「トロいぞラン、さっさと走れ」
「あんた達の動き出しが早すぎるのよ!」
「ボス、十時にゾンビの集団、変異種が三匹だ」
「分かった、俺とランで斬り込む、レヴィとモエカは援護を頼む」
「「了解」」
「ま、待ってってば!」
「白兵戦だ、行くぞラン」
そう言ってハチマンは、腰からコンバットナイフを抜いた。
ランもそれを見て慌てて刀を抜き、ハチマンの後に続いた。
ランはここぞとばかりにいいところを見せようと張り切ったのか、
ばったばったと敵を殲滅していく。
「ふう、何も考えなくていいのは楽ね」
そんなランを見て、ハチマンは何か言いたげな顔をしていたが、
何か考えがあるのか特に何も言おうとはしない。
そうこうしている間に、調子よく敵を殲滅していたはずのランが何故か敵に囲まれ始めた。
「わっ、ちょっ、敵が多すぎる!」
だがランよりも敵を倒すのが遅く見えるハチマンは、まったく危なげなく戦っている。
「な、何で……?」
「分からないのか?お前はとにかく敵を倒そうとしすぎだ、もっと周りを見て工夫しろ。
敵を倒すだけが戦いじゃないんだぞ。レヴィ、ちょっとランと代わってやってくれ」
「あいよ!」
そしてランは一旦後ろに下がり、そんなランにモエカが飲み物を差し出してきた。
「はい」
「あ、ありがとう」
「少し休んで、あの二人の闘い方をよく見ておいて」
「う、うん、分かった」
モエカにそう言われるままに二人の戦いを見ていたランは、色々な事に気付かさせられた。
「そっか、ただ敵を倒すだけじゃ駄目なんだ……」
ハチマンとレヴィは、敵の足にダメージを与えて移動能力を奪い、
わざとその場に残して後続の敵の移動を妨害したり、
敵を蹴って後ろの敵ごと転ばせたりと、常に囲まれないように気を配っているように見えた。
「どう?何か掴めた?」
「うん、もう大丈夫、行ってくるね!」
「頑張って」
そしてランは、走りながらハチマンに叫んだ。
「ハチマン、もう大丈夫、交代交代!」
「俺を交代要員に指名するとはいい度胸だ、敵に抜かれるなよ」
「任せて!」
そして再び戦線に戻ったランは、
今度はハチマンが安心して見ていられる程度には安定した戦いを繰り広げていた。
「まあとりあえずは合格だな」
ハチマンはそう呟き、少し休んだ後に自らも戦闘に参加して敵を全滅させた。
そして一同はそのまま近くにあるビルへと足を踏み入れた。
そもそも最初の目的地はこのビルであり、
その前に敵が多数存在していた為、戦闘になったとまあそんな訳なのである。
「よし、とりあえず目的は達成か、しばらくは安全だから、少しここで休もう。
いくら体は疲れないとはいえ、精神は徐々に疲労していくからな」
「だな!」
「うん」
レヴィとモエカは元気そうにそう答えたが、
ランは返事をする元気もなく、ぐったりとその場に横たわっていた。
仰向けになっている為、その豊かな胸がかなりアピールされていたが、
その事に対しての反応をハチマンに確認する事も出来ないくらい疲労しているようだ。
「お嬢、大丈夫か?」
そのレヴィの呼びかけに、ランより先にハチマンがこう答えた。
「別に大丈夫だろ、こう見えて、こいつはかなりタフだからな」
「大丈夫なのは確かだけど、戦闘しながら頭を使う事に慣れてないから頭痛がひどいわ」
「自分の欠点が分かって良かったじゃないか」
「それはそうだけど、ここまで脳が疲れるなんて思ってなかったわよ……」
そう苦しそうに言うランに、レヴィは冷静な顔でこう言った。
「多対一の戦闘の時は、必須の技能だぜ、お嬢」
「うん、それは納得した。でも正直ゲームでこんなに疲れたのは初めてよ」
「まあ他の奴らはもっと気楽に遊んでると思うけどな」
「そうよね、さすがは現時点での最高難易度と言うべきなのかしら、
こんなのが普通だったらみんなとっくにやめてると思う」
