ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第737話 いと険しきヴァルハラへの道

 状況を理解したユキノも、どうやら体術スキルのクエストを受ける事にしたようだ。

スキル欄がまだ余っているというのがその理由である。

そして予定通り、キズメルがNPCに話しかけた瞬間に、

そのNPCの頭の上のクエストマークが消えた。実験成功である。

 

「おお、キズメルもクエストを受けられたか」

 

 そしてそのNPCの手によって、キズメルの頬にヒゲが書き加えられた。

 

「な、なぁハチマン、これはちょっと恥ずかしいのだが……」

 

 さすがのキズメルも、頬に施されたペイントはやはり気になるようだ。

 

「いやいや、大丈夫だ、美人はどんな状態になっても美人だという事がハッキリしただけだ」

「むむむ、そ、そうか、うん、これが嬉しいという感情なのだな」

 

 キズメルは珍しく頬を染めながらそう答えた。

どうやらキズメルの感情面での成長は順調のようだ。

 

「さてユキノ、そろそろ……ってお前、その手鏡はどこから出したんだよ、

ヒゲが生えたといっても、別にお前がネコそのものになった訳じゃないんだからな」

「もちろん分かっているわ、でもあなた以外、この場にいるのは全員ネコなのよ!

そう考えると、ドキドキが止まらなくなるじゃない」

「お前、本当にネコがからむと性格が変わるよな……」

 

 ハチマンは呆れつつも、一同をそのまま庭にある大岩の前へと連れていった。

 

「さて、それじゃあお前らは頑張ってくれ、俺は休憩だ」

 

 ハチマンは他人事のように大岩を顎で指してそう言い、

一同は大岩に向かって一斉にその拳を振り下ろした。

 

「ユウ、分かってるわね、ここは絶対に負けられないわよ」

「うん、私達の存在をユキノさんに存分にアピールして、気に入ってもらおう!」

「微妙にズレている気がするのだけれど、まあいいわ、

とにかく絶対にユキノさんよりも早くこの岩を砕くのよ!」

 

 その瞬間に、大岩の一つが弾けた。

それはどう見ても、爆散したとしか言いようのない砕け方であった。

 

「ハチマン君、こんな感じでいいのかしら」

「おう、まあ予想はしていたが、早かったな」

「そうかしら?こんなものではないの?」

「いやいや、SAO時代のアルゴなんてな……」

 

 そこからハチマンの昔語りが始まった………らしい。

らしいというのは、その会話がラン達には届いていないからである。

 

「ラ、ラン!」

「う、嘘でしょ、いくらなんでも早すぎる!」

「でも実際に岩が……」

「くっ、こうなったら仕方ないわ、せめて二番に……」

 

 だが無情にも、直後にキズメルの前の大岩が砕けた。

 

「ふむ、これでいいか?」

「ああ、問題ない、それじゃあ早速報告に行くか……

ん?おいラン、どうした?手が止まってるぞ、さぼってないでさっさと岩を殴れ」

「………………わ、分かってるわよ!」

「そうか、それじゃあ俺達は報告に行くからな」

 

 そして三人は、笑顔で会話をしながらNPCの所へと歩いていった。

 

「え、NPCのキズメルさんにまで負けた……」

「ラン、これ、意外と固いよ、速度重視のボクにはつらいよ~」

「くっ……とにかくやるしかない、やるしかないのよ!」

 

 悲壮感すら漂わせ、そう言うラン達の耳に、

丁度その時ハチマン達のゆるい会話が伝わってきた。

 

「もうネコモードをやめないといけないの?

