ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第752話 いつもの男女比

 そのままヴァルハラ・ガーデンへと帰還したハチマンは、

報告の為に残っていてくれたユキノと合流し、参加者がどうなったのかを確認した。

 

「さて、結局誰が来る事になったんだ?」

「あなたと私、アスナとシノンとイロハさんとクリシュナとセラフィムとリオンさんね。

まあ一応フェイリスさんも参加者という事にはなるのかしらね」

「おお?思ったより少なかったな」

「まあみんな色々用事があるみたいよ」

 

 クラインは事前に言っていた通り、静とお出かけである。

エギルも事前に言っていた通り仕事のようだ。飲食業には曜日は関係ないのである。

キリトとリズベットとシリカはいつの間に仲良くなったのだろうか、

どうやらルクスと遊びに行くらしい。ユイユイとユミーも予定通り買い物に出かけた。

フカ次郎は当然北海道から来られるはずもない。

ロビンはコンサートに向かい、四月からソレイユの寮に入る予定のコマチとリーファは、

今日は仲良く生活必需品のチェックに行くらしく、

気に入った物があったらそのまま買う予定らしい。

ちなみにレコンはその荷物持ちに駆り出された。

そしてフェイリスは、既に先行してメイクイーンへと向かっていた。

 

「まあしかし、妥当なメンバーとも言えるか」

「まあそうかもしれないわね、こういうイベントごとには意外とまめに顔を出す私と、

イベントだろうが何だろうが、とにかくあなたの意向を優先させるセラフィムは鉄板ね」

「自分で意外ととか言うのな……」

「あとは若さ故に怖いもの知らずで突っ走る高校生二人組も常連よね」

「シノンとリオンは随分と仲がいいよな、性格も似ているし、馬が合うんだろうな」

「クリシュナはまあ、既に現地にいるというのが大きいわね」

「ああそうか、あいつはメイクイーンにいるんだったか」

「イロハさんは卒業するのに必要な単位の取得がほぼ終わって、

これからちょっとは遊べると喜んでいたわ、今回の件がその第一歩なのかしらね」

「あいつは遊ぶ為とかいう目的があれば、ちゃんと努力が出来る奴なんだよなぁ……」

「アスナは実はこういった事には参加率が低いのよね、

やはりあれだけの大企業のお嬢様だと、しがらみも色々あるでしょうしね」

「お前がそれを言うか」

「私の場合は、姉さんに任せてしまっている部分もあるから……」

 

 ユキノは申し訳なさそうな口調でそう言った。

ハチマンがSAOに囚われて以降の陽乃と、そして母である朱乃との劇的な関係の回復は、

ユキノにとっては本当に幸運な事だったのだろう。

 

 実はこれは明日奈にも当てはまる。

以前の京都行きの時に話題が出たが、明日奈の母である結城京子は、

今でこそ明日奈には甘すぎる程に甘い母親であるが、

昔はその出自の事で色々言われ、その反動から凄まじい教育ママっぷりを発揮していたのだ。

故におそらく明日奈が八幡と出会わないままSAOから解放され、

退院した後に、それでも懲りずにALOをプレイしていたとしたら、

例えば食事の時間に遅れただけでアミュスフィアの電源を抜き、

次に時間を守れなかったら二度とアミュスフィアは使わせないくらいの事は言っただろう。

そして明日奈の勉強が遅れる原因となったアミュスフィア(実際はナーヴギアなのだが)

を憎悪し、貴重な二年間を奪った原因となった機械をどうして平気で使ってるのかと、

明日奈を詰問するくらいはしたと思われる。

その場合、母娘の関係は悪化の一途を辿り、明日奈の顔からは笑顔が消えた事だろう。

八幡と出会い、恋人関係となった事で、その暗い未来が来る可能性は永久に潰えたのだが、

さりとて陽乃がソレイユ・コーポレーションを設立し、

八幡を後継者に指名していなかったら、

やはり京子は今よりは明日奈に対して厳しい態度をとっていたかもしれない。

そう考えると、明日奈の真の恩人は、八幡ではなく実は陽乃である。

 

