ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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お待たせしました、喉も回復して今日から再開です!


第774話 再び二十一層へ

「それじゃあ無理せずノルマを果たした後は、

ラグーラビット先生に鍛えてもらってみんなでレベルアップしよう!」

 

 成り行きで一躍時の人となったスリーピング・ナイツは、

予約してくれた人達の為に、再び二十一層の迷宮区を訪れていた。

さすがに顔が売れてしまった為、変装しての移動となったが、

幸いスリーピング・ナイツに気付く者はいなかったようだ。

ちなみに今ユウキが言ったレベルアップとは、実力を上げるという意味であって、

ALOにレベルの概念が導入された訳ではない。

 

「肉の余剰分もスモーキング・リーフで買いとってもらえる事になったとはいえ、

ここにはしばらく来れないから、集中していこう!」

 

 予約分以外の肉を店売りしてしまっては、また混乱を生む可能性が高いという事で、

余った肉は店売りと同じ値段でスモーキング・リーフで買い取ってもらえる事になっていた。

スモーキング・リーフとしても混乱しないように少しずつ売り出すしかない為、

一時的に大量の資金が必要になってしまったが、

そこは話を聞いたハチマンがこっそりとヴァルハラの資金を提供する事で解決した。

 

「それじゃあ今日も張り切っていこっか!」

「ステータスもかなり上がったし、今日こそ狙ってラグーラビット先生を撃墜してやるぜ!」

 

 前回の戦闘だと、まともに狙って敵を撃墜出来たのはユウキだけであり、

他の者達は何となくといった感じでしか敵を倒せていなかった為、

ユウキ以外の四人は今日はかなりの意気込みを持って狩りに望んでいた。

当然シウネー以外の四人という事である。

ちなみに今日もレコンが密かにスリーピング・ナイツを見守っている。

 

「それじゃあ最初は地味な作業からだな」

「確かに地味だけど、これはこれでいい収入になるからいいよな!」

 

 VRMMOに限らず、

こういった多人数参加型のゲームで大成する者には一定の共通点がある。

それは地味な作業を続けるのを厭わないという点である。

先日ランとキヨモリが話していた、努力が必ず実る訳ではないというのは、

居合いの技術を超一流まで高めるという点においては正しいが、

居合いそのものを習得するという点で言えば正しくない。

なんちゃってで良ければ、ゲームにおいては努力次第でそれはモノになってしまう。

ここは実戦レベルまでで良ければ努力が確実に実を結んでしまう世界なのだ。

 

「背ビレはまだかなまだかな」

「やめなよタル、そういうの、強欲センサーに引っかかるんだからね」

「う………確かにそうかも」

 

 だがこの場合、その心配は杞憂であった。

前回と同じ数の敵を狩った瞬間に、敵の沸きがピタリと止まったからだ。

 

「お、きたか?」

「あ、出た出た、多分これ、狩った敵の総数だね」

「他の狩り場でもこういう隠し要素ってあるのかね?」

「メジャーな狩り場じゃ無いんだろうけど、こういうマイナーな所だとあるかもね」

「隠し扉の奥限定みたいな」

「今度探してみよっか」

「だな!」

 

 そして一同は休憩する間も惜しんで再び滝の裏の入り口から奥へと進んでいった。

 

「さて、今日もやりますか!」

「今日はユウキは最初サポートな、危なくなったら助けてくれ」

「本当に大丈夫?」

「大丈夫大丈夫、この前で慣れた上に、ステータスだってかなり上がったからね」

 

 どうやら今日はテッチとタルケンを中心に、左右をジュンとノリが固める事にしたらしい。

これは単純に武器の問題であった。片手棍を使うテッチと槍を使うタルケンは、

正面から向かってくる敵を迎撃するのに相性がいいが、

両手剣を使うジュンとハンマーを使うノリは、取りまわしの速度の関係で、

敵の来る位置が分かっていても、どうしても遅れをとってしまう事があるのである。

そして前回と同じように、奥からラグーラビットが弾丸のように飛び出してきた。

 

「今回は前みたいにはいかないぜ!」

「よっ、ほっ、はっ!」

「うん、敵が見える見える」

「まったく問題ないね」

 

 四人は取りこぼしもあるが、確実に敵を葬っていく。

そこからは安定感すら感じられ、ユウキは自分も参加したいとうずうずしながらも、

リーダー代理として仲間達の成長をチェックする事も必要だと考え、

戦いたいという欲求にじっと耐えながら、その様子を見守っていた。

そして一時間後、ユウキが休憩の指示を出した。

 

「そろそろ休憩にしよっか、さっき休まなかったしね」

「そうだな、一旦下がって戦利品の数もチェックしよう」

 

 それなりにダメージもくらったが、その回数は前回よりもかなり減少しており、

まずまず成長したと誇れる戦いぶりを示せた四人はかなり満足する事が出来たようだ。

 

