ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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すみません、カビ取りの薬品で喉をやられてしまったので、次の投稿は金曜になりそうですorz


第773話 腐死山

「さて、それじゃあこれからどうするかいの?」

「あの、師匠、出来れば私、居合いの指導もお願いしたいんですが……」

 

 ランのその頼みに、キヨモリは鷹揚に頷いた。

 

「おう、別に構わんぞい、おいハチマン、それじゃあ修行に適した場所にでも……」

「もう設定した、すぐに飛べるがどうする?」

「相変わらず仕事が早いのう」

「それってさっき言ってた『富士山』?」

「おう、『腐死山』だな」

「ほうほう霊峰富士とな?それはまたいかにも修行しろと言わんばかりの場所じゃのう」

 

 特に異論もなさそうだったので、ハチマンはさっさと転移の準備を進める事にした。

元より他に、修行に向いた場所の心当たりなど無かったからである。

 

「よし、それじゃあ行くか」

「うん」

「よし、ハイキングと洒落こむかのう」

 

 その直後にいざステージの中に突入し、辺りの風景を見たランとキヨモリは、

その異様な風景に黙りこくった。

 

「…………」

「…………」

「よし着いたぞ、ここが腐死山だ」

「富士山ってお前……」

「この富士山、凄く赤っぽいんだけど……」

「綺麗な赤腐死だろ?」

「何だろう、私達とハチマンの発音が微妙に違うように聞こえるのは気のせい?」

「気のせいじゃない、富んだサムライの富士じゃなく、腐って死ぬの腐死だからな」

「そっちだったんだ……」

「とりあえず居合いの練習をするならここの周辺だな、二人とも、こっちだ」

 

 ハチマンに案内され、二人は小屋の外に出た。

確かにその周りには、適度な太さの丸太が打ち込まれている。

 

「おいじじい、これ使えるよな?」

「これなら練習には最適じゃが、斬っていいのか?」

「ただの柵の残骸だし別にいいだろ、それじゃあ俺は時間延長モブを倒してくるから、

二人は居合いの練習に集中しててくれ」

「「時間延長モブ?」」

 

 ハチマンが説明をサボった為、二人にはその意味が分からない。

ハチマンも一応軽く説明しておこうと考え直したのか、この場所について二人に話し始めた。

 

「このステージの目的地は麓にあるゲートなんだが、そこまでは結構遠くてな、

制限時間も設定されてて、普通に向かってたんじゃ確実に間に合わないんだよ。

で、あちこちに白い物が見えるだろ?あれは墓なんだよな」

「なるほど、あれってお墓なんだ」

 

 遠くに見える白い物が何なのか気になっていたランは、納得したように頷いた。

 

「おう、で、その墓に近付くと、中からゾンビが出てきて、

そいつらを倒すと制限時間が延長される。

赤い墓は確実に二十分時間延長されるが、

背景も赤だからとにかく見付けにくい上に敵が強い。

白い墓は敵は弱いが時間延長の確率が十分の一くらいな上に五分しか延長されない。

おまけに赤い墓が白い墓に囲まれたりしてるからたちが悪いんだよな」

「あ~、そういう事なんだね」

「ちなみに青い墓からは通常アイテムが出る。

それと黒い墓も存在するらしいが、そこからはレアなアイテムが出たりするらしい。

まあまだお目にかかった事はないからどんな物が入ってるのかは知らないけどな」

「へぇ、面白そうじゃない」

「そうだな、遊び方の幅は広いよな」

 

 ランは居合いの練習が落ち着いたら普通にチャレンジしたいなと思いながらそう言った。

 

「という訳で、出来るだけ長く練習する為にも、俺が一人で時間延長を狙いまくるから、

二人はここで集中して居合いの練習をしててくれ。アナウンスがうるさいかもしれないが、

そういう環境でも集中を切らさないようにする訓練にもなると思うから、まあ頑張ってくれ」

「うん、頑張る」

「なるほど、理解した。そっちは任せたぞい」

「ああ、それじゃあ行ってくる」

 

 ハチマンはそう言って麓の方に走っていった。その手には珍しく自動小銃が握られている。

 

「ほ、あやつ、ここでは銃を使うのか」

 

 それに気付いたキヨモリがそう言い、ランもうんうんと頷いた。

 

「ハチマンって多芸だよね」

「あ奴は決して天才ではないが、その分裏で努力してるんじゃろうなぁ」

 

 その言葉が自分の持つイメージと重ならない為、

ランは首を傾げながらキヨモリにこう尋ねた。

 

「あれ、ハチマンってそういうタイプ?

