「う~~~~~~~~ん、これから何をすればいいかは分かるんだよね、
大きな目標としては、ハチマンの課題をクリアして防具をもらう、おばば様から武器を買う、
その為に何が必要か、レベル上げをしてステータスを上げつつ金策をする、
その為にも早く装備を整える、その為に金策をする、でも金策に有効なスキルもある。
ああああああああ、結局何を優先したらいいの?それくらい教えてけっての、ランの馬鹿!」
それをしてしまったらユウキの成長は見込めない為、
もちろん分かった上でランは、何も指示等を残していないのだが、
この時のユウキはそこまで考える余裕もなく、ひたすら悩んでいた。
「ああもう、ボクがしっかりしないといけないのに……」
ユウキはそう言って目を瞑り、川べりにごろっと寝転んだ。
(こうなったらいっそ、経子さんに相談して一度落ちて、直でランに話をしに……)
そう思いながら目を開けたユウキは、
自分の顔を上から覗き込む女性プレイヤーと目が合い、思わず悲鳴を上げた。
「うわああああああ!」
「あっ、ごめん、驚かせちゃった?」
その女性プレイヤーの敵意も何もない、本当に申し訳なさそうな表情に、
ユウキは多少冷静さを取り戻し、とある事に気付いて愕然とした。
「あ、いや、確かに驚いたけど……」
ユウキが驚いたのは、まったく人の気配を感じなかったからだ。
さすがのユウキも、いかにこんな状態であるとはいえ、それくらいは気を配っている。
そんなユウキが気配を察知出来なかったこの女性は果たして本当にプレイヤーなのか、
もしかしたらオバケか何かなのではないか、
ユウキはそう思い、恐る恐るその女性プレイヤーにこう尋ねた。
「お、お姉さん、まさか幽霊か何かじゃないよね?」
「え~?そんな風に見える?」
「見えないから困ってる」
「えっ?私が幽霊じゃないと何か困るの!?」
「ち、違うよ、お姉さんの気配をまったく感じなかったから……」
その言葉にその女性プレイヤー、アスナは、
テヘペロっといった感じでコツンと自分の頭を叩いた。
「ごめんごめん、こういう歩き方、もう癖になっちゃってるんだよね」
「えっ、それじゃあ常にそんな感じなの!?」
もしかしてこの女性は、とてもそうは見えないがリアル忍者か何かなんだろうか、
ユウキはそんなありえない想像をしながらも、
リアルの事を詮索するのはルール違反だというハチマンの教えを忠実に守り、
それ以上何も突っ込もうとはしなかった。
「それよりも随分と悩んでいたみたいだけど、何かあったの?私で良ければ話くらい聞くよ?
ほら、下手に知り合いに話すより、まったくの赤の他人に話を聞いてもらった方が、
気楽に色々話せるって事、あるじゃない?」
「あ、う、うん、確かにそう聞くよね」
そう言いながらもユウキは迷っていたが、
やがて決心したのか、アスナにぽつぽつと今の自分の境遇について話し始めた。
「えっとね、ボク、身内だけで構成されてるギルドに所属してるんだけど、
うちのリーダーがしばらく来れなくなっちゃって、
それでボクがリーダー代行に指名されたのね。
一応ギルドの大雑把な方向性はもう決まってるんだけど、
そこに到達する為に、どういう順番で何をすればいいのか、
何が最善なのかさっぱり分からなくてさ……
リーダーのボクが仲間を導いていかないといけないのに……」
「なるほど……」
言い方は悪いが、アスナはユウキの悩みが自分にアドバイス出来る類の悩みだった為、
ほっと胸をなでおろした。これが例えば彼氏に浮気されたけど別れたくない、どうしよう、
とか、両親が離婚しそうでどっちに付いていけばいいのか分からない、
とかの悩みであったら、さすがのアスナも返答に困った事であろう。
だがこの問いに関しては、どう答えればいいのかは、既に分かっている。
「一人で抱え込む必要はないんじゃないかな?」
「で、でもボクがリーダーなんだし……」
「リーダーが何でも決めないといけないなんて決まり、ある?」
「決まりっていうか、そこはほら、その為のリーダーなんだし……」
そう反論しつつも、ユウキの声は段々と小さくなっていった。
自分が考えていたリーダー像が、ブレ始めていたのである。
「道に迷ったら、仲間と相談して進む方向を決めればいいよ、
もし相談が出来ないような間柄だとすれば、それは仲間じゃなくて、部下なんじゃない?」
ユウキはその言葉にハッとした。
「仲間じゃなくて部下……も、もしかしてボク、
気付かないうちにみんなをそんな目で見ちゃってたのかな?」
その言葉から、アスナはこの少女の所属するギルドが、
いわゆるトップダウン式の上下関係が絶対のギルドではなく、
