ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第747話 戦闘狂達

「大きい……」

「懐かしいな」

「あ、エギルはあれと戦った事があるんだっけ?」

「おう、まあさっきキリトが説明した通りだ、

変に緊張して負けたら困るから、気楽にいこうぜ」

「大丈夫、それは全然心配してない」

「ははっ、まあそうだよな」

 

 エギルはリズベットと話した後、仲間達の方を眺め、

そして一番前にいる三人の姿を見た。その三人の背中は、とても大きく感じられた。

 

(俺が心配するような必要は何もないか)

 

 そしてエギルは武器をしっかりと持ち直し、ハチマンに言った。

 

「よし、ぶちかまそうぜ、ハチマン」

「おう、とりあえずセオリー通り、遠隔攻撃からスタートな」

 

 SAO時代と違い、ボスの攻略難易度がやや下がっている理由がこれである。

飛ぶ道具の類がほぼ存在しなかったSAOと比べ、

ALOには遠隔攻撃の手段が多数存在する。

それ故に、ボスのHPを最初からある程度削っておく事が可能なのである。

 

「シノン、リオン、ユミー、イロハ、フェイリス、出番だ。

クリシュナ、順に全員を強化していってくれ」

 

 そしてクリシュナが、魔法の構文がより複雑になるという前提をものともせず、

補助魔法を範囲化した上で、更にいくつもの魔法をかけていった。

 

「オーケーよ、この後は前衛陣に魔法をかけていくから、

そっちはもういつでもぶっ放しちゃって」

「ありがとうございます師匠」

 

 リオンがそうお礼を言ったのを聞いて、

シノンもクリシュナが自分の勉強を見てくれている事を思い出し、こう言った。

 

「ありがとう先生」

 

 それを聞いた他の三人も、顔を見合わせて次々とクリシュナにこう呼びかけた。

 

「さすが頼りになるね、先生」

「さすがです先生!って、私達にとっては何の先生になるんですかね?」

「クーにゃんはムッツリスケベの先生なのニャ!」

「なるほど、エロ先生、いや、エロ師匠!」

「あ、あーしはそういうのは分からないから……」

「この年になって今更純情ぶらないで下さいよ先輩!」

「あんた達、いいからさっさと攻撃しなさい!」

 

 根が真面目なクリシュナは、顔を真っ赤にしながら詠唱の合間にそう怒鳴り声を上げ、

ハチマンはやれやれと肩を竦めた。

 

「まったくうちの連中は、緊張とかとは無縁みたいだな」

「まあ緊張してガチガチになるよりはいいだろ、

よし、こっちにも強化がかかった、着弾と同時に突っ込むぞ」

「正面はキリトとセラフィム、アスナはユイユイとリーファとフカとロビンを連れて、

キリト達が突っ込んだ直後に横から一撃入れてくれ」

「うん分かった、みんな、こっち!」

「了解!」

「よ~し、初の大物相手だ!」

 

 そしてハチマンの隣には、かつて共に戦ってきた仲間達が並んだ。

 

「このフィールドボスとやっと一緒に戦えるな、ハチマン」

 

 ニカッと笑いながらそう言うエギルを、ハチマンはじろっと睨んだ。

 

「さっきの俺達の会話を聞いてやがったか……」

 

 そんな二人にクラインも笑いかけた。

 

「あはははは、まあそれを言ったら俺が攻略組に参加したのはもっとずっと後だけどな」

「確かにクラインはあの頃は弱かったからな」

「おいエギル、喧嘩売ってんのかコラァ!」

 

 そんなエギルの軽口にエキサイトするクラインの頭を、リズベットがぽかっと叩いた。

 

「別にいいじゃない、私はそもそもSAOでは攻略に参加した事すらないのよ」

「私もですよ、でも今日は、その分頑張りますよ!」

 

 ちなみにユキノはSAO組に遠慮したのか、静かに微笑んでいるだけであった。

そして遂に遠隔攻撃組による攻撃が開始された。

クリシュナの魔法で強化されているせいか、その攻撃には妙に迫力がある。

いつもの三割増しといったところだろうか。

実際五本ある敵のHPバーを凝視していたハチマンは、

その攻撃で一本目が弾けとんだのを見て、苦笑しながら構えていた武器を下ろした。

 

「どうした?ハチの字」

「あ~、いや、どうやら余裕みたいだから、まあこっちは適当にのんびりいこう。

その分フロアボスで頑張ってくれればいい。

今までの傾向だと、天使タイプの敵は魔法耐性が高いからな。

こいつの削りはほとんどあのアスナ以外の戦闘狂共で事足りちまうだろうよ」

 

 ハチマンはのんびりとした口調でそう言ったが、

アスナの事に関して同意する者はこの場には誰もいなかった。

その気持ちを、アスナの一番の親友のリズベットが口に出した。

 

「アスナが戦闘狂じゃない?いやいや、それは無い無い……」

「そんな事はない、アスナは確かに強いが、いつもお淑やかでとてもかわいい」

「じゃああれはどういう事?」

 

 リズベットがそう言って指差す先には、

雄叫びを上げながら敵に斬りかかるアスナの姿があった。

 

