのは、自らの拳だけで戦おうとする人がいないのもあるだろうけど、

ランがおばば様から聞いた、剣を持って戦う時も、

補正がついて動きが明らかに良くなるっていうその情報が、

一般のプレイヤーにはまったく知られていないって事になるんだよね」

「一般には知られていない、ね、十七人もいれば、誰かしら情報を流してそうだけど」

「そうなんだよね、本当に謎だよ」

 

 そのタルケンの言葉に、ランは腕組みをして考え込んだ。

 

「ほとんど知っている人がいない体術スキル、その詳細を知るおばば様、か……」

 

 実はその十七人は、ヴァルハラの近接戦闘職の人数と完全に一致する。

これはハチマンの指示によるもので、ヴァルハラが強いのはそういった理由もあるのだが、

当然そんな事はタルケンやランには分からない。

とにかく体術スキルの恩恵に関しては、ベータテスター達は少なくとも知っているのだが、

SAO時代に取得に成功した者がそもそもハチマン達しかいなかった為に、

その詳細についてはまったく伝わらないままになってしまったのである。

 

「まあいいわ、おばば様と付き合っていくうちに、そのうちその理由も分かるでしょう。

とりあえず出発する準備を進めましょう」

「「「「「「おう!」」」」」」

 

 そして七人は準備を整え、始まりの街で確保した拠点から出発し、転移門へと移動した。

 

 

 

「あら、何か混んでない?」

「本当だ、この人だかりは何?」

 

 転移門広場は何故か人でごったがえしていた。

たまたま近くにいた、どう見ても戦闘職には見えない派手な服を着たプレイヤーが、

二人の言葉を聞き、親切にもその理由を教えてくれた。

 

「本当に迷惑よね、まったく頭にきちゃうわ」

「あの、これってどうなってるんですか?」

「『同盟』の連中が、最前線のボスに挑むらしくて、

その移動の為に、一時的に一般プレイヤーを閉め出して、転移門を勝手に占有してるのよ」

「ええっ?そうなんですか?」

「ええ、本当に迷惑な奴らよね、まったくもう、

今日はヴァルハラにいるスクナちゃんと、裁縫談義で盛り上がる予定になってたのに」

 

 その言葉に一同の心臓はドクンと跳ねた。

詳しく知るのは挑戦する準備が整ってからでいいと、

スリーピング・ナイツの面々は、ヴァルハラの情報を極力耳に入れないように注意していた。

だが興味が無い訳ではもちろんなく、ここでその名前が出た事で、

一同は、もしかしてこの人は、ヴァルハラの一員なのだろうかと考えた。

そんな仲間達の雰囲気を読み、代表してランとユウキが一歩前に出て、

そのプレイヤーに話しかけた。

 

「すみませんお姉さん!ちょっといいですか?」

「あの、あなたはヴァルハラ・リゾートの人と親しいんですか?

それとももしかして、メンバーだったりします?」

「え?私?嫌ねぇ、私はただの野良のお針子よ、

最近やっと裁縫のスキル上げが満足いくレベルまで終わってね、いざお店を開こうとして、

もしかしたらいい物件を知らないかと思って、

昔のツテを頼ってヴァルハラのリーダーのハチマン君の所に尋ねていったら、

同じ裁縫職人だっていってスクナちゃんって子を紹介されたから、

その関係でそれ以来、色々と情報交換をさせてもらってると、まあそういう訳かしらね」

「あ、職人さんだったんですか」

「ええ、私の名前はアシュレイ、宜しくね、え~と……」

「ランです」

「ボクはユウキ!」

「ランちゃん、ユウキちゃん、宜しくね」

 

 こうしてスリーピング・ナイツは、裁縫職人アシュレイと、

偶然ながら関係を結ぶ事となった。

 

「あの、アシュレイさん、同盟って何ですか?」

「あら、同盟を知らないなんて、あなた達はもしかして新人さんなのかしら」

「はい、つい先日リアル・トーキョー・オンラインからリハウスしてきました」

「リハウスね」

 

 その表現を聞いたアシュレイは、思わずぷっと噴き出した。

 

「なるほど、いい表現ね、で、同盟だけど、

正式名称は、『ボス攻略専門ギルド同盟』っていうのよ、

その名の通り、アインクラッドの階層更新を専門に狙っているプレイヤー達の集まりよ」

「そんな集団が……」

「あいつら、色々と汚い事をしてるって噂が耐えないのよね、

だからいくら頑張っても、ヴァルハラ・リゾートほどの名声を得る事は出来ない、

それが不満でこうして転移門を占有するくらい、強引に攻略を進めている、

まあいけすかない奴らよ」

「なるほど………ありがとうございます、とても参考になりました」

「「「「「「ありがとうございます!」」」」」」

 

 そう頭を下げる一同に、アシュレイはどうやら好感を抱いたようだ。

 

