ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第742話 大手ギルドは大変だ

「で、報酬はいくら残ってるんじゃ?」

「えっと、このくらいかな」

「なるほど、それでは今儂の持つ在庫をチェックしてみるわい」

 

 八幡扮するローバーは、ランから武器に使える予算を聞き、

多少色をつけてやろうと、自らのストレージの中にある武器リストに目を通していた。

 

(さて、これとこれ、後はこのランクか、この中からあいつらに選ばせればいいか)

 

 ローバーは、あいつらは数字には現れない部分をちゃんと見てくるだろうかと、

少しわくわくしながらその武器を一同の前に並べた。

 

「まあこの辺りじゃの、好きな武器を選ぶといいぞえ」

「ありがとうおばば様!さあみんな、自分の武器は自分で選ぶのよ!」

 

 そのランの号令で、一同はどの武器にするか考え始めた。

 

「ボクはこれ、これが一番振りやすい」

 

(ほう、ユウは威力よりも取りまわしの良さを基準に選んだのか)

 

「私はこれね、単純に一番リーチが長いから」

 

(ノリは射程重視か、極力前衛の邪魔をしないように気をつけているんだろうな)

 

「俺はこれだな、防御力に補正がついてる」

 

(ほう?ジュンはサブタンクの役割もする事も重視しているんだな)

 

「僕はこれとこれ、一番重い盾と一番重い剣、

機動力は落ちるけど、これなら多少重い攻撃をくらっても踏みとどまれるだろうしね」

 

(テッチはかなり筋力があるみたいだな、立派にタンクの役割を果たせそうだな)

 

「わたくしは単純に一番威力があるこれを……」

 

(タルは威力重視か、手数より一撃の重さで勝負するタイプだな)

 

「私はこの杖でお願いします」

 

(まあシウネーの杖は性能差がほぼ無いから、見た目の好みになるか)

 

「私はこれよ、これが一番八幡が好きそうだから」

 

(このポンコツが……)

 

「ふむふむ、そうするとお値段は……このくらいじゃの」

「予算の範囲内ね、それじゃあおばば様、これを」

「毎度あり、じゃな」

 

 ランはローバーが提示してきた金額をそのまま払い、こうしてスリーピング・ナイツは、

無理をすればアインクラッドの最前線に行けなくもない程度の中級装備を手に入れた。

これで経験値稼ぎも金策も、多少ははかどる事だろう。

 

(ふむ、あの耳年増以外はまともで良かった)

 

 その耳年増も、武器のチョイス自体は妥当である為、

ローバーは特に何か余計な事を言ったりはしなかった。

 

「それじゃあお主ら、これから頑張るんじゃぞ」

「あ、待っておばば様、黒鉄宮って知ってる?」

「うん?それならマップのここにあるが……」

 

 ローバーはそう言って、マップの一点を指差した。

 

「黒鉄宮に何か用事でもあるのかえ?」

「あ、うん、ちょっと試練を与えられちゃって。ちなみに目的地は三十層なんだけど」

「ふむ……あそこには確か、十層ことに固定で強い敵がいるという噂じゃから、

無理せず少しずつ進んでいくんじゃぞ」

「そうなんだ、ありがとうおばば様!」

「またね!」

「あ、ちょっと待ってにゃ」

 

 そんな一同をリツが呼びとめた。

 

「リツさん、どうしたの?」

「ついでにこれも持っていくにゃ」

「これって……リスト?」

「うちで買い取ってる素材の値段のリストにゃ、今後きっと役にたつのにゃ」

 

 そのリストには、素材の買い取り価格に加え、採取出来る場所、

主な用途等が綺麗にまとめられていた。

 

「ありがとうリツさん、凄く助かる!」

「今後ともご贔屓ににゃ」

 

 リツは笑顔でそう言い、今度こそスリーピング・ナイツは、

拠点の代わりにしている宿へ戻っていった。

 

「おばば様もまめにゃねぇ」

「何、うちのメンバー専用のデータベースをそのまま出力しただけだ」

「そういうのがまめなのにゃ」

「まあこれくらいはしてやらないと、俺達には追いつけないだろうからな」

 

 丁度その時スリーピング・ナイツの後を尾行しているレコンから連絡が入った。

どうやら彼女らは、今日はもう寝るといって宿に入っていったらしい。

 

「よし、今日はここまでだな、それじゃあまたな、リツ」

「うん、またなのにゃ」

 

 こうしてこの日は特に何事もなく、穏便に終わった。

余談だが、スリーピング・ナイツは全員、ALOの中で寝る事が可能である。

これはアミュスフィアを経由していないからであり、彼女達は八幡からの指示を律儀に守り、

極力一般の人と同じような生活リズムを崩さない事にしているので、

夜になれば寝るし、朝になれば起きるのである。

 

 

 

 そして次の日の朝、ランが起きると、リビングにはもう他の全員が集合していた。

 

「あら、私が最後なのね、みんな、おはよう」

「おはようラン」

「今日から黒鉄宮に行くよな?」

「ええ、そのつもりよ、初めての場所だから、くれぐれも慎重にね」

 

 これは八幡からの指示、というより八幡との約束なのだが、

スリーピング・ナイツの面々は、毎日決まった時間にゲーム内で食事をとっている。

それもきっちり三食である。その約束通り、今日もきっちりと朝食をとった後、

ランが一同に出発の指示を出した。

 