「うおおおお!」

「アスナ、飛ばしすぎだってば!」

 

 あのクックロビンがそうたしなめる程の、それは凄まじい連撃であった。

 

「あっ、ごめんごめん、ついキリト君に負けたくなくって」

「まあ確かに今はちょっと負けてるみたいだけどさ」

「でしょ?敵が隙あらばキリト君の方を向こうとするしね」

 

 その言葉通り、仏像は確かにキリトの方をメインに向いていた。

そんなキリトに対する攻撃は、今のところセラフィムが完璧に防いでいる。

この事あるを予想した上での、ハチマンの指示なのである。

 

「なのでまあ、まだまだこっちには頑張れる余地があるって事だね、

みんな、全力で攻撃するよ!」

「オーケー、このフカちゃんに任せな」

「私もこういうタイミングで格好良く戦って、念願の二つ名を……」

 

 フカ次郎は格好つけてそう言い、クックロビンは決意を込めた瞳でそう言った。

そんなロビンに、思い出したようにリーファがこう声をかけた。

 

「あ、ロビン、それなんだけど、何か最近ロビンの事を、

『デッドオアデッド』って呼ぶ人が増えてきてるみたいよ」

「えっ?何それどういう意味?」

「ほら、生死を問わずでデッドオアアライブって言うじゃない、

でもロビンはほとんど相手の死しか認めないって事で、そうなったみたい」

「ほ、本当に!?」

「うん、本当」

 

 そのリーファの言葉に、クックロビンは歓喜の雄叫びを上げた。

 

「うおおおおお、狂気の二つ名きたああああああああ!」

 

 そのクックロビンの喜びようは半端なく、

他のメンバー達は、何事かと思ってクックロビンの方を見たが、

当のクックロビンはそんな視線などお構い無しに、ボスに対しての無茶な突撃を敢行した。

 

「敵には死、あるのみ!」

「あっ、あの馬鹿、無茶しやがって……おいユキノ、あいつをフォローしてやってくれ」

「分かったわ、ちょっと前に出てくる」

「悪い、頼んだ、アスナもフォローしてくれるとは思うが……」

「あら、それはどうかしら、お淑やかなはずのアスナが見てほら」

 

 そのユキノの指差す先には、クックロビンに触発されたのか、

狂ったように敵に攻撃を叩きこむアスナの姿があった。

アスナは凄い迫力であり、その姿にはさすがのキリトも少し引いていた。

 

「う………」

 

 ハチマンは重ねて見せられたそんなアスナの姿に呻き、チラっとリズベットの方を見た。

リズベットはそのハチマンの視線に気が付くと、勝ち誇ったような表情をした。

 

「で?」

「た、たまにはそういう事もあるだろう、

うん、多分リアルで何か嫌な事でもあったに違いない、きっとそうだ」

 

 ちなみにアスナは、久しぶりに自身がメインで攻略を行い、

それが敵に対しての対応も見事に成功した為、精神が昂ぶっていただけである。

その甲斐あってかたまにアスナの方にボスの攻撃がいったが、それはユイユイが全て防いだ。

 

「別に何もないと思うけどなぁ」

「よしお前ら、俺達も攻撃を開始するぞ、あいつらに負けるな!」

「はいはい、それじゃあ私達も行きましょっか」

「やっと出番ですね!」

「行くぞお前ら!」

「「「「おう!」」」」

 

 ハチマン達が攻撃に参加する事で、敵の削りの速度は劇的に上がった。

それはただ人数が増えたというだけに留まらない。

ハチマンが敵の攻撃に対し、アクティブにカウンターを入れる事で、

こちらの攻撃の与ダメージが、よろけ状態の敵に対する数値に跳ね上がったせいである。

それはもう、驚く程に敵のHPの削れる速度が上がり、

フィールドボスは、あっさりと沈む事となったのだった。

 

『アインクラッド三十二層のフィールドボスが討伐されました』

 

 同時にそうシステムメッセージが響き渡り、

それを街で聞いた多くのプレイヤーは熱狂した。

 

「やりやがった!ヴァルハラやべえな!」

「それに比べてでかい口を叩いた同盟の奴らは……」

 

 その同盟のプレイヤー達は、どうしていいのか分からずに、街の広場で途方にくれていた。

 

「あいつら何やってるんだ?」

「遅れたなりに、頑張って追いつこうと攻略を進めりゃいいだろうによ、

もうフィールドボスはいないんだしな!」

「とてもこのところ、ボス攻略をしまくっていたギルドの姿には見えねえな」

「何かおかしいよな、やっぱりあの噂は真実だったのか……?」

「噂って何だ?」

「同盟が何か汚い手を使ってるんじゃないかって噂だよ」

「そんな噂があったのか」

 

 こうしてその噂は益々広がる事となり、同盟のプレイヤーは、

後日火消しに躍起になるのだが、そういう噂は明らかな真実を見せねば消えるものではない。

ともあれ意図した訳ではないが、アスナの戦略により、同盟の評判は地に落ちた。

 

 ヴァルハラ・リゾートの快進撃は続く。


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