「今のところはこのステージまでたどり着いているのは俺達だけらしいが、
特典目当てで頑張ってみるかと思ってる奴らも結構いるみたいだぞ」
「あらそうなの?そうねぇ、じっくり時間をかけて頑張ればまあいけるのかしらね……」
そして休憩も終わり、一同はとりあえずビルの上の階へと向かった。
そもそもこのビルを目指した理由は、
ゴールがどちらにあるのか高い所から確認する為であった。
「おうおう、凄い数のゾンビがいやがる」
「これは多分、本来は工夫してゾンビに見つからないように進むステージなんだろうよ」
「あった、ゴールは北」
「お、そこまでの道はどんな感じだ?」
「敵は確かに多いけど、思ったより開けてるみたい」
「で、その向こうは………ん、あれはもしかして川か?いや、湖か?」
ハチマンはそう言って前方を指差した。
よく見えないが、道沿いの低地に船が泊まっているのが見える。
「あの規模の船だと水深はそれなりにありそうだな」
「確かにそこそこあるだろうぜ」
「よし、侵入ルートはあそこだ、どこかで車を手に入れよう」
「途中までは強行突破だな」
「ここの地下の駐車場に、何台か使えそうな車があった」
「お、それじゃあ地下に行ってみるか」
ランはあれよあれよという間に決まっていくその作戦に口も挟めず、
ただ他の者の後をついていく事しか出来なかった。やはり絶対的に経験が足りていない。
そして地下の駐車場で、頑丈そうな車をチョイスしたハチマンは、
レヴィに車の起動を任せ、突然振り返ってランにこう言った。
「よしラン、お前が運転しろ」
「ええええええ?私、免許とか持ってないわよ?」
「ゲームの中で免許がいるかよ」
「そ、それはそうだけど……」
「レースゲームもやった事があるって言ってたよな?まあ大丈夫だって」
「わ、分かった、マニュアルじゃなければ何とか……」
その時レヴィが鋭い声を発した。
「ボス、燃料があまりない、多分持って数キロだ」
「モエカ、スタンドは確か北東だったよな?」
「少し方向はずれるけど、北東一キロ先にある」
「よし、そこで補給……いや強奪だな」
そのやり取りにランは目を見張った。
「そんな事まで覚えてるんだ……」
「常識だ、またお前に足りない部分が分かったな」
「うん」
ランは真面目な顔でそう答えた。ここにいれば確実に強くなれるという思いを抱いたのだ。
「まあとりあえずやってみろ、失敗しても気にするな、次また頑張ればいいんだ」
「うん、今は自分に出来る事を精一杯やってみる」
そしてランの運転で、一同は目的地を目指して動き始めた。
ランは予想以上にスムーズな運転を見せ、ハチマンは感心したように言った。
「中々やるじゃないか」
「まあレースゲームと違って、サーキットを走る訳じゃないしね、
そもそもそこまでスピードを出す必要もないから」
「お、見えてきたな、あそこのスタンドに突っ込んでくれ」
「うん」
ランは普通にそう答えたが、ハチマンが、停車させる、ではなく突っ込む、
という表現を使った事に気付くべきであった。
目的地ガソリンスタンドの中はゾンビで溢れ返っており、
ランは小さな悲鳴を上げる事になったからだ。
「大丈夫だ、一撃で車を破壊してくるようなゾンビはここにはいない」
「って事は、どこかにはいるの!?」
「おう、前に遭遇したぞ」
「そんなのとは絶対やり合いたくないわ……」
「それがさっき見えたんだよなぁ」
「えええええええ!?」
さすがのランも、その言葉に少しびびったらしい。
そんな会話を交わしている間にも、ゾンビの集団はどんどん近付いてくる。
「こ、これってどうすればいいの?」
「轢け」
「え?」
「全部轢け」
「り、了解……」
ランは言われた通りスタンドに突っ込んだ。ハンドルを握る手に嫌な感触が伝わる。
