ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第776話 ユウキ、盗賊と対峙す

 スリーピング・ナイツに接触する少し前、ハチマンはレコンが撮影している動画に向け、

一つのメッセージを残していた。

それは要するにランに宛てたメッセージであり、その内容はこうであった。

 

『俺が頭をかく仕草をした時のユウの行動に注目しておけ』

 

 そして今、ユウキは仲間達を全員失った状態でハチマンと対峙していた。

 

「くそっ、二人を離せ!」

「離せと言われて素直に離す馬鹿がいるかよ」

 

 そう言ってハチマンは頭をかくと、二人の体を撫で回した。

 

「ぐへへへへ、二人ともいい体をしてんじゃねえかよ」

「くそっ、このゲス野郎め!」

 

 ちなみにこの時ジュン達三人は、笑いを堪えるのに必死だった。

 

 

 

「師匠、今ハチマンは頭をかいたわよね?」

「ああ、そうじゃな」

「あああああああああ、私にはあんな事してくれないのに!」

「見事なセクハラじゃの」

 

『ぐへへへへ、二人ともいい体をしてんじゃねえかよ』

『くそっ、このゲス野郎め!』

 

「ぷっ……」

「あ奴、思ったより役者じゃのう」

「あはははは、あはははははは!」

「ランよ、ここの妹の行動を見ておけと言われてたはずじゃろ?」

「あはははは、ご、ごめん師匠、そうだったわね。

でもここのユウの行動って、普通じゃない?」

 

 仲間が体を撫で回されて、相手に向かってゲス野郎と叫ぶそのユウキの姿は、

ランから見るとまったく普通の反応に見えた。

 

「ふ~む、ランはあのハチマンをハチマンだと思うのはよした方がいいの」

「師匠、どういう事?」

「あれを本物の暴漢だと思って見てみい」

「分かった、イメージイメージ……みょんみょんみょんみょん……」

 

 ランはそう変なセリフを口走りながら、頭を切りかえて画面をじっと見つめた。

 

「あっ!」

「うむ、分かったかの?」

「うん、そう言われるとユウの駄目な所が分かった!

普通この場面だと絶対にハラスメント警告が出るはずなのに、出てない事に気付いてない!」

「多分それじゃろうな、儂もさっき、試そうと思って敢えて軽くセクハラ発言をしてみたが、

言葉だけじゃセクハラ認定はされなかったの。

でもまああそこまでやれば、普通はハラスメント警告に引っかかるんじゃろ?」

「さっきのってわざとだったの!?」

 

 ランはそのキヨモリの発言に驚いた。

 

「当たり前じゃろ、このご時勢じゃぞ、そもそも儂の立場だと、

人一倍そういった事には気をつけていたわい」

「そう言われると確かに……」

「とはいえ現実と虚構は基準が違うからの、儂もいつもと違う環境の中で活動するんじゃ、

どのくらいまでがセーフなのか見極めておく必要があったんじゃよ」

「さすがというか……師匠ってやっぱり凄い人なんだね」

「これも人生経験の成せる技じゃ」

 

 ランがキヨモリに感心したところで二人は再び画面に目を戻した。

 

 

 

「お前は中々やりそうだな、とりあえず武器を捨ててもらおうか」

「分かった」

 

 ユウキはハチマンの要求に対して即答した。

万が一にも誰かが傷つけられる事があってはいけないと考えたのだろう。

そしてハチマンはユウキの剣を拾い、具合を確かめるようにブンブンと振ると、

ユウキにこう尋ねた。

 

「このバランスがお前にとっては最適なバランスなのか?」

「そうだ!でもどうしてそんな事を聞くんだ?」

「いや、ただの興味本位だ」

 

 そしてハチマンはユウキの剣をその場に置くと、

ノリとシウネーをジュン達の隣に座らせ、ロープを取り出した。

 

「十分楽しませてもらったし、とりあえずこの二人も縛っておくか」

 

 同時にハチマンは、二人にこう囁いていた。

 

(面倒だから縛らないが、縛られたフリをしておくんだぞ)

(うん)

(はい)

 

