三十三層の転移門が解放された瞬間、
いきなりその門の中から沢山のプレイヤーが姿を現した。
「うおっ、何だ何だ」
「ザ・ルーラー様、私達はヴァルハラ・サポーターズです!
今日は一番にお祝いしたいと思って駆けつけました!」
(な、何だそのギルドは、いつの間にそんなものが……)
ハチマンはそう思いつつも、その女性プレイヤーに愛想よくこう答えた。
「そうか、いつも応援ありがとうな、
これからもちょこちょこと攻略には参加するつもりだから、
さすがに今回みたいな本気の攻略はそうそうやってられないが、
俺達が出る時は期待しててくれ」
「はい、その時も一番に駆けつけます!」
「そ、その時は宜しく頼む」
「はい!」
ハチマンは、まあこれも友好ギルドの一つなのだから、
邪険にはしないように後で他の仲間にも伝えておこうと思いつつ、転移門の方に目をやった。
そこは既にお祭り騒ぎとなっており、次から次へとプレイヤーが転移してきて、
口々にヴァルハラ・リゾートへの賞賛を叫び始めた。
(おいおい、さすがに度が過ぎてないか?)
それもそのはず、今回の勝負の様子は、MMOトゥデイで詳しく伝えられており、
この場には、そのリポーターらしき一団も混じっていたのだった。
何故分かったのかというと、単純にそのリポーターが顔見知りだったからである。
「あれ、ユリエールさん、お久しぶりですね」
「はい、お久しぶりです!今日はお願いがあって参上しました!」
「ああ、えっと………もしかしてインタビューとかですかね?」
「はい、その通りです!」
「え~と、この後身内で祝勝会があるので、あまり長くは付き合えませんが、
それで良ければ大丈夫です」
さすがにここで断るのはイメージが悪すぎる為、
ハチマンはその申し出を素直に承諾する事にした。
ちなみに内心では、さっさと他のメンバーに投げてしまおうと企んでいた。
「ありがとうございます!先ず最初に質問です、ヴァルハラ・リゾートはこのところ、
積極的には攻略に関わってこず、一部のプレイヤーだけが参加していたと記憶していますが、
今回こうして凄まじい速さで攻略に出た理由があればお聞かせ下さい」
「ああ、それは簡単な事です、ユリエールさんもある程度知っていると思いますが、
同盟のプレイヤーからこう言われたんですよ、
『何だよ、最近は全然階層更新の役にたってないくせに文句ばっかり……』ってね。
それで今回役にたとうと思ってメンバーに召集をかけた訳です」
ユリエールは当然情報は掴んでいたらしく、うんうんと頷いた後、
続けてハチマンにこう問いかけた。
「ちなみにその文句というのは?」
「同盟は『何故か』フロアボス攻略の時は、
はじまりの街の転移門を勝手に占有状態にするじゃないですか。
なのでそれはおかしいと文句を言ったんですよね、そしたら返ってきたのがその答えです」
その時観客から、そうだそうだ、とか、あいつら何様のつもりだよな!という声があがる。
やはり同盟は、一般プレイヤーにはあまり好かれていないらしい。
「ああ~、私はあれもおかしいと思ってましたが、
さすがに直接文句を言う度胸も無かったので、そのままにしちゃってました、
さすがはALO一の最強ギルドのリーダーである、『ザ・ルーラー』ハチマンさんですね」
ここでヴァルハラ・サポーターズから、
さすがはザ・ルーラー様!といった声援が一斉に上がり、
他のプレイヤーも同様の声援を送ってきた。
ハチマンはその声援に片手を上げて応えつつ、神妙な顔をしてユリエールにこう言った。
「まあ私も売り言葉に買い言葉で、
少しムキになってしまった面もあるので、そこは反省ですかね。
こちらに苦情を言ってきたのはたった一人のプレイヤーだけでしたけど、
まあ普段から同盟内で、うちに対してそういった愚痴が出ていないと、
中々ああいう発言は飛び出さないと思うので、
その同盟の『期待』に応える為にも、今後はちょくちょく『協力』しようと思います」
その凄まじい皮肉に、何人かのプレイヤーが俯いた。
おそらく同盟のプレイヤーが様子を見にきていたのだろう、
そのプレイヤー達は、そのまま逃げるようにこの場を去っていった。
「そういえばそのプレイヤーは、同盟からギルドごと除名されたらしいですよ」
「そうなんですか?他のプレイヤーも言ってる事を代弁したら除名とか、
同盟ってのは凄く厳しいところなんですね」
その再びの皮肉に観客達はクスクスと笑った。
「ヴァルハラはそういう事は無いんですか?」
「そうですね、うちのメンバーの行動に関しては、私が全て責任を負いますので、
そういったいきなり除名とかいう事はないですね。
先ず私がその本人と一緒に迷惑をかけたプレイヤーに謝りに行きます。
まあ同盟は多数のギルドの合議で運営されているみたいですし、
そこらへん、トップダウンで決めるのは難しいのかもしれません。
一律にルールを設定して除名の基準を作ってるんでしょうね、