「それじゃあ行きましょうか、みんな準備はいい?」

「バッチリだぜ!」

「腕がなるね」

「やってやりましょう」

 

 ついに本格始動する事になった彼女達が、

黒鉄宮に向かう途中で転移門広場に通りかかった時、

そこは何故か、かなりの数のプレイヤーで溢れていた。

いつもこの場所は人数が多いが、今日はそれとは比べ物にならないくらい混雑しており、

どうやら何かトラブルがあったようで、人ごみの中央からエキサイトしている男の声がした。

 

「何かあったのかしら」

「ちょっと見てみる?」

「そうね、行ってみましょう」

 

 そして一同は、人ごみをかき分けながら何とかその人だかりの中央にたどり着いた。

 

「あれ、ハチマンじゃん」

「ユキノさんもいるね」

「もう片方の集団は……あっ、確か同盟だっけ?昨日の奴らだよ!」

「へぇ、これは面白い事になってるわね、しばらく見物させてもらいましょうか」

 

 そんな一同の前で、ハチマンが正面で対峙している者達にこう言った。

 

「迷惑だから迷惑だと言ったんだ、ここは公共の場であって、お前らの家じゃない」

「お、俺達のおかげで攻略が進んでるんだから、少しくらいいいだろ!」

「だったら現地に集合すればいいのではないかしら、何故わざわざここから移動するの?

あなた達がやっている事はただのアピールではないのかしらね」

「何だよ、最近は全然階層更新の役にたってないくせに文句ばっかり……」

 

 その言葉に、ハチマンとユキノは盛大にため息をついた。

 

「何を言っているの?私達が行くと、あなた達はいつも不愉快そうにするじゃない」

「そ、それは……」

 

 そのプレイヤーは、気まずそうな顔をして言いよどんだ。

 

「そもそも何故一般プレイヤーの行動をお前らが勝手に制限する事と、

俺達が階層攻略を遠慮している事が関係するんだ?」

「制限なんかしていない、これはあくまで到達階層を更新する為に協力を仰いで……」

「仰いでないだろ、この中に、誰か直接そういった事を頼まれた奴はいるか?」

 

 もちろんその問いかけに、周りにいる者達は誰も頷かない。

 

「だそうだが?」

「いや、だから……」

「それにお前ら、階層更新にそれだけ熱心なくせに、

最近は絶対にボス部屋への一番乗りはしないらしいじゃないか、

必ず他のギルドに先行させて、そいつらが全滅した後に、

二番手で入っては初見突破を繰り返しているらしいな」

 

 その言葉に、周囲の野次馬から疑念の声があがった。

 

「そうなのか?」

「おいおい、何か怪しいよな」

「それってかなり不自然じゃないか?」

 

 どうやらその事は、彼らにとってはよっぽど一般プレイヤーに知られたくない事らしく、

そのプレイヤーは即座にその言葉を否定にかかった。

 

「ち、違う、俺達は何もやましい事はしていない」

「何故そういう返事になる、それじゃあやましくない何かをやってるって事になるぞ?」

「そうじゃない、俺達はただ、しっかりと準備をしてから入ってるだけだ」

「ふ~ん、まあいいか、とりあえず最近全然階層更新の役にたっていない俺達としては、

仕方ないからお前達『同盟』の要請に従って、次の階層のボス攻略に出る事にする。

この層でもいいんだが、もうお前達が向かっている最中だろうから遠慮しておくわ。

まあ今回もちゃんと一発でクリアするんだろ?

ついさっき、中堅どころのギルドが粘った末に負けて排出されてきてたからな」

「ぐっ………」

 

 さすがにその言葉には何も言い返す事は出来ず、

そのプレイヤーは捨てゼリフを吐いてその場から走り去った。

 

「くそっ、次の層も俺達がクリアしてやる、一番乗りでな!

お前らは指をくわえて見てやがれ!」

 

 そしてそのプレイヤーが去った後、周囲は大歓声に包まれた。

 

「さすがはザ・ルーラー、よく言ってくれたぜ!」

「同盟に負けないで下さいね!」

「ヴァルハラ!ヴァルハラ!」

 

 その声援にハチマンは片手を上げて応えると、ユキノと何か相談を始め、

スリーピング・ナイツの耳に、その二人の会話が少しだけ聞こえてきた。

 

「ユキノ、今すぐ来れるメンバーを出来るだけかき集めてくれ」

「今すぐ?本気なの?」

 

 その言葉に一同は顔を見合わせた。

 

「ユウ、聞こえた?」

「うん、メンバーに召集をかけたみたいだね」

「まさかとは思うけど、ハチマン兄貴ってば、今日中に次の層までクリアするつもりか?」

「どうなんだろ、まあさっきの会話で分かるのは、大手ギルドは色々と大変ねって事かしら」

「だね」

「それじゃあ大手じゃない私達は、身の程をわきまえて、やれる事をやりに行きましょうか」

「「「「「「おう!」」」」」」

 

 そして七人は黒鉄宮へと向かって歩き出したのだが、

ランが一瞬ハチマンの方に振り返った時、

たまたまなのかどうかは分からないがハチマンと目が合った。

ハチマンはランにニヤリとし、そのまま転移門へと消えていった。

 

「あれはやるわね」

 

 そのランの抱いた感想は、当然的中する事となる。

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