「本当に姉さんには頭が上がらないよな」

「それは本当にそう思うわ」

「今度優しくしてやるか……」

「頭が上がらないと言いながらのその上から目線はさすがね」

「そりゃまあ、俺くらいしか、姉さんを普通の女性扱いしてくれる奴はいないだろうしな」

「ふふっ、姉さんはきっとその事を喜んでいるでしょうね」

「だったらいいんだけどな」

 

 そして二人はログアウトし、そのままメイクイーンへと向かった。

今回は現地集合という事になっており、特に八幡が誰かを迎えに行く予定はない。

 

「うぅ~ん……」

 

 八幡は大きく伸びをし、マンションのソファーで目覚めたのだが、

そんな八幡に話しかけてくる者がいた、優里奈である。

 

「あっ、ごめんなさい八幡さん、もしかして起こしちゃいましたか?」

「ああ、いや、無事に攻略を終えて、今落ちてきたところだ」

「えっ、攻略って、今日はフロアボスの予定でしたよね?

八幡さんがログインしてからまだ三時間くらいしか経ってないですけど……」

「おう、凄いだろ?褒めていいぞ」

「い、いいんですか?」

「へ?」

 

 優里奈は妙に前のめりでそう言い、八幡はきょとんとした。

そんな八幡に近付いてきた優里奈は、えらいえらいと言いながら八幡の頭を撫でた。

 

「え~と……あ、ありがとうございます」

「ぷっ、何で敬語ですか?いつもみたいに、おう、くらい言っとけばいいんですよ」

「い、いや、まったく予想外だったからな」

「ふふっ、それじゃあお茶でも入れますか?」

「あ、いや、これから出かけるから大丈夫だ、優里奈は今は何をしてたんだ?」

「洗濯物を取りこんだ後、台所のお掃除をしてました、これも私の仕事ですから」

「いつもすまないな……」

 

 そう申し訳なさそうに言う八幡に、優里奈は慌てたようにこう答えた。

 

「そんな、養ってもらってるのはこっちですから、頭なんか下げないで下さい!」

「養ってもらってる………か」

 

 その八幡の呟きを聞いた優里奈は、自分の失敗を悟った。

おそらく八幡が、その言葉の響きから、

自分が優里奈をお金で縛っているようにイメージしてしまったのだと感じたからだ。

優里奈はそのイメージを打ち消すべく、キッパリとした口調でこう言った。

 

「嘘です、養ってもらってなんかいません、むしろ私が八幡さんを養ってあげてるんでした」

「そうだな、その通りだ。もし優里奈がいなかったら、

この部屋はゴミ溜めみたいになってるだろうよ」

 

 八幡は優里奈が気を回した事に気付き、その事を反省しながらそう言った。

 

(もし私がいなかったら、代わりは薔薇さん辺りがやったと思うけどなぁ……)

 

 優里奈はそう思ったが、当然その事を口に出したりはしない。

そもそも薔薇は、優里奈程家事が得意ではないので、実際にそうなる確率はほぼゼロである。

もし誰かが優里奈の代わりをするとしたら、

恐らく明日奈と雪乃とクルスがローテーションを組むのが一番現実的であろう。

 

「で、優里奈、もう家事は終わるのか?」

「あっ、はい、手は空きますけど」

「それじゃあ今からメイクイーンで祝勝会をやる予定だから、優里奈も一緒に行くか」

「いいんですか?」

「ああ、まあ祝勝会というよりも、俺がメイクイーンの売り上げに貢献するってのが、

一番の目的みたいになっちまってるけどな」

「あ、あは……」

 

 優里奈は苦笑し、二人はそのままメイクイーンへと向かった。

 

「あっ、優里奈ちゃんも来てくれたんだ!」

 

 部屋に案内されてきた二人を見て、明日奈が嬉しそうにそう言った。

 