「ユウキ、どうだった?」

「うん、かなり安定してたと思うよ」

「私も前回より回復させるのが楽だと感じましたね」

「おお、ついに乗り越えたって感じだな」

「で、肉は合計いくつくらい取れた?」

 

 数えてみると、ここまで得た肉の数は大体百個程であった。

これで予約分の肉はほぼほぼ調達出来た事になる。

ドロップ率はさすがに地上のように百パーセントとはいかず、

だいたい十パーセントくらいであろうか、

つまりここまでで四人の合計で千体くらいの敵を倒した事になる。

体感だと一~三秒ごとに一匹敵が飛んでくるイメージがあるので、

大体攻撃された回数は千八百回程度という事になる。

撃破率は五十パーセント強であり、前回と比べるとこれは格段に高い数字であった。

 

「特にタルはかなりいい感じだったね」

「まあ槍はこういう時、取りまわしが楽ですからね」

 

 直線軌道で飛んでくる敵に穂先を合わせるというのは言うほど楽ではないが、

タルケンは問題なくそれをこなしていた。

 

「ジュンとノリも、間に合わないって思った時は、手元で上手く敵を捌いてたね」

「柄も有効に活用しないとだしな」

「それでも弾く方向が悪くて何度かくらっちゃったけどね」

「でも回数はそんなに多くなかったじゃないですか、凄い安定してましたよ」

 

 シウネーにそう言われ、ジュンとノリは照れたような笑いを浮かべた。

 

「テッチはもうほぼ完璧だね」

「全部盾のおかげですけどね」

 

 テッチは棍と盾を上手く使い分け、敵をかなり正確に倒せるようになっていた。

 

「さて、それじゃあ今度はボクの番かな」

「その顔は、待ちきれなかったって感じだね」

「うん、今のボクってば、凄く調子がいいんだよね」

 

 ユウキはそう言って一人前に出て迎撃体勢をとった。

その動きは確かに鋭く、剣の冴えも素晴らしい。

密かにそれを撮影していたレコンは舌を巻き、

ユウキの成長っぷりをハチマンに見せようと、動画を撮影してハチマンへと送っていた。

完全に隠し撮りであるが、まあスリーピング・ナイツとハチマンの関係からすると、

どこかに勝手にアップさせるような事も無いし、ギリギリセーフであろう。

その動画は一旦ハチマンのスマホに送られ、そこからゾンビ・エスケープ内で、

キヨモリに指導されるランをのんびりと見守っていたハチマンへと転送された。

 

「ん、レコンからか………これは動画か?」

 

 ハチマンはそれを見ると、立ち上がってランとキヨモリに訓練を一旦中断してもらい、

三人で一緒にその動画を見た。

 

「ユウはもう完全に覚醒した感じね」

「これは誰じゃ?」

「私の双子の妹よ」

「ほうほう、嬢ちゃんのな、しかしまあ双子にしては随分と体型が違うのう」

「じじい、セクハラだ。それ以前にこいつが調子に乗るからやめてくれ」

 

 だがそのハチマンの制止は少し遅かった。

 

「そうなの師匠、ユウには悪いけど、

ハチマンは私くらいのサイズじゃないと興奮出来ないのよ」

 

 ランはそう言って自分の胸を持ち上げ、

ハチマンはそれに対して面倒臭そうな視線を向けた。

 

「はいはい興奮した興奮した」

 

 そんなハチマンの適当な返事にもめげず、ランはここぞとばかりに胸をアピールした。

 

「揉みたいなら揉んでもいいのよ?」

「いいのか?それじゃ遠慮なく……」

 

 そう言ってハチマンはランの胸に手を伸ばし、その瞬間にランは慌てて後ろに下がった。

どうやら心の準備が出来ていなかったらしい。

 

「ふっ」

 

 それを見たハチマンは、自分の勝利だという風に鼻で笑い、ランは悔しさに悶絶した。

 

「きいいいい、ハチマンの癖に生意気な!」

「はいはい、今は忙しいからまともにお前の相手をしている暇は無いんだよ」

 

 そう言ってハチマンは画面を覗き込み、ランも何事も無かったかのようにその後に続いた。

さすがはラン、メンタルは強い。

 

「じじい、これをどう見る?」

「これだけじゃ何とも判断がつかんのう、

こんなバッティングセンターみたいな動画だけじゃよく分からん、分からんが……」

 

 そう言ってキヨモリは黙り込み、そんなキヨモリにハチマンはこう言った。

 

「前回もこんな感じだったらしいぞ」

「なら多分、お主の危惧する通りじゃないかのう」

「そうか、それじゃあ行ってくる」

「それがいいじゃろうな」

「動画は控え室のモニターに転送する設定にしとくから、そこでじっくりと見ているといい」

 

 そう言ってハチマンはそのまま姿を消し、ランはそのいきなりの展開についていけず、

呆然と見送る事しか出来なかったのであった。


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