ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第758話 Bランクミッション(成功)

「ハチマン!それってどういう……」

「この辺りは道が狭い、しっかり前を見ていろ」

「それはもちろん分かって………えっ?」

 

 その時ランは、ハチマンの手が自らの胸へと伸びてくるのが見えた為、大混乱に陥った。

あのハチマンが自分の胸に触ろうとしている、しかしそれはありえない!

でも実際に手が伸びてきている、一体何が起こっているの!?といった所であろうか。

 

「ちょ、ちょっとハチマン、嬉しいけど、嬉しいけど!」

「ん?窓が開くと喜ぶなんて、お前には特殊な性癖でもあるのか?」

「へ?」

 

 その言葉通り、ハチマンの手は揺れるランの胸の前を素通りし、

窓を開けるスイッチへと触れた。そのまま窓が大きく開け放たれていく。

そんなハチマンの姿を見たレヴィとモエカも同様に窓を開けた。

 

「えっと……何で窓を?」

「待ってろ、まだやる事があるから」

 

 そしてハチマンは、次にランの下半身の方に手を伸ばした。

 

「こ、今度こそ騙されないわよ、これはフリ。何かのフリに決まってるわ」

「お前が何を言ってるのかまったく分からないんだが……」

 

 そう言ってハチマンは、平然とした顔でランのお腹の辺りをまさぐった。

 

「ひぅっ!?」

 

 さすがのランもそれには驚き、おかしな声を上げる事になった。

 

「な、ななな……」

 

 だがさすがのランも、この状況でハチマンがエロい行為に及ぶなどとは思わない。

こうして実際に触られていても、その意識は変わらなかった。

多分何か理由があるのだろうと思ったその直後に、

パイスラ状態だったランのシートベルトがスルっと外れた。

 

「あっ、そういう……」

 

 ランはそれで納得してしまい、その行為に何の意味があるのか深く考えなかった。

というか、考える余裕がなかった。再び前方に検問……というかバリケードが現れたからだ。

 

「あ、あれはどう考えても突破出来ないわよね?」

「ああそうだな、さすがにあれは無理だ。

でもまあ最初からあそこを突破するつもりは無かったけどな」

 

 ハチマンは特に動じた様子もなく、淡々とそう言った。

 

「じ、じゃあどうするの?」

「おう、俺が合図したら、最速でハンドルを思いっきり左にきれ。とにかく一気にな」

「分かった、左ね………え?左!?」

 

 ランはチラリと視線を横に向けた。左には色々な船が並んでいるのが見える。

要するに左には道などない、湖なのだ。

 

「あ、あの、まさかとは思うんだけど、もしかして窓を開けてシートベルトを外したのって」

「ああ、そのまさかだ、今から車ごと湖に向けてダイブする」

「う、嘘でしょ!?」

 

 さすがのランも、これには顔面蒼白であった。

 

「いいかラン、正面を見てみろ、遠くに赤く突き出た塊が見えるだろ?」

「う、うん」

「あれが例の、車を一撃で破壊する化け物だ、正式な名前は知らないが、

俺達はあいつの事をギガゾンビと呼んでいる」

「何それ?ここに日本を誕生させるつもりなの!?」

「よく知ってるなお前……そこで質問だ、ドラゾンビのいないこの世界で、

あいつにこのまま突っ込むのと湖にダイブするの、どっちがマシだと思う?」

「未来の秘密道具に頼ってばかりじゃいけないと思うの。

えっと、このまま正面がいいと思………」

「よし、今だ!左にハンドルを切れ!」

「あっと、了解!って、ああああああああああ!」

 

 障害物に突っ込むノリで、ギガゾンビに突っ込んだ方がましだと考えていたにも関わらず、

ランはハチマンのその言葉に反射的に手が動き、思いっきりハンドルを左に切った。

直後に車はガードレールを突き破って宙を舞い、

ランはデロリアン号に乗ったらどんな感じがするのか実感した。

 

「き、きゃあああああああああああ!」

「ヒャッホー!」

「…………楽しい」

「まるでジェットコースターだな」

 

 ランの耳に、浮かれるレヴィの叫びとモエカの呟き、

そしてハチマンの冷静な言葉が入ってきた。

その直後にランは、ハチマンにしっかりと抱き締められた。

 

「ハ、ハチマン?」

「思いっきり息を吸って衝撃に備えろ!」

「………っ!?」

 

 そしてランは言われた通りに大きく息を吸い、そのまま湖に沈み、

その十分後、一同はゴール近くの岸に這い上がった。

 

