ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第755話 離脱

「もう、八幡のいけず!あんぽんたん!おたんこなす!」

「だから何でお前は昭和なんだよ」

「一周回ってかわいい女に見えるじゃない!」

「計算だったのかよ!」

 

 八幡と藍子は経子に許可を取り、二人だけで会話をする為に、

メディキュボイドを使う前に利用していた病室にいた。

さすがにベッドの掛け布団系は無かったが、シーツだけは綺麗な物が用意されていた。

 

「この病室も久々だわ」

「凄く綺麗にしてあるんだな」

「私達がいつでもここに戻ってこれるようにかしら、そう考えると少し嬉しい気もするわね」

 

 藍子はそう言いながら、窓の外に向けて手を振った。

八幡は誰か知り合いでもいるのかと思って窓の外に目を向け、その景色を見て納得した。

そこにドアを上下させるキットの姿があったからである。

 

「キットも元気そうで良かった」

「もしキットが元気が無かったら、俺の身がやばいと思うんだが」

「あはははは、壊れてるって事になるものね」

 

 アイコはそう言って、自嘲ぎみにこう付け加えた。

 

「私みたいに」

 

 八幡はそんな藍子の頭に手を乗せ、藍子は頭を撫でてもらえるのかと思い、目を細めた。

だがその直後に八幡は、藍子の頭をガシッと掴み、ギリギリと締め付けた。

 

「い、痛い痛い!せっかくいいシーンだったのに何をするのよ!」

「鏡を見ろ鏡を」

「鏡って何よ!そこは黙って私を抱きしめて、

『大丈夫だ、お前はどこも壊れてなんかいない、今から俺がそれを証明してやる』

とか言って、私を押し倒すところでしょうが!

そして私のおっぱいの感触を楽しんで、ぐへへへへ、アイの体は最高だな、

とか下卑た笑いを浮かべるところよ!」

「お前、元気いっぱいじゃないかよ、ってかせっかく口調は悲しげだったのに、

そんなドヤ顔をしてたら、演技だって直ぐにバレるっての」

「え?本当に?私今そんな顔をしてた?」

「おう、これ以上ないくらいにな」

 

 そして藍子は慌てて部屋に備え付けられた鏡を見た。

だがドヤ顔をしていたのはずっと前なので、そこに映ったのはいつも通りの藍子の顔である。

 

「今頃見ても仕方ないだろ……」

「言われてみれば確かにそうね……」

 

 藍子はそう頷くと、ついでとばかりに髪型をいじりはじめた。

 

(アイもやっぱり女の子だよなぁ……)

 

 八幡はそんな事を考えながら、

藍子の気の済むまで、その行為を邪魔する事なく黙って眺めていた。

 

「で、本題なんだけど」

 

 しばらくしてやっと気が済んだのか、藍子が八幡にそう話しかけてきた。

 

「その前にこれ、差し入れだ。杏仁蒸しパン」

「あ、ありがとう」

 

 藍子は嬉しそうに微笑みながら、それを頬張り始めた。

 

「それじゃ話を聞こうか、この前ユウと三人でいた時に微妙な表情をしてたアレだよな?」

「それよそれ。実は最近感じてたんだけど、

どうも最近ユウが、私に依存しきっちゃってるんじゃないかと思うようになったのよね」

「ふむ、なるほど、それはお前が悪い、頭を丸めて反省しろ」

「マルコメマルコメ?」

「何だそのネタは……また昭和か?」

「やっぱり私のせいよね」

 

 藍子はそんな八幡を完全にスルーしてそう言い、

八幡も八幡で、ここで過剰に突っ込むと負けた気がすると考え、

同様に今のやり取りを何も無かったようにスルーした。

 

「まあ他ならぬお前がそう言うならそうなんだろうな」

「私、頑張ろう頑張ろうと張り切りすぎた?」

「かもな」

「私、みんなに仕事を振ったつもりでいたけど、

実は大事な部分は全部自分でやっちゃってたかも……」

「そうか」

「やっぱり私のせいだよね、何とかしなくちゃ……」

 

 そんな藍子の頭を、八幡は容赦なくパチンと叩いた。

 

「痛い!傷物にされた!結婚して!」

「どこに傷があるんだ?見せてみろ」

「えっ?」

「見た感じ赤くなってもいないし、まったく異常はないな」

「えっと……こ、心が?」

「ではそれを証明してみせて下さい、出来なければ証拠とは認められません」

「くっ、い、今の証拠は取り下げます」

「証拠の取り下げを認めます」

「で、何で叩いたのよ!」

「最初からそう聞いてこいっての」

 

 八幡はため息をつきながらそう言い、続けて藍子の頭を撫で始めた。

 

「えっ?えっ?」

「さっきお前はこう言ったな、『やっぱり私のせいだよね、何とかしなくちゃ……』と」

「う、うん………あっ!そういう事?」

「分かったか、それじゃあ今までと同じなんだよ、お前はもっといい加減になるべきだな」

「いい加減かぁ、確かにちょっと敵が強大すぎて、肩に力が入ってたかも」

「その点で言えば俺のせいでもあるな」

「まあいいや、う~ん、それじゃあどうすればいいと思う?」

「おっ、いい傾向だな、分からない事は分かる奴に聞くのが一番だ」

「で?」

「そうだな……」

 

 そして八幡は少し考えた後にこう言った。

 

「お前、スリーピング・ナイツをしばらくお休みしろ」

「それも考えたんだけど、そうすると私が強くなれないかなって」

「ならその間、俺がお前を鍛えてやろう、お前が嫌じゃなければな」

 

 八幡はその言葉に、敵に塩を送られるのが嫌じゃなければという意味を込めており、

察しのいい藍子もその事を理解した。

 

「まあ利用出来るものは敵でも利用する、ってのはありね」

「お、頭が柔らかくなってきたな、

ところで俺はたまにだが、ゾンビ・エスケープというゲームをやってるんだ」

「また唐突ね」

「普段は三人でやってるんだが、次のステージが手ごわそうでな、

そのゲームを俺達と一緒にやってみるってのはどうだ?

