ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第777話 レクチャー

 ユウキの剣速は凄まじく、それを見ていた他の者達も、

思わずハチマンが真っ二つにされる光景を想像した。

だが真っ直ぐ振り下ろされたはずのその剣は、ハチマンがスッと掲げられた剣に受け流され、

斜めに軌道を変え、空振りさせられる事となった。

 

「くっ……」

 

 ユウキは慌てて飛び退り、再び剣を構えた。だがいつの間に移動してきたのか、

その目のすぐ前には既にハチマンの被る黒いマスクの顔があった。

 

「うわっ!」

 

 ユウキは大慌てで再び距離を取ろうとするが、

その黒ずくめの顔はユウキから決して離れない。

 

「うぅ……」

「ほれどうした、俺に勝てるんじゃなかったのか?」

「勝てるってば!」

 

 ユウキは再び下がると見せかけ、近距離から突きを放ち、

さすがのハチマンもそれを受けて刃が届かない分だけ後ろに下がった。

 

「ここ!」

 

 そこからユウキの連打が始まった。受け流されようが受け止められようが、

すぐ次に繋がるその連打の早さは凄まじいものであった。

だがその剣はハチマンには当たらない。

 

「くっ、盗賊のくせに、やるな!」

「お前こそガキの癖に中々やるな」

「ならばこうだ!」

 

 ユウキはそう言って鋭い突きをハチマンの胸に放ったが、

その攻撃は少し大振りすぎた為、剣を持つ腕ごとハチマンの左脇に捕らえられてしまった。

そのままハチマンの武器を持つ右手がユウキの腰に回される。

 

「で?」

「ち、近い……でも何で……うぅ……」

 

 ユウキはここで再び複雑そうな表情をした。

もしかしたら、また嫌なはずなのに何故か嬉しいという矛盾に戸惑っているのかもしれない。

そんなパニック状態に陥った為か、ユウキはぽろぽろと涙をこぼし始めた。

 

「うぅ……ぐすっ……」

「ま、待て、何故そこで泣く!」

「そんなの分かんない………よっ!」

 

 ガッ!

 

 そのユウキの言葉と同時にハチマンの頭に衝撃が走った。

まさかのまさか、ユウキは泣きながらハチマンに頭突きを放ったのだった。

 

「うおっ」

「ふう、これで頭が多少スッキリした」

 

 さすがのハチマンもこれには驚き、ユウキから距離をとった。

そして自由を取り戻したユウキはそのまま突き主体の攻撃へとスタイルを変えた。

その突きの速度もまた凄まじく、剣先が見えない程であった。

 

「チッ、厄介な」

 

 ハチマンはそう言って大きくバックステップし、

その反動を生かして一気にユウキの懐に飛び込んだ。

 

「とった!」

 

 ユウキはそんなハチマン目掛けて絶対の自信を持って剣を突きだした。

その自信が示す通り、その剣は真っ直ぐにハチマンの胸に吸い込まれていき、

確かにその胸を貫いたように見えたのだが、その直後にハチマンの姿が消えた。

 

「えっ?」

「残像だ」

 

 その直後に剣を持つ腕を捕まれ、次の瞬間にユウキの視界は百八十度、ぐるりと回転した。

そして背中に鈍い衝撃が走り、ユウキは息を詰まらせた。

どうやら背中から地面に叩き付けられたらしい。

 

「ぐはっ!」

 

 そしてドスンという音と共に、お腹の上に重さを感じたユウキは、

自分が完全にマウントポジションをとられてしまった事を知った。

剣を持つ右手は完全に押さえ込まれており、自由になるのは左手だけだった。

ユウキは右手を何とかしようともがいたが、そんなユウキにハチマンは言った。

 

「その空いてる左手でどうにかしようとは思わないのか?」

「えっ?」

 

 ユウキは、訳が分からないといった表情をしており、

ハチマンは頭をかくと、ため息を付きながらユウキの右手を解放し、

同時に自らが被っていたマスクを取った。

 

