ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第735話 水路の向こう

 岩山の洞窟に入ったスリーピング・ナイツ一行は、

ローバーに教えてもらった通り、そこから奥に続く水路を探していた。

そしてそれっぽい水路を発見したのだが……

 

「もしかしてここ?」

「いやいや、それは無いんじゃない?」

 

 その水路はとても暗く、狭かった。いわゆる、暗いよ狭いよ怖いよ、の三拍子が揃った、

とても移動に適しているとは思えない水路なのである。

 

「あはははは、ここな訳ないじゃない」

「だよな、とりあえず他を当たろうぜ」

「うん、それがいいと思う」

 

 そして一同は、そこを基点に徹底的に洞窟の探索を行ったが、

どこにも該当するような水路は発見出来なかった。

 

「え………マジで?」

「これはやばくない?」

「でも他にそれっぽい場所はどこにも無いですよね……」

「これは誰も来ない訳だわ、というか自力で発見する難易度が高すぎる……」

 

 一同は口々にそう愚痴をこぼすと、諦めてその水路を進む事にした。

だがその水路はよく観察すると、すべり台のようになっており、

進むというよりは、滑る、もしくは落ちる、といった移動方法になると推測された。

 

「これを道というのは少し躊躇われるけど、仕方ない、ここに入りましょう」

「他に選択肢が無さそうだもんね……」

「で、誰から行く?」

「それはもちろん……ねぇ?」

 

 女性陣はそう言って、じっと男性陣の方を見詰めた。

スリーピング・ナイツの男女比は、今は三対四であり、

リーダーも女性である以上、女性陣の方が権力を握っているのは至極当然なのである。

 

「ですよね~……それじゃあジュン、テッチ、ジャンケンしよっか」

 

 タルケンの提案で、三人はかなり真剣に勝負を始めた。

どうやら三人とも、こんな怪しい場所に、一番乗りはしたくないようだ。

その真剣勝負に勝利したのは、言いだしっぺのタルケンであった。

 

「やった、僕の一抜け!」

「「くそおおお!」」

「次で明暗が分かれるわね」

 

 そしてジュンとテッチの勝負は、何回かあいこが続き、最終的にテッチの勝利となった。

 

「よし!」

「俺かあああああ!」

 

 どうやら覚悟を決めたのか、敗北したジュンは、諦観したような表情で水路の前に立った。

 

「よし………………………………………………………」

「さっさと行きなさい」

「ぎゃっ!」

 

 尚も躊躇いを見せるジュンのお尻をランが蹴飛ばした。

 

「うおおおおおお、怖えええええええ!」

 

 そして水路からジュンのそんな悲鳴が聞こえ、しばらくすると何も聞こえなくなった。

 

「………どうなったんだろう」

「パーティリストでは死亡扱いにはなっていないし、無事なのは確かよね?」

「お~いジュン、大丈夫か~?」

 

 だがその呼びかけに対する返事はない。

 

「ど、どうする?」

「尊い犠牲だったわね、とりあえず帰りましょうか」

 

 ランのその言葉で、一同はそのまま帰ろうとした。

体術スキルと素材はまた今度でいいや、といった所であろうか。

その瞬間に、水路の奥からジュンの声が聞こえた。

 

「ごめんごめん、景色のあまりの違いに驚いて返事をするのを忘れてたわ、

とりあえず中は思ったよりも全然平気だった、こっちは大丈夫だ」

 

 その声を聞いた一同はくるりと引き返し、大人しく順番に水路の中へと進入していった。

とりあえずジャンケンの結果通り、テッチとタルケンが中に入り、

続けてノリとシウネーがそれに続いた。

そしてユウキが中に入り、ランが一応周囲に誰もいない事を確認し、最後に中に入った。

水路は意外と曲がりくねっていたが、やはり滑り台のように中は滑らかであり、

意外とそこを通るのは楽しかった。

そして前方に明かりが見え、ランがその明かりの中に飛び込もうとしたその時、

光の中からこんなノリのどなり声が聞こえた。

 

「あんたね、ちょっとは気を遣いなさいよ!だからあんたは女の子にモテないのよ!」

 

 直後にランは光の中へと突入し、それなりに高さはあったものの、

ランは問題なくヒラリと舞い、そのまま華麗に地面へと降り立った。

そこには気まずそうな表情で正座しているタルケンと、

そのタルケンに猛烈にくってかかるノリの姿があった。

 

「一体何事?私がいない一瞬の間に何があったの?」

「どうもこうもないよ、タルの奴、普通に着地に失敗して尻餅をついちゃってね、

その上に、続けて中に入った私がのしかかる形になっちゃったんだけど、

そしたら言うに事欠いてタルの奴、『重い!』とか叫びやがったのよ!」

「あ~………」

 

 どうやらタルケンは、女性に言ってはいけない台詞ベストスリーに入る言葉を、

うっかりと口に出してしまったらしい。

 

「ご、ごめん、つい……」

「つい何よ、まったく失礼ね!」

「まあまあノリ、そのくらいで許してあげなさいよ、

タルにも悪気があった訳じゃないんだろうし」

 

 ランがそう仲裁に入ったが、ノリの機嫌は直らない。それにはもう一つ理由があり、

ノリはそのタルケンの更なるやらかしについて、ランにこう訴えた。

 

「それだけじゃないの、その後にシウネーが続けて落ちてきて、

私は咄嗟に避けたんだけど、タルはシウネーを避けられなくてね、

シウネーもタルの上に落ちる格好になったんだけど、

その時タルは、シウネーには何も言わなかったのよ!」

 

「あ~………」

 

 本日二度目の、あ~、である。さすがのランも、それ以上は何もフォロー出来なかった。

 

