ハチマンがアスナと対峙するその少し前の事である。
ハチマンはログインしてすぐにユージーンにアポをとり、
サラマンダー軍の拠点へと顔を出していた。
「ユージーン、いきなり押しかけちまって悪いな」
「別にそんな事は気にしなくてもいいぞ。
というかお前がここに来るなんて珍しいというか初めてじゃないか?一体何の用事だ?」
「実はちょっとお前に相談があってな」
「なるほど了解した」
「それで相談ってのは………」
だがユージーンはハチマンの言葉をまったく聞かずにうんうんと頷くと、
いきなり剣を抜いてハチマンに突きつけた。
「では勝負だ!」
「……………………ん?」
了解したと言われた時点でユージーンの承諾を得たと思い、
用件を話そうとしたハチマンだったが、その言葉の意味に気が付き、首を傾げた。
「なぁ、今勝負だって聞こえたんだが……」
「ああ、そう言ったんだから当たり前だろう?」
「えっと、何故俺とお前が勝負を?」
「人に物を頼む時は先ず勝負だろ!」
ユージーンにいきなりそう言われたハチマンは、たっぷり十秒間ほど無言になった。
「………一応聞くが、勝負をやめてくれと言ったらどうする?」
「勝負をやめて欲しかったら勝負しろ」
「はいはい知ってた知ってた、この脳筋め」
「褒め言葉だと受け取っておく」
「いや褒めてねえよ!?まあいい、おら、さっさとやるぞ」
「おお、嫌だと言われたらごねようと思って準備してたのに、今日は妙に素直ではないか」
「何となくそうなるのが分かってたからだよ!初撃決着モードだ、異論は認めん」
「それでいい、よし、誰かコインを投げろ、そのコインが地面に着いたら試合開始だ」
ユージーンのその言葉を受け、カゲムネが一歩前に進み出た。
「それじゃあ俺が試合開始の合図を」
「オーケーだ、いつでもいいぞ」
「いきます」
カゲムネはコインを高く放り、チ~ンという音がした瞬間にユージーンが動いた。
「先手必勝!」
だがハチマンもユージーンと同時に動いていた。
具体的にはユージーンの顔めがけ、短剣を投げつけたのだ。
しかもただ投げたのではなく、投擲ソードスキル、
クイックシュートを使用するというおまけつきであった。
「うおっ!」
これはさすがのユージーンも予想外だったらしく、
短剣がかなりのスピードで顔に迫ってきた為、咄嗟には剣で受ける事が出来ず、
大きく体勢を崩しながら避ける他は無かった。だがそんな隙を見せたらもう終わりである。
ハチマンはそのままユージーンの懐に飛び込むと、
短剣の柄をユージーンの腹に思いっきり叩きこんだ。
「ぐほっ……」
その瞬間にハチマンに勝利判定が出て、この勝負はあっさりと終わった。
「くっ、やるではないか……」
「まあこんなのは一回限りの奇襲だからな。
お前がソードスキルに慣れてない今しか通用しないだろ」
その言葉にユージーンはハッとしたような表情を見せた。
「おお、それだそれ、デフォルトで存在するソードスキルは簡単に出せるのだが、
オリジナルのソードスキルを三連程度で作ろうとしても、
全然上手くいかないのは何故なのだ?」
「俺もそこまで詳しい訳じゃないんだが、あれはかなり鬼畜な仕様みたいだな。
斬撃や刺突の単発技は、既にほとんどが網羅されているから、
オリジナルとして認められるのは必然的に連続技って事になるんだが、
重心移動や剣の軌道が無理なくスムーズに行え、その上でシステムアシスト無しで、
その連続技をデフォルトのソードスキル並の速さで放たないと、
オリジナル・ソードスキルとして認められないらしい。
まあ要するに、簡単な奴でも死ぬほど反復練習して、
とにかくその動きを体に染み込ませろって事になるな」
「なるほど……それはやり甲斐があるな」
どうやらユージーンはオリジナル・ソードスキルを作る気が満々のようだ。
「まあそれは置いておいて、とりあえずお前の用件を聞こうか」
「おう、悪いな、それで用件なんだが、
なぁユージーン、今のALOって昔よりは全然平和だよな?」
「うむ?まあ平和といえば平和だろうな」
「特にアインクラッドが出来てからは、ギルドも爆発的に増え、
どのギルドも色々な種族の奴が混在してるから、
種族同志の争いなんて、もうほとんど無いよな?」
「うむ、まあ少し残念ではあるが、それも時代の流れだろう」
「戦いもほとんどが集団戦が中心であり、個人の勇は軽視されるようになってきている。
だがそれじゃあつまらないよな?」
「ああ、つまらないな。で、結局お前は何が言いたいのだ?」
そのハチマンの回りくどい言い方に我慢出来なくなったのか、
ユージーンは早く本題に入るように、とハチマンをせかしてきた。
「俺は誰でも自由に参加出来る、デュエル専用のステージを作ろうと思う」
「む」
ユージーンはその言葉に目を見開いた。
「これは合成というよりは建築みたいなものになるだろうから、
ナタクだけじゃ職人の手が足りない。お前の所はそれなりに職人の数が揃ってるだろ?