さすがに感情に任せて除名とかはしていないとは思いますが」
「そうですね、感情任せとか、まあ普通はありえないと思います」
この言葉からハチマンは、どうやらユリエールも同盟が嫌いなんだなと理解した。
「それで攻略に関してですが……」
「ああ、それならうちの特攻隊長のキリトの方がよく分かってると思いますので、
あちらに任せようかと思います。俺はあくまでまとめ役なので」
「なるほど、戦闘はやはり、黒の剣士さんに聞くのが一番ですか」
「はい、あいつもきっと、インタビューを受けたくてうずうずしていると思いますので」
そのハチマンの言葉にキリトは顔をしかめた。
おそらく内心で、面倒臭いと思っているのだろう。
だが知り合いのユリエールには出来るだけ協力したいと思ったのか、
キリトは軽くため息をついた後、友好的な笑顔を浮かべてユリエールと話し始めた。
それを確認したハチマンは、他に挨拶しておくべき知り合いとかはいないだろうなと、
観客達の方に目をやり、後方に顔を隠した怪しい二人組の姿を見つけた。
「あれは……なるほど」
ハチマンはそう呟くと、ユキノの所に向かい、
インタビューが終わったら先にヴァルハラ・ガーデンに戻っていてくれと頼んだ。
「用事がある奴は遠慮なく先に落ちて構わないから、
とりあえずメイクイーンでの祝勝会に参加する者が誰かだけ分かるようにしておいてくれ」
「分かったわ、任せて頂戴。で、あなたはどうするの?」
「ちょっと知り合いに挨拶だけしてくる」
「なるほど、了解よ」
そしてハチマンは、キリトが注目を浴びているのを利用してそっとその場を離れ、
人気のない建物の裏路地へと移動した。
その後を、先程の怪しい二人組が追いかけてきて、
路地に入った所で誰もいないのを見て、あっと声を上げた。
「あ、あれ?」
「いないね……」
「俺ならここだ」
上からそんな声がして、背後に誰かが着地した。
二人は慌てて振り返ったが、そんな二人の肩に、その人物、ハチマンが手を回した。
「ラン、ユウ、こんなところで何やってるんだ?しかもそんな格好までして」
転移門広場では、二人は目深にフードを被っていた為よく顔が見えなかったが、
丁度その時ランがハンカチを口にくわえてぐぬぬ状態となった為、
それでハチマンは、二人の正体に気付いたのであった。
「ちょっとライバルの様子を見ておこうかと思ったのよ」
「それで何故ハンカチなんかくわえてたんだよ、昭和かよお前」
「えっとね、本当はランもお祝いをしに来たんだけど、
こうしてヴァルハラに差を見せつけられたのが、実は悔しくて仕方がなかったみたい」
「なるほど、ガキだな」
そう言われたランは、フフンという顔をして、
自身の胸をアピールしながらハチマンにこう言った。
「誰がガキなのよ、この立派な胸を見てもそんな事が言えるの?」
「悪いな、お前以上に胸が大きい奴は、俺の周りには沢山いるんだ」
そのランのある意味決めゼリフを、ハチマンはあっさりとそう切って捨てた。
「た、確かに何人かは凄かったわね……」
「ランの売りが一つ無くなったね」
「キーッ!」
そう言ってランは、再び小道具のハンカチをくわえ、悔しそうな顔をした。
「また昭和かよ、で、用事はそれだけなのか?」
「い、一応お祝いの言葉を送るわよ、いい?精々今のうちにチヤホヤされてなさい」
「それってお祝いの言葉なのか?」
「ごめんハチマン、ランってば素直じゃないから……」
「おう、知ってる知ってる、こいつが素直じゃない上に耳年増だって事はな」
「それが私のステータスよ!」
「こいつ、開き直りやがった……」
呆れるハチマンに、今度はユウキがニコニコと笑顔で言った。
「まあでも凄かったねハチマン、いつか絶対にボク達も追いついてみせるから!」
「追いつくのではなく追い抜くのよ、ユウ」
そんなユウキの言葉をランはそう訂正した。
「あっと、そうだったね、追い抜いてみせるから!」
「そうか、頑張れよ、ユウ」
「うん!ボクがランを助けて、絶対に達成してみせるよ!」
そのユウキの言葉を聞いたランが微妙な表情を浮かべたのをハチマンは見逃さなかった。
(ん、何だあの表情、それに何か言いたそうな顔をしてやがるな)
「それじゃあユウ、そろそろ私達も、こっちの祝勝会場に戻りましょう」
「おう、あの六人にも宜しくな、あとタダ飯を俺に奢ってもらった事に死ぬほど感謝しろ」
「くっ、確かにあの食材のお味は最高だったけど!」
そう言ってランはハチマンに近付き、
その腹を小突くフリをしながらそっとハチマンに囁いた。
「真面目な相談があるの、今度の私の検査の時に来て頂戴」
ハチマンはその言葉にそっと頷いた。
「それじゃあそろそろ行くわ、またねハチマン」
「またね!」
「おう、またな」
そしてランとユウキは去っていき、ハチマンは一体何の相談なんだろうかと思いつつ、
ヴァルハラ・ガーデンへと帰還していった。