「みんな、一応気を引き締めてね」
「分かってるって!」
「しっかりとデータを取ろう」
「マッピングは任せて下さい」
そして一行は、『十層はこちら』と書かれた看板に従い、十層へと突入した。
「早速敵だ、け、ど……」
「またカエルかよ……」
「でも何かでかくね?」
「確かにさっきまでのカエルよりもでかくなってやがる」
「タル、またちょっと倒してみて」
「うん」
タルケンはそう言って素直に敵に向かって槍を繰り出したが、敵は一撃では死ななかった。
「おお?耐えた?」
「この辺りから多少敵に手応えが出てくるのか」
だがそう言ったのも束の間、そのカエルは次のタルケンの攻撃であっさりと死亡した。
「………まあこんなもんか」
「そうね、タル、何かドロップした?」
「えっと………うええぇ、トードの足の肉……」
「またか……」
「ドンマイ、タル」
「うぅ……り、了解」
「で、どうするラン?ここだとまだ敵が弱すぎる気がするけど」
そのテッチの問いに、ランは迷いの無い目でこう言った。
「いえ、このまま奥に進むわ。おばば様が言っていたじゃない、
黒鉄宮には十層ごとに、固定の強い敵がいるって。
それが多分、ハチマンが言ってたボスって奴の事よね。
もっともリポップしない仕様ならこの層にはもうボスはいない事になるけど、
それでもどんな場所で戦う事になるのか見る事は出来ると思うの」
「なるほど、確かにね」
「そうと決まったら奥へ進もう!」
そしてスリーピング・ナイツは移動を再開したが、ランは内心でこんな事を考えていた。
(ユウは基本私の言う事には反対しない、こういう時に率先して指示を出してくれる。
でもそれはあくまで私の意向に沿った指示でしかない、
これは内密にハチマンに相談してみるべきかしらね、そう、次の検査の時にでも……)
そして何度か戦闘を繰り返した後、一行はかなり広い広場へと足を踏み入れた。
「ここがボス部屋っぽいわね」
「ボスはいないね」
「これで固定の敵ってのがリポップしない事が確認出来たから、まあ良しとしましょう」
そのまま一同は、部屋の中をくまなく探索した。
「この台座みたいな物は何だろう」
「石像が動き出したとか?」
「パターンとしてはありうるわね」
「壁が所々破壊されているのは飛び道具の跡かな?」
「かなりの威力ね、より深い層では更に威力が上がっていると見るべきね」
このように、スリーピング・ナイツは様々な情報を収集していった。
「さて、このくらいかしら」
「次はどうする?一気に奥まで進む?」
「いいえ、さっきタイニートードが普通のトードに変化したでしょう?
なので今度は一層ずつ下っていって、トードが次の敵に変化する所まで進む事にしましょう」
「なるほど、そこで敵が切り替わるって事になるのか」
「多分ね、それじゃあみんな、行くわよ!」
そしてスリーピング・ナイツは、慎重に敵の変化を見極めながら、
ゆっくりと黒鉄宮の奥へと進んでいった。
「まだトードね、殲滅したら戻りましょう」
「結構時間が経っちゃったな、今三時間くらいか?」
「そういえば丁度お昼の時間ね、安全地帯を確保して昼食にしましょうか」
だがここまでで確実に安全地帯だったといえるのは、十層のボス部屋だけであった。
「………メイン通路はどこも敵が沸いてくるなぁ」
「仕方ないわね、二交代で見張りを立てましょう。
最初は私とジュンとタル、そして三十分で残りの四人と交代よ。
とはいえ必要なのは警戒だけで、全員集まったままになるけどね」
「まあいいんじゃないか、適当に話しながらで」
「まあそうね、でも見張り担当は、通路から目だけは切らないようにお願いね」
「オッケーオッケー」
そしてランとジュンとタルケンが残りの四人を囲むように立ち、
四人はそのまま食事を始めた。
「こういう時の安全の確保も今後の課題かねぇ」
「何かいいアイテムがあればいいんだけどね」
「おばば様に今度聞いてみようぜ」
「そうね、頼ってばかりになってしまうから、今度何か高い物でも買って恩返ししましょう」
その時、ジジッという雑音と共に、
