ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第775話 ハチマンからの指令

「師匠、ハチマンは一体どうしたの?」

 

 ランは我に返るとキヨモリにそう尋ねた。

 

「稽古を付けに行ったんじゃろうな」

「稽古って、ユウに?」

「ああそうじゃ、ランはさっきの動画を見てどう思ったんじゃ?」

「えっと、我が妹ながら凄い剣さばきだなって……」

 

 ランは、自分が気付かない何かがあるのだろうなと思いつつも、

素直にそう言う事しか出来なかった。

 

「確かにその感想は間違っとらんよ、今のあの子は一流の剣士じゃ」

「なら一体何が……」

「お主らの目標は何じゃ?」

 

 キヨモリはランの質問には答えず、唐突にそう言った。

 

「ヴァルハラに勝って、スリーピング・ナイツの名声を高める事」

「それはお主らが一対一でハチマンに勝てばそれで済む話なのかえ?」

「そ、それは……」

 

 ランは改めてそう言われ、言葉に詰まった。

自分でもそれでは目標を達成した事にはならないという自覚があったのだろう。

 

「お主の妹が一流の剣士たらねばと思うあまり、剣に頼りすぎていないかと、

ハチマンは危惧したんじゃろうな」

「剣に………?」

 

 ランは今ひとつ理解出来なかった為、必死にその意味を考えたが、

明解にこれだという答えは出ない。

 

「よく分からない……」

「ふむ、分からない事を分からないと素直に言えるのはランの美点じゃな。

それじゃあこう考えてみい、お主がハチマンに、剣だけの勝負で勝ったとしよう」

「やった!師匠、遂にハチマンに勝ちました!」

 

 ランはその場面を想像し、ノリノリでキヨモリにそう言った。

 

「周りの者達は、お主の事をALO一の剣士だと褒め称える」

「いやぁ、それほどでも……」

 

 次にランは照れた顔で手をぶんぶんと振った。

こういう時はノらないと気が済まないらしい。

 

「だがその者達は、お主を褒め称えたその口でこう言うのじゃ。

それでもALO一のプレイヤーは、ハチマンですよね、とな」

「む……」

 

 ランは何となくキヨモリの言いたい事が自分の中で形を成していく気がしたが、

まだ確信には至れない。

 

「すみません師匠、何となくしか分かりません」

「ふむ、それじゃあ次の例えじゃ。

お主はその後、ハチマン相手に何でもありのルールで戦いを挑んで負ける。

それが悔しくてひたすら剣の道を究めようと努力し、ついに戦績を五分五分まで持ち込む」

「もう少し頑張って剣の修行をすれば勝ちこせるかも!」

「そして満足がいく修行が出来、仲間達と共にハチマンに再戦を申し込みに行く最中に、

お主らは凄まじい数の敵プレイヤーに囲まれ、お主の奮戦も空しく、

仲間達は全員討ち取られ、その場にはお主だけが残る」

「む……」

「そして再戦してお主はハチマンに勝利する。一人ぼっちの勝利じゃ。

だが周りの者達はこう言うのじゃ、もし襲われたのがハチマンだったら、

仲間達も全員無事でこの場に立っていただろうとな」

 

 ランはその状況を思い浮かべ、キヨモリが何を言いたいのか必死に考えた。

そして出てきた答えはこれであった。

 

「つまり私達だけが強くなっても、仲間達も一緒に強くならなくては意味がないと?」

「まあそれも必要条件ではあるじゃろうな」

「ぐぬぬ………それじゃあ指揮能力を高めろ?」

「それも必要条件に過ぎんの」

「そうすると……対応力を高めろ?」

「そうじゃのう、一番しっくりくるのはその表現かのう」

 

 キヨモリがやっと頷いてくれた為、ランはほっとひと安心した。

 

「対応力……なるほど」

「今のお主らは、まるで剣術大会でトップに立とうとしているように見えるでな、

それはそれで有りだとは思うが、お主らが目指すのは、

あくまで全プレイヤーのトップなんじゃろ?」

「うん、そのつもり」

「なら一対一の勝負、多対一の勝負、知略による勝負、

そういった色々な戦いに、勝利する必要があるのではないかの?」

「それは……そうかも」

「で、ランの剣の腕がハチマンよりも上をいったとして、

一対一でハチマンに勝てると思うかの?」

「そ、それは……」

 

 ランはそう言われ、改めて気付いた事があった。

今まではとにかく剣の腕を磨けばハチマンに追いつけるのではないかと思っていたのだが、

いざその場面を思い浮かべてみても、ハチマンに勝てる気がしないという事にである。

 

「確かに色々な手で腕の差なんか簡単に逆転されそう……」

「まあそういう事じゃ。とりあえずハチマンがお主らに何を教えようとしているのか、

動画を見てよく考える事じゃな」

「うん、そうする」

 

 そして二人はハチマンが設定してくれた動画を見る事にしたのだが、

そこには意外な光景が映し出されていたのであった。

 

 

 

(おっ、ハチマンさんからメッセージ?えっと……あ、こっちに来るんだ)

 

 レコンは送られてきたハチマンからのメッセージを見て、

ハチマンがこの場所に向かっている事を知り、

ユウキの成長を実際に自分の目で確かめたいんだなと考えたが、

次のメッセージを見てきょとんとした。

 

(スリーピング・ナイツの誰かとコンタクトを取れないか?