「チャンス!」

 

 ユウキは右手が自由になった瞬間に、敵目掛けて突きを繰り出したが、

その瞬間に相手の顔が見え、その手はピタリと動きを止めた。

 

「え?ハチマン?」

 

 そう言って呆然とするユウキの顔の横に、ハチマンはドスッと雷丸を突き刺した。

 

「やれやれ、相手が俺だと分かろうが、敵なんだからそのまま攻撃すれば良かったのにな」

「だって、だって……」

「まあ今回はさすがに仕方ないか」

 

 ハチマンはそう言ってユウキを抱き上げ、他の者達に声をかけた。

 

「お前ら、もういいぞ!」

 

 その言葉を受け、スリーピング・ナイツの五人は立ち上がり、こちらへと走ってきた。

 

「み、みんな、拘束されてなかったんだ……」

「おっとユウ、こいつらを恨むなよ、全部俺の指示でやった事だからな」

「な、何でこんな事を?」

「どうもお前が偏った方向に進もうとしてたみたいだから、ちょっと釘を刺しにな。

ついでにあれだ、細かい部分のお説教だ」

「お、お説教!?」

「おう、この後いくつかお説教だな」

「しょぼ~ん」

 

 ユウキはそう声に出してしょぼんとした。とてもかわいい。

そして全員で輪になってのユウキの反省会が始まった。

ちなみにユウキは頑なにハチマンから離れようとしなかった為、

まだハチマンの膝の上でハチマンに抱きついたままであった。 

 

「とりあえずこれは他の者にも言える事だが、

例えば俺が全員を拘束した後、素手のお前の前で殊更に隙を見せていた事に気付いたか?」

「あ、うん、それは気付いたんだけど、何も出来なかった……」

「最後にずっと左手が自由だった時もか?」

「う、うん……」

「はぁ、やはりスキルを取得させただけじゃなく、応用まで教えておくべきだったな」

 

 ハチマンはそう言って、全員の顔を見回した後にこう言った。

 

「お前達はどうも、体術スキルを使いこなせていないみたいだな、

例えばそうだな……おいユウ、ちょっと俺から離れろ」

「やだ!」

「………まあいいか、多少負担が増えるだけだ」

 

 ハチマンはそう言って、ユウキを抱きかかえたまま体を倒し、背中を地面に付けた。

 

「ここから体術スキルの応用で……ふんっ!」

 

 その瞬間にハチマンの体は跳ね上がり、一瞬で直立状態になった。

 

「「「「「「「おお」」」」」」」

 

 隠れているレコンまで思わず感嘆の声を上げてしまう程、それは見事な動きだった。

レコンの存在が誰にも気付かれなかったのは幸いである。

 

「敵に倒されても一瞬でこうやって体勢を立て直す事とかも出来る。

他にも色々と技があり、それを応用も出来るからな、

体術を駆使すれば、ユウキは俺にマウントを取られても何とかなったかもしれないし、

そもそも仲間が拘束された時に、もっと抵抗出来ただろうな」

 

 そう言ってハチマンは再び腰かけ、ユウキはしょぼんとした顔のまま、コクリと頷いた。

 

「体術スキル関連の資料はローバーにもらうといい、今度渡しておく。

どうせ例の武器も買うんだろ?」

「う、うん、今回の稼ぎも合わせれば、あの二本の武器が買えるくらい貯まる予定」

「やれやれ、よくもまあ稼いだもんだ。それにしてもよくこんな場所を見つけたよな」

「タルの功績だよ!」

「いやいや、偶然ですって」

「えらいぞタル。そして同じ場所で何時間も頑張れる、

お前達の忍耐力の賜物でもあるな、えらいぞお前達」

 

 ハチマンにそう褒められ、一同はとても嬉しそうな笑顔を見せた。

 