どこからともなく機械音声のようなものが聞こえ、一同は思わず天井を見上げた。
『アインクラッド三十一層のフロアボスが討伐されました』
「お、さっきの連中かな」
「いけすかない奴らだったけど、それなりに実力はありそうね」
そして十分後、再びシステムメッセージが流れた。
『アインクラッドの三十二層が解放されました、転移門から移動出来ます』
「次はハチマンさん達の番なのかねぇ」
「明日くらいには討伐しちゃったりしてね」
「さっきのハチマンさん、威圧感あったからなぁ」
「絶対にあれ、内心でむかついてたよな」
「ハチマン兄貴を敵に回すだけならまだしも、
怒らせるなんて想像したら、背筋が寒くなるよな」
そして十五分後、見張りを交代する時間になり、今度はラン達が食事をとりはじめた。
「しかしヴァルハラって、詳しく調べてないから分からないけど、
何人くらいメンバーがいるのかしらね」
「あ、前に兄貴に聞いたら、三十人くらいだって言ってた気がする」
「FGさんやソレイアルさんは違うのよね?」
「違うみたいだね」
「まだ見ぬ強敵か……このまま調べないでいても大丈夫かね?」
「どうせ私達に出来る事は全力で挑戦する事だけよ、
あっちも私達については詳しくないのだから、条件を対等にする為に、
余計な知識は仕入れないようにしておきましょう」
「だな!」
「やるなら正々堂々!」
「ええ、それが私達スリーピング・ナイツよ」
そんな会話をしながら何度か敵を撃退しているうちに、三十分が経過した。
「さて、そろそろ行きましょうか」
「ちょっと待って、今何か……」
再びどこからか、ザザッという音が聞こえ、一同は反射的に天井を見上げた。
『アインクラッド三十二層のフィールドボスが討伐されました』
「「「「「「「早っ!!!」」」」」」」
そのメッセージを聞いた一同は、思わずそう叫んだ。
「えっ、嘘でしょ?だって三十二層が解放されたのって、三、四十分前じゃなかった?」
「兄貴………本気だな」
「というかヴァルハラやばすぎでしょ……」
「街の様子が気になるよね」
「確かに……」
「ラン、どうする?」
「むむむむむ………」
ランもその事はとても気になっていた為、どうしようかとかなり悩む事となった。
「探索は別に急ぐ必要はないんだし、こんなイベントに参加しない手はないわよねぇ……」
「だよな!」
「でも次に備えてどこまで進めばいいか把握しておいた方が後々の為にもいいんじゃね?」
「確かにここまで来ちゃったしね」
「ふむ……」
ランは再び考え込み、しばらくしてこう結論を出した。
「それじゃあこうしましょう、とりあえずこのまま探索は続行、
そしてトードの次のランクの敵がどこから出現するか確認したら街に戻る、
そんな感じでどうかしら?」
「異議なし!」
「さすがの兄貴でも、フロアボス討伐のフラグを立てるのには、
それなりの時間が必要だろうしな」
「ジュン、それはもしかしたらフラグかもしれないわよ」
「大丈夫大丈夫、元気だった時に、数々の恋愛フラグを立てようとして、
一度も成功しなかった俺が言うんだから……って、思い出したら泣けてきた……」
「ジュン、ドンマイ」
そしてスリーピング・ナイツは探索を再開し、
一層ずつ丁寧に敵の出現傾向を調査していった。
「またトードか、ここは何層だっけ?」
「今は十七層ですね、まあ正確には、十七度目の分岐ですけど」
「よっし、気を取り直して次は十八層だぜ!」
十七層と書かれた分岐まで戻り、奥へと進んだ一行は、
次の分岐から明らかに雰囲気が違う事に気が付いた。
「ん、石畳の色が……」
「少し暗くなったか?」
「見て、奥の方に何か……」
確かに奥の暗がりに赤く光る物が沢山見え、一同は何だろうと思って目を凝らした。
二つの赤いものがセットになったその光は、ゆらゆらと蠢いており、
ゆっくりと進んだ一行は、やがてその正体に気が付いた。
「うっわ……」
「ちょ、あの光ってトードの目かよ!」
「左右に二つずつ、四つの目を持っているみたいだね」
「というか、数が多い上にでかっ!」