「げほっ、げほっ」

「ふう、やっと岸か、思ったよりも遠かったな」

「女だらけの水泳大会ってか?」

「服が透けてる、このゲーム、よく出来てるね」

「まあ外部発注とはいえうちの製品だしな」

「巨乳三人組の濡れ透けにちょっとは反応したらどうなの!?」

「言い方がおっさんくさいぞラン」

「私の理想はちょい悪オヤジギャルだから別にいいの!」

「また昭和か………」

 

 そんな軽いノリの会話を交わしながら三人は、

見事にゴール前へのショートカットに成功した。

だがさすがにそのやり方にはランから苦情が出た。

 

「ってかハチマン、さすがにあのダイブはいきなりすぎだから!」

「最初に湖があるって分かった時から予想しとけって」

「そんなの分かる訳ないじゃない!」

「他の二人は防水対策をちゃんとしてるだろ、ほれ、見てみろ」

「えっ?」

 

 見るとレヴィとモエカは、ビニールのような物から銃と弾丸を取り出していた。

 

「あ、あれ?もしかして『これは想定の範囲内だ』って奴?」

「ん?まあこれくらいは普通だぜ、お嬢」

「このゲームは中途半端にリアルだから対策は必要」

「モエモエの説明が微妙にズレてるけど、でもまあ分かった、まだまだ私は甘かった」

 

 二人が事も無げにそう言った為、さすがのランも、

それ以上ハチマンに抗議する事は出来なかったようだ。

 

「はぁ……」

「ほれラン、お前の刀だ」

「えっ?あ、あれ?そういえば私ってば刀をどうしてたっけ……」

「シフトレバーの横に置いてあったからな、

さすがに余裕がないだろうと思って俺が持ってきたぞ」

「ど、どこにそんな余裕が……」

「あ?余裕だろ?事前に窓も開けておいたから水中での脱出も容易だったし、

息も大きく吸っておいたからな」

「た、確かに楽だったけど……うぅ……自分の未熟さを思い知らされるわ」

 

 ランはそう言われ、車からの脱出が実にスムーズに成功した事を思い出した。

一見無茶に見えて、実はハチマンが色々と事前準備をしていたせいであろう。

ランは、そういう部分は見習わなければと改めて思った。

 

「さて、さすがのギガゾンビも水の中までは追いかけてこなかったから、

ここからはもうヌルゲだが、とりあえずさっさとゴールまで突撃するとするか」

「多分近くまで行けば、クリア扱いになるはず」

「敵も全部まいたし、後はあそこにいる何匹かを蹴散らせばそれで終わりだぜ!」

「お、終わり?やっと終わりなの?」

「ん?大して時間はかかってないよな?」

「私にとっては凄く長かったわよ……」

 

 さすがのランも、かなりへこたれたようにそう言う事しか出来なかった。

確かに攻略速度は早いのだろうが、あまりにも常識外れすぎるからだ。

検問に突っ込むくらいはともかく、まさかそのまま水の中にダイブする事になるとは、

さすがのランも想像すらしていなかった。

 

「ねぇ、いつもこんな感じなの?」

「ん?そうでもないが、フィールドマップはこういう力技が通用するからな、

自然とこんな感じになるな」

「今日はいつもよりもシンプルで良かったぜ」

「ん、楽だった」

「シンプルで楽……?これが……?」

 

 ランは呆然とそう言ったが、これで終わりではない。

まだステージクリアにはなっておらず、最後の仕事が残っている。

 

「よし、突撃するぞ」

 

 ハチマンの言葉でその事に気が付いたランは、

最後の力を振り絞ってハチマンの後に続いた。

 

「こうなったらとことんやってやるわよ!」

「お、元気だなラン、だがここは簡単に抜けるからな」

「え?」

 

 その言葉通り、まだ敵が少し残っていたが、

ハチマンが素早くゴールラインに入った瞬間にゴールのゲートが開き、

外から中に入ってきた軍隊が、ゾンビを一掃し始めた。

同時に空から爆撃機らしき飛行機が突入してきて、街に爆撃を開始した。

 

「お、終わった?」

「おう、後はこのムービー的なエンディングの見物だ」

「イエーイ、楽勝楽勝!」

「この演出は斬新」

 

 そしてランが呆然と見守る中、街は火の海に包まれていったのだった。

 

「うわ、軍隊とギガゾンビが激戦を繰り広げてるぞ」

「凄えな、なぁボス、どっちが勝つのかな?」

「どうだろうな、普通に考えれば軍隊だが」

「ん、拮抗してる」

「演出としちゃ凝ってるよな」

「軍の人、頑張って!」

 

 こうしてこの日の攻略は終わり、ランは一つ成長する事となった。


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