このまま報告しないでしばらくこの姿でいようかしら」

「それはやめてやれ、お前の顔を見る度、アルゴが発狂するからな」

「そう、それは残念」

「終わってみると、私も少し名残惜しい気がしてきたな」

「ふむ、それじゃあ今の状態で三人でSSでも撮っておくか」

「いいわね、せっかくなのだしそうしましょう」

 

 そして遠くからシャッターの音のような物が聞こえ、

その少し後に、妙にかわいいユキノの声が聞こえてきた。

 

「体術スキル、ゲットぉ♪」

 

 それを聞いたランは、再び手を止め、わなわなと震え始めた。

 

「ラン、また手が止まってるよ?早く壊さないと……」

 

 だがランの視点は定まらず、その口からは、ぶつぶつと何か呟きが聞こえてきた。

 

「ま、まさかギャップ萌えまで使いこなすなんて、

さすがは正式な彼女だけの事はあるわね、かつてない強敵……」

「ラン、ランってば!」

 

 その時横からジュンとテッチのこんな声がした。

 

「よし、やっと砕けたぜ!」

「こっちももういけそうです」

 

 結局ランは、どこか別の世界に旅立ったまましばらく戻ってこず、

その後ユウキ、ノリ、タルケン、が順番に岩を壊した後に復活し、

辛うじてシウネーには勝ったものの、ブービーで岩の破壊を終える事となった。

 

「何だラン、お前、今壊し終わったのかよ」

「う、うるさいわね、ちょっとトリップしてたのよ!」

「意味が分からん、しかしお前、体術スキルをシウネーにまで取らせたんだな、

シウネー、大変だっただろ?大丈夫か?」

「は、はい、お気遣いありがとうございますハチマンさん、でも大丈夫ですよ」

「そうか、まあスキル枠の問題もあるから、こういったスキルの取捨選択についても、

いずれしっかり考えるんだぞ」

「はい、他に有用なスキルが取れたらそれと入れ替えも検討するつもりです」

 

 ハチマンはその言葉に頷き、続けてランに向かってこう言った。

 

「よし、それじゃあ俺達は先に帰るからな、お前達も道中は気を付けるんだぞ」

「ハ、ハチマン、もう行っちゃうの?」

「おいおいユウ、お前達は俺達に挑戦するんだろ?

そんな甘えたような事を言われると、頭を撫でたくなるじゃないかよ」

「べ、別に撫でればいいじゃない、そのくらいで私達が懐柔されるはずもないし?」

 

 このチャンスを逃すまいと、ランも横からそう言ってきた。

 

「やれやれ、まあいいか」

 

 そう言ってハチマンは、スリーピング・ナイツの全員の頭を順番に撫でていった。

 

「今日はまあ、俺達との差を思い知らされる事になっちまったかもしれないが、

まあ目指す頂きが見えたと思って、もっともっと強くなるんだぞ」

「と、当然よ、私達はスリーピング・ナイツなんだから!」

「おう、待ってるわ」

 

 ハチマンは顔の横で手をひらひらと振りながらそのまま去ろうとしたが、

ふと何かを思い出したように足を止め、振り返った。

 

「そういえばそこに生えてる花、いい金になるから忘れずに採取していくんだぞ」

「し、知ってるわよ!」

「そうか」

 

 ハチマンはそう言い残してそのまま去り、キズメルも手を振りながらその後に続いた。

そして最後に残ったユキノは、輝くような笑顔で一同にこう言った。

 

「それじゃあいずれ戦う事になるかもだけど、それまで元気で頑張ってね」

「あっ、待って、ユキノさん!」

 

 そんなユキノをユウキが呼びとめた。

 

「ユウキさん……だったわよね、どうしたの?」

「あ、あの、ユキノさんってどんな武器を使うアタッカーなんですか?

さっきの岩を砕く速度が凄く速かったから気になって……」

 

 その言葉でユキノは、相手が自分達の事を何も知らないのだと理解した。

 

「なるほど、うちの事は何も調べてないのね」

「あっ、はい、カンニングするみたいで嫌だったので!」

「事前に調べておくのも戦略の一つだと思うけど、

そういう考え方ならそれもまたよしね、正直好感が持てるわ。

その上で先程の質問に答えるとすると、答えはノーね」

「ノ、ノー?それってどういう……」

 

 ユウキのみならず、他の者達もその答えの意味が分からず、頭に疑問符を浮かべた。

 