フレンド登録をしていないからメッセージが送れない?う~ん……それなら……)

 

 レコンはノリが一人で後方の壁に背をもたれかけさせ、

背後の守りに注意を注いでいるのを見て、ハチマンにこう返信した。

 

(ノリさんが今一人でいるので多分僕がコンタクト出来ますっと)

 

 直後に再びハチマンから返信があった。

 

『俺はそっちに十五分後に着くが、とりあえずレコンはノリと接触し、

次のメッセージで書く内容を実行するように、

ユウキ以外のメンバーで共有するように伝えてもらいたい』

 

 その直後に別のメッセージが届き、レコンはとりあえずその通りに動く事にした。

 

 

 

 後方を警戒していたノリは、突然誰かに口元を塞がれてギョッとし、抵抗しようとした。

だがその耳元でレコンがこう囁いた。

 

「すみませんすみません、僕はヴァルハラのレコンと言います、

ハチマンさんからの伝言があるので、

それをユウキさん以外の全員で共有してもらえませんか?」

 

 その言葉を聞いた瞬間にノリは元のようにリラックスした体勢に戻った。

 

「それじゃあ次に、ハチマンさんからのメッセージテキストをそちらに渡しますね、

これを他の人にも見てもらって下さい」

 

 そう言ってレコンはノリにメッセージのトレードを申し込み、

ノリは何気ない態度でそのメッセージを確認した。

 

「えっ……」

 

 ノリは一瞬驚いたような声を上げたが、それ以上何も言う事はなく、

何故か軽い足取りでシウネーの方に向かい、何事か話しかけた。

その後にノリは、ジュン、テッチ、タルケンの所に向かい、

ユウキに気付かれる事なくハチマンからの指令書を渡し終えた。

そしてそろそろ予定時刻になるという頃、ついにハチマンがこの場に姿を現した。

ハチマンは黒ずくめの格好をしており、その見た目からはハチマンだとは分からない。

 

「待たせたな、レコン」

「いえいえ、お早いお着きで驚きましたよ」

「まあ場所は分かってるんだから、後は思いっきり走ってくるだけだしな」

 

 途中には敵もいたはずなんだけどなと思いつつも、

レコンはハチマンのやる事だからと特に驚くような事はなかった。

 

「それじゃあ早速行ってくるわ」

「はい、お気をつけて」

 

 そしてハチマンは、特に姿を隠す事もなく堂々とノリに近寄っていった。

ノリはわくわくしたような顔で、むしろウェルカムだという風にハチマンの方を見ており、

ハチマンは苦笑しながらノリに言った。

 

「おいノリ、ちゃんと演技しろよ」

「う………も、もちろん!」

 

 そしてハチマンは声を変えるパーティアイテムを使用した後に雷丸を取り出し、

ノリの体を抱き寄せると、その首に雷丸を突きつけながら言った。

 

「ぐへへへへ、おいお前ら、随分変わった所で狩りをしているな、

この女の命が惜しかったら、ここで得た戦利品を俺によこしやがれ!」

「くっ………みんなごめん、油断した!」

 

 そう言いながらもノリの顔は微妙に嬉しそうな顔をしており、

一番遠くにいるユウキからは見えなかったが、男達はその顔を見て少し呆れていた。

 

「「「ノリの奴、めっちゃ嬉しそうだな……」」」

 

 そしてハチマンは次に、シウネーに向かってこう言った。

 

「おいそこの女、お前も武器を捨ててこっちに来い、お前も人質だ」

「わ、分かりました!」

 

 こちらもユウキからは見えなかったが、

シウネーもとても嬉しそうな顔でハチマンの方に走っていき、

男達は再び呆れる事となった。

 

「そこの男連中は、この縄で自分達を縛れ」

「くそっ、わ、分かった!」

「ノリとシウネーを人質にとられてるんだ、仕方ない!」

「ユウキ、後は任せた!」

 

 とんだ大根演技であるが、三人も与えられた役割を果たし、

自らを縄で縛って隅の方に座りこんだ。もっとも本当に縛った訳ではなくただのフリである。

 

「だ、誰だお前は!」

 

 ここでラグーラビットの攻撃範囲から何とか離脱に成功したユウキがこちらに戻ってきて、

ハチマンにそう言った。

 

「ただの通りすがりの盗賊様よ、お前がリーダーか?さっさと金目の物をよこしやがれ!」

 

 こうしてハチマンとユウキ以外による演劇が幕を開ける事となったのであった。

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