「みんな、僕が中央で受け止めるから、左右から漏れてくる敵を片っ端から殲滅して!」
テッチがそう言って前に出て盾を構え、一同もそれぞれの武器を構えた。
「ゴー!スリーピング・ナイツ、ゴー!」
そしてランの合図で戦闘が開始された。
「固有名は、ジャイアント・トード!」
「ドロップはまた足の肉だよ!」
「とりあえず前には出ず、向かってくる敵がいなくなるまで頑張りましょう」
そして後から後から沸いてくる敵を、スリーピング・ナイツは斬って斬って斬りまくった。
「くっ、さすがに歯ごたえがあるぜ!」
「この辺りがどうやら私達には適正みたいね、経験値がおいしいわ」
「道が狭い分囲まれる心配がないから、そこは安心だね!」
「どうやらもう少しみたいよ、頑張りましょう」
そしてどのくらいの時間が経ったのか、気が付くと敵はいなくなっていた。
「やっと終わったか」
「どのくらいの時間が経った?」
「今コンソールで確認します……一時間くらいですね」
「そんなに長く戦ってたのか」
「そうすると、ここまで来るのにかかった時間は合計で二時間くらいかしら」
「次は十八層からスタ-トだね」
「それじゃあみんな、戻りましょうか」
そしてスリーピング・ナイツは潔くその場から撤退を開始した。
「明日フロアボスが討伐されるとして、その時は当然街にいるよな?」
「そうね、今の手持ちでもそれなりの食べ物を買うくらいの余裕はあるし、
街の人達の盛り上がりに便乗して、一緒にお祝いをしたいものよね」
「あ、それじゃあスモーキング・リーフに行って、一緒にお祝いをするってのはどうかな、
その時はヴァルハラの人達も尋ねてこないはずだし」
「あら、いいアイデアねノリ、それ採用」
「それじゃあとりあえず、外に出たらスモーキング・リーフに行って、
その事を相談してみよっか」
「ついでに戦利品も処分しないとね」
「それなんだけど、リツさんにもらった資料によると、
ジャイアント・トードの足の肉はそれなりに需要があるらしいよ、
これ、味だけはいいみたいなんだよね」
「そうなの?それは朗報ね」
そんな明るい会話を繰り広げながら、一同ははじまりの街へと帰還を果たし、
その足でスモーキング・リーフへと向かった。
「またまたお邪魔しまっす!」
「あ、いらっしゃい、待ってたのにゃ、料理の準備ももうバッチリにゃよ」
「えっ?」
その瞬間に、ジジッという音が聞こえ、一同はまさかと思いつつ、
反射的にまた天井を見上げ、釣られてリツも天井を見上げた。
『アインクラッド三十二層のフロアボスが討伐されました』
「「「「「「「えええええええええええええええええ!?」」」」」」」
そしてジュンが、がっくりと膝をついた。
「くっ……恋愛関係で達成したかったのに、こんな事でフラグを達成しちまった……」
「ジュン、ドンマイ」
直後にそのシステムメッセージが聞こえたのか、
奥から残りの姉妹達も店に飛び出してきた。
「よっしゃ、リツ、祭りだ祭り」
「宴会、だわねぇ」
「盛り上がっていこうじゃん!」
「今日は豪勢にいくのな!」
「ハチマン、さすがだな」
そんな姉妹達に、リツは笑顔でこう言った。
「もう準備はオーケーなのにゃ、予定してたゲストも今来たところにゃ」
「予定してたゲストって……」
「リツさん、もしかしてボク達が今日ここに来るって分かってた?」
「あ、えっと、実は今朝ハチマンが来て、
『リツ、俺達は今日中に三十二層のフロアボスを攻略するから、
スリーピング・ナイツの連中と一緒に、この金で宴会でもして祝ってくれ』
って言って、お金をいっぱい置いていったのにゃ」
「うわ………」
「兄貴……さすがすぎる……」
「完全に読まれてましたね」
そのリツの言葉を聞いてからランはずっと無言だったが、
やがて顔を上げ、悔しそうにこう言った。
「ああもう、まったく私の未来の旦那様は本当に楽しませてくれるわ!
悔しいけどこうなったらハチマンの好意に甘えて宴会よ!今日は盛り上げていくわよ!」
こうしてこの日、スリーピング・ナイツとスモーキング・リーフの六姉妹は、
時間が経つのも忘れて大いに盛り上がったのであった。