ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第756話 ランと新たな仲間達

 その次の日、ランは早速ゾンビ・エスケープにログインした。

居場所がバレないようにフレンドリストの設定を情報公開オフにし、

経子達ともちゃんと口裏を合わせての単独行動の開始である。

 

「へぇ、お店とかも結構あるんだ、普通の街みたい」

 

 ゾンビ・エスケープのエントランスシティは、

そのゲーム内容には似つかわしくなくとても綺麗であり、若い男女が沢山いた。

 

「今日はどうする?」

「無双系Eランクミッションでストレス解消ってのは?」

「いいね、乗った!」

「お、Dランクミッションの募集があるな、駄目元で入ってみようかな、

そろそろプレイヤーランクを上げておきたいんだよね」

「確かにランクが上がると現実で使えるクーポンの種類も増えるしなぁ」

「賞金が出る大会とかの出場権も優先でもらえるしね」

 

 その会話から、どうやらゾンビ・エスケープが、

ライトユーザーを中心にスポンサーを上手く募って運営されている事が分かる。

実際街の中には、大手企業のネットショップらしき店も多数存在していた。

 

「なるほど、だから若者が多いのね、確かにいいアイデアかもしれないわ」

 

 ちなみにこのゾンビ・エスケープを運営しているのはソレイユであり、

開発こそレクトに依頼したものの、そのアイデアは全てソレイユから出ている。

これは社内公募によるアイデアを採用した結果であり、

スポンサーを募ってゲーム内でCMを打つ手法を思いついたのは実はかおりである。

かおりはこれを、ハチマンのマンションにあるハチマンお薦め作品の棚にあった、

虎と兎の古いヒーローアニメを見ていた時に思いついた。

そこで一緒にそのアニメを見ていた千佳に色々と相談し、

ゲーム内成績に合わせて割引券等をスマホに送信する仕組みを考えつき、

そして金一封を二人で山分けしたという経緯があった。

かおりと千佳にとってはラッキーな臨時収入となったようだ。

ハチマンは以前萌郁と一緒に初めてこのゲームをプレイした時に、

ゾンビ・エスケープが完全なる他社製品だと勘違いしていたが、

実はレクト製のソレイユ産だと最近知って、驚いたものだった。

ソレイユには、まだまだハチマンの知らない業務内容が沢山あるという事である。

いずれハチマンは、その全てを把握しなくてはいけない事になるのであろう。

 

「色々回りたいところではあるけど、もうすぐ約束の時間だし、それは今度にしよっと」

 

 ランはそう呟くと、ハチマンに指定された待ち合わせ場所へと向かった。

場所は八番ロビーの八号室である。何ともハチマンらしい番号のチョイスである。

 

「パスワードは、0808か、まさかハチマンの誕生日だったりして……」

 

 完全にバレバレであった。

 

「こんにちは~?」

 

 ランがそう言って中に入ると、そこには見知らぬ女性が二人居り、

ランは八幡が言ってた仲間というのが女性だと知って驚いた。

これは単純に一般常識に照らし合わせての事であり、ランに他意はない。

ゾンビが出てくるようなゲームに女性が参加するイメージはランには無かったのだ。

 

「あ、えっと……」

「おっ、お前がランか?」

「あ、はい」

「これから仲間になるんだから、そんな話し方なんざしなくていいって。

俺はレヴィ、傭兵だ。これから宜しくな、ラン」

「う、うん、宜しく……って、傭兵!?」

「おう、まあ日本じゃ珍しいかもな」

「そ、そうね」

「こっちの静かなのはモエモエだ、職業は諜報員、まあスパイだな」

「ス、スパイ!?そんな事言っちゃっていいの?」

 

 そのランの問いかけに、モエカは首を振った。

 

「やっぱり駄目なんじゃない!」

 

 だがその言葉に対しても、モエカは首を振った。

 

「あれ、違うの?」

「モエカ」

「え?」

「私はモエモエじゃない、モエカ」

「大事なの、そっち!?」

 

 モエカは今度は頷き、小さな声ではあったが続けてこう言った。

 

「職業については伝えてくれと言われてるから大丈夫、

連携をとる上で参考になるだろうからって」

「八幡がそう言ったの?」

 

 その質問に、モエカはうんうんと頷いた。

無表情ではあったが、その仕草は少しかわいらしい。

丁度そのタイミングでハチマンが部屋に入ってきた。

 

「おう、待たせてすまん、自己紹介は終わったのか?」

「ううん、私のがまだ」

「そうか、それじゃあさっさと自己紹介しちまえ」

「うん!初めまして、私はランと言います、

ステータスは病気、職業はハチマンの愛人の座を狙ってます、宜しくお願いします!」

 

 その瞬間にどこから取り出したのか、ハチマンがハリセンでランの頭を叩いた。

 

 スパン!