「そろそろ同盟のメンバーが全員転移を終えるようね、もうすぐ門が解放されるわ、

私の店は、今は第十八層にあるから、もし何か装備が必要なら、いつでも相談に来てね、

お値段の方も多少は勉強させてもらうわ」

「はい、その機会が来たら是非!」

「またお会いしましょう!」

「ええ、またね」

 

 そう言ってアシュレイは、転移門へと消えていった。

 

「アシュレイさんにはいずれお世話になりそうね」

「とりあえず第二層に飛ぼっか」

「そうね、行きましょう」

 

 こうして多少待たされる事になったが、

そのおかげで貴重な出会いをしたスリーピング・ナイツは第二層へと移動した。

 

「タル、地図を確認、目的地は?」

「ええと……ああ、あの岩山だね」

「あら、思ったよりも近いのかしら」

「ううん、全然遠い、山が大きいからそう見えるだけかな」

「そうなの?まあとりあえず出発しましょうか」

 

 その号令を受け、遠くに見える岩山を目指し、一同は雑談をしながら歩き始めた。

 

「ねぇラン、アシュレイさんってさ、ハチマンと昔なじみっぽかったよね」

「確かに昔のツテって言っていたわね」

「って事は、多分あの人SAOサバイバーだよね」

「あの人が?ああ、確かに理屈だとそういう事になるわね」

「職人プレイ専門の人っぽかったけど、どのくらいの腕なんだろうね、

ボク達の中には職人がいないから、想像もつかないや」

「多分超一流かな」

 

 そこに端末で何かチェックしていたタルケンが、横からそう言ってきた。

 

「そうなの?」

「うん、気になって調べてみたんだけど、

超が三つ付くくらいSAOじゃ有名な人だったみたいだよ」

「そうなんだ?」

「SAO一の裁縫職人だったって、色々な人の書いた本に名前が出てるみたい」

「ほええ、SAO一とはまた凄いわね」

「そんな人と知り合いになれたのはラッキーだったよね」

 

 ランはその言葉にうんうんと頷きながらも、自らを戒めるようにこう言った。

 

「とはいえ甘えすぎるのも良くないわ、出来るだけきちんと対価を払えるように、

しっかりと稼いでからアシュレイさんの店に行きましょう」

「だね、よ~し、今日は稼ぐぞぉ!」

「そして体術スキルもついでにゲットだな!」

 

 一同はやる気に溢れたようにそう言い、ひたすら歩き続けた。

 

 

 

 そして二時間後、岩山の麓に到着した一同は、

ゲームなのでまったく疲れてはいないはずなのに、疲れた表情でその場に蹲った。

 

「い、色々としんどかったわね……」

「道中の敵は弱かったけど……」

「まさかこんなに遠いなんて……」

「おばば様もここを歩いたって事だよな、凄えなおばば様……」

「活動的ですね」

「まあここまでくれば、もうすぐだろ」

 

 そう思い、一同は立ち上がると、目の前にある崖を上りはじめた。

若干角度がなだらかなおかげもあったが、

さすがにここで滑り落ちるようなドジを踏む者はいない。

そして三十分後、一同は、教えられた通りの場所に横穴のようなものを見つけた。

そこは下からはまったく見えず、多少角度が急な岩山の裂け目の中にあった為、

おそらくローバーに教わっていなければ、絶対に発見出来なかっただろうと思われた。

 

「ああもう、誰?もうすぐなんて言ったのは!」

「ごめん、俺が間違ってたわ……」

 

 珍しく怒りを見せたシウネーに、ジュンがそう謝った。

 

「あ、ごめんなさい、つい八つ当たりを……」

「いや、自分で言うのもなんだけど、気持ちは俺も一緒だから……」

「まさか三十分も上る事になるとはね……」

「で、この穴の中に入るのか、とりあえず明かりを準備しようぜ」

「分かりました、今魔法を使いますね」

 

 そう言ってシウネーが、光の精霊を二体召喚し、先頭と最後尾に浮かべた。

 

「オーケーです」

「それ、便利そうだよね」

 

 魔法にはまったく縁が無いというか、覚える気がないユウキが、感心した顔でそう言った。

 

「そうですね、多分迷宮区の探索の時とかにも凄く便利ですよ」

「種類は他にも何かあるの?」

「そうですね、基本こういった召喚系は、

使い魔システムがあるせいで戦闘向きなのはいないんですけど、

冒険の補助をするものとして、例えばトカゲの姿をしたピーピングとかがいますね」

「ピーピング?覗き魔?」

「ええ、まあ偵察用の使い魔ですね」

「それって悪用されたりしないの?ほら、スカートの中を下から覗きこむとか」

「ああ、そういうのは出来ないみたいです、撮影も出来ませんし、

それ以前にフォーカスされないようになっているみたいですね」

「なるほど、ぼやけて見えるんだね」

「そのぼやけた状態でも、三秒以上見ているとハラスメント警告が出て、

その三秒後に強制的に反省室送りになるみたいです」

「そっか、それなら安心だね」

 

 そして一同は、目的地へと続くはずの岩山に開いた穴へと侵入した。

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