という訳でユージーン、手伝え」
「なるほど、大規模なユーザー共用アイテムという訳か」
ユージーンはハチマンの意図をすぐに理解してそう言った。
馬鹿では将軍は務まらないのである。
「どうだ?」
「うむ、やろう」
「さすが話が早いな、明日は暇か?」
「明日なら大丈夫だ」
「それじゃあ明日一緒に色々回って、候補地を探そうぜ」
「心得た」
こうしてユージーンはハチマンの提案に乗り、
デュエル専用ステージの建設に乗り出す事となった。
(とりあえず場は用意出来そうだな、後はアスナ次第だな)
ハチマンはとりあえずこの事はアスナとキリトには秘密にしておく事にした。
アスナの為のサプライズの意味合いもあったが、
出来れば二人には多少は盛り上がった後で参加してほしかったからである。
そうじゃないと、他のプレイヤーにとっては最初のハードルが高すぎるのだ。
この事で後日ハチマンとナタクは、
またお前らかの仕業か!と仲間達から突っ込まれる事になる。
「さて、アスナはどうしてるかな、いい気分転換になっててくれればいいんだが」
ハチマンはそう思いながらヴァルハラ・ガーデンに戻り、
アスナがリニアーを放つところをこっそりと見物していた。
「……あれでスランプとか納得がいかないが」
そのリニアーはかなりのキレが感じられる出来であり、ハチマンはほっと安堵した。
「まあ楽しそうだから提案した甲斐もあったか……」
その時ハチマンの耳にこんな声が聞こえてきた。
「それじゃあ次、フラッシング・ペネトレイター!」
「いきなり大技かよ」
ハチマンは思わずそう突っ込んでしまい、
丁度いい機会だからアスナがソードスキルを放つところを正面から見て、
何か問題点が他にないか見極める事にした。
(ついでにちょっと挑発しておくか、アスナはあれで負けず嫌いだからな)
「アスナ、俺が敵役をやってやるから、殺すつもりで来い」
「え、本当に?」
「ああ、まあ俺はアスナの技なんかくらったりはしないけどな」
「ふ~ん、へぇ、そんな事を言っちゃうんだ」
目論見通り、その言葉でアスナの目の色が変わり、
アスナはハチマンに背を向けて、後方へと歩いていった。
「お義姉ちゃん?」
「あの技は確か、結構長い助走距離が必要なんだ」
キズメルが二人にそう説明し、二人は驚いた表情をした。
「そんなソードスキルがあるんだ」
「突進技って事?」
「まあそうだな、派手だから動画でもとっておいたらどうだ?」
「そ、そうする!」
そしてアスナはまるでクラウチングスタートのような格好になり、
ハチマンに向けて全力で走り出した。
「速っ!」
「近くにいたらカメラで追いきれなかったかも」
高速で走るアスナの持つ剣が赤く発光し、それを合図にアスナは剣を前に突きだした。
「行っけぇ!」
アスナの通った後に衝撃波が発生し、コマチはそちらに必死でカメラを向け、
キズメルとアサギは手を目の上に添え、衝撃波からくる突風に備えた。
「おおおおおおお!」
「来い!」
(とは言ったものの、こんなのくらったら死んじまうわ!)
ハチマンはそう考え、直前でその攻撃を避けた。
「あっ、ずるい!」
「いやいや、これを受けるとか無理、無理だからな!」
アスナはそのままヒラリと飛び上がり、衝撃を殺すように両足でブレーキをかけながら、
そのまま十メートルほど地面を滑った。
「ハチマン君、どうだった?」
「何とも言えないが、前のアスナなら、あそこから俺にかすらせるくらいは出来た気がする」
「う~んそっかぁ、本当に殺すつもりでやらないと駄目かぁ……」
「うわ」
「ハードル高っ!」
ハチマンはその言葉に頬をピクピクさせながらも、
これがアスナのためになるんだと自分に言い聞かせ、笑顔でアスナに言った。
「とりあえずもう少し付き合ってやるから今度は普通のソードスキルで試そう」
「うん、ありがとう!」
アスナはそう言ってハチマンに近付き、何を思ったかいきなりハチマンに抱きついた。
「うおっ、な、何だ?」
「ううん、やっぱり私は幸せだなって」
「そ、そうか」
そんな二人をコマチは冷めた目で見つめていた。
「バカップルがいる……」
「まあいいじゃない、ゲームは笑顔でプレイ出来るのが一番だよ」
その後、アスナは本来の目的通りにハチマン相手にいくつかのソードスキルを試し、
問題なく発動させられる事を確認したが、
ハチマンがその全てのソードスキルの軌道を熟知していた為、
結局ハチマンに攻撃を当てられないままこの日のソードスキルの披露は終わった。
「うぅ……ちょっと悔しい……」
「まあまあお義姉ちゃん、相手が悪かったって事で」
「俺じゃなかったら避けられないレベルだったから、
これから徐々に精度を高めていけばいいさ」
「そ、そうだね、うん、頑張る!」
この時のアスナは気合い十分であり、
この日からアスナのオリジナル・ソードスキル開発が始まったのだが、
それは思ったよりも時間がかかる事となった。