ММOじゃなくMO扱いになるが、レベルの概念もあるし、

ALOにそれをステータスとして反映させる事も可能だ」

 

 そう言われた藍子は顎に手を当て、真面目に検討を始め、

しばらくしてから頷いた後、続けてこう質問してきた。

 

「それはいいかもしれないわね、でも武器の扱いに関してはどうするの?」

「大丈夫だ、ちゃんと刀が存在する」

「そっか、それじゃあそれで!」

「軽いなおい」

「そんな、体重が軽いだなんて嬉しい事を言ってくれるわね」

「お前の事を重いだなんて一度も思った事は無いけどな。

まあとりあえずこれで、ユウも多少は自立出来るだろう」

「ええ、これできっとスリーピング・ナイツのあるべき形が完成するわ」

「そしたら後は装備集めだな」

 

 そこで藍子は、あっという顔をした。

 

「それってオートマチック・フラワーズの事?もう、八幡ってば本当に過保護よね」

「過保護だ?違う違う、あれくらいは装備してもらわないと、

こっちはまったくやり甲斐が無いんだよ。

あれを装備してやっと俺達の背中が遠くに見えるかなくらいだという自覚を持て」

「そうね、本当にそう思うわ」

「とりあえずこっちの準備は進めておく、そっちは自分で何とかしろよな」

「ええ、経子さんや凛子さんとも相談して、上手く計画を立てておくわ」

「分かった、とりあえず二人にここに来てもらうとするわ」

 

 そして八幡は二人を部屋に呼び、藍子は二人に事情を説明した。

 

「なるほど、木綿季ちゃんがねぇ……」

「それじゃあそんな感じで口裏を合わせておいて下さい」

「ええ、分かったわ、そしたら八幡君は、

藍子ちゃんをメディキュボイドの所まで連れてってあげてね、私達もすぐ向かうから」

「分かりました」

 

 そう言って八幡は藍子を抱き上げた。

 

「大丈夫?重くない?」

「さっきも言った通り、お前は軽すぎなくらいだぞ」

「まあ確かにこんなに細いしね。私の体で確実に重いといえるのは、

この豊満なおっぱいだけね!」

「ああはいはい、凄い凄い、それじゃあ行くか」

「ちょっと、もっと喜びなさいよ!」

「はいはい、嬉しい嬉しい」

「もう!」

 

 二人は移動中に何人かの職員とすれ違ったが、

皆微笑ましそうな顔で二人に挨拶をしてくれた。

その度に藍子は恥ずかしそうに八幡の胸に顔を埋め、

メディキュボイドのある部屋に到着すると、八幡は最初に藍子にこう尋ねた。

 

「お前さ、平気でおっぱいおっぱいって連呼する癖に、随分と恥ずかしがるんだな、

俺にはお前の羞恥心の基準が謎すぎるわ」

「そんなの八幡と二人っきりか、そうじゃないかの違いに決まってるじゃない。

まあさっきみたいに二人きりでも、

思いっきり胸を見られてるような状態だと恥ずかしいけど、

基本八幡と二人きりなら平気よ」

 

 その藍子の言葉を聞いて、さすがに勘違いさせたままにしておくのはまずいと思ったのか、

八幡はあっさりとこう言った。

 

「ああ、さっきのお前の着替えな、あれをやったのは、俺じゃなくナツキさんだからな」

「何ですって!?」

「俺はお前に背中を向けて、それっぽい事を適当に言ってただけだ。

だから俺は何も見たりしてはいない」

「くっ、この事実を盾にして、正妻様に愛人として認めてもらおうと思ってたのに」

「おい」

 

 八幡はそう言いつつも、その言葉に引っかかりを覚えていた。

 

「あれ、お前、あいつに会った事があったっけか?」

「ええ、さすがは八幡のパートナーだと感銘を受けたわ」

「ふ~ん、そうか」

 

(まあ同じALOをやってるんだ、俺の知らない所で会ったんだろうな)

 

 もちろんこの時二人が頭の中で思い描いていたのは、

もちろんまったく違う人物であり、二人がその事に気付くのはかなり先の事になる。

 

「さて、それじゃあ俺は帰るが、詳しい事が決まったらまた連絡するわ」

「分かったわ、Xデーはその日ね」

「ちゃんと仲間に上手く言い訳しろよ」

「任せて頂戴、私はそういうのは得意なのよ」

 

 そして八幡が去った後、経子と凛子が来るまでの間に、藍子はぼそりとこう呟いた。

 

「私を運んでいる間に八幡が私の胸に目をやったのは合わせて十二回、

これは中々優秀な数字じゃないかしら、今後に期待出来るわね」

 

 どんなにさりげなく視線を向けたとしても、

やはりそういうのは分かってしまうものなのである。

 

 

 

 そして数日後、八幡から連絡を受けたランは、仲間を集めていきなりこう言った。

後日に本人曰く、上手く言い訳した、という事だったが、実際はこうであった。

 

「別に悪化はしてないけど、少し長い間、臨時で検査を受ける事になったから、

しばらくリーダーをユウに任せるわ、後は任せたわよユウ」

「えっ?」

「という訳で急ぎらしいから、私がいない間、しっかりと頑張るのよ」

「えええええ?」

 

 そのままランはログアウトし、残された一同はぽかんとする羽目になったのであった。

 

 こうしてランはしばらくスリーピング・ナイツを離れる事となった。

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