「それはさすがにタルが悪いね……」

「う、うん、ごめん、ノリ」

「まったくあんたは、普段モテたいモテたいって言ってるんだから、

まずはそういう所を何とかしなさい!確かに咄嗟の出来事だったけど、

そういう時に、女の子をしっかり抱きとめるくらいの甲斐性を持ちなさい!」

「そんなのマンガの中だけだって、咄嗟の時にそんな事出来る人なんかいないよ!」

 

 そう冷静な意見を言われ、さすがのノリも、無茶ぶりをした自覚はあるのか、

やや気まずそうにこう言った。

 

「そ、それはそうかもだけどさ……」

「とにかくごめんって、今のは本当に僕が悪かったから!」

「ふ、ふん、まあいいわ、今度から気を付けるのよ」

「うん」

 

 タルケンは本当に反省しているように見え、

さすがに気の強いノリも、それ以上タルケンを追求するのはやめる事にしたようだ。

そして場が収まったのを見て、ランが一同に指示を出した。

 

「さあ、それじゃあ周囲の調査を始めましょう、

調査を終えたらとりあえずまたここに集合で」

 

 一同はその言葉に従い、散らばって探索を始めた。

その場所は岩山の中に出来たカルデラのような場所であり、

狭く見えて、それでも二百メートル四方くらいの広さはある。

辺りは緑に溢れており、遠くの壁際に小屋のような物が見え、

その周囲には何か巨大な岩のような物が見える。

 

 

 

 そして二十分後、再び集まったスリーピング・ナイツの面々は、

集めてきた情報の刷り合わせを始めた。

 

「小屋の中にはNPCがいたわね、頭にクエストマークが付いてたわ」

「他にNPCはいないようだし、あれが体術スキルを取得する為のクエストNPCね」

「敵影はまったく見えないから、多分ここ、安全地帯だね」

「周囲の崖は急すぎてちょっと登れないかな、

ここに来るにはやっぱりさっきの通路を通るしかないかも」

「あの小屋の裏に階段があって、そこを調べてみたんだけど、

どうやらぐるっと回ってさっきの水路の入り口の真上に通じてるみたい、

帰り道はあそこで決まりかな」

「周囲に咲いてる花は一種類だけだったから、多分あれが高値で売れるっていう花かな」

 

 こうしてこの場所の事を大体把握し、

いざ体術スキルの取得をしようと一同が立ち上がった瞬間、

水路の出口から、どこかで聞いた事があるような声が聞こえた。

 

「うお、ここってこんなに急だったか?危ねっ、滑……」

 

 そしてその出口から、どこかで見た事のあるような人物が滑り落ちてきて、

そのまま尻餅をつくような格好でドスンと地面に落ちた。

 

「ハチマン!?」

 

 その人物を見たランが、驚いた顔でそう言った。

 

「えっ、ここでのハチマンさんってそんな見た目なんだ」

「あ~、そういえばBoBって大会の映像で見たかもしんない」

「あの時は確か、中の人がランだったんだよな」

「ハチマン兄貴!お久しぶりです!」

「わ~いハチマン、ハチマン!」

 

 喜ぶ一同を見たハチマンは、知っていた癖に、わざと驚いたような表情をしながら言った。

 

「ん?お?お前ら、ついにALOに来たんだな、

でもいいのか?今の俺はお前らの敵なんだろ?」

「いいよいいよ、まだハッキリと敵対した訳じゃないし?

他のメンバーの人と馴れ合うのはまずいと思うけど、ハチマン兄貴はまあ今更だし?」

「そう言われると確かにそうなんだよな、それじゃあ別にいいか」

 

 ハチマンはあっけらかんとそう言い、スリーピング・ナイツの面々はうんうんと頷いた。

どうやらみんな、ハチマンの事が好きすぎるようだ。

 

「で、ハチマンはどうしてここに?」

「ああ、俺は……」

 

 そう言ってハチマンは立ち上がろうとした。だがそんなハチマンの上に、

続けて誰かが滑り降りてきた。その人物は、不自然なくらい色黒に見え、

それでいて、とても美しい長い髪をしているのだけが見てとれた。

 

「ハチマン、避けてくれ!」

「うおっとと……」

 

 その人物は空中で状況を確認したのかそう叫び、

ハチマンは一瞬避けかけた後、思いなおしたように素早く元の場所に戻って両手を上げ、

その人物を衝撃が無いように柔らかく受け止めた。

 

「別に避ける必要は無いだろキズメル、お前が怪我をしちまうからな」

「そうか、すまんハチマン、ところで……」

「ん?」

 

 直後にもう一人の人物が水路から飛び出してきた。

その人物もキズメルと同じくとても美しい長い黒髪をしているのが見てとれ、

更に空中でも華麗に体勢を立て直しそうに見えたのだが、

直後にその女性は何故か不自然に体勢を崩し、それを見たハチマンは、

素早くキズメルを下に下ろし、続けて飛び出してきたその人物の着地点を見切り、

その場所に移動してその人物をキャッチした。

 

「お前もか、ユキノ」

「ごめんなさい、ふふっ、何か楽しくなってしまって思わず我を忘れてしまったわ」

「そうか、まあそういう事ってあるよな」

 

 そんなハチマンと、その二人の女性の一連の動きを見た一同は、

何か言いたげにタルケンの方を見つめた。

タルケンは顔を真っ赤にし、その視線に対して抗議した。

 

「ハチマン兄貴と比べられても絶対に無理だってば!」

「「「「「まあそれもそうか」」」」」

 

 他の者達は、その言葉に思わずハモってそう答えたが、

ランだけは無言を貫いており、ユキノに対し、警戒するような視線を向けていたのだった。

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