 ハチマンは二人の体にロープを巻きつけると、続けてユウキの前に立った。

 

「ふむ……」

 

 ハチマンはそう言って頭をかき、ユウキの顎に手を当てて、クイッと持ち上げた。

 

「こうして見ると、中々の上物だな。お前はこのままどこかに売り飛ばすか」

「ひ、ひどい事をするつもりならボク一人にしてよ!」

 

(はぁ、わざと隙を見せたつもりなんだが、

素手じゃ俺を制圧出来ないのか、それとも自信が無いのか……)

 

 ハチマンはそう考え、ユウキが動くかもしれないと期待しつつ、

今度はユウキの腹や腰を撫で回し始めた。

 

「ぐへへへへ、そういう事なら俺は女にモテないから、

こういう機会には存分に楽しまないとな!」

 

(((((どこが!?)))))

 

 そのセリフを聞いたジュン達五人は心の中でそう突っ込んだ。

 

「くっ……」

 

 この時ユウキは、悔しそうな顔をしながらも、何故か戸惑っているように見えた。

 

(何だこの反応?)

 

 ハチマンはユウキの顔を見てそんな疑問を抱きつつも、そろそろ盗賊らしく、

金目の物でも要求するかとのんびり考えていた。

 

 

 

「あっ、師匠、ハチマンがまた頭をかいたわ」

「今度は何をするつもりなのかのう」

「きいいいいいいいい!」

 

 直後にランが、どこかから取り出したハンカチを噛みながらそう絶叫した。

 

「ランよ、そのハンカチはどこから取り出したんじゃ……」

「こういう時の為に常備しているわ、師匠」

「そ、そうか……」

 

 キヨモリは聞いてはいけない事を聞いてしまったかのようにランから目を背けつつ、

続けてランにこう尋ねた。

 

「で、今の叫びは一体何じゃ?」

「そ、そう、それよそれ!ユウめ、まさかハチマンに顎クイしてもらえるなんて、

なんて羨ましい!」

「………あれくらいお主もしてもらえば良かろうに、大した事じゃあるまいし」

「………えっ?」

 

 ランはそのキヨモリのセリフに首を傾げた。

 

「大した事じゃ………ない?」

「だってそうじゃろ?例えば胸を揉めとか言われたら、

多分ハチマンは絶対に首を縦には振らんじゃろうが、

ちょっと私のアゴをクイッって持ち上げてみて?と頼めば、

そのくらいなら別にいいかと思ってやってくれそうじゃないかえ?」

「ま、待って師匠、もしかして男の子にとって、顎クイって大した事じゃないの?」

「恥ずかしい奴は恥ずかしいのかもしれんが、

普通そこまでキャアキャア騒ぐような事じゃないじゃろ?」

「そ、そうなんだ……」

 

 ランはそのキヨモリの言葉に、男女の価値観の違いを思い知らされた。

 

「ありがとう師匠、覚えとく……」

 

 そしてランは気を取り直したように、続けてキヨモリにこう尋ねた。

 

「そういえば叫んじゃって聞き逃したんだけど、さっきハチマンが何か言ってなかった?」

「おう、確かこうじゃな。

『こうして見ると、中々の上物だな。お前はこのままどこかに売り飛ばすか』

『ひ、ひどい事をするつもりならボク一人にしてよ!』とか言うとったのう」

「………」

 

 その言葉を聞いたランは、頭を抱えてその場に蹲った。

 

「ラン、どうかしたかの?」

「ううん、我が妹ながら、さすがにそのセリフをおかしいと思わないのはどうなのって……」

「まあ他のプレイヤーを売り飛ばす事なぞ出来るはずがないからのう」

「ちなみにその後ハチマンは、

『ぐへへへへ、そういう事なら俺は女にモテないから、

こういう機会には存分に楽しまないとな!』とか言うとったぞ」

「どこが!?って、ああああああああ!また!」

 

 ランは突っ込んだ後、即座に絶叫した。何とも忙しい事である。

画面の中でハチマンが、ユウキの色々なところを撫で回しているのを見たせいなのだが、

その直後にランは、意外な分析をした。

 