横の繋がりを大切にするギルドなのだと悟り、それに合わせてこう言った。
「相手がそう思ってたら、もうとっくにギルドは無くなってるんじゃないかな?」
「そ、そうかな?ボク、今からでも間に合うかな?」
「うん、大丈夫、きっとあなたの仲間はあなたの事を待ってくれてるよ、
それかもしかしたら、あなたが決断した時に備えてもう色々と準備してるかもね」
「あっ!」
その瞬間に、ユウキの脳裏に、ここ数日の仲間達の行動が浮かび上がってきた。
ジュンやテッチ、ノリ、タルケン、シウネーは、毎日必ずユウキに向かい、
今日は何をすると宣言して出かけていっていたのだ。
ついさっきまでのユウキは、その仲間達の言葉を理解しているようでしていなかったが、
今ここに至ってやっとその言葉が像を成し、意味のある言葉としてユウキの脳に認識された。
「そっか、ボク、ここ数日は心が死んでたみたい、
みんなの言葉が耳に入っていたようで、全然入ってなかった」
「今はその言葉がちゃんと頭の中に入ってきた?」
「うん!」
「そう、それじゃあ次に何をすればいいか、もう分かる?大丈夫?」
「うん、みんなの所にいって、一緒に考えてみる!」
「そっか、頑張ってね」
「ありがとうお姉さん!ボクの名前はユウキ、お姉さんの名前は?」
「私の名前は………」
その瞬間にアスナが驚いた顔をし、直後にカクンとその場に崩れ落ちた。
「あ、あれ?」
ユウキはぽかんとしたが、今の現象には心当たりがあった。
「あ、そっか、これって多分回線切断だ……
参ったな、自己紹介は対人関係の基本って、ハチマンにきつく言われてるのになぁ……」
そしてユウキはしばらくそこで、残されたその女性~アスナの体を守っていたが、
しばらくしてその体が消えた為、名残惜しそうに何度も振り返りながら去っていった。
「同じゲームの中にいるんだし、きっとまた会えるよね、優しいお姉さん」
そのままユウキは自分達が借りている宿屋に大急ぎで戻り、
丁度揃っていた仲間達に向け、大きな声でこう言った。
「ごめん、ボク、ついさっきまで死んでたみたい。
今はもう生き帰ったから、改めてボクの相談を聞いて欲しいんだ!」
「「「「「ぷっ!」」」」」
その言葉に五人は同時に噴き出し、ユウキは恥ずかしそうに頬を赤らめた。
「もう、何で笑うのさ!」
「だってよ、死んでたとか生き返ったとか意味が分からないから!」
そう言うジュンの言葉を、シウネーがこう受けた。
「でもまあ気持ちは分かりますよね、ジュン。
確かに昨日までのユウキは、『うん』しか言わなかったですから、
死んでいたって表現はピッタリかと」
「まあ確かにな!」
「多分僕達がセクハラ発言をしても、『うん』って返ってきたよね」
「うんうんそんな感じ、あ~あ、せっかくだから、何かの言質をとっておけば良かったかも」
テッチとタルケンのその言葉に、即座にノリが突っ込んだ。
「死ね、変態ども」
「ち、違う、僕が言ったのはあくまで比喩で……」
「そう、冗談、冗談ですよ?」
「どうだか……」
ノリはジト目を崩さず、二人は慌ててユウキに謝った。
「ごめんユウキ、冗談にしちゃ不謹慎だった」
「こ、この事は兄貴には内緒で……」
「大丈夫だって、もちろん冗談だって分かってるからさ!
まあでもハチマンには報告しとくけどね!」
「「ええええええ?」」
二人は同時にそう叫び、ユウキはニヤニヤしながら二人に言った。
「冗談だって、さて、それじゃあ本題、ボクからの相談ね、
ボクは今朝まで今後どういう順番で活動していけばいいのか凄く悩んでたんだけど、
やっとさっきその答えが出たの」
ユウキにそう言われ、五人は表情を引き締めた。
「『分からない』ってのがその答え。いくら考えてもボクには考えつかなかったよ」
だがそう言われても、五人は表情を変えなかった。
次に来る言葉がユウキの決断した結果を表す言葉なのだと分かっていたからだ。
「だからみんなにも一緒に考えて欲しいんだ、
楽しさを優先させてもいいし、あくまで効率を追ってもいい、
みんなでボク達らしいゲームの進め方を、一緒に相談しよう!」
五人はその言葉にしばらく無言だったが、やがてシウネーが笑顔でこう言った。
「長くなりそうですし、私、お茶を入れてきますね」
「じゃあ私はお茶菓子を」
「俺はテーブルを片付けるわ」
「僕は床に敷く布団を準備します」
「それじゃあ僕は、出た意見をメモ出来るように準備しておくね」
「みんな、ありがとう!」
こうしてスリーピング・ナイツは再起動を果たし、その日はハチマンの言いつけを破り、
一同は明け方まで床一面に布団を敷き詰め、
ごろごろしながら徹夜し、全員で色々な事を話し合ったのだった。