私、ハチマンは最初から強かったものだとばかり思ってた」

「あ奴の取り柄は観察眼的な目の良さくらいじゃな。

聞いた話だと、SAOの時はテストプレイヤーとして相当やり込んで、

GGOとやらの時も、最初に一人で死ぬほど銃の練習をしたらしいぞい」

「そう、あのハチマンが……」

 

 ランは強いハチマンの姿しか知らない為、その言葉を意外に感じつつも、

一人で一生懸命銃の練習をするハチマンの姿を思い浮かべ、それを微笑ましく感じた。

 

「まあ逆に言えば、努力は必ずではないが、多くの場合は実を結ぶって事になるのかのう」

「確かに必ずじゃないよね、私も頑張らないと」

「そうじゃな、それじゃあ始めるとするかの」

「はい、宜しくお願いします、師匠」

 

 そこだけ丁寧にそう言ったランは、

キヨモリの指導に従って、先ずは構え方から練習を開始した。

 

 

 

 麓に向かって走っていたハチマンは、途中でいくつか白い墓の敵を倒したが、

運悪く一つも時間延長は出なかった。

 

「まあ初期設定の一時間だけを何度も繰り返す手もあるが、

それだとランのステータスが上がらないし、何より俺が暇だからなぁ」

 

 自分がいない時はそれでもいいだろうが、などと考えつつ、

ハチマンは通りかかった場所にある白い墓を一つずつ潰していった。

感知される距離に足を踏み入れてすぐ離れ、そこから銃弾を叩きこむ簡単なお仕事である。

ちなみにステータスうんぬんの話に関しては、

パーティの誰かが倒した敵の経験値がメンバー全員に入るというだけの事だ。

これは離れたところにいても有効であり、

あるいはランが楽をする事を嫌がるかもしれないと思い、

ハチマンがあえて説明しなかった部分でもあった。

まあそこまで説明するのが面倒臭かったという理由が一番大きいかもしれない。

 

「赤い墓も見当たらないな、仕方ない、白い墓が沢山あるあそこを目指すか」

 

 ハチマンはそう呟くと、

白い墓がかなり密集しているように見える場所へと向かって歩き始めた。

 

 

 

『時間が五分延長されました』

 

 ランはそのアナウンスを、刀を振るった後の残心状態の時に聞いた。

 

「ほ、やっとアナウンスとやらが流れおったの」

「結構かかったね」

 

 ランは刀を鞘にしまいながらそう言った。

 

「苦戦してるなんて事は無いと思うから、単純にハチマンがついてないって事かな?」

「かもしれんの、あ奴は思いっきり女難の相が出とるからの」

「ぷっ」

 

 ランは確かにそうだと思い、思わず噴き出した。

そんな二人のやり取りが聞こえた訳でもないだろうが、遠くで何度か破裂音がした後、

その直後にまるで狂ったようにアナウンスが連呼を開始した。

 

 ボン!ボン!ボン!

 

『時間が五分延長されました』

『時間が五分延長されました』

『時間が五分延長されました』

『時間が五分延長されました』

『時間が五分延長されました』

 

「おお?」

「師匠、まさかハチマンは、

今の私達の会話が聞こえたから、悔しくって意地になったのかな?」

 

 ランはニヤニヤしながらそう冗談を言った。

 

「その時の顔は見てみたいが、まあ冗談はさておき、

おそらく大量の敵を一度に相手どっているんじゃないかの?」

 

 そのキヨモリの言葉でランは、ハチマンが何をしているのかに気が付いた。

 

「ああ~、リンク狩りかぁ!」

「りんく?何じゃ?」

 

 ランはきょとんとするキヨモリに、リンク狩りについて説明した。

 

「要するに大量の敵を一度に釣って、範囲攻撃とかで一気に殲滅するんだよ、師匠」

「なるほど、それじゃあさっきの音は、手榴弾か何かを使ったんじゃな」

「多分ね、でも五分延長ばっかりだし、弱いものいじめばっかりしてるのかな?」

「かもしれんの、男子たる者、それじゃあいかんと思うがのう」

 

 その言葉ももしかしたらハチマンに聞こえていたのかもしれない。

そんな事は絶対無いのだが、二人がそう思ってしまうようなタイミングで、

次のアナウンスが二人の耳に届いた。

 

『時間が二十分延長されました』

 

「おお?あ奴め、この近くにでもおるのか?」

「凄いタイミングだよね……」

 

 二人はそう言って肩を竦め、そのまま居合いの練習を再開した。

 

「こっちも負けてらんないね、師匠」

「じゃな、ハチマンの奴もきちんと仕事をしているようだし、儂らも頑張らねばの」

「うん!」

 

 二人はそのまま集中して練習に取り組み、

師匠がいいのだろう、ランの居合い姿もそれなりに様になってきた。

だがその太刀筋はまだまだ未熟であり、

ランはこの日から、暇さえあれば腐死山で刀を振るうようになった。

その努力は居合いだけではなく、総合的な部分でランの実力を底上げしていく事となる。




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