 

「痛っ!……………くない!」

「まあ痛くはないだろうな」

「な、何でそんな物を持ってるの?」

「お前がそういった類の妄言を何度も言うだろうと思って、たった今調達してきた」

「ハチマンってそういうとこには努力を惜しまないわよね……」

 

 ランは、信じられないという顔でハチマンにそう言った。

 

「誰のせいで準備する羽目になったと思ってんだ」

「別にそんな物を準備する必要は無かったんじゃない!?」

「まあいい、とりあえずこいつがこの前二人に話したランだ、

まだまだ未熟だが、面倒を見てやってくれ」

 

 だがレヴィもモエカも何も答えようとはしない。

レヴィは何か考え込んでおり、モエカは何か聞きたいのか、うずうずしているように見えた。

 

「………レヴィ、どうした?」

「あ、いや、こういう時にピッタリの言葉があったはずなんだけど思い出せなくてよ、

何だっけな………ロ………あ、ロリコン、ロリコンだ!

そうかそうか、ボスはジャパニーズロリコンファイターだったのか!」

「断じて違う、それにこいつは十七歳だぞ」

 

 ハチマンがそう言ってから十秒間沈黙した後、レヴィは首を傾げながらこう言った。

 

「は?」

「十七歳だ」

「マジで?」

「マジだ」

「マジです」

 

 ハチマンとランが同時にそう言い、レヴィは驚いた顔でじっとランを見つめた。

 

「ふむ、確かにそう言われてみれば、中々いいバストをしてやがるな」

 

 ランはレヴィにそう言われ、でしょ?と胸を張る寸前で思いとどまった。

その理由は他でもない、レヴィとモエカの胸を見たからである。

 

「う………ううん、私なんかまだまだよ………です」

「う~ん、そうか?まあいいや、オーケーオーケー、

ボスはジャパニーズロリコンファイターじゃなく、ノーマルだと納得した」

「そいつはありがとうよ、で、モエカはどうしたんだ?何か疑問でもあるのか?」

「…………ううん、お願いが」

 

 モエカは若干躊躇いを見せた後、ぼそりとそう言った。

 

「おう?珍しいな、何でも言ってくれ」

「愛人の座とかの話が事実なら、私もその候補に入れて欲しい」

「…………………は?」

「私が集めた情報によると、ソレイユ本社前のマン………」

「わ、分かった、検討する、検討するから!」

 

 ハチマンはランの前でそれ以上言わせまいと慌ててそう言い、

事情を知るレヴェッカはニヤニヤし、

訳が分からないランは驚いた顔でハチマンの方を見た。

 

「そ、そんなにあっさりと検討しちゃうの!?」

「ん?お前の申し出だって、検討はしてるぞ検討は。

ただその案が採用される可能性がとてつもなく低いだけでな」

「くっ、そういう事……ここはやっぱり正妻様に手を回して……」

 

 ランからは、マンという言葉に関する発言は何も出てこなかった為、

ハチマンはどうやら聞こえていなかったようだと安心した。実際その事がランに知られたら、

ハチマンに姉妹のパンツを送りつけてくるくらいの事はやりかねないと思ったからだ。

結局二人は後にハチマンのマンションに自分達の場所を確保する事になるのだが、

少なくともそれは当分先の話であった。

 

「さて、自己紹介も済んだところで今日の予定だが」

「ふむふむ」

「Bランクミッション『爆撃回避脱出行』に挑もうと思う」

「おお、爆撃か、いいねぇ」

「分かった」

 

 レヴィとモエカはあっさりとそう言ったが、

Bランクとか言われてもランにはその難易度のほどはまったく分からない。

 

「えっと、ちなみにこのゲームの難易度っていくつまでランクがあるの?」

「SSSからEまで八段階だな」

「って事はBってのは、上から五番目?」

「おう、余裕だろ?」

「あ、うん、私に気を遣ってくれたならありがとう」

 

 ランは殊勝にもそう言い、ハチマンは笑顔でそれに頷いた。

 

「ちなみにAランク以上のミッションに成功したチームはまだ一組も存在しない、

Bランクミッションの成功率は、十パーセントだけどな」

「えっ?それって………」

「俺達もBランクに挑むのは今日が初めてだ、よし、それじゃあ早速出撃だ!」

 

 そう言ってハチマンは有無を言わさず壁のパネルを操作し始めた。

このゲームに置いては、先ず部屋を借りた上で、中で行く場所を選択し、

そのまま部屋の中の全員がそのフィールドに飛ばされる事になっている。

 

「ま、待って、待ってってば!」

「待たん」

「ちょっと!今の話だと、Bランクミッションって、今の最高難易度って事じゃない!」

「おう、腕がなるだろ?」

「初心者に何て事するのよ!」

 

 ランがそう叫んだ瞬間に、四人の姿がフッと消えた。

ランにとってはご愁傷様であるが、こうしてランの初めてのゾンビ・エスケープは、

いきなり高難易度のミッションからスタートする事になったのだった。

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