「ええと、私は物理アタッカーではないの、攻撃をするとしたら、魔法攻撃ね」

「ええっ!?あの力で魔法使いって事ですか?」

「いいえ、私はヒーラーよ」

 

 そのユキノの言葉はあまりにも衝撃的であった。

 

「ヒ、ヒーラー?」

「ヒーラーって何だっけ……」

 

 一同はそう言って固まり、ユキノはストレージから何かを取り出した。

 

「ちなみに武器はこれよ、銘はカイゼリンと言うわ」

 

 その杖、カイゼリンは神聖な波動を感じさせ、

先日見せてもらったセントリーやスイレーと同じレベルの武器に見えた。

 

「そ、それは……」

「ふふ、素敵でしょ、ハチマン君に用意してもらったの」

「ハ、ハチマンがこれを……」

 

(まさかあのおばば様が持っていた武器、出元はハチマンなのかしら……)

 

「うちにはいい職人がいるのよね」

 

 そう少し自慢げに言うユキノに、ランが勢い込んでこう尋ねた。

 

「あ、あの、ユキノさんは、セントリーとスイレーって武器を知ってますか?」

「セントリーにスイレー?聞き覚えがないわね」

 

 その表情は、とても嘘をついているようには見えなかった為、

ランは思い過ごしだったかと、ほっと胸を撫で下ろした。

例えあの二本がハチマンが用意してくれた武器だとしても、

ランは問題なく自分のメイン武器として使うつもりでいたが、

やはりどこかで複雑な気持ちを味わう事になっていたかもしれないと思ったからである。

 

「それならいいんです、変な事を聞いてしまってすみませんでした」

「そう、お役にたてなくてごめんなさいね」

「いえ、それじゃあまたどこかで!」

「ユキノさん、今度は戦場で!」

「ふふっ、楽しみに待ってるわ」

 

 そしてユキノは急いでハチマン達の後を追ったが、NPC小屋の裏の通路を登った場所で、

ハチマンとキズメルが待っていてくれた為、問題なく追いつく事が出来た。

 

「随分話しこんでたみたいだな」

「ええ、私の事を物理アタッカーだと思っていたみたいだから、訂正しておいたわ」

「まああれを見せられればなぁ……」

「それと、セントリーとスイレーって武器の事を聞かれたから、

正直に知らないと答えたくらいかしらね」

 

 その言葉にハチマンは首を傾げた。

 

「ん、ユキノはその二本の事、知ってるだろ?」

「えっ、そうなの?」

「ああ、前にナタクに見せてもらった、日本刀と片手直剣タイプの武器がそれだ」

「ああ、あの時はまだ名前がついていなかったものね、なるほどなるほど、

つまりハチマン君が、あの二人の手にその二本が渡るように画策しているのね」

 

 ハチマンは、ユキノは相変わらず勘が鋭いなと思いつつ、表面上はとぼける事にした。

 

「さて、どうだろうな」

「まったく相変わらず過保護よねぇ」

「何の事だかな、とりあえず武器の出所についてはあいつらには秘密だぞ」

「はいはい、分かっているわ、それじゃあ帰りましょうか」

「そうだな、帰るとするか」

「ああ、帰ろう、私達の家に」

 

 こうしてハチマン達が去った後、残されたスリーピング・ナイツは、

何ともいえない表情で、まだその場に立ちつくしていた。

 

「………格の違いを思い知らされたね」

「まあ想定内じゃない?」

「ハードルが高い方が、乗り越え甲斐があるよ、うん」

「絶対追いついてやるかんな!兄貴!」

「むしろ追い越してやりましょう」

「ユキノさん、綺麗だったなぁ……」

「それには同意だけど、場の雰囲気を読もうねタル」

 

 ノリは呆れた顔でそう言ったが、ランとユウキは逆にその言葉で闘志を燃やしたようだ。

 

「私だって負けてないわよ!」

「ボクだって!」

「はいはい、そっちでも負けないようにな」

「「言われなくても!」」

 

 スリーピング・ナイツは、目標の困難さを嫌という程思い知らされつつも、

決してくじける事なく、前に進む事を選択し続ける。

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