「はい、八幡さんに誘って頂きました」

「丁度今、席順を決めるジャンケンをしようとしていた所なの、

なので優里奈さんも一緒に参加するといいわ」

 

 部屋に入ってきた時、その場がやや緊張感に満ちていた事に気付いていた優里奈は、

それで理由に納得がいったものの、さすがにここでの自分は部外者だと思い、

遠慮するように雪乃にこう答えた。

 

「私は本来部外者ですから、勝負は皆さんだけで……」

「いいのいいの、こういう時は公平に、がうちのモットーだしね」

 

 一人勝負に参加しない紅莉栖が気楽な表情でそう言い、他の者達もそれに頷いた。

 

「分かりました、それじゃあ勝たせてもらいます」

「あら、言うじゃない」

 

 詩乃が受けて立つという風にそう言い、理央も気合いの入った表情でこう呟いた。

 

「私もここは何としても勝ちたい……」

 

 この勝負の空いた席は一つである。明日奈が八幡の隣なのは確定だからだ。

こういう時は、皆絶対に明日奈を立てる事を怠らない。

 

「それじゃあ勝負よ!ジャンケン!」

「「「「「「「ポン!」」」」」」」

 

 そして何度かのあいこを挟み、勝者が決まった。その勝者は………クルスであった。

クルスは過去に何度かあったジャンケン勝負にかなりの確率で勝利していた。

八幡が絡むと強運になる女、それが間宮クルスである。

 

「八幡様、やはり私達は、強い運命で結ばれていますよ!」

「いや、お前が勝負強すぎるってだけだからな、なぁアスナ?」

「うん、この並びは本当によく見るよね」

「それは私の居場所がここに定着してきたという事ですね!」

 

 どこまでもポジティブなクルスであった。

 

「しかしこの男女比はどうなってるんだ……」

「仕方ないよ、うちに男の子のメンバーが増えると多分問題が発生するだろうし、

必然的に増えるのは女の子ばっかりって事になっちゃうしね」

「身内ギルドの弊害だよなぁ……」

 

 さすがの八幡も、この状況には若干居心地の悪さを感じるらしく、

八幡はトイレに行くといってその場を一時抜け出した。

 

「あれ、八幡、来てたんだ?」

「むっ、久しぶりだな」

「お?」

 

 トイレには先客がいたが、その二人は八幡が求めてやまない、

貴重な男性の友人である鳳凰院凶真こと岡部倫太郎とダルこと橋田至であった。

 

「お、お前ら、いい所に……今ヴァルハラの祝勝会をやってるんだが、

良かったらそれに参加してくれないか?」

「祝勝会?何に勝ったんだ?」

「ああ~、@ちゃんねるで盛り上がってたアレ?」

「多分それだ」

「どれだ……」

「同盟とかいう集まりに煽られた八幡が、

ムキになって新しいフロアのボスを、二時間で倒したんだお」

「ぷっ、煽り耐性低いな」

「お前が言うな!」

 

 二人との会話はこんな調子であったが、八幡は心が洗われる思いがした。

そして二人は深く考えずに八幡に案内されるまま、

ヴァルハラが貸し切っている部屋を覗いたのだが、その瞬間に二人は固まった。

 

「うおっ、全員女子ではないか!」

「えっ、本当にここに参加していいの?それじゃあ遠慮なく……」

 

 そんなダルの肩を、キョーマががしっと掴んで止めた。

 

「待てダル、メンツをよく見てみろ」

「メンツ?えっと………うお、雪乃嬢に朝田氏に一色氏に双葉氏!?

無理無理、絶対に無理だお!これは言葉の暴力に蹂躙されるお!」

「だな、おい八幡、この戦場は俺達にはハードルが高すぎる」

「という訳でまたの機会にだお!」

「ま、待てって、ほら、紅莉栖もいるぞ?」

「あいつが一番怖いんだよ!」

 

 そう言って二人は逃げ出し、八幡は再び一人でこの女性陣の中に投げ出される事となった。




アスナのifは、アニメで実際にあったアレですね

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