「まあとりあえず全員体術も駆使して、戦闘力をもっと高める努力をする事。

特にユウは今のままだと剣に頼りすぎて、

剣が無いと戦闘力がガタ落ちになっちまうみたいだからな、

剣が無くてもある程度戦えるようにするか、

剣を失った時にすぐに変わりの剣を用意出来るくらいの準備は常にしておくように」

「うん、分かった!」

「後は一般常識の問題なんだが……」

 

 そこでノリが手を上げた。

 

「はい、はい!ハチマンさん、それは私が!」

「ノ、ノリ?」

「よしノリ、このお子様にビシっと言ってやれ」

「任せて!」

 

 そしてノリは立ち上がると、ユウキをビシッと指差しながら言った。

 

「よく考えなさいユウキ、私とシウネーはハチマンさんにあんなに可愛がってもらったのよ、

あそこまでされたら普通ハラスメント警告が出るに決まってるでしょう!」

「えっ?あっ!」

 

 シウネーもその言葉にうんうんと頷き、

ハチマンはその言われ方が気まずかったのか、そっぽを向いた。

 

「た、確かに!」

「ユウキ自身の事もそうよ、あんなに可愛がってもらったら、

絶対にハラスメント警告が出るに決まってるじゃない、

それが出なかった時点で相手の正体に気付けたはずよ!」

「ご、ごめん、確かにそうだった……」

 

 この時のユウキは一つ仲間達に言えない事があった。

それは自分に対してのハラスメント云々に気付けなかった理由である。

ユウキはランが気付いた通り、敵であるはずの黒ずくめの盗賊に嫌らしい事をされ、

それを嬉しく感じる事でパニック状態に陥り、自分の性癖に疑問を抱いていたのである。

ランの推測は正に正鵠を言い当てており、ユウキはハチマンが正体を現した時、

自分が変態になったのではなかったと、安堵していたのであった。

 

「後あれだ、お前を売り飛ばす云々な、そんな事ゲームの中で出来る訳がないだろ……」

 

 ユウキはその言葉にきょとんとした後、何故か顔を赤くした。

 

「ん、どうした?」

「そ、そういう嫌らしい商売も裏でやってる人がいるってランに聞いた事があったから……」

 

 ユウキは恥ずかしそうにそう言い、他の者達はハチマンも含めて頭を抱えた。

 

「あの耳年増め……」

「まあランだし仕方ないよな」

「うん、ランだしね」

 

 こうしてハチマンの指導は終わり、スリーピング・ナイツは狩りを再開する事となった。

 

「あまり無理をせず、適当な所でやめて撤収するんだぞ、

さすがに数が多すぎると、スモーキング・リーフの方も資金の調達が大変だからな」

「うん、一応リツさんと話して二百個くらいかなって」

「まあそのくらいか、スモーキング・リーフの六人はちょっと訳有りだから、

なるべく迷惑をかけないようにしてくれな」

「うん!」

 

 そしてハチマンはユウキを下ろすと、他のメンバー達に順に声をかけていった。

 

「お前達もいずれうちに挑戦してくるんだろうが、

みんな短期間でよく成長してるな、えらいぞ」

「あ、兄貴……」

「兄貴ぃ!」

「待ってて下さいね!」

「わ、私にも出来ればユウキみたいな抱っこを!」

「あ、出来れば私にも……」

 

 こうしてスリーピング・ナイツはハチマンに存分に甘え、

再びヴァルハラを目標とする戦いの中へと戻っていき、

ハチマンはレコンと共にヴァルハラ・ガーデンへと戻る事にした。

 

「ハチマンさん、あの寝た状態から起き上がる技のコツを僕にも教えて下さい!」

「ん、あれはな……」

 

 二人がのんびりとそんな会話をしている最中に、突然システムメッセージが響き渡った。

 

『本日午後二十五時から六時間のメンテナンスを経て、

オリジナル・ソードスキルが実装されます』

 

 ここから運命は大きく動き始める事になった。


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