「よし、よくやった、いい突っ込み方だ」
ランは、こんなに嬉しくない褒められ方は初めてだと思ったが、
その間にも、仲間達は各自必要な行動を行っていた。
「うし、出番だな」
「時間は稼げて五分」
「分かった、頼む」
レヴィとモエカはそう言って車の上に乗り、銃を乱射し始めた。
そしてハチマンは、何を思ったか突然ランの足の間に手を突っ込んだ。
「えっ?やっ、こ、こんな所じゃ………ううん、一周回ってありかもだけど、
初めてはやっぱりもっとムードのある所の方が!」
「うるさいな、いいか、ここに給油口を開けるレバーがあるから覚えておけ。
まあ車の種類によって違うけどな」
「あっ、そういう……」
「今は妄想してる暇はねえ、
とりあえず合図があったら直ぐに車をスタート出来るように準備しておくんだぞ」
「わ、分かった」
そしてハチマンは給油口にノズルを突っ込み、給油を始めた。
きっちり満タンにする必要は無い為、ある程度でノズルを抜いたのはまだ分かるが、
今度はそこら中にガソリンを撒いていく。
「えっ?えっ?」
「よし、こんなもんだな」
「ま、まさか……」
ランはハチマンの意図を何となく悟り、顔を青くした。
丁度その時車の屋根の上からレヴィの声がした。
「ボス、敵の集団が接近中、多分あと一分後に囲まれる」
「分かった、ラン、このまま車をスタートさせろ!
上の二人もルーフキャリアがあるから落ちたりはしない」
「う、うん!」
そしてランは思いっきりアクセルを踏み、そのまま車を急発進させた。
凄まじいGがかかったが、誰も体勢を崩したりはしないのはさすがである。
「二人とも中に入れ!爆破するぞ!」
そしてハチマンは屋根の上の二人に声を掛け、二人が窓から中に滑りこんだ瞬間に、
先程撒いたガソリン溜まり目掛けて銃を発射した。
「ちょっ、待っ……」
その瞬間にガソリンスタンドは大爆発し、後ろから凄まじい衝撃が襲ってきた。
「うおおおおおおお!」
その爆風に煽られたランは、何とか車の制御を保とうと必死でハンドルを操作しつつ、
そう女の子にあるまじき叫び声を上げた。
「よし、今ので追っ手がいなくなったな」
「ちょ、ちょっと、危ないじゃない!」
「だが何とかなったじゃないか、俺はお前のゲームの腕は信頼してるからな」
「う………」
ランは褒めてもらって嬉しい気持ちと、抗議したい気持ちの間で板ばさみにあったが、
何か言おうとする前に、ハチマンがランにこう言った。
「よし、次はあそこだ、このまま突っ込め」
「あ、あそこって、車が沢山並んでるんだけど……」
そこは検問のような状態になっており、横向きになった車に封鎖されていた。
このまま車を走らせてもとても突破出来るようには見えない。
「大丈夫、いけるいける」
「頼むぜお嬢」
「私達の事は気にしないでいい」
「で、でも……」
「絶対にアクセルを緩めるなよ、そのまま、そのままだ」
「う………」
ハチマンにそう念押しされても、
やはり目前に車が迫ってくるというのはやはり怖かったのか、
アイは思わず右足の力を抜いてしまいそうになった。戦いとは別種の怖さがそこにはある。
だがハチマンがそれをフォローした。一歩間違えばセクハラになってしまうが、
ハチマンはそんなランの気配を察知し、ランの太ももをしっかりと押さえ、
アクセルから足が離れないようにしていた。
「あ、あああああああああああ!」
そうしている間に鉄の塊が目前に迫り、アイは再び絶叫を上げた。
そして一同の乗る車は障害物をぶっ飛ばし、そのまま検問の突破に成功した。
「はぁ、はぁ……」
「な、大丈夫だっただろ?」
「し、死ぬかと思ったわ」
「大丈夫大丈夫、本番は次だからな!」
「はあああああああああ?」
そしてランはこの直後に、走馬灯という言葉の意味を実感する事になる。