「しかもユウめ、あの顔は喜んでるわよ!」

「ほ?儂には戸惑っているように見えるんじゃが……」

「確かにそうね、ユウは多分、何でこんなゲスな奴に撫で回されて、

自分が嬉しく感じてしまうのか分からないって戸惑ってると思うわ」

「何とも不思議な戸惑い方もあったもんじゃの……」

 

 どうやらハチマンが疑問に思ったユウキの反応はそういう事だったらしい。

 

「それにしてもユウは、あれだけセクハラされて、

相手が監獄行きにならないのをおかしいと思わないのかしら」

「よく分からんが、男を相手にし慣れてないんじゃないかの?」

「ああ、それはあるかも。あの子が知ってる男って、

仲間以外だとハチマンだけみたいなものだしね」

「セクハラという概念自体に馴染みが無いという事なのじゃろうな」

 

 二人はなるほどと頷きあいつつ、再び画面へと目を戻した。

 

 

 

「さて、お遊びはこのくらいにして、そろそろ金目の物を出してもらおうか」

「くっ……し、仕方ない、これを持っていけ!それで満足したらさっさと消えろ!」

 

 ユウキはそう言って、馬鹿正直にラグーラビットの肉をハチマンに差し出した。

 

(これは判断に迷うな、ユウのこういう所は美点でもあるからなぁ……)

 

 ハチマンはこの事については怒らずにアドバイスに留めておこうと思いつつ、

大げさに驚いたような表情でこう言った。

 

「おいおい、これはラグーラビットの肉じゃねえか!しかもこんなに沢山か!?

こいつはとんだお宝が手に入っちまったぜ、ぐふふふふ」

 

 その瞬間にジュンとタルケンとノリが咳き込んだ。

どうやら噴き出したのを咳き込む事で誤魔化したらしい。

 

(ジュン、タル、ノリ、アウト!)

(悪い悪い、つい、な)

(むしろテッチとシウネーは何であれを我慢出来るの?)

(あれはハチマンさんじゃないと自分に強く言い聞かせてますから)

(な、なるほど、僕もそうしてみよう)

 

 ハチマンは五人の方をチラリと見ただけで、ユウキが出した肉に再び目をやった。

そこにはユウキが倒した分のラグーラビットの肉が全て積まれていた。

その数は時間が短かった為か、まだ十個程であったが、

それでもかなりの金額になる事は間違いない。

 

(これで済むなら安いとも言えるし、まあいい判断か………いや、一応試すか)

 

「それじゃあこれは有り難く頂いておくぜ、一応聞くが、

まさかこれをもっと沢山持ってるなんて事はないよな?」

「ただでさえ貴重な肉をそんなに持ってたら、こんな所に金策になんか来るもんか!」

「ちっ、しけた野郎どもだぜ」

 

(おお、今のは後で褒めてやろう)

 

 そう思ったハチマンの耳に、ユウキのこんな呟きが飛び込んできた。

 

「くっ……剣さえあれば、お前なんかには絶対に負けないのに……」

 

(ふむ、これは手間が省けたな)

 

 そしてハチマンは、殊更に不敵な声を作り、ユウキに向かってこう言った。

 

「はぁ?お前みたいなガキが、剣を持ったくらいで俺に勝てるとでも思ってるのか?」

「か、勝てるよ!」

「そうか、なら余興だ、少し遊んでやる」

 

 そう言ってハチマンは、先ほどユウキから取り上げた剣を拾い上げ、

そのままユウキに向かって放った。

 

「えっ?」

「余興だって言っただろ、ほれ、さっさとかかってこいガキ」

「言われなくても!」

 

 そしてユウキはハチマン目掛けて全力で剣を振り下ろした。




時期は未定ですが、暇な時にコツコツ書き進めている『SP話 ヴァルハラvs高度育成高等学校編』を投稿する予定です、面白くなるかどうかは正直何ともですが、通常の投稿は切らさずに一日二話更新みたいな感じで突然投稿されると思いますので、もし見かけたらその時は本編もありますのでお気をつけ下さい!

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